死にゲーの序盤で滅ぼされる村のモブだけど、全力でバッドエンドを回避する!

鏑木カヅキ

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なんかヤンキー漫画とかで見た展開だな

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 翌日からすべての作業が開始された。
 村長や職人、バイトマスターが上手く説得してくれたおかげか、村人たちの反応はおおむね上々。
 ほぼ全員が前向きな状態で防護柵の作成に臨んでくれることとなった。
 そして、俺の剣術訓練に関してだが。

「……多いな」

 村から少し離れた場所にある俺の家。
 その周辺は無駄に広く、人が集まるにはもってこいの場所だった。
 そこに集まったのは三十人ほど。
 シース村の人口は百いるかいないかくらいの、やや小さめの規模だ。
 その三割が参加するとは。
 俺は驚きながら、目の前の喧騒を眺めていた。
 集団の中にはロゼやエミリアさん、そしてなぜかロゼのお父さんまでいた。
 大半は男性だが、ロゼやエミリアさん以外の女性もちらほら見受けられた。
 ロゼのお父さんと目が合うと、複雑そうな顔をしていた。
 ロゼが、駆け寄ってくると耳打ちしてきた。

「お父さんもリッドの頑張りを認めてるってことだと思う。あんまり気は進まないみたいだったけど、村のため家族のためって参加することにしたみたい」

 なるほど、そういう理由か。
 どうも俺はロゼのお父さんに嫌われているみたいだからな。
 まあ、やる気があるならそれでいい。
 しかし、どうもおかしいな。
 数人いればいい方だと思っていたのだが。
 まさかここまで集まるとは。
 シース村の人たちは、もともと戦う手段を手に入れたいと思っていたってことか?
 うーん、そんな話は聞いたことがないんだが。

「リッド。はじめないの?」

 ロゼがこてんと首をかしげてきた。
 俺は、はっと我に返ると顔を上げる。
 さっきまで雑談をしていた連中が、黙して俺を見ていた。
 俺は軽く咳払いをして、胸を張った。

「今日は集まってくれてありがとうございます。すでに村長から聞いているかと思いますが、今日から剣術の稽古をしたいと思います。今のところシース村は平和そのものですが、今後何があるかはわかりません。自分を守るため、そして大切な人を守るために強くなることは、決して無駄にはならないと思います」

 全員が大きく頷いた。
 誰も茶化さず、真剣な様子だ。
 不思議な気持ちだった。
 なぜみんなはこんなにも真っすぐな気持ちを向けてくれているんだろうか。
 でも嬉しかった。
 嫌われ者のクソガキリッドが、ここまで信頼されるようになったのだ。
 好感度は間違いなく一定以上になっているだろう。

「それぞれのレベルにあわせて練習をしていくので安心してください。それでは質問がなければ始めたいと思いますが」

 一人の青年が手を上げた。
 あ、やべぇ、あの人、酒場で俺がぶん殴った人じゃん。
 邪魔されるのかな、そうだろうな、面倒だなと思いつつも、俺は諦観の嘆息を漏らす。
 俺は背中に冷や汗を掻きつつ、青年を指さした。

「ど、どうぞ」
「……あー、俺のこと覚えてるか? って覚えてるか。狭い村だし」
「まあ、はい。その節は……色々とありましたね」

 謝罪はしない。俺は間違ったことをしてないと思っているし、相手が俺を憎んでも仕方ないことだと受け入れているからだ。
 悪びれない俺に対しても、青年に気分を害した様子はなかった。
 それともこれから怒りを存分に俺にぶつけるつもりだろうか。
 そうなったら面倒だが、仕方ない。
 真っ向から受けて立つしかないなと思ったのだが。

「……すげぇパンチだった」

 予想外の言葉が待っていた。
 あれ? 今もしかして褒められた?

「あんなパンチを食らったのは初めてだったぜ。痺れたよ。俺よりも年下の、あの悪ガキだったリッドが、まさかこんなに強くなってるとはなってな。おまえが毎日、鍛えているってのは聞いていた。けど、ここまで強くなれるもんなんだって、なんだか羨ましくなってよ。すげぇなって、思って……それで教えてもらいにきたんだ」

 青年は晴れ晴れとした顔でそう話した。
 驚いた。恨まれていると思っていたのに、まさかそんな風に考えていたなんて。

「俺でさえこう思うんだ。村のみんなも同じ気持ちだろうさ。昔のおまえはクソだった。最低最悪のガキだった……まあ、俺もそんなに変わらねぇが。けどおまえは違う。努力し続けて、強くなって、信頼を得て、村人の一員になった。そんなおまえを尊敬して、憧れてるって奴もいるくらいだ。だからこれだけの人が集まったんだ」

 ほとんど付き合いのない人の評価。
 それは僅かな配慮も忖度もない、純粋な感想だった。
 だからだろうか。
 俺の心がこんなにも揺さぶられているのは。

「おまえは本当にすげぇ奴だ」

 込み上げてくる感情を誤魔化すように、俺はバレないように唇を噛んだ。
 転生してからの数年、努力し続けたことが花開いたように思えた。
 俺の努力は無駄じゃなかったと、そう思えるような気がしたのだ。
 まだ終わりじゃない。
 けれど、成果は出ているのだと。

「あの時は本当に悪かった。調子に乗り過ぎてたよ。ダチにもかなり説教されて、反省した。その時の償いじゃないが、この村のためにできることをしたいと思ってる。なあ、リッド。俺はおまえみたいになれるか?」

 青年は気恥ずかしそうにしながら、それでも誤魔化さずに真っすぐな言葉をぶつけてくれた。
 だから俺も素直に答えることにした。
 もちろんです、と。
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