死にゲーの序盤で滅ぼされる村のモブだけど、全力でバッドエンドを回避する!

鏑木カヅキ

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災厄の魔物モーフィアス

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 肝心要の防壁が崩れた。
 その上、大量の魔物が現れてしまっている。
 絶望的な状況だった。
 幸い、俺の指示が早かったおかげか村人は全員無事だった。
 しかし、受けたダメージは大きい。
 俺たちは防壁からやや離れた大通りで立ち尽くしていた。

「ま、魔物が多すぎる!」
「こ、これじゃあさすがに」
「お、おお、俺たち死ぬのか……?」

 村人たちの戦意も失われそうになっている。
 先ほどまでの勝利ムードは霧散してしまった。
 それもそのはず、防壁という盾があったからこそ、村人たちは安心していたのだ。
 それがもろくも崩れ去ったのだ。
 希望を失してもおかしくはない。

「う、嘘……こ、こんなのどうしようも」
「わ、わたしたちだけで勝てるの……?」

 ロゼやエミリアさんも顔を青くしていた。
 俺たちはただの村人だ。
 訓練し、魔物と戦い経験を積みはしたが、根本的には戦うような人間ではない。
 及び腰になって当然だ。
 当然だが。
 それを受け入れるわけにはいかない。

「気をしっかり持て! この日のために俺たちは訓練してきたんだろ! 備えはある! 諦めなければ生き残る道は必ずあるんだ! 逃げるな、諦めるな、最後まで戦え! 俺を信じて、ついてきてくれ!」

 俺は必死に叫んだ。
 俺の顔をみんなが見ていた。
 恐怖や不安の満ちた顔が、徐々に生気を取り戻す。
 これは俺への信頼だ。
 そして彼らの積み重ねた経験でもある。
 この五年で俺だけでなく、村人たちも変わったのだ。
 俺の選択と彼らの選択によって。
 恐ろしいほどの地鳴りが断続的に聞こえた。
 モーフィアスが防壁から歩いてきている。
 その後ろから魔物たちが続いていた。
 このままでは数分後、村人たちは蹂躙されるだろう。
 だが、そうはさせない。

「む、無茶だ! 村人があれだけの大軍と戦うなんて無理に決まってる! ここは冒険者であるボクが戦う! その間にみなさんは逃げてください!」

 カーマインが勇敢にも前に躍り出る。
 その姿を見るのは何度目か。
 その心意気はありがたいが、そんな主人公の玉砕前提の作戦を受け入れたくはない。

「魔霊気兵と霊気兵は弓矢で対処しろ! 拒馬(きょば)用意!」

 俺の叫びに呼応し、跳ねるように村人たちが動き出す。
 ある者は弓を構え、ある者は路地から巨大な鋭利な丸太を幾つも重ねた、いわゆる拒馬を運んでくる。
 それは進行を防ぐために使う防御壁だ。
 拒馬の後ろには矢や魔術を防ぐための木板を備え付けている。
 これを置くだけで、魔物たちは進むことが困難になる。

「え? あ、あの?」

 カーマインが狼狽える中、俺たちは構わずに作戦を続行。
 そう、これは作戦。
 すべて事前に準備していたのだ。

「プランBで行くぞ!!」
「オーッッ!」

 村人たちが気勢を発すと共に一斉に矢を放つ。
 それが魔物たちに突き刺さることを確認し、俺は駆け出す。

「おい、君! 手伝ってくれ!」
「え? え!? なに? ど、どうするの?」

 ずっと狼狽し続けているカーマインの腕をグイッと掴んだ。

「あいつを倒すんだよ。俺たちで!」

 視線の先にはモーフィアス。
 巨躯の人型。
 うねった樹木と融合したような見た目をしている。
 明らかに人間ではない。
 奴は災厄の魔物だ。
 シース村襲撃イベントのボスであり、プレイヤーの心を折りまくったことで有名。
 理不尽な火力、わかりにくい動き、緩急織り交ぜた戦い方。
 それはカオスソードの代名詞とも言える戦い方だった。
 チュートリアルボスである崩れ森の主も確かに強い。
 だがそれ以上に、モーフィアスは大きな壁となりプレイヤーの前に立ちはだかったのだ。
 クリア率、なんと20%。
 端的に言おう。
 こいつはヤバい。
 だが倒さねばならない。
 こいつがすべてを破壊する存在なのだ。

 俺はカーマインの手を引き、魔物たちの群衆の先頭にいるモーフィアスと対峙する。
 村人たちの矢が辺りに降り注ぐ。
 もしも俺たちに当たったらと考えなくもない。
 だが、すでにこの状況は想定済みで、味方を射ずに敵を射る訓練もしている。
 絶対ではないが、信頼は出来る。
 矢の雨の中、俺たちがいる場所だけが何も降らない。
 と。

「穢れ」

 モーフィアスがしゃがれた声で呟いた。

「世界は穢れている。ゆえに穢れで浄化し、穢れで混沌へと帰る。カオスの先に、世界の安寧がある。浄化の災厄は来たれり。今こそ、すべてを漆黒に染めようではないか!」

 モーフィアスは戦斧を振り回し、地面に突き立てる。
 圧倒的な膂力と戦闘力を思わせる所作に、俺とカーマインに緊張が走った。

「我はモーフィアス。現世を浄化せし、災厄の戦士。カオスに身を委ねよ!」

 モーフィアスは巨大な斧を構える。
 俺は純白刀を、カーマインは剣を構える。
 喧騒が徐々に小さくなり、無音が辺りを支配する。
 走馬灯のように思い出される五年の記憶。
 そして色濃く蘇るカオスソードのプレイ体験。
 それらが入り混じり、妙な感覚に襲われた。
 まるでゲームをプレイしていた時のように。
 主観的、客観的、鳥瞰的な感覚。
 妙に落ち着いている。
 だが心の奥底にはくすぶった熱があった。

 俺は笑った。
 強大な敵を前に高揚を抑えきれない戦闘好きか。
 高難易度ゲームをプレイし、ワクワクを抑えきれないゲーマーか。
 あるいはそのどちらもなのか。
 俺は溢れんばかりの感情に身を任せる。
 人生は一度きり。死ねば終わる。
 そしてこのボス戦も一度のみ。
 だったら、楽しむしかないだろう?
 不意に視界にノイズが走る。
 それは誰かの放った一矢。
 俺たちとモーフィアスの視界を真っ二つに切り裂くように、矢は落ち。
 そして。
 地面に突き刺さると同時に、三者共に同時に地を蹴った。
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