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第13話 誤解、そして和解
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体育館裏の一件以降、牧野先輩と話す機会がなく、誤解を解けずにいた。
あれからあっという間に一週間が過ぎ、夜野葵は何かと俺に纏わり付いてきていた。
今日も俺が中庭で昼食を取っていると、当たり前のようにやってくる。
そして俺の隣が自分の居場所だとでも思っているのか、流れるような動作で隣に座ってきた。
「いいかげん諦めたら?」
「なんのことですか」
「わかるでしょ? 牧野先輩よ。誤解を解きたいと思っているんじゃないの?」
「別に俺は……」
「強がっちゃって。私としては、今のままの方が都合がいいから、海斗にはこのままおとなしくしていてほしいけど」
「どういう意味ですか?」
「忘れちゃったの? 私は海斗とやり直したいって言ったじゃない」
「俺も言いましたよね。俺にその選択肢はないって」
「私が好きでやってることだからいいの」
そう言って寄り添ってくる葵。
すると肩がぶつかり葵の体温が伝わってくる。
夏も終わりかけの時期ではあるが、それでもまだ十分に暑い。
鬱陶しい事この上なかった。
「暑いので離れてください。あと誤解されます」
周りを見渡すと、中庭で昼食を食べている面々がコソコソと話し合っているのがわかる。
もう手遅れだろうか。そう思いつつ少し距離を取るように離れる。
しかし、葵は距離を詰めてくると、またしても肩をぶつけてくる。
「あの、本当に迷惑なんで止めてもらえますか?」
「いいじゃない。別に減るものでもないし」
「俺が敵意の視線に晒されます」
腐っても鯛。葵は容姿だけは優れているのだ。
そんな女子とくっついていれば、いやでも男子から嫉妬の目で見られる。
それは俺の本意ではないし、何より誤解が誤解を生む結果になりかねない。
「あっ……海斗くん」
そんなことを考えていたせいだろうか、牧野先輩が運悪く通りかかった。
間違いなく誤解が誤解を生む結果になってしまったと直感する。
「あの、先輩──」
「私、用事があるんだった! ご、ごめんね海斗くん!!」
早口でそう捲くし立てるように言うと、踵を返して走り去っていく牧野先輩。
声を遮られ、誤解を解けなかった後悔からうな垂れていると、横から嬉しそうな声が飛んでくる。
「良かったじゃない。これで諦めが付いたんじゃない?」
「誤解を解く、その一点に関しては諦めてませんよ」
「そう」
勝ち誇るように、吐き捨てるように言った葵を無視して腰を上げる。
「もう行くの? まだ早いんじゃないかしら」
「これ以上ここに居たくないだけです。付いてこないでくださいね」
「はいはい」
用は済んだとばかりに、葵は手をひらひらと振る。
どこまでも自分勝手な人だと思った。
そして、俺は葵をその場に残し、一人教室へと戻るのだった。
* * *
午後の授業が終わり、放課後のHR。
そろそろ差し迫ってきた文化祭に向けて、クラスとしての出し物を決めることになっていた。
未だにメイド喫茶をおしている男子と、それを拒否する女子とで膠着状態が続いていた。
そんな状況を打開するかの如く、葵の一声が教室に響く。
「私はメイド喫茶に賛成します」
鈴と響いた声が浸透し静寂に包まれる教室。
いまやクラス内の女子のリーダーとなりつつある葵が賛成するとあらば、他の女子が反対する理由がなくなってしまった。
そして水を得た魚のように活き活きと騒ぎ出す男子達。
そんな一幕を、どこか冷めた目で俯瞰(ふかん)している俺。
そんな喧騒の中、葵がちらっとこちらを見た気がした。
『こっち見ないでください』
口の動きだけで伝えると、葵もわずかに口を動かして返してきた。
『い・や・だ』
最後に挑発するような微笑を浮かべ視線をそらす葵。
俺はHRが終わるまで机に伏してやり過ごした。
ほどなくしてHRが終わる。
結局クラスの出し物はメイド喫茶で決まってしまった。
葵の賛成がそのまま女子の総意となり、問題なく可決。
そして当の本人が俺の席へとやってきた。
「海斗~。一緒に帰ろうよ」
笑顔と共にそう言った葵は満足そうな顔をしていた。
どうやらクラス内でも誤解を生んでおきたいらしい。
やっぱりあの二人……、なんてヒソヒソ声が聞こえてきた。
「俺に関わらないでくださいって言いましたよね?」
「海斗に、この状況でも断れる勇気があれば別にいいよ」
大仰な身振りで外堀を埋めた事に対して勝ち誇る葵。
仕方なしとばかりに、大げさに肩をすくめると、連れだって教室を出る。
席を立ちあがる際、あえて大げさに椅子を引いて音を出したのは、少しの反抗心だった。
そして、二人並んで歩く帰り道。
こちらから話しかける話題もないので、必然会話の主は葵だった。
「ねえ。いいかげん機嫌直してくれてもいいんじゃない?」
「別に怒ってませんよ。ちゃんと返事はしてるじゃないですか」
「機械的すぎるの! 絶対怒ってるじゃん」
頬を膨らませて、少し睨みつけるように見てくる。
美人が怒っても全然怖くないんだなと、そんな益体のないことを思った。
「じゃあどうすればいいんですか?」
面倒くさいので葵の満足するようにしてやろうと思った。
だが、突然葵が身を寄せて腕を組んできた。
途端鼻腔を擽る女の子特有の甘い香りに脳が蕩けそうになるも、頭を振り邪念をはらう。
「何をしているんですか?」
「見てわかるでしょ。腕を組んでるのよ」
「じゃあ俺も言いますね。止めて下さい。それと、当たってます」
「役得じゃないの。本当は嬉しいんでしょ?」
どこまでも譲らない人だ。昔と何一つ変わっていない。
しかし、そんな懐かしい思い出に浸っている暇はなかった。
間の悪いことに、また牧野先輩と鉢合わせしてしまったのだ。
牧野先輩が目を見開いて戸惑っているのがわかる。
「あの……牧野先輩──」
「海斗くん、またね!」
またしても声を遮られ、早口で捲し立てながら立ち去ろうとする先輩。
しかし、今回は反応することができた。
葵の腕を振りほどき、急いで牧野先輩の後を追いかける。
牧野先輩の足は意外と速く、なかなか追いつけずにいた。
「牧野先輩っ! ちょっと止まってください!」
ビクッと肩を震わせると、先輩が後ろを振り返る。
と、後ろに気を取られてしまったのか、先輩の体が俺の方へと倒れこんできた。
「牧野先輩っ!?」
俺は急いで手を伸ばし、先輩の制服を掴むと胸元へと抱き寄せる。
ぼすっと軽い音を響かせ、先輩が腕の中におさまった。
安堵感から全身の力が抜け、その場に崩れそうになる。
「ご、ごめんね。その……ありがとう」
先輩が申し訳なさそうに謝ってくるのを聞きながら、笑みを浮かべて言った。
「いえ……先輩が無事でよかったです」
「うん……、あのね……、その……ちょっと苦しいかな」
「あっ、すいません」
先輩の遠慮がちな声で我に返り、今の状況を思い出す。
「ううん。助けてくれてありがとう。……じゃあね」
そして、脱兎の如く駆けだそうとする先輩の腕をすんでの所で捕まえる。
「待ってください。まだ話は終わってませんよ」
「離して……。私は別に海斗くんと話すことなんてないもん」
「俺にはあるんです。先輩、何か勘違いしてませんか?」
「勘違いしてないよ。海斗くんと夜野さんは、付き合ってるんでしょ」
「それが勘違いなんです」
「じゃあ、どうして付き合ってもいない二人が腕を組んでたの!?」
計らずも響いた大声に、俺はぽかんと口を開けてしまった。
牧野先輩も自分の声量に驚いたのか、ハッとした顔をして黙り込んでしまう。
すると、気まずい沈黙が二人の間を包み込んだ。
そして、その沈黙を先に破ったのは俺だった。
「本当に付き合っていないんです。いえ、性格には、“いまは”ですけど……」
「えっ……? どういうこと?」
「実は────」
そうして俺は、牧野先輩へ昔話をした。
葵と昔付き合っていたこと。理由あって別れた事。
俺が喋っている間、先輩は黙って耳を傾けてくれていた。
「そうだったんだ……。何かあるとは思っていたけど、付き合っていたとは思わなかったなぁ」
「どうしてですか?」
「気を悪くしたらごめんね。何か海斗くんと夜野さんは、似合ってそうで似合ってない感じがしたから」
「はぁ……、そうですか」
「ごめんね。別に変なつもりで言ったわけじゃないの。私の勝手な思い込みだから」
「いえ、別に気にしてませんよ」
というより、先輩がそんな風に思っていたことに驚いた。
「これで分かってくれましたか?」
「うん。でも、さっきの海斗くん……満更でもなさそうだったけど?」
ジトっとした目で見つめられ、俺はつい顔を反らしてしまう。
「あー! やっぱり嬉しかったんだ!?」
「誰もそんなこと言ってませんよ」
「だって目を反らしたもん! やましい気持ちがあるからだよ!」
「先輩には関係ないことです」
「そうだねっ! 私には関係ないことだよね!!」
先輩は鼻息荒く捲し立てると、一人でテクテクと歩き出す。
俺にできるのは、後を追いかけることだけだった。
あれからあっという間に一週間が過ぎ、夜野葵は何かと俺に纏わり付いてきていた。
今日も俺が中庭で昼食を取っていると、当たり前のようにやってくる。
そして俺の隣が自分の居場所だとでも思っているのか、流れるような動作で隣に座ってきた。
「いいかげん諦めたら?」
「なんのことですか」
「わかるでしょ? 牧野先輩よ。誤解を解きたいと思っているんじゃないの?」
「別に俺は……」
「強がっちゃって。私としては、今のままの方が都合がいいから、海斗にはこのままおとなしくしていてほしいけど」
「どういう意味ですか?」
「忘れちゃったの? 私は海斗とやり直したいって言ったじゃない」
「俺も言いましたよね。俺にその選択肢はないって」
「私が好きでやってることだからいいの」
そう言って寄り添ってくる葵。
すると肩がぶつかり葵の体温が伝わってくる。
夏も終わりかけの時期ではあるが、それでもまだ十分に暑い。
鬱陶しい事この上なかった。
「暑いので離れてください。あと誤解されます」
周りを見渡すと、中庭で昼食を食べている面々がコソコソと話し合っているのがわかる。
もう手遅れだろうか。そう思いつつ少し距離を取るように離れる。
しかし、葵は距離を詰めてくると、またしても肩をぶつけてくる。
「あの、本当に迷惑なんで止めてもらえますか?」
「いいじゃない。別に減るものでもないし」
「俺が敵意の視線に晒されます」
腐っても鯛。葵は容姿だけは優れているのだ。
そんな女子とくっついていれば、いやでも男子から嫉妬の目で見られる。
それは俺の本意ではないし、何より誤解が誤解を生む結果になりかねない。
「あっ……海斗くん」
そんなことを考えていたせいだろうか、牧野先輩が運悪く通りかかった。
間違いなく誤解が誤解を生む結果になってしまったと直感する。
「あの、先輩──」
「私、用事があるんだった! ご、ごめんね海斗くん!!」
早口でそう捲くし立てるように言うと、踵を返して走り去っていく牧野先輩。
声を遮られ、誤解を解けなかった後悔からうな垂れていると、横から嬉しそうな声が飛んでくる。
「良かったじゃない。これで諦めが付いたんじゃない?」
「誤解を解く、その一点に関しては諦めてませんよ」
「そう」
勝ち誇るように、吐き捨てるように言った葵を無視して腰を上げる。
「もう行くの? まだ早いんじゃないかしら」
「これ以上ここに居たくないだけです。付いてこないでくださいね」
「はいはい」
用は済んだとばかりに、葵は手をひらひらと振る。
どこまでも自分勝手な人だと思った。
そして、俺は葵をその場に残し、一人教室へと戻るのだった。
* * *
午後の授業が終わり、放課後のHR。
そろそろ差し迫ってきた文化祭に向けて、クラスとしての出し物を決めることになっていた。
未だにメイド喫茶をおしている男子と、それを拒否する女子とで膠着状態が続いていた。
そんな状況を打開するかの如く、葵の一声が教室に響く。
「私はメイド喫茶に賛成します」
鈴と響いた声が浸透し静寂に包まれる教室。
いまやクラス内の女子のリーダーとなりつつある葵が賛成するとあらば、他の女子が反対する理由がなくなってしまった。
そして水を得た魚のように活き活きと騒ぎ出す男子達。
そんな一幕を、どこか冷めた目で俯瞰(ふかん)している俺。
そんな喧騒の中、葵がちらっとこちらを見た気がした。
『こっち見ないでください』
口の動きだけで伝えると、葵もわずかに口を動かして返してきた。
『い・や・だ』
最後に挑発するような微笑を浮かべ視線をそらす葵。
俺はHRが終わるまで机に伏してやり過ごした。
ほどなくしてHRが終わる。
結局クラスの出し物はメイド喫茶で決まってしまった。
葵の賛成がそのまま女子の総意となり、問題なく可決。
そして当の本人が俺の席へとやってきた。
「海斗~。一緒に帰ろうよ」
笑顔と共にそう言った葵は満足そうな顔をしていた。
どうやらクラス内でも誤解を生んでおきたいらしい。
やっぱりあの二人……、なんてヒソヒソ声が聞こえてきた。
「俺に関わらないでくださいって言いましたよね?」
「海斗に、この状況でも断れる勇気があれば別にいいよ」
大仰な身振りで外堀を埋めた事に対して勝ち誇る葵。
仕方なしとばかりに、大げさに肩をすくめると、連れだって教室を出る。
席を立ちあがる際、あえて大げさに椅子を引いて音を出したのは、少しの反抗心だった。
そして、二人並んで歩く帰り道。
こちらから話しかける話題もないので、必然会話の主は葵だった。
「ねえ。いいかげん機嫌直してくれてもいいんじゃない?」
「別に怒ってませんよ。ちゃんと返事はしてるじゃないですか」
「機械的すぎるの! 絶対怒ってるじゃん」
頬を膨らませて、少し睨みつけるように見てくる。
美人が怒っても全然怖くないんだなと、そんな益体のないことを思った。
「じゃあどうすればいいんですか?」
面倒くさいので葵の満足するようにしてやろうと思った。
だが、突然葵が身を寄せて腕を組んできた。
途端鼻腔を擽る女の子特有の甘い香りに脳が蕩けそうになるも、頭を振り邪念をはらう。
「何をしているんですか?」
「見てわかるでしょ。腕を組んでるのよ」
「じゃあ俺も言いますね。止めて下さい。それと、当たってます」
「役得じゃないの。本当は嬉しいんでしょ?」
どこまでも譲らない人だ。昔と何一つ変わっていない。
しかし、そんな懐かしい思い出に浸っている暇はなかった。
間の悪いことに、また牧野先輩と鉢合わせしてしまったのだ。
牧野先輩が目を見開いて戸惑っているのがわかる。
「あの……牧野先輩──」
「海斗くん、またね!」
またしても声を遮られ、早口で捲し立てながら立ち去ろうとする先輩。
しかし、今回は反応することができた。
葵の腕を振りほどき、急いで牧野先輩の後を追いかける。
牧野先輩の足は意外と速く、なかなか追いつけずにいた。
「牧野先輩っ! ちょっと止まってください!」
ビクッと肩を震わせると、先輩が後ろを振り返る。
と、後ろに気を取られてしまったのか、先輩の体が俺の方へと倒れこんできた。
「牧野先輩っ!?」
俺は急いで手を伸ばし、先輩の制服を掴むと胸元へと抱き寄せる。
ぼすっと軽い音を響かせ、先輩が腕の中におさまった。
安堵感から全身の力が抜け、その場に崩れそうになる。
「ご、ごめんね。その……ありがとう」
先輩が申し訳なさそうに謝ってくるのを聞きながら、笑みを浮かべて言った。
「いえ……先輩が無事でよかったです」
「うん……、あのね……、その……ちょっと苦しいかな」
「あっ、すいません」
先輩の遠慮がちな声で我に返り、今の状況を思い出す。
「ううん。助けてくれてありがとう。……じゃあね」
そして、脱兎の如く駆けだそうとする先輩の腕をすんでの所で捕まえる。
「待ってください。まだ話は終わってませんよ」
「離して……。私は別に海斗くんと話すことなんてないもん」
「俺にはあるんです。先輩、何か勘違いしてませんか?」
「勘違いしてないよ。海斗くんと夜野さんは、付き合ってるんでしょ」
「それが勘違いなんです」
「じゃあ、どうして付き合ってもいない二人が腕を組んでたの!?」
計らずも響いた大声に、俺はぽかんと口を開けてしまった。
牧野先輩も自分の声量に驚いたのか、ハッとした顔をして黙り込んでしまう。
すると、気まずい沈黙が二人の間を包み込んだ。
そして、その沈黙を先に破ったのは俺だった。
「本当に付き合っていないんです。いえ、性格には、“いまは”ですけど……」
「えっ……? どういうこと?」
「実は────」
そうして俺は、牧野先輩へ昔話をした。
葵と昔付き合っていたこと。理由あって別れた事。
俺が喋っている間、先輩は黙って耳を傾けてくれていた。
「そうだったんだ……。何かあるとは思っていたけど、付き合っていたとは思わなかったなぁ」
「どうしてですか?」
「気を悪くしたらごめんね。何か海斗くんと夜野さんは、似合ってそうで似合ってない感じがしたから」
「はぁ……、そうですか」
「ごめんね。別に変なつもりで言ったわけじゃないの。私の勝手な思い込みだから」
「いえ、別に気にしてませんよ」
というより、先輩がそんな風に思っていたことに驚いた。
「これで分かってくれましたか?」
「うん。でも、さっきの海斗くん……満更でもなさそうだったけど?」
ジトっとした目で見つめられ、俺はつい顔を反らしてしまう。
「あー! やっぱり嬉しかったんだ!?」
「誰もそんなこと言ってませんよ」
「だって目を反らしたもん! やましい気持ちがあるからだよ!」
「先輩には関係ないことです」
「そうだねっ! 私には関係ないことだよね!!」
先輩は鼻息荒く捲し立てると、一人でテクテクと歩き出す。
俺にできるのは、後を追いかけることだけだった。
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