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第1章
第4話
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かつておれたちの住む世界は二人の女神によって作られたんだ。
勝利の女神アフタエルと、運命の女神デスティネル。
女神アフタエルは家畜となる動物や作物を作ったが、女神デスティネルは嵐や雷を作った。
やがて世界ができて様々な種族が進化を続けるなか、おれたち人間と呼ばれる種族が生まれた。
人間は賢く器用な生き物で、次々と世界を開拓していき、繁栄を重ねていった。
女神アフタエルはそんな人間を好んだが、女神デスティネルは違った。
人間は欲深く、狡猾で、残忍な生き物であり、やがて地上を征服した後は自分たち女神をも殺すのではないかと、そう考えたんだ。
女神デスティネルは欲深い人間たちを陥れるために富と財宝で溢れているが、恐ろしい罠やモンスターが待ち構えている迷宮を地上に作りだした。
こうしてダンジョンが生まれた。
人間たちは勇敢にもダンジョンに立ち向かったが、自分たちだけの力ではとても叶わず、仕方なく女神アフタエルに助けを求めた。
女神アフタエルは恐ろしい罠やモンスターたちに立ち向かえる不思議な力を人間たちに与えた。
こうしてスキルが生まれたんだ。
ダンジョンに向かうまでの道のりで、ヤマトは俺にこの世界の成り立ちとダンジョンの伝説について教えてくれていた。
ヤマトが「女神をこの手で殺す」と言った時は驚いたが、なるほど女神は二人いたのだ。
スキルを生み出した女神アフタエルと、ダンジョンを生み出した女神デスティネル。
スキルを使う時はこのアフタエルに力を分けてもらっており、ヤマトたちが倒そうとしているのはデスティネルの方なのだろう。
しかし──
「どうして女神デスティネルがダンジョンの奥にいるってわかるんだ? それに、どうして殺さなきゃならない?」
いくらなんでも殺すのはひどいと思うのだが。
「ああ、この伝説の最後はこうしめくくられるのさ。『ダンジョンの最奥に潜むデスティネルを倒した者はこの世界の永遠の平和とこの世全ての富を得られるだろう』とね」
「なるほどな」
「永遠の平和」はともかく「全ての富」とくれば、人々がやっきになってダンジョンを攻略するのも無理のないことだろう。
「でもそうなると、もうダンジョンの中は狩りつくされてしまっているんじゃないか? 宝箱もアイテムもすっからかんになって、その女神様も、もう既に誰かが倒しちゃってるんじゃ……」
「ダンジョンがこの世にたった一つだったら、そうなっていたかもしれないわね」
それまで黙っていたマドカが口を開いた。
「えっ、ダンジョンってたくさんあるのか?」
「ええ、見つかっているだけでもおよそ百以上のダンジョンが確認されているし、今なお増え続けてる。それにね、ダンジョンはしばらくすると形を変えるし、モンスターだって沸き続けているの。最奥にいるボスモンスターを倒さない限りそのダンジョンはなくならない。これは女神デスティネルがまだ生きている証拠じゃない?」
ふふん、とマドカが得意げに鼻を鳴らす。
「だからね、大きな国や街にはだいたいダンジョンができたんだけど、ここ、オランゲルのダンジョンはその中でもとびきり大きくて深いのよ。きっとデスティネルはこのダンジョンに隠れているに違いないわ。私たちのパーティが絶対に見つけ出してやるんだから!」
マドカはやる気十分といった印象で手に持った杖を高く掲げて見せる。
するとそれまで武器屋やアイテム屋を眺めていたカエデが、
「実際にはダンジョンの方が先にできて、そこを探索者たちが攻略していくうちに、店やら宿やらが増えていって、挙句の果てには住むやつまで現れて、街や国になっていったんだけどな」
とマドカの意見を否定した。
「それは色んな説があるでしょう!? 国ができたのが先よ!」
「現にでけぇダンジョンのそばにはでけぇ国が出来てるだろ。ダンジョンができたのが先だ」
女子二人はビリビリと火花が散る音が聞こえてきそうなほど睨み合っている。
つまり、その真相がわからないくらい遥か昔からダンジョンはあるということなのだろう。
俺は気まずさを隠す意味も含めて、疑問に思ったことを口に出した。
「ダンジョンに挑む人のことは『探索者』って言うんだね」
ちょうど目の前に「探索者ギルド」の看板が見える。
俺が見た漫画やアニメではだいたい「冒険者」だったが、この世界では「探索者」らしい。
ヤマトが答える。
「モンスターを倒したり、最奥を目指す人だけじゃなくて、ひたすら逃げ隠れて、アイテムだけ取っていく人とかもいるからね。中には他人のアイテムを盗んだりする人もいるらしいよ」
正攻法だけでなく、絡め手や、卑怯なことをする奴らもいるということだろうか。
残念だが、いい人間ばかりでないのは、この世界も同じのようだ。
だからこそ、それを取り締まるためにギルドなどの組織もできていったのだろう。
「さあ、ダンジョンはもうすぐだ」
俺はヤマトについていきながら、この世界の伝説について考えていた。
人間を誘き寄せるためにダンジョンを作ったデスティネルと、スキルの力で女神を殺そうとする人間。
いったいどちらがより狡猾で、どちらがより残酷なのだろうかと。
勝利の女神アフタエルと、運命の女神デスティネル。
女神アフタエルは家畜となる動物や作物を作ったが、女神デスティネルは嵐や雷を作った。
やがて世界ができて様々な種族が進化を続けるなか、おれたち人間と呼ばれる種族が生まれた。
人間は賢く器用な生き物で、次々と世界を開拓していき、繁栄を重ねていった。
女神アフタエルはそんな人間を好んだが、女神デスティネルは違った。
人間は欲深く、狡猾で、残忍な生き物であり、やがて地上を征服した後は自分たち女神をも殺すのではないかと、そう考えたんだ。
女神デスティネルは欲深い人間たちを陥れるために富と財宝で溢れているが、恐ろしい罠やモンスターが待ち構えている迷宮を地上に作りだした。
こうしてダンジョンが生まれた。
人間たちは勇敢にもダンジョンに立ち向かったが、自分たちだけの力ではとても叶わず、仕方なく女神アフタエルに助けを求めた。
女神アフタエルは恐ろしい罠やモンスターたちに立ち向かえる不思議な力を人間たちに与えた。
こうしてスキルが生まれたんだ。
ダンジョンに向かうまでの道のりで、ヤマトは俺にこの世界の成り立ちとダンジョンの伝説について教えてくれていた。
ヤマトが「女神をこの手で殺す」と言った時は驚いたが、なるほど女神は二人いたのだ。
スキルを生み出した女神アフタエルと、ダンジョンを生み出した女神デスティネル。
スキルを使う時はこのアフタエルに力を分けてもらっており、ヤマトたちが倒そうとしているのはデスティネルの方なのだろう。
しかし──
「どうして女神デスティネルがダンジョンの奥にいるってわかるんだ? それに、どうして殺さなきゃならない?」
いくらなんでも殺すのはひどいと思うのだが。
「ああ、この伝説の最後はこうしめくくられるのさ。『ダンジョンの最奥に潜むデスティネルを倒した者はこの世界の永遠の平和とこの世全ての富を得られるだろう』とね」
「なるほどな」
「永遠の平和」はともかく「全ての富」とくれば、人々がやっきになってダンジョンを攻略するのも無理のないことだろう。
「でもそうなると、もうダンジョンの中は狩りつくされてしまっているんじゃないか? 宝箱もアイテムもすっからかんになって、その女神様も、もう既に誰かが倒しちゃってるんじゃ……」
「ダンジョンがこの世にたった一つだったら、そうなっていたかもしれないわね」
それまで黙っていたマドカが口を開いた。
「えっ、ダンジョンってたくさんあるのか?」
「ええ、見つかっているだけでもおよそ百以上のダンジョンが確認されているし、今なお増え続けてる。それにね、ダンジョンはしばらくすると形を変えるし、モンスターだって沸き続けているの。最奥にいるボスモンスターを倒さない限りそのダンジョンはなくならない。これは女神デスティネルがまだ生きている証拠じゃない?」
ふふん、とマドカが得意げに鼻を鳴らす。
「だからね、大きな国や街にはだいたいダンジョンができたんだけど、ここ、オランゲルのダンジョンはその中でもとびきり大きくて深いのよ。きっとデスティネルはこのダンジョンに隠れているに違いないわ。私たちのパーティが絶対に見つけ出してやるんだから!」
マドカはやる気十分といった印象で手に持った杖を高く掲げて見せる。
するとそれまで武器屋やアイテム屋を眺めていたカエデが、
「実際にはダンジョンの方が先にできて、そこを探索者たちが攻略していくうちに、店やら宿やらが増えていって、挙句の果てには住むやつまで現れて、街や国になっていったんだけどな」
とマドカの意見を否定した。
「それは色んな説があるでしょう!? 国ができたのが先よ!」
「現にでけぇダンジョンのそばにはでけぇ国が出来てるだろ。ダンジョンができたのが先だ」
女子二人はビリビリと火花が散る音が聞こえてきそうなほど睨み合っている。
つまり、その真相がわからないくらい遥か昔からダンジョンはあるということなのだろう。
俺は気まずさを隠す意味も含めて、疑問に思ったことを口に出した。
「ダンジョンに挑む人のことは『探索者』って言うんだね」
ちょうど目の前に「探索者ギルド」の看板が見える。
俺が見た漫画やアニメではだいたい「冒険者」だったが、この世界では「探索者」らしい。
ヤマトが答える。
「モンスターを倒したり、最奥を目指す人だけじゃなくて、ひたすら逃げ隠れて、アイテムだけ取っていく人とかもいるからね。中には他人のアイテムを盗んだりする人もいるらしいよ」
正攻法だけでなく、絡め手や、卑怯なことをする奴らもいるということだろうか。
残念だが、いい人間ばかりでないのは、この世界も同じのようだ。
だからこそ、それを取り締まるためにギルドなどの組織もできていったのだろう。
「さあ、ダンジョンはもうすぐだ」
俺はヤマトについていきながら、この世界の伝説について考えていた。
人間を誘き寄せるためにダンジョンを作ったデスティネルと、スキルの力で女神を殺そうとする人間。
いったいどちらがより狡猾で、どちらがより残酷なのだろうかと。
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