主人公ちゃんがログインと同時にログアウトしていた件。

大鳶 いまり

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48. ご機嫌取りとご機嫌斜め

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 手配をするから城に残ると言うシャロムと別れ、エリィは合流したヨシュアと共に馬車で帰路につく。もちろん、シャロムにはヴィスタに許可を取る様に念を押した上で、あくまでも内密に動いてもらう事になっている。

 途中、町によって魔道具屋のアレクから注文の品を受け取るのも忘れない。取りに行くのは3月1日でも良かったのだが、念のため寄ってみたら出来上がっていたので受け取って来たのだ。その際に簡単に使い方も確認してきた。
 身に着けたまま登録したキーワードを言って念じるだけと言う極めて易しい使用法だ。

 登録するキーワドに関しては普段あまり言葉にしない物で長くない言葉がいいらしいので、エリィは迷わずバ○スに決めた。魔法を連想させるキーワードがそれしかエリィには思い浮かばなかったからだ。
 前世のエリィに看護婦や研修医が思い付きの善意で見せてくれたアニメ映画。ピンチを覆す魔法の言葉。そう考えたらこれしか思い浮かばなかった。惜しむらくは手にしたのが飛行石のネックレスではな買ったという点と、一緒に呪文を唱えてくれる少年が居そうもない事だろうか。
 もちろんアレクにとっては何だそれは的に耳馴染みのない言葉であっただろうが、首を傾げながらも登録をしてくれた。

 アレクから受け取ったものを飛ばす魔道具は小さな宝石いくつもが細い鎖でつながれたブレスレットの形をしていた。左手首に通して少し持ち上げて眺めれば陽の光にキラリと光って、アクセサリーとしても可愛らしい出来だった。宝石は魔法を発動したら無くなってしまうようで、これだけの宝石を使っても使用回数は1回のみというのだから、物を飛ばす魔法と言うのはかなりの魔力を使うのだろう。

「そういう意匠が好み?」

 エリィがそのブレスレットを馬車のガラス窓越しの光に何度かかざして、その輝きを楽しんでいると、ヨシュアが機嫌よさげに聞く。城にいた時とは打って変わってリラックスした表情のヨシュアに心の中で首を傾げながらも、エリィは頷いた。

「大きな宝石より、小さい宝石が適度についている方が可愛らしいもの」
「そうだね。大きな宝石は普段使いには適さないし、エリィにも大きなものより、そう言う方が似合ってるね。可愛いよ」
「あら、ありがとう」

 ヨシュアのお世辞にエリィはわざと当然の様に礼を言う。謙遜して否定するのも何か違う気がするし、かと言ってそのまま額面通りに受け取るのも恥ずかしい。と、なれば受け流す方向で返事をしなければ居たたまれなかった。

「何かプレゼントしようか?」
「……なぁに、いきなり?」

 相変わらず上機嫌のまま言うヨシュアに、エリィは怪訝そうに眉をひそめて答える。そうすればヨシュアはパッと破顔した。

「いや、ご機嫌取り? 殿下に苛められたみたいだし」

 殿下と聞いた瞬間に途端に渋面になったエリィの顔を見て、ヨシュアは更におかしそうに笑った。そんなヨシュアの笑顔がからかっている様に感じられて、エリィはますます顔をしかめた。

「殿下の話は禁止なんでしょ? 嫌なこと思い出させないでよ」
「そんなに顰め面になるなんて、何言われたの? 愚痴ぐらい聞くから話せばいいのに」

 そう言われてエリィはヴィスタが語った内容を思い出して視線を落とした。ヴィスタの要求をのまなければ、ヨシュアやヨハンが不興を買うと言う。逆に要求を飲めば、ヨシュアを取り立てるし、叙爵もすると言う。それを考えて、エリィは顔を少し上げてヨシュアの顔をじっと見た。

 ヨシュアは公爵家の令息とは言え、次男だ。セシルによほどのことが無い限り、それは覆らない。この国では基本、嫡男以外に実家の爵位の恩恵は期待できない。だからこそ、次男以降は爵位があって嫡男が居ない家へ養子に入るか、婿入りするのが一般的である。そうすることによって爵位を得て貴族位でいられるのだ。

 となると、ヨシュアはいずれこの家の息子ではなくなるか、もしくは婿入りせざるを得ないという事だ。ヨハンの事だから、きちんとヨシュアの処遇も考えてはいると思うが、どちらにしろヨシュアの肩身が狭くなるような未来になんとなく憂鬱な気分になる。

 肩身が狭くなるような思いをする位だったら、きっと平民も捨てた物じゃないよ、とエリィは思うのだが、それはあくまでもエリィの主観であるし、貴族として育ってきた彼が平民になるのには相当な苦労があるのではないだろうか。そう考えると、自分の残り少ない寿命の間位ヴィスタの思惑に乗って上げても良いような気にさえなってくる。

「いきなり真面目な顔になっちゃって、どうしたのさ?」

 呑気そうなヨシュアの顔にエリィは思わずため息をついた。

「ねぇ、ヨシュアは将来の事考えてる?」

 そうエリィが切り出せば、ヨシュアは呆けた様にキョトンとした顔をした。突然何を言うんだとでもいう様なその表情に、自分勝手にもエリィはイラッとする。こんなに心配してるのになんなのその顔は、なんて言うつもりは更々ないが、自分だけがやきもきしているのが不満だった。

「家族として、ヨシュアの身の振り方が心配なのよ」
「心配も何も……」
「まだ学生だからって思ってるのかもしれないけれど、来年は卒業だよ? その先の事は考えてるの?」
「決めてあるよ」

 苦笑い気味に言うヨシュアに、今度はエリィの方が寝耳に水とばかりにビックリして見返した。

「そうなの?」
「と言っても、選択の余地はなかったからなぁ」
「聞いてもいい?」
「もちろん。陛下から内示もいただいてるから安心していいよ。――僕は学園を卒業と同時に子爵位を叙爵してヴィスタ殿下の側近になる事が決定してるよ」

 ヴィスタの側近、という言葉を聞いてエリィは彼の言葉を思い出して言いようもない不安に駆られた。ヨシュアの言葉を聞く限りでは、ヨシュアの生来は安泰のように見える。叙爵すらされるという事は、無理にどこかへ養子や婿養子になどはいらなくてもいいことを示しているし、ヨシュアなら自分の力でその後も上手く世渡りできるだろう。

 だが、ヴィスタの不興を買ったらどうなるのだろうか。

 叙爵やヴィスタの側近と言う確約された未来は剥奪され、やはり養子か婿養子という道を選ばざるを得ない。いや、それだけならまだいい方だと言えるだろう。ヴィスタの不興を買っている事が公になれば、その養子・婿養子の道さえ断たれるのではないだろうか。誰が好き好んで次期国王に不興を買っている人物を言えに入れたがると言うのだろう。

 そう考えると、やはりヴィスタの提案を飲むべきなのではないかと言う強迫観念にとらわれる。たかだかあと3ヶ月、ヴィスタとの婚約と言う状態を受け入れていればいいのだ。どうせその後は死ぬのだから、たった3ヶ月ぐらい誰かの為に生きてもいいのではないのだろうかとエリィは考えて、ため息を一つ吐いた。

 どうせ自分が欲しい人は手に入らないし、手に入れてはいけない。ならば無駄に残りの3か月を過ごすよりも、その方がよほど有意義にさえ思えてくる。

 ヨシュアの兄は王女の夫となり、王太子の亡き婚約者は義姉。それはヨシュアにとって決してマイナスにはなら無い筈だ。

「ため息なんてついてどうしたの?」
「ん。ヨシュアの箔付の為に婚約でもしようかしらって」
「僕と?」
「なんでそうなるのよ」

 冗談っぽくエリィが言えば、ヨシュアもそれに応えるように冗談で返す。その切り返しにエリィはくすりと笑って見せた。そんなエリィの表情を見て、ヨシュアは意地悪そうな笑みを一つ浮かべた。

「で、だれと婚約するのさ」
「そうね。やっぱり無難なのは殿下かしら?」
「無難って……流石に殿下が不憫に感じるよ」
「あら、いいのよ。殿下に気を遣って得をしたことなんてないじゃないの」
「ふぅん。それが殿下に苛められた内容?」

 意味ありげな笑顔を浮かべたままヨシュアは言う。その言葉にエリィは思わずビクリとしてヨシュアを見た。そうすれば、ヨシュアはピクリと眉を動かして忌々し気に舌打ちを一つする。

「な、なんのこと?」

 背筋に流れる冷や汗を感じながら、エリィはとぼけてみせる。だが、ヨシュアは面白くなさそうにフンと鼻を一つ鳴らした。

「今の話の流れで大体想像はついたよ。僕の地位と引き換えに婚約しろとでも言われた?」
「今の話の流れで? 考え過ぎじゃないかしら」

 目を泳がせながらエリィが言えば、ヨシュアはイライラと膝の上を指でトントンと叩いた。それは何かを決めかねてるような感じで、不本意そうに口元はへの字に曲がっている。

「どうせ言っても無駄だと思うけど、言っておくよ」
「う、うん」
「僕は、たとえ殿下に蔑ろにされても、ただで終わるような男じゃないし、そこまで無能なつもりもないよ」

 至極不機嫌そうに顔をしかめたままヨシュアは言う。その口調にはあらかじめ前置きをしていたように、エリィがその言葉では納得しないことをわかっていて言っているようでもあった。

「……うん、わかってるよ」

 苦笑を浮かべながらエリィが言えば、わかってないよ、とヨシュアはまた一つ小さく舌打ちした。そんな様子にエリィが首を傾げて見せれば、ヨシュアはエリィをジロリと一瞥して、大仰にため息を吐いた。

「賭けてもいい。婚約しなくたってエリィが心配してるような状況には絶対にならない」
「でも」
「はぁ……だから嫌なんだよ。何で僕がわざわざ株を上げる手伝いをしなきゃいけないんだか」
「意味がわからないわ。知っているなら教えてよ」
「――イオル、居るだろ。イオルの生家はバレル伯爵家だ。これがヒント。僕は殿下が何故エリィにそんな事言ったのかの想像はつくけど、言わないよ。後は自分で考えて」

 不愉快そうにそう言い放つと、ヨシュアは少しだけ頬を膨らませて頬杖をつきながら窓の外を見る。相変わらずもう片方の手は膝の上でトントンとと苛立たし気に小刻みに動いていた。

「イオルはこの話に関係ないじゃない」
「エリィがそう思うならそれでいいんじゃない?」

 エリィの方をチラリとも見ようともせずにヨシュアは言う。先程の宣言通り、これ以上エリィに助言する気は全く無い様だった。訳も分からず、エリィは何とか聞き出そうと策を練ってみても、いい案は全く思い浮かばない。そうこうしている内に、窓の外の風景が屋敷の近くである事をエリィに知らせ、エリィは諦めた様にため息を一つ吐くしかなかったのだった。


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