イロ。

まみか

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1 魔物、覚醒す

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謹次の家はこの辺では屈指の極道だ。
第6代目に当たる厳格な父と二人で暮らしている。
とはいえいつも若衆達が屯しているので、賑やかだった。
純日本家屋の、父子二人で住むには大きすぎる謹次の家には長い廊下が中庭に面していた。
中庭は父と旧知の庭師が、遊びがてらに手入れにやってくる。
謹次の父は何も言わず、庭師は好き勝手に庭を手入し、自分の最高傑作だと自負する。
おかげで庭は必要以上に立派で、時々その様さえ予告なしに変わる。
その庭を謹次の父はいたく気に入っており、勝手にさせておけば勝手に立派になる、とご満悦だ。
当然謹次もこの庭が大好きだった。
風情、風流、芸術、そんなものはわからなくても、良さだけは分かる。
そんな庭だった。

「坊ちゃーん」
朝は若頭の金子の声が騒ぐところからいつも始まる。
その声に急かされながら二階の自分の部屋から降りてくると、数人の若衆たちが深く頭を下げながら挨拶をしてくる。
「おはようございます、坊ちゃん」
「ああ、おはよう」
愛想よくとまでは行かないまでも普通に挨拶を返すと、広間へ入っていく。
広間には座卓が二つ繋げて並べてあって、上座には謹次の父 賢が腕を組んで座っている。
その向かい側に謹次が座ると、その向かい側に金子が座る。
配膳は若衆たちが交代でしてくれ、謹次は食べるだけ。
父や金子、若衆たちが会話をしながら賑やかに食事は続けられるが、謹次はほとんど喋らない。
特に父とはもう何年もまともに会話していない気がする。
別に不仲というわけではないのだが、謹次の成長とともに忙しい父との会話が減っていった。
なにかと世話を焼いてくる金子とはよく話す。
父の方も金子から報告を受けているせいか、特に話しかけてこない。
ごくごく一般的な父子の距離感。
「ご馳走さま」
朝食が済むと謹次は学校へ出かけていく。
見送りは金子と若衆たち。
時々、父。
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
特に笑顔も見せず、謹次は家を出る。
謹次は学校では少し浮いた存在だった。
特に素行が悪いわけではないけれど、極道の息子だと知られているので、むやみに近づいてくるものもいないし、教師たちは腫れ物に触れるかのような扱い。
それを不便だと思ったことはないし、どうでもいいと謹次は思っていた。
成績は普通。
嫌いな教科も好きな教科もある。
家が特殊である以外はごくごく普通の大人しい少年。
帰宅すれば金子と若衆たちが出迎える。
夕食までは自室で過ごし、朝のメンバーが時々増減を見せながらやはり賑やかな夕食をとり、また自室で過ごす。
そんな毎日だった。

謹次が高一の時。
お気に入りの中庭をぼうっと眺めながら歩いていると、急に催した。
小用ではなくて。
急に身体中の体温が上がり、性器が勃起した。
戸惑ったものの堪えられるほど生半可な欲情ではなく、自分の部屋にも距離があり。
疼くように熱くなるペニスに思わず手を伸ばしたら、止まらなくなった。
廊下に面した部屋に転がり込んだのは、かすかに残った理性の仕業。
けれども襖を閉める余裕などなく。
ズボンをずらして取り出したペニスを一心不乱に扱いた。
一度射精しても熱が収まる気配はなく、疑問に思いながらも手を止めることは出来なかった。
そして興奮が高まるにつれ、別の場所が刺激を求めて疼いた。
それまで自分で触ったことも、触ろうと思ったこともない、後孔。
さすがに少し戸惑ったものの、次の瞬間手を背後から忍び込ませていた。
窄まりは指で触れるとひくひくした。
欲望が望むままに指を差し込むと、ぬるりとした感触を指に感じ、差し込まれた穴からは歓喜が這い上がって来た。
謹次はペニスを扱きながら、後孔を指で弄り、湧き上がってくる快感に身を任せ、没頭した。
ふと手元に落ちて来た影に謹次が顔を上げると、家に残っていた若い若衆の一人が足元に立っていた。
最近来たばかりで、謹次はまだ名前すら覚えていない。
謹次が自慰に耽っている姿を目を見開いて見ていた。
不思議と謹次に羞恥など湧かず、なぜかさらなる興奮を覚えた。
謹次は男を見上げながらずらしただけのズボンから足を引き抜き、相手に見せつけるように大きく開く。
謹次の手が扱いているペニスも、自らの指を飲み込んでひくつく恥ずかしい穴も曝け出す。
視線が股間に集中し、更に食い入るように見ているのを知ると、ますます興奮して腰を突き出し更に激しく自分に差し込む指を動かして見せた。
ぐちゃぐちゃと水音を立て、謹次は快感に乗せてわざとらしい高い喘ぎ声を上げてみせる。
視線を常に男の表情に向け、興奮に赤く染まっていく頬と荒くなる息遣いを楽しそうに眺めた。
やがて男はふらふらと近付いて、謹次の目に前に膝をついた。
その際も視線は一点を見つめたまま。
謹次は男の股間に膨らみを見つけ、上唇をぺろりと舌先で舐めた。
足を男の足の間に伸ばして、足指で膨らみをなぞると、はっきりとした形を感じ取れた。
そのまま足の裏でズボン越しに摩る。
男の息遣いがどんどん荒くなり、目も見開かれたまま動かない。
視線も動かない。
男が少々乱暴に謹次の足を引っ張って引き寄せても、謹次は抵抗すらしなかった。
なすがまま。
むしろ自分から足を開いた。
男の手が謹次の指を飲み込んでいる孔に伸びても。
抵抗も嫌悪も、恐怖もなく、あったのはただ興奮と快楽の欲求だけ。
やがて謹次の指の間から男の太い節のある指が差し込まれ、謹次は身体を仰け反らせ、自然と高い快感の悲鳴を上げていた。
腰を振り、指に内壁を押し付ける。
散々指で中を掻き回した男は、謹次の指ごと引き抜いた。
代わりに現れた天を仰いだままの赤黒い肉棒を、指の代わりに埋め込まれると謹次は背を大きくしならせた。
指よりも遥かに太い質量に、微かな痛みは合ったもののすぐに掻き消された。
内壁が摩擦を欲して泣くように疼く。
激しいピストンに合わせ腰を振った。
男に侵入されている場所から発生する快感は全身に巡り、脳まで届く。
気持ちいい、もっと。
頭の中で欲望が叫ぶ。
女のように高い悦楽に満ちた甘い喘ぎを漏らし、快感に身を捩らせる謹次の目に、さらなる男の姿。
物音を聞きつけ駆けつけただろう若衆の一人だった。
名前を知っているはずなのに、どうしても浮かんでこない。
それよりも。
謹次は興奮と期待に口元を緩ませ、男を見上げた。
男に組み敷かれ、肉棒を埋め込まれて快感に喘ぐ姿を見せつけていると、やがて新たな男もふらふらと近付いてくる。
謹次は迷うことなく男の股間に手を伸ばし、熱り立つ肉棒を取り出すと舌を絡め始めた。
口も後孔も雄臭い肉棒で埋め尽くされ、謹次は愉悦の表情を浮かべる。
やがて腰を振り続け、謹次に快感を与えていたものが小さく震え、中で弾けた。
内壁に熱い飛沫がかかると、謹次の興奮と快楽が加速した。
だが射精したことで力を失った肉棒は萎れ、謹次が腰を振った拍子に抜けてしまった。
謹次は名残惜しげに追いかけて手を伸ばす。
手で刺激して見たがすぐには勃ちあがらない。
謹次は先ほどまで口に咥えていた肉棒を振り向き、膝をつき尻をつき出した。
自分で尻肉を広げて、待ち望む淫らな入り口を肉棒に擦り付けた。
やがて肉棒の持ち主が腰を掴み、肉棒を埋め込んでくる。
謹次は再び快楽に浸り腰を振り始めた。


「頭のお帰りだぞ!」
門から金子が叫んでも屋敷内は静まり返っていた。
「何やってんだ、あいつら」
屋敷には若い者ばかり5~6人残っていたはずで。
金子が厳しくしつけた通り、頭である賢の帰宅時には玄関で揃って出迎えることになっていたはずだ。
腹を立てて、苛立ちで屋敷をしきりに振り向く金子に、賢は笑って見せた。
「いい、いい。忙しくしてるんだろうよ」
「いえ、それでも出迎えだけはきっちりと」
賢は更に笑いながら玄関の戸へと向かう。
慌てて先回りした金子が戸を開け、再び室内に叫ぶ。
「こらぁ、てめぇらぁ!頭のお帰りだってんだろっ」
さらなる怒声にも、静寂が返ってくる。
「…ったく、何してやがんだ」
金子が小さく呟くと、賢がその肩を掴んだ。
「ん、物音がしたか?」
「え?」
二人で耳を澄ましてみると、確かに微かではあるが物音がする。
「やはり忙しいらしいな」
くっくっと押し殺した笑いを漏らす賢が靴を脱ぎ始めたので、金子は慌ててしゃがみ込みスリッパを揃えて差し出した。
これも本当は下っ端である若い衆がするはずのこと。
「あいつら、躾し直しだ」
「手柔らかにしてやれ」
賢は大らかに笑いを浮かべながら、家の中へ進んでいった。
やがて、屋敷を縦断するような長い廊下に出ると、その物音がはっきりとしてきた。
女の悦に入った高い喘ぎ声。
声、というよりくぐもって音、に近い。
「あいつらぁ、女連れ込んでシケこんでやがるっ」
金子が拳を作って、怒りに震わせた。
「いいじゃないか、随分と艶のあるお嬢さんのようだ。若いもんは仕方ねぇのかもしれん」
そう賢に諭されて、一旦は引き下がったものの、金子は辺りを見渡した。
「しかし、他の奴らは一体どうしたんだ」
賢も思い当たったのか、やはり辺りを見渡す仕草をした。
女の声はひとつきり。
「まさかあいつら、数人がかりでっ!」
いくら極道といえど、その組ごとに決まりのようなルールがある。
主にその組の頭が嫌う行動で、あるようなないようなルールのところもあるけれど、ここでははっきりとしている。
女を食い物にしない。
数人がかりで乱暴をしない。
そんな感じのルールだ。
所以をはっきりと伝えたことなど一度もない。
ただ過去にこの家で起こったこと。
それを理由に頭である賢が嫌っていること。
それだけで若衆には十分なのだ。
それなのに。
若いとはいえ、これだけは厳守させるべき事柄。
これでは教育係でもある自分の立つ瀬がない。
「人の顔に泥ぉ塗りやがってっ」
憤慨した金子が足音高く現場を取り押さえようと、賢の前を歩き出した。
廊下を歩き始めるとその声は大きくなってくる。
だが不思議と他の音がしない。
女の声と金子の足音以外は変に静まり返り不気味でさえある。
その不気味さに眉を寄せ、賢は金子の後ろを歩いた。
金子はわざと大きな音を立てて歩いている。
自分が近付いていることを知らせるために。
聞こえているはずなのに、女の声は止まない。
廊下に面した一室の襖がわずかに開いているのが見えた。
声はそこから漏れてくる。
金子は目を釣り上げて、更に足音を高くし近付くと、襖の隙間に両手を差し込んで、勢いよく両方に押し開いた。
同時に声をあげる。
「コラァ、てめぇら、何してやがるっ!」
その直後、その部屋の惨状を目の当たりにし、金子は愕然とした。
家に残っていたはずの若い衆全員がその部屋にいた。
襖を開いた途端に襲ってきた強烈な栗の花に似た匂い。
裸体で横たわる人物を取り囲み、一人は白い足を持ち抱えて、その奥へと腰を動かしている。
他の男たちは裸体に向かい興奮で赤黒く変色した肉棒を差し出し、与えられる愛撫を待っているかのよう。
異様なのはその表情で。
手前の背を向けている男はわからないが、見える範囲の男の表情は血走った目を見開き、荒い息を吐く開かれたままの口元には涎、中には泡を吹いているものさえいる。
中心の裸体は誰のものともわからない体液にまみれていた。
金子の精一杯の叫びだったにも関わらず、誰一人やめようとしない。
相変わらず足を握りしめて腰を振る男は粘着質な音を立てて、視線は裸体の人物を見据えている。
取り囲む他の者たちも食い入るように中心の裸体を見つめている。
裸体で横たわる人物は、両手に握りしめた肉棒を擦り続けているし、差し出された別の肉棒に舌を伸ばして熱心に舐め、さらに淫らに腰をくねらせ、喉の奥から高い喘ぎを漏らし続けている。
どう見ても裸体の主を数人で手篭めにしている様子ではない。
むしろ…。
ふと中心で肉棒に囲まれている人物の顔の角度が変わり、はっきりと見えた。
一気に血の気が引いていく。
精液まみれで、快楽に虚ろな瞳ではあるけれど、あれは…。
「…謹次、坊ちゃん…」

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