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二手目
過去全敗の男
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なつめたもる。
将棋のプロ棋士になることが夢だった。
しかし幼稚園生から大学を卒業するまでの間、将棋を指す友に恵まれず、父親と将棋を指し続け、負け続ける毎日を過ごした。
父は将棋のアマチュアながら、
五段の実力を備えていた。
そんな高段者とも知らずに、ただひたすらに、自分の知っているただ一つの戦法を使い、父に挑み続けた。
1803連敗という大記録を作ったのにも関わらず、たもるは将棋をやめたいと思わなかった。
将棋が大好きだった。
そして将棋を指している父を見るのが、大好きだった。
たもるが唯一知っている戦法は、
「四間飛車戦法」
この戦法に対し、たもる父は、
徹底的に本やテレビやDVDなどで
対策を講じた。
対するたもるは、一切本も読まず、自分の思考のみで将棋を指す。
勝敗はやる前から明らかである。
たもる父は、たもるの攻撃を
ことごとくかわし、
反撃の大砲をかまし、
勝ち星を重ねた。
たもるは3歳から将棋を始めながら、実に20年間、将棋に勝つということを知らずに大人になった。
勝ったことのない自分は、最も将棋の弱い男だと、信じて疑わなかった。
そんなたもるに、23歳の春、父以外の人と将棋を指す機会が訪れる。
社会人になり、職場の上司と昼休みに将棋を指すことになったのだ。
50代後半の係長。
いつも細い目をしている。
パソコンは分からんなどとブツブツ言いながら、椅子の背もたれとパソコンの画面近くを行ったり来たりする彼の名は三林である。
たもるは三林に「今まで一度も勝ったことがないので、お手柔らかにお願いします。」と言った。
三林は鼻高々に、
「よーし、俺が実力を見てやろう、なんでもやってこい!」と少しニヤけたような表情で駒を並べ始める。
ここでたもるは唖然とした。
三林が駒を並べ始めたのだが、
たもるを先手とみて、2一の桂馬、次に8三の歩、続いて6一の銀、、と要するに、テキトーに駒を並べ始めたのである。
将棋の駒の並べ方には、
大橋流と伊藤流という並べ方がある。
プロの間では大橋流の並べ方が多く、たもるもこの並べ方を採用している。
もちろんアマチュアなのだから、並べ方などテキトーでも良いだろうという考えも、一理あるかもしれない。
だがたもるは大橋流で駒を並べているため、テキトーに駒を並べることを全く知らなかった。
「その並べ方は、何流と言うのですか?初めて見ました!」
たもるがそう言うと、駒を並び終えた三林は、
「何流?はは、オレ流だよ!オレ流!おいちんたらしてないで早く駒並べろよ!ほれほれ!」
と言いながら、たもるがまだ並べていない駒をつかみ並べ始めた。
「やめてください、私が並べますので。遅くてすみません。」
「ん?礼儀では負けないってか?
まあ、早くしてよ。」
「すみません。」
たもるが駒を並べ終える。
「では、よろしくお願い致します。」たもるが一礼する。
「はーいよ、どーぞ指してー」
爪楊枝でシーハーする上司。
時、西暦2007年4月5日。
こうしてたもるは父以外の人、
上司の三林と、
将棋を指し始めるのであった。
将棋のプロ棋士になることが夢だった。
しかし幼稚園生から大学を卒業するまでの間、将棋を指す友に恵まれず、父親と将棋を指し続け、負け続ける毎日を過ごした。
父は将棋のアマチュアながら、
五段の実力を備えていた。
そんな高段者とも知らずに、ただひたすらに、自分の知っているただ一つの戦法を使い、父に挑み続けた。
1803連敗という大記録を作ったのにも関わらず、たもるは将棋をやめたいと思わなかった。
将棋が大好きだった。
そして将棋を指している父を見るのが、大好きだった。
たもるが唯一知っている戦法は、
「四間飛車戦法」
この戦法に対し、たもる父は、
徹底的に本やテレビやDVDなどで
対策を講じた。
対するたもるは、一切本も読まず、自分の思考のみで将棋を指す。
勝敗はやる前から明らかである。
たもる父は、たもるの攻撃を
ことごとくかわし、
反撃の大砲をかまし、
勝ち星を重ねた。
たもるは3歳から将棋を始めながら、実に20年間、将棋に勝つということを知らずに大人になった。
勝ったことのない自分は、最も将棋の弱い男だと、信じて疑わなかった。
そんなたもるに、23歳の春、父以外の人と将棋を指す機会が訪れる。
社会人になり、職場の上司と昼休みに将棋を指すことになったのだ。
50代後半の係長。
いつも細い目をしている。
パソコンは分からんなどとブツブツ言いながら、椅子の背もたれとパソコンの画面近くを行ったり来たりする彼の名は三林である。
たもるは三林に「今まで一度も勝ったことがないので、お手柔らかにお願いします。」と言った。
三林は鼻高々に、
「よーし、俺が実力を見てやろう、なんでもやってこい!」と少しニヤけたような表情で駒を並べ始める。
ここでたもるは唖然とした。
三林が駒を並べ始めたのだが、
たもるを先手とみて、2一の桂馬、次に8三の歩、続いて6一の銀、、と要するに、テキトーに駒を並べ始めたのである。
将棋の駒の並べ方には、
大橋流と伊藤流という並べ方がある。
プロの間では大橋流の並べ方が多く、たもるもこの並べ方を採用している。
もちろんアマチュアなのだから、並べ方などテキトーでも良いだろうという考えも、一理あるかもしれない。
だがたもるは大橋流で駒を並べているため、テキトーに駒を並べることを全く知らなかった。
「その並べ方は、何流と言うのですか?初めて見ました!」
たもるがそう言うと、駒を並び終えた三林は、
「何流?はは、オレ流だよ!オレ流!おいちんたらしてないで早く駒並べろよ!ほれほれ!」
と言いながら、たもるがまだ並べていない駒をつかみ並べ始めた。
「やめてください、私が並べますので。遅くてすみません。」
「ん?礼儀では負けないってか?
まあ、早くしてよ。」
「すみません。」
たもるが駒を並べ終える。
「では、よろしくお願い致します。」たもるが一礼する。
「はーいよ、どーぞ指してー」
爪楊枝でシーハーする上司。
時、西暦2007年4月5日。
こうしてたもるは父以外の人、
上司の三林と、
将棋を指し始めるのであった。
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