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四手目
自分を信じること
しおりを挟む三林の△8四飛車で、
三林は勝ったと言ったが、
これはたもるの戦意を喪失させるためのハッタリである。
三林の狙いとしては、
たもるの7六にある歩をタダで奪うものだが、だとしても
大したことは無い。
更にたもるが▲7八銀と指せば、
その構想は失敗に終わる。
たもる、▲7八銀。
「あらーたもる君少しは分かってるのね、まあいいけど。」
三林の表情が若干曇る。
だが当初の考えを貫くために
三林、△7四飛車と飛車を横に動かす。
だが次のたもるの指し手、
▲6五歩。
この手に三林、再び口を大きく開く。
「いやいやいやいやー、なーんだたもる君、なーんにも分かって無いんだねー!
そこは▲6五歩じゃなくて、
▲6七銀とあがれば、俺の負けだったのにねぇ。残念だねー。」
三林、余裕の表情で△7六飛車。
「ここでも6七銀と指していいんだぞ、ほれほれ。」
これも先ほど同様、三林の罠である。
ここで▲6七銀と指すのは、
△7七飛車成と指されて、
たもるが一気に悪くなる。
ここでたもる、将棋盤を睨みつけながら、口を開く。
「あの、三林さんが話してるので、私も少し話しても良いですか?対局中に話すなんて、したこと無いのですが。」
「別にそんなのどーでもいいって、何でも言っていいのよ?」
「あ、はい。」
「何?」
「三林さん、」
「なーんだよ、」
「確かにあと少しで、
終わるかもしれませんね。」
「そうだ、たもる君、
初勝利はお預け、なに、
相手が悪かったと思えばいいよ。」
「その価値観、ひっくり返してやりますよ。」
「何言ってやが..」
三林がたもるを鋭く睨みつけるや否や、
たもるの右手が三林のあごの方へと宙を舞う。
その右手はしなやかに下降し、
三林の角将を掴み落とし、
自らの角将を三林陣地に
ねじり放った。
たもるの駒音に静寂する
ギャラリー。
たもるの意識が完全に、
将棋盤へと取り込まれた。
(これはもう、負けねえかもわかんねぇ。)
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