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二十一手目
焦りと黒い影
しおりを挟むたもるの手、▲5八飛車を見て、吉田が苦笑いの表情を浮かべる。
(ここでぶつけてくるのか。なるほど、こうなれば、7六の歩を取ることはできない。)
そう確認して、吉田は持ち駒の歩を持ち、たもるの飛車の前にねじ込んだ。
吉田、△5七歩打!
抑え込んでしまうという吉田の構想だ。
この手に対し、たもるの飛車が初陣の玉の位置に腰下ろす。
たもる▲5九飛車!
ここで吉田にイメージの盲点、黒い影が悪さをする。
説明すると、先ほどまで、吉田は二つの狙いを持った手を指していた。
その狙いの一つは、既に述べた通り、たもるの7六の歩を奪うというもの。
一度はたもるの▲5八飛車の手により、その狙いは無くなったのだが、現局面では、その7六の歩を取る狙いが、実行できるようになったのである。
だが、この歩を取るのは、眠りかけた獅子、たもるの飛車の意識を大きく蘇らせることになる手だ。
つまり、7六の歩を取ることは封じられたままなのである。
しかし、過去のイメージという黒い影が、吉田の思考を鈍らせる。
吉田、△7六飛車!
指して直ぐに、吉田は自身の間違いに気がつき、苦虫を噛み潰す。
(そうだ、この手は駄目だ。間違えた。)
だが、この時たもるは全く別の地点を考慮していたのであった。
(相手玉、もしかすると詰みが、近いかもしれない。)
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