バッファロー銀伝説

なつめたもる

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三十一手目

かち割る

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たもるの心に、熱がおびる。

このままで良いのか、なにか、何かないのかと震える。

俺には関係無い。

俺はこのまま、声を出さなければ、俺のままだ。

吉田さんは、退職をして、失業手当を受給しながら次の職場を探す。

きっと2カ月後くらいに
無事就職先が決まり、
新しい生活が始まるのだろう。

それで、いい、のか。

俺は吉田さんと、この先どう関わっていきたいんだ。

たもるの芯から湧き上がる感情。

「あの、すみません三林係長。」
たもるの無意識の空間から、
声が出ていた。

「あ?なんだ?」三林がたもるを睨みつける。

ざわつくあたりの従業員。

たもるの眼は真っ直ぐに三林を見つめている。

「誰だよお前さんは。立派な大学卒業して新入社員になったんだろ?社会人としての常識とか礼儀くらい学校で勉強してこないのか?困るんだよ。」

「常識も礼儀も無くてすみません。係長の先程の吉田さんへの言葉に、少し納得出来なかったので、もう一度話をお聞きしたいと思いまして。」

吉田が口を開こうとするが、三林が話し出す。

「あのさ、、、呆れてものも言えないよ。」三林がふうと、大きな溜息をついた。

「同じ気持ちです。」たもるが間髪入れずに返す。

「お前、クビにするように社長にお願いしとくから。」三林が静かにそう言った。

「困ります。父が泣きます。」

「たもる、もういいって。」
吉田が割って入る。


「おい、何やってるんだ。」
出張から戻った課長の声がした。

「仕事やらずに全員何やってるんだ、早くデスクに戻れ。」

「課長ぉお疲れ様でございます、今ですね、吉田が退職したいと申し出て参りまして、それでええ、話を聞いてやっていた次第でございまして。」三林が課長に媚びる。

「ああ、また喧嘩したのか。どっちも大人なんだから、そういうのは仕事に持ち込まないでもらえるか?退職?まあそれは聞かなかったことにするから、カッとなっても、そういうこと、言わないようにするんだ、いいか吉田。」
課長の言葉は重い。

「申し訳ございません。気をつけます。」吉田が課長と三林に深々と頭を下げた。

「それより係長、はやく昨日の資料修正してくれないか?一箇所直すだけでいいんだから、君の手持ち資料で直ぐに修正できるだろ。」若干の苛立ちながら課長が問題の話を終わらせた。

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