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はじまり編
03.モブ令嬢と花畑
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モニクの言う通りだった。シルヴィは何とも言えない気持ちになりながら、辿り着いた花畑を見つめた。かなり自信があって道を指差したのだけれど。まぁ、いいか。
今の季節は、秋。過ごしやすい気候がピクニックに最適だ。心地のよい風が吹いて、色とりどりの花を揺らす。
優しい香りが鼻腔をくすぐり、風が花びらを拐っていく。細まったシルヴィの瞳が、キラキラと輝いた。
「きれい」
ルノーはその声に、視線を花畑からシルヴィへと向ける。シルヴィの様子を見て、怪訝そうに眉根を寄せた。
視線に気づいたように、シルヴィがルノーを見上げる。今度はシルヴィが、そんなルノーの顔を見て、えぇ……。と困惑した。
「なんでしょう」
「ただの花畑だろ?」
「そうだね?」
「何がそんなに……」
「うん?」
変な所で言葉を切ったルノーに、シルヴィは不思議そうに首を傾げる。ルノーはじっとシルヴィを見つめていたかと思ったら、急に視線を花畑へと戻した。
思案するように、瞳が微かに伏せられる。シルヴィは何も言わずに、ただルノーの横顔を眺めた。何故だろう。でもこれは、ルノーにとって何か大切な事だと思ったから。
「……ただの花畑だ」
やがてルノーがぽつりと、どこか不満そうにそうこぼした。シルヴィは視線をルノーから花畑へと移す。確かに、ただの花畑だ。
「ふふっ、そうだね」
ルノーの言葉を肯定した癖に、シルヴィの瞳には相変わらず花畑が何か特別な場所であるかのように映っている。そういう風に、ルノーには見えた。
それが、ルノーには酷く不満だった。同じ景色を見ている筈なのに、シルヴィとルノーでは何が違うのか。理解出来ない。拗ねたようにルノーの口がへの字に曲がる。
それに気づいて、シルヴィは困ったように笑った。何がそんなに気に入らなかったのやら、と。
「お菓子食べよ?」
「…………」
「いや?」
「別に……。いいよ」
「じゃあ、そうしよう」
モニクは出来るメイドだ。主人の言葉を聞いて、ささっと準備を始める。木陰にシートを敷いて、お菓子の入ったバスケットをセッティングする。勿論、お茶の用意も抜かりなく。
シートに座ったシルヴィは「ありがとう、モニク」とお礼を口にする。それをモニクは素直に受けとる。いつものこと。なのに、ルノーはその様子を興味深そうに観察しているようだった。
「ルノーくん! 我が家のコックが作ったお菓子はとってもおいしいのよ」
「ふーん」
自慢気にシルヴィが笑みを浮かべる。
「どうぞ」とオススメのクッキーを差し出したシルヴィの手から、ルノーは素直にそれを受け取った。
「あっ! 毒見? 毒見とかいるのかな。私が食べるわ。任せて!」
「そこは出来ればメイドである私にお任せ頂きたいのですが」
「だって、変なもの入ってないと思うの」
「そうですね。既に屋敷で毒見は済ましてきましたから」
「えぇ……。知らなかった」
「念のためですよ」
衝撃の事実にシルヴィが驚いている横で、ルノーがクッキーを迷いなく食べた。それにシルヴィは、普通に食べた!? とルノーを凝視した。色んな意味で大丈夫なのだろうか。
「おいしい?」
「うん」
「甘いの好き?」
「うん」
「いっぱい食べてね」
「いいの?」
「いいよ」
「そう」
ルノーが嬉しそうに、頬を緩める。
その見た目で甘いの好きなんだ。とシルヴィはちょっと失礼なことを考えつつ、いや、これがきっとギャップ萌えなんだな。とも思った。
シルヴィもクッキーを口に頬張りつつ、幸せそうにマドレーヌをもぐもぐしているルノーを観察する。
肩上で整えられた白金の髪。瞳は深い紺色で、切れ長の目元が無表情だと冷たい印象を抱かせる。しかし、二重で睫毛が長く顔の作りが果てしなく良いので、王子様みたいではあるのだが。
「なに?」
「おいしそうに食べるなぁって」
「……普通だよ」
そう言いつつ、ルノーはクッキーに手を伸ばした。口に広がる甘さに、満足そうなのが隠しきれていない。可愛いな。とシルヴィは頬を緩めた。
「また持ってくるね」
何の気なしに、シルヴィはそう言っていた。それに、ルノーが「また……」とオウム返しに呟く。目をパチパチと瞬かせると、一つ頷いた。
「また。そうだね。うん。また会おう」
「ルノーくんは目立つから、次も花畑で遊ぶ?」
「そうだね。それがいいよ」
どうやら、自分の存在は隠しておきたいらしい。なら、このことは両親にも誰にも秘密だ。モニクに視線を遣ると、心得ていると無言で頷いた。流石である。
「じゃあ、花畑で待ち合わせね」
「君はちゃんと辿り着けるの?」
「大丈夫!」
「お任せください」
「あぁ、なるほど」
モニクと一緒ならば大丈夫だろうと、ルノーは納得する。
「そうだな……。三日、うん。三日後なら少し遊べるかな」
「わかった。三日後ね」
「今日と同じ時間だよ」
「任せて!」
「モニク、頼んだよ」
「はい。お任せください」
「ちょっと」
何でだ。とシルヴィはむくれたが、ルノーはどこ吹く風でマドレーヌを食べ続ける。
じとっと睨んでみたものの、シルヴィでは迫力に欠けるようで全く効かない。むぐぐ……と悔しい気持ちになったが、大人気ない気がして止めておいた。
******
あれから時間は過ぎ、季節は冬になろうとしていた。
シルヴィとルノーは、お互いの時間が合う日には必ず花畑で遊んでいる。今日もそうだ。
器用に花冠を作っていくシルヴィの手元をルノーが興味深そうに、じっと見つめている。それに、シルヴィは微笑ましい気持ちになり頬を緩めた。
「出来たらあげるね」
「僕に?」
「うん。ルノーくんにあげる」
「僕には似合わないよ」
「そうかな? じゃあ、私とお揃いにしようよ」
「それなら、まぁ……」
渋々と頷いたルノーに、シルヴィはふふっと笑う。しかし、不服そうに睨まれて眉尻を下げる羽目になった。
「あっ! そうだわ」
「なに?」
「大事なお知らせがあるの」
危ない危ない。シルヴィは内心で忘れそうになった事実にちょっと焦った。
「暫く遊べない」
「……なぜ?」
驚くくらい低い声を出したルノーに、シルヴィは目を瞬く。今度は違う意味で心臓がドキドキした。わお……。怖い。
「そ、そろそろシーズンでしょ? 王都にいくの」
「あぁ、そう言えばそろそろだね」
ルノーが忌々しそうに眉をひそめる。
隠す気があるのか、ないのか。やはり、ルノーは貴族のご令息らしい。
「シルヴィは何かに参加するの?」
「しないよ。まだ良いって両親が」
「妥当な判断だね。君みたいな危なっかしい子、社交の場に出したくない」
「マナーのお勉強がんばってるもん」
「マナーの問題ではないよ」
「えぇー……」
じゃあ、何の問題だ。シルヴィは思わず眉間に皺を寄せる。モニクが視界の端でルノーに同意するように、深く頷いているのも不服であった。失礼な、と。
もう知らない。シルヴィは黙々と花冠を完成させる作業に集中することにした。
「そう。もう冬なんだね」
「…………」
「誕生日だ」
「……え? 誰の?」
「僕の」
まさかの情報に、シルヴィは思わず反応してしまった。ルノーは冬産まれだったらしい。では、ルノーのお祝いは出来ないのか。残念だ。
「いくつになるの?」
「六歳だったかな」
「私の一つ上だ。でも、直ぐに追い付くよ。私の誕生日は春だから」
そうか。同い年かと思っていたけど、一つ年上だったとは。シルヴィは花冠を作る手を止めずに、そんなことを考える。
妙な沈黙が広がった。それに、ん? とシルヴィは顔を上げる。ルノーの機嫌が最悪になっていた。ムスッと顔をしかめるルノーに、シルヴィはきょとんと目を瞬く。
「どうしたの?」
「別に」
どこをどう見ても“別に”の顔ではない。
シルヴィは、相変わらず気難しい子だな。と苦笑しながら最後の花を編んで花冠を完成させた。
それを、ルノーの頭にふわっと乗せる。
「お誕生日おめでとう」
花が綻ぶように笑んだシルヴィに、ルノーが目を真ん丸に見開いた。
「なに、を……?」
「当日お祝いできないから。早すぎるかしら?」
首を傾げたシルヴィを見て、ルノーが照れたようにムスッと眉根を寄せる。耳が赤く色づいて見えた。
ふいっと顔を背けたルノーが「……ありがとう」なんて、消え入りそうな声で言う。
シルヴィは少し驚いた顔をすると、次いで嬉しそうに笑った。
お揃いにすると言ったので、シルヴィは自分の分も花冠を作ろうと視線を下に向ける。しかし、ルノーに「シルヴィ」と呼ばれて、すぐに顔を上げることになった。
「ん?」
「あげる」
するっと髪に花を一輪、ルノーはシルヴィにつける。ポカンとするシルヴィをまじまじと見つめ、「物足りないな」と呟いた。
2つくくりのリボンを使って、上手いことルノーはシルヴィの髪を花で飾りつけていく。満足したのか、一つ頷いた。
「誕生日おめでとう」
ルノーの瞳が、ゆるりと優しく細まる。呼応するように、口元もやんわりと弧を描いた。
シルヴィは目を瞬くと、状況を理解して胸が温かくなるのを感じる。とても嬉しい。それが伝わるように、「ありがとう」シルヴィは紅潮する頬をそのままに、ふにゃっと笑った。
シルヴィの瞳にキラキラとした喜色が滲む。瞳からあふれそうだとルノーは馬鹿なことを考えて、しかしそれは何だか勿体ないなと思ってしまった。
「きれい。そう。これが、綺麗」
「ふふっ、うん。お花、綺麗ね」
ふやふやと笑うシルヴィにルノーは、「そうだね」なんて、どこか困ったようにフッと笑った。
今の季節は、秋。過ごしやすい気候がピクニックに最適だ。心地のよい風が吹いて、色とりどりの花を揺らす。
優しい香りが鼻腔をくすぐり、風が花びらを拐っていく。細まったシルヴィの瞳が、キラキラと輝いた。
「きれい」
ルノーはその声に、視線を花畑からシルヴィへと向ける。シルヴィの様子を見て、怪訝そうに眉根を寄せた。
視線に気づいたように、シルヴィがルノーを見上げる。今度はシルヴィが、そんなルノーの顔を見て、えぇ……。と困惑した。
「なんでしょう」
「ただの花畑だろ?」
「そうだね?」
「何がそんなに……」
「うん?」
変な所で言葉を切ったルノーに、シルヴィは不思議そうに首を傾げる。ルノーはじっとシルヴィを見つめていたかと思ったら、急に視線を花畑へと戻した。
思案するように、瞳が微かに伏せられる。シルヴィは何も言わずに、ただルノーの横顔を眺めた。何故だろう。でもこれは、ルノーにとって何か大切な事だと思ったから。
「……ただの花畑だ」
やがてルノーがぽつりと、どこか不満そうにそうこぼした。シルヴィは視線をルノーから花畑へと移す。確かに、ただの花畑だ。
「ふふっ、そうだね」
ルノーの言葉を肯定した癖に、シルヴィの瞳には相変わらず花畑が何か特別な場所であるかのように映っている。そういう風に、ルノーには見えた。
それが、ルノーには酷く不満だった。同じ景色を見ている筈なのに、シルヴィとルノーでは何が違うのか。理解出来ない。拗ねたようにルノーの口がへの字に曲がる。
それに気づいて、シルヴィは困ったように笑った。何がそんなに気に入らなかったのやら、と。
「お菓子食べよ?」
「…………」
「いや?」
「別に……。いいよ」
「じゃあ、そうしよう」
モニクは出来るメイドだ。主人の言葉を聞いて、ささっと準備を始める。木陰にシートを敷いて、お菓子の入ったバスケットをセッティングする。勿論、お茶の用意も抜かりなく。
シートに座ったシルヴィは「ありがとう、モニク」とお礼を口にする。それをモニクは素直に受けとる。いつものこと。なのに、ルノーはその様子を興味深そうに観察しているようだった。
「ルノーくん! 我が家のコックが作ったお菓子はとってもおいしいのよ」
「ふーん」
自慢気にシルヴィが笑みを浮かべる。
「どうぞ」とオススメのクッキーを差し出したシルヴィの手から、ルノーは素直にそれを受け取った。
「あっ! 毒見? 毒見とかいるのかな。私が食べるわ。任せて!」
「そこは出来ればメイドである私にお任せ頂きたいのですが」
「だって、変なもの入ってないと思うの」
「そうですね。既に屋敷で毒見は済ましてきましたから」
「えぇ……。知らなかった」
「念のためですよ」
衝撃の事実にシルヴィが驚いている横で、ルノーがクッキーを迷いなく食べた。それにシルヴィは、普通に食べた!? とルノーを凝視した。色んな意味で大丈夫なのだろうか。
「おいしい?」
「うん」
「甘いの好き?」
「うん」
「いっぱい食べてね」
「いいの?」
「いいよ」
「そう」
ルノーが嬉しそうに、頬を緩める。
その見た目で甘いの好きなんだ。とシルヴィはちょっと失礼なことを考えつつ、いや、これがきっとギャップ萌えなんだな。とも思った。
シルヴィもクッキーを口に頬張りつつ、幸せそうにマドレーヌをもぐもぐしているルノーを観察する。
肩上で整えられた白金の髪。瞳は深い紺色で、切れ長の目元が無表情だと冷たい印象を抱かせる。しかし、二重で睫毛が長く顔の作りが果てしなく良いので、王子様みたいではあるのだが。
「なに?」
「おいしそうに食べるなぁって」
「……普通だよ」
そう言いつつ、ルノーはクッキーに手を伸ばした。口に広がる甘さに、満足そうなのが隠しきれていない。可愛いな。とシルヴィは頬を緩めた。
「また持ってくるね」
何の気なしに、シルヴィはそう言っていた。それに、ルノーが「また……」とオウム返しに呟く。目をパチパチと瞬かせると、一つ頷いた。
「また。そうだね。うん。また会おう」
「ルノーくんは目立つから、次も花畑で遊ぶ?」
「そうだね。それがいいよ」
どうやら、自分の存在は隠しておきたいらしい。なら、このことは両親にも誰にも秘密だ。モニクに視線を遣ると、心得ていると無言で頷いた。流石である。
「じゃあ、花畑で待ち合わせね」
「君はちゃんと辿り着けるの?」
「大丈夫!」
「お任せください」
「あぁ、なるほど」
モニクと一緒ならば大丈夫だろうと、ルノーは納得する。
「そうだな……。三日、うん。三日後なら少し遊べるかな」
「わかった。三日後ね」
「今日と同じ時間だよ」
「任せて!」
「モニク、頼んだよ」
「はい。お任せください」
「ちょっと」
何でだ。とシルヴィはむくれたが、ルノーはどこ吹く風でマドレーヌを食べ続ける。
じとっと睨んでみたものの、シルヴィでは迫力に欠けるようで全く効かない。むぐぐ……と悔しい気持ちになったが、大人気ない気がして止めておいた。
******
あれから時間は過ぎ、季節は冬になろうとしていた。
シルヴィとルノーは、お互いの時間が合う日には必ず花畑で遊んでいる。今日もそうだ。
器用に花冠を作っていくシルヴィの手元をルノーが興味深そうに、じっと見つめている。それに、シルヴィは微笑ましい気持ちになり頬を緩めた。
「出来たらあげるね」
「僕に?」
「うん。ルノーくんにあげる」
「僕には似合わないよ」
「そうかな? じゃあ、私とお揃いにしようよ」
「それなら、まぁ……」
渋々と頷いたルノーに、シルヴィはふふっと笑う。しかし、不服そうに睨まれて眉尻を下げる羽目になった。
「あっ! そうだわ」
「なに?」
「大事なお知らせがあるの」
危ない危ない。シルヴィは内心で忘れそうになった事実にちょっと焦った。
「暫く遊べない」
「……なぜ?」
驚くくらい低い声を出したルノーに、シルヴィは目を瞬く。今度は違う意味で心臓がドキドキした。わお……。怖い。
「そ、そろそろシーズンでしょ? 王都にいくの」
「あぁ、そう言えばそろそろだね」
ルノーが忌々しそうに眉をひそめる。
隠す気があるのか、ないのか。やはり、ルノーは貴族のご令息らしい。
「シルヴィは何かに参加するの?」
「しないよ。まだ良いって両親が」
「妥当な判断だね。君みたいな危なっかしい子、社交の場に出したくない」
「マナーのお勉強がんばってるもん」
「マナーの問題ではないよ」
「えぇー……」
じゃあ、何の問題だ。シルヴィは思わず眉間に皺を寄せる。モニクが視界の端でルノーに同意するように、深く頷いているのも不服であった。失礼な、と。
もう知らない。シルヴィは黙々と花冠を完成させる作業に集中することにした。
「そう。もう冬なんだね」
「…………」
「誕生日だ」
「……え? 誰の?」
「僕の」
まさかの情報に、シルヴィは思わず反応してしまった。ルノーは冬産まれだったらしい。では、ルノーのお祝いは出来ないのか。残念だ。
「いくつになるの?」
「六歳だったかな」
「私の一つ上だ。でも、直ぐに追い付くよ。私の誕生日は春だから」
そうか。同い年かと思っていたけど、一つ年上だったとは。シルヴィは花冠を作る手を止めずに、そんなことを考える。
妙な沈黙が広がった。それに、ん? とシルヴィは顔を上げる。ルノーの機嫌が最悪になっていた。ムスッと顔をしかめるルノーに、シルヴィはきょとんと目を瞬く。
「どうしたの?」
「別に」
どこをどう見ても“別に”の顔ではない。
シルヴィは、相変わらず気難しい子だな。と苦笑しながら最後の花を編んで花冠を完成させた。
それを、ルノーの頭にふわっと乗せる。
「お誕生日おめでとう」
花が綻ぶように笑んだシルヴィに、ルノーが目を真ん丸に見開いた。
「なに、を……?」
「当日お祝いできないから。早すぎるかしら?」
首を傾げたシルヴィを見て、ルノーが照れたようにムスッと眉根を寄せる。耳が赤く色づいて見えた。
ふいっと顔を背けたルノーが「……ありがとう」なんて、消え入りそうな声で言う。
シルヴィは少し驚いた顔をすると、次いで嬉しそうに笑った。
お揃いにすると言ったので、シルヴィは自分の分も花冠を作ろうと視線を下に向ける。しかし、ルノーに「シルヴィ」と呼ばれて、すぐに顔を上げることになった。
「ん?」
「あげる」
するっと髪に花を一輪、ルノーはシルヴィにつける。ポカンとするシルヴィをまじまじと見つめ、「物足りないな」と呟いた。
2つくくりのリボンを使って、上手いことルノーはシルヴィの髪を花で飾りつけていく。満足したのか、一つ頷いた。
「誕生日おめでとう」
ルノーの瞳が、ゆるりと優しく細まる。呼応するように、口元もやんわりと弧を描いた。
シルヴィは目を瞬くと、状況を理解して胸が温かくなるのを感じる。とても嬉しい。それが伝わるように、「ありがとう」シルヴィは紅潮する頬をそのままに、ふにゃっと笑った。
シルヴィの瞳にキラキラとした喜色が滲む。瞳からあふれそうだとルノーは馬鹿なことを考えて、しかしそれは何だか勿体ないなと思ってしまった。
「きれい。そう。これが、綺麗」
「ふふっ、うん。お花、綺麗ね」
ふやふやと笑うシルヴィにルノーは、「そうだね」なんて、どこか困ったようにフッと笑った。
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