モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い

雨花 まる

文字の大きさ
19 / 170
ファイエット学園編

06.モブ令嬢と頼み事

しおりを挟む
 大変に満足だ。などと思いながら、シルヴィは雑草が全てなくなった花壇を見下ろした。
 それがこの花壇、思っていたよりも広かったのだ。シルヴィもトリスタンも魔法が使えないので、地道に毎日頑張った結果がこれだ。

「やっと終わった~」
「お疲れ様でした。あとは、肥料などで土を整えて、花を植えれば完璧ですわ」
「んー……」
「どうされましたか?」

 詳細は分からないが、ルノーが簡単に手に入れてきたベンチに腰掛けて、トリスタンは花壇を眺める。何処か物足りなさそうに。シルヴィはそんなトリスタンに、首を傾げた。

「もっと綺麗にしてやりたい」
「はい?」
「花壇。レンガとかさ。ボロボロだろ? 活動費に余裕があるし、一新しないか?」

 どんどんと綺麗になっていく花壇に、トリスタンは何を感じたのだろうか。いつの間にやら、シルヴィよりも本気になっている。
 トリスタンの言葉に、ふむとシルヴィも考えた。実はと言うと、この花壇の使用許可を取ってきたトリスタンは、学園の美化活動の一環だとか教師達を丸め込んで、活動費なんてものまで手に入れていたのだ。流石は侯爵家の人間。抜け目がない。
 そして、その活動費をルノーが更に上乗せさせてきたのだ。どんな手を使ったのか。ルノー曰くこれも公爵家と学園での勉学の成果、とのことだが。シルヴィが詳しく聞かなかったので、トリスタンも口を噤んだ。
 つまり、トリスタンの言う通り、肥料や必要な道具。そして、何より重要な花の苗を買っても活動費は余裕で余るのだ。
 シルヴィはその場に屈むと、花壇に使われているレンガに触れる。確かに、大分と年季が入っているようだ。まだ大丈夫と言えばそうだが、ひび割れて崩れている部分もあった。

「良いと思います。でも、折角なので使えるものはそのままにしませんか?」
「何でだ?」
「これもまた味と言いますか。まぁ、歴史を残すのも大事かと」
「ふーん……。まぁ、それも良いか」

 トリスタンがベンチから腰を上げ、シルヴィの隣に立つ。屈んだままシルヴィは、トリスタンを見上げた。

「それはそうと、フルーレスト卿は?」
「さぁ? どうしたんでしょうね」
「把握してないのか?」
「流石にしてませんよ」

 シルヴィは先程までトリスタンが座っていたベンチに視線を遣る。そこには、いつもならルノーが座っているのだ。本を片手に。
 しかし、何故なのだろうか。今日は一向に現れない。ルノーとて用事の一つや二つあって当たり前なので、シルヴィは特に気にしていなかった。しかし、そんな事を言われるとちょっと気になるではないか。

「んー……。あっ! 昨日、本を読み終わっていたでしょう? ですから、図書館に寄っているのかもしれませんわ」
「なるほどな。でも、それにしたって遅くないか?」
「それは、そうですね。何かあったのかな……」

 シルヴィとトリスタンは、うーん……。と二人して神妙な面持ちになっていく。心配していることは同じだった。まさか、ルノーの番長伝説を知らない一年生が喧嘩など売っていないよな? これ一択。
 そんなまさか。流石にないない。と、シルヴィが首を左右に振る。しかし、それは一瞬にして覆ることになった。

「シルヴィ嬢ーーー!!」
「姉上!! どちらにいらっしゃいますか!? シルヴィ姉上!!」
「わぉ……」

 バタバタと走ってくるのは、ディディエとガーランドだ。この慌てよう。絶対に、ルノーが何かをしたのだ。シルヴィは、そう確信した。
 渋々とシルヴィは立ち上がる。ひとまずは話だけでも聞くことにして、「どうされたんですかーー!」と呼び掛けに答えた。
 シルヴィの声に、二人が顔を明るくさせる。救世主を見つけたかのように。シルヴィはそれに、びくっと体を強張らせた。嫌な予感しかしない。

「今! すぐ! きて!」
「何処にでしょう」
「詳しい説明は移動しながらするから! お願いします! シルヴィさまぁ!」
「僕からもお願い致します。もうどうにもなりません」

 ディディエが大袈裟に顔の前で手を組んで、祈りのポーズをする。ガーランドも何処か疲れた様子でそう言った。

「ルノーくんですか?」
「そう!」
「どうか兄上を止めてください」
「私で役に立てるかどうか……」
「寧ろ、シルヴィ嬢じゃないとダメ!」
「はい。兄上は貴女にしか止められませんので」
「ううーん……」

 シルヴィは思わず眉間に皺を寄せてしまった。ここまで言われては、断る訳にいかないではないか。溜息を吐くと、シルヴィは致し方ないと頷いた。

「ひとまず、行くだけ行ってみます」
「本当に!?」
「良かった……。では、参りましょう」
「トリスタン様、申し訳ありません。急用が入りました」
「みたいだな。まぁ、その、頑張れ」

 成り行きを見守っていたトリスタンは、結局は行くのかと苦笑した。これも、幼馴染み特権とやらなのだろうか。

「これは、とんだ失礼を」
「いや、いやいや、オレなんかにそんな」

 丁寧にガーランドがトリスタンに謝罪をする。トリスタンは恐縮したように、両手を振った。
 不意にディディエが、「トリスタン・ルヴァンス……」と呟く。探るような瞳に、シルヴィは目を瞬いた。どうしたのだろうか。

「ディディエ様?」
「んー?」
「いえ、あの……?」

 シルヴィが声を掛けると、ディディエは先程の顔が嘘のように、コロッと笑った。そうだ。忘れてはいけない。彼が将来、宰相を受け継ぐ男だと言うことを。
 ディディエが何を考えているのかなど、シルヴィに分かる筈もない。不穏な気配はあったが、今はそれよりもルノーの方が重大だ。

「じゃっ、ルノー先輩のとこに行こう!」
「はい。そうしましょう」
「ルヴァンス卿は待機でお願い致します。巻き込まれると死にます」
「死っ!? そ、そうですね。ここで大人しくしておきます」

 ガーランドの物騒な発言に、トリスタンの顔が青くなる。シルヴィは、トリスタンに何とも言えない視線を向けられたが、見なかったことにして二人に続いて走り出した。淑女は走らないとか、そんなことを言っている場合ではなさそうなので。
 ディディエとガーランドに付いていきながら、シルヴィは何があったのかを聞いた。何でも、魔法科の一年生がルノーに喧嘩を売ったらしい。先程の心配が的中したようだ。

「その一年生のかたは、何故そのようなことをなされたのですか?」
「彼はその……。一年生の中でもトップクラスに魔力が高く、魔法の腕も良いと期待されている伯爵家の嫡男でして」
「貴族のかたなんですか!?」
「ははっ、びっくりしちゃうよねー。よく知ってる筈なのに、ルノー先輩に喧嘩売るなんて」

 ディディエが呆れて溜息を吐く。

「魔力を失った兄上になら、勝てると思ったようです。自分は魔法科で期待されている。つまりは、偉いと勘違いした訳です」
「な、なるほど」
「ほんっとーに! 勘弁して欲しいよ。ルノー先輩に勝てるわけないでしょ」
「当たり前な事を言わないでください。兄上は最強ですから」
「出た~。ブラコーン」
「自慢の兄上なので、致し方ないかと」
「はいはい」

 ゲームとこうも違うと不安になるなと、シルヴィは二人のやり取りを眺める。
 ガーランドは勿論、ブラコンキャラではない。もっと言うなら、常に笑顔を浮かべる胡散臭いキャラだった。誰に対しても丁寧な敬語であるのも胡散臭さに拍車をかけていたのだが。
 今はそんなことを感じない。物腰柔らかなお育ちの良い少年といった感じだ。ゲームではヒロインにだけ、そういった一面を見せていた。
 因みに、ゲームでガーランドとディディエが関わるシーンはあるが、そこまで仲が良さそうではなかった。ガーランドに周りは全て敵みたいな部分があったからだ。
 それが、今はどうだ。とんでもなく、仲が良さそうだ。というか、実際に仲が良い。親友と言っても過言ではない間柄だ。
 いや、仲が良いのはいいことではないか。ゲームと現実が違うのは当たり前だ。平和が一番! 問題なし! シルヴィはポジティブにそう結論付けることにして、兎に角ルノーの元へと走ることに専念したのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...