モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い

雨花 まる

文字の大きさ
136 / 170
砂漠の神殿編

10.魔王と大冒険の始まり

しおりを挟む
 魔断石か。その小袋は一見すると麻袋のような見た目なのだが、特殊な素材で作られた魔断石専用のものだ。ならば、中に入っているものはそれしか思い浮かばなかった。
 ユーグはその小袋を開けると、鷲掴むようにして中から大量の首飾りを取り出す。触れた瞬間にユーグの白銀の髪が茶色になったので、ルノーの予想に間違いはなかったらしい。

「何人で行くのかも分かんなかったからな。魔断石の研究班連中から大量に掻っ払ってきた」
「かっ……? なに?」

 そこで貴族を発揮するのかと、ロラもリルも笑顔で固まる。前世の記憶から許可なく取ってきたんだなと分かってしまったからだ。危ない。貴族はそんな言葉遣いはしないのである。

「かっぱ、ら……?」
「掻っ払うな。お貴族様はそんな言葉も知らねー、いや、知らないんですね」
「市井では普通に使うのか?」
「そっ……。そこまでは。許可なく取ってきたって意味ですよ」

 疑問符を飛ばすトリスタンに、イヴォンが意味を説明した。ルノーにもそれが聞こえたらしい。瞬時に、眉間に皺が寄った。

「あの人に煩く言われるよ」
「魔塔主様か? 流石にこれで解雇とかにはなんないだろーし、大丈夫じゃね?」
「手癖が悪い。いや、良いのかな」
「そうだろ? 感謝してくれても良いんだぜ?」

 ニヤリとユーグが悪く笑う。それに釣られて、ルノーもゆったりと楽しげに目を細めた。

「ありがとう。五本でいいよ」
「なるほど? 少数精鋭で行くのか」

 ルノーはユーグから首飾りを受け取ると、直ぐにそれを身に付ける。瞬間、ルノーの髪色が暗い金色へと変わった。

「……ははっ、マジか。普通は俺みたいに暗い茶色になるんだけどな。あっても明るい茶色なんだが?」
「壊れないよね?」
「ついでに耐久テストしてこい」

 ユーグはやれやれと首を軽く左右に振ると、他のメンバーにも首飾りを配った。
 首飾りは魔断石が一つだけ付いたシンプルな作りで、チェーンは魔断石を服の中に隠せるように長めになっている。台座は銀だろうか。

「何でこんなモンつけるんです?」
「ん? あぁ、精霊は人間の魔力がお嫌いなんですよ。詳しくは後で誰かに教えて貰ってくださいな」
「ふーん……?」

 イヴォンはユーグの話に首を傾げたが、リルが迷いなく受け取ってつけていたので、それに倣っておくことにしたらしい。
 ユーグの話の通りに、トリスタンとイヴォンは暗い金色の部分が明るい茶色になり、白銀の部分が焦げ茶色に変化する。
 ロラとリルの髪色は、灰銀になっていた。流石はヒロインである。

「……要改善って感じだな!」
「そうだね」
「なるほどなぁ。白金色相手だと出力が足りないのか? 面白れー。いや、待てよ。この結果を持ち帰れば、説教を有耶無耶に出来るんじゃね?」
「悪知恵ばかり働く」
「世渡り上手と言って欲しいね」

 ユーグがケラケラと軽い調子で笑う。ルノーはユーグのそういう所も気に入っているので、特に咎めるようなことはしなかった。
 仲の良さそうなルノーとユーグに、ガーランドがその顔に嫉妬を滲ませる。それを「ステイステイ」とディディエが止めていた。

「んんっ!? 何か、悪寒が……? まぁ、いいや。大将、アレクシ様ってどこにいるか知ってるか?」
「アレクシ? 何で?」
「実はさー」

 ユーグは魔断石班で首飾りを小袋いっぱいに積めている時の事を話し始める。

「ユーグ! お前は何をしてるんだ!?」
「まぁまぁ、ちょっとだけじゃないですかー。ね?」
「ちょっとの量じゃないな?」
「お前は……。なら、こっちの頼みも聞いて貰おうか?」
「何です? 俺に出来る範囲で頼みますよ?」
「これ、アレクシ様にお届けしてくれ。何でも急に必要になったらしい」

 そこで対魔の剣を渡されたのだ。思ったよりは重くて、抱えると走りにくそうだったので背負ってきたのだった。

「って、ことなんだよ。一人じゃ下ろせないのが難点だな」
「あぁ、何でそんなもの背負ってるのかと思えば。アレクシ」

 ルノーに呼ばれて、アレクシが駆けてくる。アレクシが剣を持ってくれたので、ユーグはガチガチに結ばれた紐をやっとほどくことが出来た。

「確実に筋肉痛になる。というか、既に痛い気がする」
「気がするだけだろ」
「冷たすぎない? 心配して!」
「冷やされて丁度いいよ」
「確かに」

 アレクシは口を挟むタイミングの逃して、オロオロとルノーとユーグのやり取りを眺めている。それに助け舟を出したのは、クラリスであった。

「あの、少々よろしいですか?」
「ん? 勿論ですよ、麗しいご令嬢」

 一変してユーグは、人好きのする快活な笑みを浮かべる。

「あら、お上手ですこと。アレクシ様」
「あ、あぁ。ルノー卿にこれを」
「……? 渡したかったものってこれ?」
「はい、その通りです」

 両手に剣を持ち、まるで献上するようにアレクシはルノーに対魔の剣を差し出す。ルノーは自分のものを後で呼び出すつもりでいたので、手間が省けていいかと素直に受け取った。

「その剣は改良がされております」
「ふぅん、どこを?」
「グリップの部分です。対魔の剣は、魔力持ちが使う想定で作られておりません」
「そうだね」
「鞘には特殊な素材が使われておりますが、ひとたび抜けば持ち主の魔力さえも例外なく弾いてしまう。その点を長らく相談しておりました」
「なるほど。じゃあ、つまりこれは」
「はい。剣に魔力を纏わせることは変わらず不可能ですが、空いた片手で魔法を放つことは可能になっている筈です」

 あぁ、だから最近アレクシは二刀持ちの鍛練をしていたのかとルノーは合点がいく。アレクシはまだ試していないので曖昧な言い方をしたが、確認作業は魔塔で終えているだろう。渡してきたということは、動作に問題はないということ。
 今度は折らないようにしなければ。使い勝手がよければ、戻ってから自分も注文しようかとルノーは対魔の剣を興味深げに観察した。

「え? 待ってくれ。それを片手で振んのか?」
「そうだよ」
「大将も?」
「うん」
「マジかよ。俺がひ弱なのか? 鍛えた方がいい?」
「……? まぁ、そうだね。どんなものでもないよりはあった方がいいよ」
「そういうもんか。逃げ足だったら自信があるんだけどなぁ」

 いったい何から逃げるつもりなんだ。そうは思ったが、口に出した所でユーグは愉快そうにヘラヘラと笑うだけなので止めておいた。

「皆様! 出港の準備が整いました!!」

 船上からニノンがこちらに手を振っている。いよいよかと、その場に緊張が走った。

「まぁ、何だ。大将ならケロッと帰ってくんだろ?」
「誰にものを言ってるの」
「だよなー。……気ぃ付けろよ」

 ただ事ではない空気に、ユーグの声が真剣味を帯びる。それに、軽く手を上げて答えたルノーは、迷いなく見送りに来ていた者達に背を向けた。それに、他のメンバーも続く。

「兄上! どうかご無事で!!」
「トリスタンなら出来るから~!!」
「皆様のご武運をお祈り致します!!」
「お帰りをお待ちしております!」

 聞こえてくる見送りの言葉に、ロラ達は振り向いて返事をしようとした。しかしそれよりも早く、ルノーのフィンガースナップが鳴り全員の体が風で浮かび上がる。気づけば全員が船上にいた。

「相変わらず、凄いな」
「一声かけろよ」
「ははっ……」
「ま~ま~、縄梯子を登るの大変だから~」

 ルノーが船縁に手を付いて下を見下ろしているのに気づいて、全員が隣に並ぶ。ロラが下に向かって手を振った。

「帆を張れー!」
「碇を上げろ!!」

 耳馴染みのない指示が船上を飛び交う。帆が風を受け、優美な姿を見せた。

「出港!!」

 勇ましい船長の声と共に、船がゆったりと海を進み出す。
 どうしてだろうか。

『ある日、“キミ”がいなくなった。』

 そんな唐突な一文から始まる物語を不意に思い出してしまったのは。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...