モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い

雨花 まる

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砂漠の神殿編

11.双子姉妹と聖なる踊り子

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 そうか。確か“ボク”も船に乗っていた。ルノーは遠ざかっていく港をぼんやりと眺めながらそんな事を考えていた。

“大冒険の果てに、ルノーくんが知りたかったことが見つかると良いなぁ”

 いつのことだったか。ふとシルヴィのゆるりと穏やかに弧を描いた黄緑色の瞳が脳裏を掠めて、ルノーは寂しげに目を伏せた。まさか本当にこのような状況になるとは、あの時は想像もしていなかった。

「皆様、よければ船内をご案内致しますが……。いえ、ひとまず暫し休まれますか?」

 シルヴィが誘拐されてからまだ数時間しか経っていない。迅速に動いたため、息をつく暇もなかっただろうというニノンの気遣いであった。
 精霊王と一戦交え負傷までしたルノーが、事も無げな顔をしているので感覚が麻痺しそうだが。ロラもトリスタンも確かな疲労が滲んで見えた。

「ありがと~。私は休憩したいで~す」
「では、女子会といこうか?」

 リルのウインクにゲームの情報が欲しいのだなと察して、ロラは「姉妹水入らずなんて、嬉し~!」と二人きりを強調した返事をする。それに、イヴォンが渋い顔をした。

「そんな悠長な感じで良いんですか?」
「ふむ。しかし、船上で出来ることもないだろう?」
「それは……」
「ご心配なく。我が家には、お抱えの風の魔力持ちがおりますので。風の影響で航海が滞ることはございません」
「どーゆー意味ですか?」

 イヴォンが疑問符を飛ばすのに、ルノーが「帆船は帆で風を受けることによって進む」と視線を港に向けたまま補足説明を始める。

「今は追い風だから、こうして好調に進んでるんだよ。向かい風や凪ではこうはならない」
「その通りです。ですので、風魔法を使って常に追い風状態にするのですよ」
「ふーん。じゃあ、ルノー様がやれば早く着くんじゃないですか?」
「そう簡単な話ではないよ。威力や当てる角度を誤れば、帆船はいとも容易く転覆するからね」
「うげっ!? マジですか……」
「嘘を吐く意味がない。専門の知識や技術が必要な仕事で、操舵手との連携も要求される。僕には向かないよ。加減は得意ではないからね」

 本当なのかと問うような顔をイヴォンがリルに向ける。リルはルノーの言葉を肯定するように頷いてみせた。

「熟練の技術は素晴らしいと聞く。百聞は一見に如かずさ。実際に見てみるといいよ。機会は沢山あるだろうからね」
「……そうします」
「ということで、私とロラは船内でゆっくりさせて貰うよ。積もる話もあるしね」
「うぅっ……。分かりました。ボクは甲板? でしたっけ。見学してます」
「案内は一緒の方が良いもんな。じゃあ、オレはラザハルの話が聞きたいんだけど……。ニノン嬢、誰か詳しい者を紹介願えますか?」

 トリスタンが余所行きの笑みを浮かべる。それにイヴォンが、「ニノン様に頼めばいーんじゃないですか?」と怪訝そうに小首を傾げた。

「婚約者のいるご令嬢と二人きりはダメだからさ」
「はぁ? えぇ、そうなのか。やべぇ。お貴族様のルール厳しい」
「ルールというのか。マナーというのか」
「出たマナー! マリユスさんもよく言うんだよなー、それ」

 イヴォンは平民出身だが今現在、正式な騎士号を賜るため鍛錬の日々を送っている。しかも目指すは王女付き。側に遣えて恥ずかしくない教養も必要なのだ。
 イヴォンは、うげーと嫌そうに顔を顰める。それに、トリスタンもニノンも返事に困って曖昧な笑みを浮かべた。

「お気遣い痛み入ります。では、詳しい者を呼びましょう」
「あはは……。お願いします」

 予定が決まっていないのは、ルノーだけになってしまった。全員の視線がルノーに集まって、ルノーはやっと顔を港から外す。

「僕はもう少し、ここで風に当たっていくよ」
「分かりました。何かありましたら、船員や私にお声掛けください」
「うん……」

 それだけ言って、ルノーは再び顔を港があった方へと向けた。忙しく動き回っていた方が、ルノーにとっては良かったのかもしれない。どこか遠い目をしたルノーに、これは触れない方がいいと判断して皆は静かに解散した。

「さて……。詳しく頼むよ、ロラ」
「勿論よ~。このゲームを知ってるのは、私だけみたいだから」

 用意して貰った紅茶に口を付けて、ロラがほっと息をつく。そのタイミングで、リルがそう切り出した。

「まず、この乙女ゲームの題名は【聖なる踊り子ラーケサ】」
「ラーケサ?」
「そう、踊り子って意味らしいわ~」
「ふむ。ということは、だ」
「うん、ヒロインは踊り子だったの~」

 乙女ゲーム【聖なる踊り子ラーケサ】は、セイヒカの続編ではないが、同じ世界であることが示唆された聖なるシリーズの新作である。
 セイヒカと同じく、その昔、魔界と人間界が戦争をしていたという話から始まる。魔王が人間界を我が物にせんと攻撃をし出した。
 魔物に一番有効な攻撃は光魔法。そのため、光の魔力を多く持つ精霊を召喚できる精霊召喚師達と精霊達が前線に立った。
 魔王の力は凄まじかったが、精霊王に気に入られ唯一召喚することが出来る“聖天女”がその命を掛け魔王を退けた。
 多くの犠牲を出しはしたが、平和な世が訪れたのだ。そして時代は移り変わり、再び平和が脅かされようとしていた……という入りだ。
 舞台は砂漠と黄金の国、ラザハル。商業によって栄えた商家が王家と同等の力を持つ国。砂漠に忽然と現れるオアシスの畔に建つラジャー神殿。
 一座で旅をしながら芸を披露して回っていたヒロインが、そこを訪れたことによって物語は始まる。ヒロインに聖天女の資質が見出だされるのだ。
 一方、魔界では魔王を失い統率が崩れていた。その中で、人間界征服を諦められない魔物達が最後の進攻を始める。襲い来る魔物を攻略対象者と愛を育み、精霊召喚師の腕を研き、協力しながら打ち倒せ!
 これが、ざっくりとした【聖なる踊り子ラーケサ】のあらすじである。

「なるほどなぁ……。して、攻略対象者は?」
「えっとね~。隠しルートの精霊王様を入れて、五人よ~」
「……んん? 精霊王も攻略対象者なのか!?」
「そういえば、リル様には言ってなかったわね~」
「二人の時は呼び捨てで構わないって。姉妹だろう? それに、私は貴女様の護衛騎士ですよ?」
「キラキラが凄い~。キュンです!」

 攻略対象者は、ラザハルの若き国王ムザッファル・ビンディルガーム。二十八歳。豪快で優しい賢王。
 ヒロインの幼馴染みで平民、同じ一座の旅芸人カイス。二十三歳。器用で面倒見のいい悪戯っ子。
 精霊召喚師の権威で、ヒロインの先生を務めるイフラース・バダウィー。二十七歳。普段は穏やかだが、精霊のこととなると知的好奇心旺盛。
 三大商家の中でも最も力のある大富豪ジャアファル・アルアッタール。二十五歳。落ち着きある大人の男だが、刺激的なことが好き。

「そして、隠しルートの精霊王様ね~。冷静沈着、何ならルノー様の方が表情豊かかも? まぁ、ゲームではだけど~」
「その精霊王が何故かシルヴィ嬢を誘拐した、と……」
「そうなのよね~」
「心当たりは?」
「理由に? ないで~す」

 ロラはおっとりとした口調とは裏腹に、心底困ったように眉尻を下げた。ナルジスという名には、心当たりがあるような気はするのだ。喉まで出かかっているのだが、なかなかどうして思い出せない。

「黒幕はなしか。悪役令嬢は?」
「いません。でも、お助けキャラのお姉さんがいるわ~。セクシー担当で国王の側室の一人ジュッラナール・ビンワーフィルよ」
「なる、ほど?」
「ラザハルはハレムが普通だからね~」
「そうか。彼の国は、一夫多妻制だったな」
「因みに、ジャアファル・アルアッタールもハレムを持ってるわ~。そして、ニノン様が正妻」
「それも初耳……。え? 待ってくれ。攻略対象者の筈じゃ」

 そこは普通、正妻になるのはヒロインだ。瞳を真ん丸にしたリルに、ロラも訳が分からないと首を左右に振るだけ。
 しかし、シナリオは魔王が生きている時点で既に崩壊しているも同然。それに加え、精霊王による誘拐事件。ラザハルの困り事。

「ゲームのシナリオは、当てにならないと思っておいた方が良さそうだね」
「完全に同意~」
「しかし、何故続編として出さなかったんだろうか」
「あー……。それはね、年齢制限十五歳以上だからかな~」

 ロラの爆弾発言に、リルは「なん、だと?」と言ったきり固まってしまったのだった。
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