モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い

雨花 まる

文字の大きさ
149 / 170
砂漠の神殿編

23.双子姉妹と圧倒的ヒロイン

しおりを挟む
 これが、本物のラジャー神殿か~。ロラは、神殿を見上げて、感嘆の息を吐き出した。実物の神々しさよ、と。
 あの後、ムザッファルは聖天女への謁見の許可を出してくれた。砂漠のオアシスまでの案内役とラクダも人数分手配してくれ、今現在ラジャー神殿の前まで辿り着いた所である。
 旧神殿へ兵を向かわせたのならば、ムザッファルも行き方を知っているのではないのかとロラは思ったのだが……。相手は精霊王、甘くはなかった。
 誰一人として、旧神殿への行き方を思い出せなくなったそうだ。それに、ムザッファルの言い方からして、向かわせた兵は全員安否不明で帰ってきていないようであった。
 おそらく、もう帰っては来ないのだろう。そういう雰囲気が漂っていた。ムザッファルが言った“化物”という言葉が、急激に現実味を帯びてロラは身震いした。
 精霊王にとって、ナルジス以外の存在など塵芥ということ。バラ園で全員生き残れたのは、ルノーが相手をしてくれたからなのだろう。それと、シルヴィが激しく精霊王を拒絶したのも関係しているかもしれない。

「ようこそ、ラジャー神殿へ」

 王が同行させた使者が、神殿の者へ話を通し終わったようだ。真白な服に身を包んだ女性が、恭しく頭を垂れる。

「どうぞ、こちらへ」

 ラジャー神殿に仕えている者は、全て女性だ。男性は基本、王の許可なく神殿へ足を踏み入れることは叶わない。しかしそれも、決められた一画のみだ。

「この応接間でお待ちください。決して、部屋からは出ないようにお願い致します」
「分かりました」
「お茶をお持ちします」

 ロラの返事を聞き、女性は部屋から出ていった。女性の瞳には、警戒と疑いが混ざっていたがロラは特に触れずに笑顔で受け流す。
 何故なら既に応接間のソファーに腰掛けている男性がいたからだ。お互いに気まずい空気が流れる。それを破ったのは、言わずもがなルノーだ。

「君、なに?」
「ええっと……? 僕はイフラース・バダウィー。聖天女様に精霊召喚の講義をしている者です。君達は?」
「私達は、この国に商売に来たんです~。聖天女様は、異国の物に興味がおありと伺ったので~」
「あぁ、なるほど。しかし、王が許可をお出しになるなんて。余程、珍しい品々を取り扱っているんだね」
「そうなんですよ~」

 柔らかに微笑んだイフラースに、ロラも営業スマイルを浮かべる。
 後ろで三つ編みにされた黒髪。丸い眼鏡越しにこちらを見るアイビーグリーンの瞳は、何の疑念も持っていなかった。完全にこちらを信じている。

「それは、僕も見てみたいなぁ。きっと、聖天女様もお喜びになられるね」
「だと良いのですけれど~」

 ホワホワとした空気を纏うイフラースに、毒気が抜かれたのか。ルノーは軽く息を吐くと、空いているソファーに腰掛けた。

「あっ! 私はロラです。こっちが、兄のルノーで。護衛のリルと侍女のイヴ。兄の従者のトリスタン。よろしくお願いしますね~」
「うん。よろしくね」

 イフラースということは、攻略対象者の一人か。リルは護衛らしくロラの後ろに控えながらイフラースを観察した。確かに顔が良い。
 ふと、イフラースの右手の薬指に純金製の指輪が光っているのが目に入り、ロラは思わず「結婚してる!?」と声に出してしまった。

「ご、ごめんなさい。不躾でしたね~」
「いや、大丈夫だよ」
「えっと~……。聖天女様と?」
「まさか!? そんな恐れ多いよ。許嫁の彼女とつい先日ね」
「あぁ~そうなんですね! それは、おめでとうございます」
「ふふっ、ありがとう」

 ロラは内心混乱しまくりながらも、何とか笑顔でお祝いの言葉を口にした。そして、イフラースには許嫁がいた設定だったことを思い出す。
 アティーヤという二つ年下の彼女は、ゲーム内では既に亡くなっていた。二年前、魔王復活を目論み動きが活発になった魔物達に……。と、イフラースが涙ながらに語るのだ。
 どうやら、ルノーがランに圧を掛けた成果がここにも出ているらしい。多くの魔物達がいい子に徹したために、アティーヤとイフラースはハッピーエンドを迎えたようだ。

「失礼致します」

 先程の女性がお茶を持って、応接間へと戻ってきた。それに、イフラースは困ったように声を掛ける。

「聖天女様の準備はまだ整わないのかい? 講義の時間は過ぎているのだけれど……」
「も、申し訳ありません。その……。実はお部屋にお姿が見えず、総出で探しているのですが」
「ううん……。またかぁ」
「元々、聖天女様は旅の踊り子をされておりました。まだ、自由な生活の感覚が抜けておらず」
「息抜きも大事だからね。もう暫くは、待とうかな」
「直ぐに見つけますので!」

 イフラースと女性の会話が聞こえて、ルノーが不機嫌そうに眉根を寄せた。これは不味いと、ロラは勢いよく挙手する。

「はい! 私達も一緒に探します!」
「え? いえ、そのようなこと」
「女性であれば、ある程度は自由に神殿内を歩けると聞きました。ロラ様と私、そしてイヴの三人。人手は大いに越したことはないでしょう?」

 女性は渋るように黙ったが、王からの命が「可及的速やかに」であったために頷くしかなかったようだ。

「あまり奥へは行かないで下さいませ」
「分かりました。じゃ~、行きましょうか」
「畏まりました」

 ロラの後に続いたリルに、一拍遅れてイヴォンも歩き出す。リルにこっそりと「私も良いのですか?」と話し掛けた。

「離れて良いのか?」
「良くありません」
「そうだろう?」

 そのための、侍女役だ。イヴォンは可愛く見えるように表情を作り、「お役に立てるように頑張りますね!」と両拳を握る。ロラは思った。女子力高い! と。
 どさくさ紛れに女性を撒き、三人になったのを確認するとリルはロラに「居場所に心当たりが?」と聞いた。

「あるわ~」
「え!? あるんですか!?」
「流石はロラだね」
「ふっふっふっ! ま~ね~。ただ、問題が一つ!」

 立てた人差し指を前に突き出したロラに、リルとイヴォンが揃って「問題?」と首を傾げる。

「そこは、とあるルートの逢瀬部屋!」
「ふむ、なるほど。盛り上がっていたら確かに大問題だな」
「もりあが……はぁ!? それって、いや、はぁ!?」

 お年頃の男子には刺激が強かったのか真っ赤になって固まったイヴォンに、ロラもリルも可愛いものを見る目を向けた。

「匂わせ描写があるのならなぁ」
「まぁ、可能性は大いにあるわ~」

 どうしようかという空気に一瞬なったが、こちらの時間がないのも事実。

「致し方ないな。扉を開けた後に考えよう!」
「それしかないわよね~」
「うぇえ!? マジですか。そっ、大丈夫なんですか……」
「イヴは目を閉じていなさい」
「護衛の意味ない……」

 葛藤するように頭を抱えたイヴォンの心の準備が整う前に、部屋の前に到着してしまった。中から人の気配がして、ロラとリルは顔を見合わせる。

「んっ、だめ……」
「もう少し……」

 リルは、扉の取手に手を掛ける寸前で止まる。中の二人がとっても盛り上がっている気配を察知したからだ。

「くっ、ええい!! たのもーー!!」

 豪快に扉を開け放ったリルに、イヴォンは思わず目元を両手で覆うように隠す。

「きゃっ!?」
「うわぁあ!? なに!?」

 密やかに部屋の隅で抱き締め合う男女は、口付けをしていただけのようだ。

「ごめんなさいね~」
「邪魔をしたくはなかったんだが、急ぎの用事でな」

 短髪の暗い灰銀の髪と燃えるような赤い瞳。警戒するようにこちらを睨み付ける男は、間違いなく幼馴染みのカイスだ。
 そのカイスに守られるように抱き締められている女性は、漆黒の髪に透けるような翠色の瞳をしている。羞恥で顔が林檎のように真っ赤に染まっていた。更にじわじわと瞳に涙が溜まっていく。

「因みに、講義の時間も過ぎちゃってるみたいよ~」
「えぇ!? た、大変だわ!! もう! だから駄目って言ったのに!!」
「ご、ごめん!」
「うぅ……。でも、拒否できなかった私も悪いから」

 女性は反省したように、しょんぼりと肩を落とした。しかし直ぐに、ハッとしたように顔を上げる。

「お客様の前でする話ではなかったですね」
「というか、これってもしかしなくてもヤバいやつッスよね?」
「あっ……」

 どう考えても不法侵入なカイスに、女性がアワアワと慌て出す。カイスはへらっと誤魔化すように笑むと、一目散に窓から逃げていった。

「いい動きだな」
「あの! カイスのこと、秘密にして貰えませんか?」

 女性が「お願いします」と、上目遣いに見上げてくる。そこには、ゲーム通りの私達の可愛いヒロインが存在していた。

「あ、圧倒的ヒロインりょく!!」
「これが真のヒロイン足るちから!!」

 前作のヒロイン達は、圧倒的ヒロインりょくを前に、膝を付いたのだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...