モブ令嬢に魔王ルートは荷が重い

雨花 まる

文字の大きさ
150 / 170
砂漠の神殿編

24.双子姉妹と大人なお姉様

しおりを挟む
 これは、どっちなのかしら~。ロラとリルは、転生者なのかそうではないのか。注意深くヒロインを観察していた。
 今現在、何でもない世間話をしながら四人で応接間に向かっている。見れば見るほどに、彼女の仕草も喋り方も思考回路もヒロインでしかなかった。
 演技力ではカバー出来ない正真正銘の善性の光とでも言えばいいのか。それを浴び続けたロラとリルのライフはギリギリになっている。そろそろ浄化されて溶けてなくなりそうだ。

「すごっ、凄いわ~」
「友達にいないタイプで戸惑ってしまう」
「何を言っても笑顔で楽しそうに聞いてくれる……っ!!」
「天使の羽が見える」

 彼女がイヴォンに話し掛けているタイミングで、ロラとリルがひそひそと早口で会話する。二人の感想としてはただひたすらに、ええ子やねぇであった。
 しかしどうやら、イヴォンは違うようだ。オッドアイの瞳に浮かんでいるのは、あからさまな警戒であった。裏を探るようなイヴォンのそれに、気付いているのかいないのか。彼女は気にした様子は見せなかった。

「もうすぐで応接間ね~」
「そうですね」

 ロラが然り気無く助け船を出すと、イヴォンはどこかほっとした顔をする。そのまま流れるように、後ろを歩くリルの隣に並んだ。

「気を付けて下さい、リルさん」
「ん? 何に?」
「あの女、絶対何か裏がありますよ。ニコニコしてっけど、腹の中は真っ黒とか」
「いや……。ないと思うぞ?」
「ありますよ! 本性を暴いてやる」

 ガルルッと威嚇する小型犬がイヴォンの背後に見えるようであった。それに、リルはどうしてこうなったと現実逃避するように遠くを見る。
 ゲームのイヴォンは、ヒロインの優しさに癒されて丸くなっていた記憶がリルにはあった。いや、最初は今のように警戒はしていただろうか。まるで、野良猫のように。

「リルさんのことは、私がぜっっったいに! 守りますからね!!」

 小声ながらも語気を強めたイヴォンの尻尾が、ブンブンと揺れている。そこでリルは、ハッと我に返った。落ち着け、私。犬の尻尾などイヴォンには生えていないぞ、と。

「すまない。私が理想のヒロインではないばかりに」
「……はい?」

 普通に“そうか。頼りにしているよ”と、リルは返事したつもりだった。しかし、考えていることと口にした言葉が逆になってしまったようだ。

「到着~!」

 ベストタイミングで応接間に辿り着いたために、リルは笑顔で有耶無耶にしておいた。疑問符を沢山飛ばすイヴォンを置き去りに、ロラは一応はノックの後に扉を開ける。
 応接間のメンバーの中に、見慣れない女性が増えていた。それに、リルとイヴォンは警戒したが、ロラが「わ~っ!」と推しに出会したような声を出したために、リルだけ色々と察した顔をする。
 女性の美しい金色の髪が、さらりと揺れる。褐色の肌を純金の宝飾品が飾っていた。しかし、決して派手ではなく、寧ろ品がよく見える。

「ジュッラナール様!」
「あら、ターラ。悪い子」
「うっ! ごめんなさい……」
「ふふっ、謝る相手は私ではなくってよ」
「え? あっ! イフラース先生、遅くなって申し訳ありませんでした!」
「心配してしまったよ。いったい何処で道草を食べていたのかな?」
「ええと……」
「駄目よ、先生。乙女の秘密を暴くおつもり?」
「え!? いや、そんなつもりじゃなかったんだけれど……」

 イフラースは困ったように眉尻を下げる。それに、ジュッラナールと呼ばれた女性は美しい顔に微笑を浮かべた。

「あらあら、大変。先生の講義のお時間は終わってしまったわ」
「えぇ!? もうそんな時間だったんですか!? うぅ……っ! 本当にごめんなさい!」
「え? いや、まだ半分はある筈で」
「今日は予定が変更になったのだけれど……。お聞きになっていないのね」
「そう、なの??」
「ほらほら、愛しい奥様が家でお待ちでしょう? 帰りにお土産を買って早めに帰ってさしあげてくださいな」
「お土産?」
「喜ばれますよ」
「う~ん……。うん、そうだね。そうするよ。では聖天女様、また明日の講義で」
「はい! また明日、お願いします!」

 ジュッラナールの手腕によって、イフラースが応接間から退場させられる。その鮮やかさに、ルノーが感心したような視線を向けた。

「さて、改めまして皆様。わたくしは侯爵家の長女、ジュッラナール・ビンワーフィルと申します。王様の使者より話は聞いております。お力になるようにとのことですので、何なりとお申し付けくださいませ」
「え? え?」
「ターラ、貴女もご挨拶を。因みに、そちらの方は王女殿下ですよ」
「……えぇ!?」

 言葉の意味を理解出来なかったかのような間のあとヒロイン、ターラは目を丸めながら素っ頓狂な声を上げた。
 目が合って、リルは肯定するように笑む。それに、ターラはオロオロと狼狽した。

「ほら、教えたマナー通りにしてごらんなさい」
「は、はい! ええと……」

 手順でも思い出しているのか、ターラは暫し考え込むように黙る。そして、意を決したように顔を上げた。

「お初にお目にかかります。私は、ターラと申します。よろしくお願い致します」

 丁寧な、そして、少しの不馴れが見える。そんな挨拶であった。真面目で健気で可愛い。そんな印象を受ける仕草が完璧である。
 現に、トリスタンは好印象を受けたようだ。イヴォンは相変わらず、訝しむようにターラを見ているが。そして、ルノーはというと感情の読めない顔で、ターラを観察しているようであった。
 その視線に気付いたのか、ターラの翠色の瞳がルノーを捉える。目が合って、ターラは照れたような困ったような顔をした。
 しかし、ルノーは微塵も表情を変えることなく「ふぅん」と、興味が無くなったかのように溢しただけ。流石は初対面で、“殿下の趣味は変わっていますね”と言い放った男である。
 ロラは、マ~ジでこの人シルヴィ様以外に興味ないなと思った。男女関係なく全員芋か何かに見えてる気がする。いや、認識さえされれば一応は芋から脱却は出来るか、多分。

「あら? 少々、失礼致します」

 ジュッラナールは何かに気付いたようにそう言うと、さっと皆とターラの間に立った。ターラの頬に手を滑らせ「本当に悪い子ね」と苦笑する。

「口紅がよれているわ」
「え!?」
「油断も隙もない」
「ジュッラナール様、あの、これは……」
「仕方がないわね。今回は見逃してあげるわ」
「申し訳ありません!」

 ジュッラナールがハンカチを使って、ささっと応急処置でターラの口紅を整えた。ターラはされるがままで、目を瞑っている。

「ふむ。百合ルートが?」
「ないわ~。二次創作では量産されてたけど~」
「だろうな」

 誰にも聞かれないように、ロラとリルもささっと小声で会話した。

「失礼致しました」
「神殿にネズミが入るとは、大丈夫なので?」
「本当に、何処から入ってくるのでしょう。困ったものですわ」

 ターラがルノーとジュッラナールのやり取りに、オロオロとする。分かりやすく“どうしよう”と、顔に書いてあった。

「ですけれど、此度はお互い様と言うことで口を噤んで頂けますわよね?」
「あぁ、なるほど。では、そうしよう」

 ルノーが然も面白いと言いたげに、口角を上げる。おそらくジュッラナールのことは、個人として認識したのではなかろうか。

「護衛が王女殿下から離れる訳にはまいりませんもの、ね?」

 ジュッラナールの視線がイヴォンへと向く。ゆるりと弧を描いた瞳に射抜かれ、イヴォンが顔色を悪くした。咄嗟に、イヴォンの前へとリルが出る。

「無作法をわびよう」
「その必要はないよ」
「そうですわ。お互い様ですもの。そうでしょう?」

 こてり、首を傾げてみせたジュッラナールに、リルは気圧された。なんと言うか強い、と。

「強い!!」
「口から出ちゃってるから~」
「はっ! すまない、思わず……。気を悪くしただろうか」
「ふふっ、いいえ。王様と気が合う筈ですわね」

 優雅にコロコロと笑うジュッラナールに、リルはバツが悪そうに頬を掻いた。完全にジュッラナールのペースに飲まれている。

「此方の挨拶は必要? それとも、本題に入ってもいいのかな?」

 ルノーの悠然とした声に、ジュッラナールは余裕そうだった表情を崩す。「ターラは何も教えられておりませんので、よろしければ」と、少々困ったように笑んだ。
 ルノーのペースを乱すのは、至難の技だろう。ルノーはただ「そう」とだけ言うと、早く済ませろと言いたげにリルへ視線を遣った。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

オマケなのに溺愛されてます

浅葱
恋愛
聖女召喚に巻き込まれ、異世界トリップしてしまった平凡OLが 異世界にて一目惚れされたり、溺愛されるお話

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

前世では美人が原因で傾国の悪役令嬢と断罪された私、今世では喪女を目指します!

鳥柄ささみ
恋愛
美人になんて、生まれたくなかった……! 前世で絶世の美女として生まれ、その見た目で国王に好かれてしまったのが運の尽き。 正妃に嫌われ、私は国を傾けた悪女とレッテルを貼られて処刑されてしまった。 そして、気づけば違う世界に転生! けれど、なんとこの世界でも私は絶世の美女として生まれてしまったのだ! 私は前世の経験を生かし、今世こそは目立たず、人目にもつかない喪女になろうと引きこもり生活をして平穏な人生を手に入れようと試みていたのだが、なぜか世界有数の魔法学校で陽キャがいっぱいいるはずのNMA(ノーマ)から招待状が来て……? 前世の教訓から喪女生活を目指していたはずの主人公クラリスが、トラウマを抱えながらも奮闘し、四苦八苦しながら魔法学園で成長する異世界恋愛ファンタジー! ※第15回恋愛大賞にエントリーしてます! 開催中はポチッと投票してもらえると嬉しいです! よろしくお願いします!!

処理中です...