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行き止まりの未来
破砕の日
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やった! ついに念願の休暇を勝ち取ったぞ!
休みが明けたら、当分の間は〝土日返上〟だけど。
「……はぁ。というか、正月ぐらいは休んでもバチは当たらないだろ」
部長は僕に、正月休みを差し出した。
なんと要望書通り、前後3日ずつが付いて、丸々一週間のロングバージョンだ。書いてみるもんだなあ、休暇願い!
「有難うございます、部長!」
「ぐぬぬ……き、君も、なかなかの交渉上手だねぇ」
ふっふっふ。年末年始の休みか。
何をしようか悩んじゃうな!
>>>
僕は暗闇の中にいる。
おいおい。またあの夢かよ。
「って、あれ? 何だか、いつもより暗いような……」
『おっと、すまないタツヤ。暗くて見えないね』
周囲が、ボゥっと青く照らされる。
「ああ、ありがと……っていうか誰?!」
ここはいつもの夢のように、会社の入り口……ではない。
周囲全てが、苔むした岩肌。
……見たこともない風景。
『さあ、いつもの夢が始まるよ』
「いや、違うだろ? いつもの夢はこんな……うわわっ!」
『まずは地震だ』
それは大きな地響きと共に始まる。
でも、いつもと違って、ここにはビルも無ければ人もいない。
そして降ってきたのは割れたガラスじゃなくて……何だ?
「あれ……は……!」
見上げた先。
僕の頭上には大きな岩が迫っていた。幻想的な青い光に照らされ、巨岩はもう目と鼻の先。
「うわああっ?!」
……そして突然の暗転。僕の耳元で囁かれる言葉は、やはりこうだ。
『タツヤ、時間がない。早く帰って来るんだ』
>>>
12月28日。
恨めしそうに、書類の山の向こうから僕を睨んでいる先輩を横目に、会社を出た。
相変わらず、同じ夢をよく見る。内容は変われど、おかげで寝不足に変わりはない。
が! 今日から少しの間、仕事とはオサラバだ!
『時間がない。早く帰って来るんだ』
という、あの夢のせいではないが、今回の休みは帰省することにした。
実家には、就職してからほとんど帰れていなかったし、たまには親孝行もしなくちゃね。
さて。里帰りの荷物といっても土産と着換えだけだ。寮に帰るのも面倒だったので、朝からロッカーに押し込んであったのだが。
「折角の東京名物が、ペシャンコになっちゃったな」
……まあいいか。味はバナナのままだろう。
最寄りの駅から、南に向かう電車に飛び乗り、僕はそのまま、東京を後にした。
>>>
僕の故郷は、神奈川県の郊外にある自然の多い町。コンビニが2軒、信号機は5個もあるので、都会といえばそうかもしれないし、結構な山とか林もあるので、田舎なのかもしれない。
実家に帰ると、両親と、燻り歴2年ほどの妹が迎えてくれた。
「燻りとか言うな!」
直後に殴られた。
痛てて。兄を何だと思ってるんだ、まったく。
「……で、達也。あなた大晦日はどうするの?」
寝ぼけ眼で朝食を食べる僕に、母さんが尋ねる。
やっぱ実家のメシは美味い!
それと、帰郷後に例の夢は見ていない。やっぱりストレスだったんだな。
「…………へぇ。パーティ?」
父さんと母さんは、地元の友人と年越しパーティだってさ。
あれ、妹は?
「あの子、念願のチケットが当たったのよ」
妹は、某アイドルユニットの年越しライブイベントに行くらしい。
あいつ、まだファンだったのか? 確か、そのアイドル、父さんに近い年齢じゃなかったっけ。
「ん? という事は僕、独りぼっちで年越し?」
それは寂しいぞ。
よし、折角だから友達に声を掛けてみよう。
「……となると、やっぱあの場所だよな、うん」
自宅の近くにある山は、頂上から見る日の出が、なかなかの絶景なんだ。
早速、地元の友人たちを誘ってみた。
『おー、久し振り! 悪りーな。今年は帰れなくってよー』
……マジか。まさかの全滅だ。
まあ、携帯番号を知っているのは、ほんの数人だったけど。
残念だ。非常に残念だ。
「ええい! こうなりゃ意地だ。僕だけでも登るぞ!」
>>>
……という事で、大晦日。
僕は、まだ暗い内からLEDライトを片手に出かけた。近所のコンビニで買ったビールと、妹の〝取って置き〟であろう、冷蔵庫、上から2段目、左奥にあったチーズかまぼこを持って。
子どもの頃は、この山でよく遊んだものだ。
「特に、ここ! 懐かしいな……」
その〝思い出の洞窟〟は、山の中腹、少し道外れの目立たない所にあった。
友人たちと秘密基地ごっこをした洞窟。
おもむろにビールのフタを開け、一口飲む。
「みやげ話には、なる……かな?」
こみ上げて来る懐かしさと不思議な高揚感が、僕の背中を押した。
広いと思っていた洞窟の入り口は、少し屈まないと頭をぶつけそうだ。
あの頃は怖くて奥まで行けなかったけど、もうオトナだし、ちょっとアルコールも入ってるし、新兵器の超絶なライトもある。
「よーし! 今日は、日の出より洞窟探検だ!」
と、腰を屈めて突入。奥へ奥へと進む。
……へぇ。この洞窟、こんなに奥まで続いてたんだ。
「モグモグ。しかしこりゃ、子どもが入ったりしたら危ないぞ?」
チーズかまぼこを囓りながら、どんどん進む。
「えっ?!」
超絶ライトが、クルクルと回転しながら、どこかへすっ飛んで行った。
僕までクルクル回っているのは、突然〝地面〟が無くなったからだ。
「うわあああぁぁぁぁ…………」
アタマ・ヒジ・シリ・ヒザ・背中などをランダムにぶつけながら、僕の意識は途切れる。
>>>
気が付くと、暗くて静かな場所に、横たわっていた。
水の流れる音が聞こえるが、暗くて何も見えない。
そして、冷たい空気が辺りを満たしている。
「……そうか。縦穴に落ちたんだ」
幸い、痛みは感じない。僕はゆっくりとヒザをついた。
「あ、あれ?」
右の手のひらに強い痺れを感じて、力が入らない。
「何だよ。正月でも、バチは当たるのか」
悪態をつきながら、痺れていない左手でポケットを探る。スマートフォンが無事だと良いんだけど。
お、ラッキー! ライトがついたぞ。
「何だ、ここは?!」
そこそこ広い空間だ。岩肌や地面に苔がびっしり生えていて、岩の隙間から水が溢れている。
真上にライトを向けるが……よく見えないな。
「でも、なんだか見覚えがあるような?」
今度は、右手を確認しようとライトを向けた。
……ここで、先程からの右手の痺れの原因が判明する。
「ええっ?! うわぁぁぁっ!」
同時に、情けない声をあげてしまった。
ガラスか水晶のような青い塊が、僕の右手に突き刺さっている。
「……突き刺さっている!!」
細長い、20センチほどの青い石が、掌のド真ん中を手の甲まで貫通している。
「待て、ちょっ! ヤバいヤバいヤバい!!」
〝痺れ〟だと思ってたけど、痛みで感覚が飛んじゃってる状態だったのか!?
ダメだこれ! 意識が向くと痛むパターンだろ!
ほら! 痛た、痛たた? 痛たたた……!
「……くない?」
あ、れ? 痛くない……痺れも、無くなってしまった。
そういえば、これだけ見事に突き刺さっているのに、血も出ていない?
恐る恐る、石に触れてみる。
「硬い……」
石というより、ガラスに触ったような感触だ。
『ようこそ』
「……え?」
誰か居る?! スマホのライトでもう一度、周囲を照らしてみた。が、誰もいない。
「空耳か」
光を右手に戻した瞬間。
『随分待ったよ。タツヤ。遅かったね』
「はいっ?!」
ありえない所から声が聞こえた。
『本来なら、キミが小学生の頃に会える筈だったのだが』
右手の青い塊から声が響く。
「ええ?!」
石はボウっと青く光り、声は間違いなくそこから聞こえる……石が喋っている!
『そうか。キミは大人になってしまったから、先入観が邪魔してしまうかも知れないね。だが、どうか落ち着いて聞いて欲しい』
青い石は、呆然としている僕を放っておいて、流暢に語り始めた。
『私は、この星の意思と力の化身。地球そのものであり、地球とキミをつなぐ、端末でもある』
意思? 地球? 端末?
『これからキミは私と同化して、この星と一つになる』
いやいやいや、待って! ちょっと情報が多過ぎて……
『キミは選ばれた……が、遅かった。もうすぐ、この星は終わる』
……はい? 星が終わるって?
「あの、えっと! 僕のせいで星が終わるって、どういう……」
『いや、君のせい、という事ではない。それに、もうすぐこの星は終わるが、まだ間に合わせる方法がある』
間に合ったのか、間に合わなかったのか、どっちなんだ?
分からない事が多すぎて、色々と頭に入ってこない。
『今からキミを〝本来私と出会うはずだった時間〟に戻す。私の力は一度だけそれを可能にする』
「戻す……僕を? 何を言って……」
『キミの知識と体力はそのまま残して、15年前に、時間を巻き戻す。当然キミは15歳分若返る。簡単なのだが、2度は出来ない』
「ちょっと、何だよそれ、急に!」
……えっと15年前って僕は何歳だ?
待って! まだ心の準備が。
『悪いが、もう時間も選択肢も無い。私も一緒なので時間を戻してから説明しよう』
〝地球の意思〟は、かなりせっかちな感じで話を進める。
そしてその理由はすぐにわかった。
突然の、縦揺れ! いや、横揺れ?!
凄まじい轟音が響く。
信じられない程の大きな地震だ!
……あれ? この揺れ、知ってるぞ?!
『始まったな。これがこの星の最期だ』
右手の青く光る石は、軽い口調で恐ろしい事をサラッと言う。
やっぱりそうだ! この場所は、夢で見たあの洞窟?!
『同時に、私の最期でもある。これをどうにかしてもらうために、キミが選ばれた……あと22分で、星は消える。急ごう』
なんて事だ。まさか現実にあんな事が起きるなんて!
……あれ? 何か忘れているような?
『うん、そうだね。今、キミの頭上に、大きめの岩が迫っている。直撃コースだ』
「えっ?」
見上げると、目と鼻の先に、凄まじい速さで落ちてくる、大きな岩が見えた。そうだ、思い出した!
『大丈夫。キミはもう、死なない』
パーン! という音と共に、大きな岩は粉々に砕け散る。
「うわああああっ?!」
痛あああぁぁあっ! 死んだ! パーンって死んだぁあああ! 痛くて死んだ! 死んだ……死……あれ?
「痛く、ない。し……死んでない?」
なんで? なんで何とも無いんだよ!!
『タツヤ、まだ始まったばかりだが、今のキミは私、つまり〝地球〟と徐々に融合、同化中だ。この時点で、キミは〝不老〟と〝星の強度〟を身につけた。老いる事も無いし、地球が壊れるほどのダメージを受けなければ、キミもダメージを受けない』
「……もしかして、不老不死ってこと?」
『そうだ。そしてもうすぐ、キミは11歳に巻き戻る。体は小学5年生だが、身体能力と、知識や思考能力は大人のままで』
11歳。小学生か。そういえば昔、友達と、親に内緒でこの洞窟に来て、新年をコーラで祝う会をやったような気が……
『ではいくよ。心を落ち着かせて。そう、キミはあの頃の自分の姿に変わるだけだ』
地震が徐々に治まり、轟音も遠のいていく。
周囲が一段と明るくなった。光源は僕の右手。もはや青ではなく白に近い光だ。
「こ、この光は……? うわあ! まっ! 眩しい!!」
目を開けていられないくらいに、光が強くなった。
「うわああああ!! 冷たい! 足先が……冷たい!」
……と同時に、つま先が冷水に浸けられたように冷たくなって来たぞ?
「これが……僕の変化?!」
『違う。キミは先程、落下する岩に怯んで、水たまりの中に足を突っ込んでいる』
先に言ってよ! 巻き戻り関係ないじゃないか!
『あ。巻き戻せた』
ええっ! もう終わったの?! このタイミングで?!
せっかくの荘厳な感じが台無しだよ!!
休みが明けたら、当分の間は〝土日返上〟だけど。
「……はぁ。というか、正月ぐらいは休んでもバチは当たらないだろ」
部長は僕に、正月休みを差し出した。
なんと要望書通り、前後3日ずつが付いて、丸々一週間のロングバージョンだ。書いてみるもんだなあ、休暇願い!
「有難うございます、部長!」
「ぐぬぬ……き、君も、なかなかの交渉上手だねぇ」
ふっふっふ。年末年始の休みか。
何をしようか悩んじゃうな!
>>>
僕は暗闇の中にいる。
おいおい。またあの夢かよ。
「って、あれ? 何だか、いつもより暗いような……」
『おっと、すまないタツヤ。暗くて見えないね』
周囲が、ボゥっと青く照らされる。
「ああ、ありがと……っていうか誰?!」
ここはいつもの夢のように、会社の入り口……ではない。
周囲全てが、苔むした岩肌。
……見たこともない風景。
『さあ、いつもの夢が始まるよ』
「いや、違うだろ? いつもの夢はこんな……うわわっ!」
『まずは地震だ』
それは大きな地響きと共に始まる。
でも、いつもと違って、ここにはビルも無ければ人もいない。
そして降ってきたのは割れたガラスじゃなくて……何だ?
「あれ……は……!」
見上げた先。
僕の頭上には大きな岩が迫っていた。幻想的な青い光に照らされ、巨岩はもう目と鼻の先。
「うわああっ?!」
……そして突然の暗転。僕の耳元で囁かれる言葉は、やはりこうだ。
『タツヤ、時間がない。早く帰って来るんだ』
>>>
12月28日。
恨めしそうに、書類の山の向こうから僕を睨んでいる先輩を横目に、会社を出た。
相変わらず、同じ夢をよく見る。内容は変われど、おかげで寝不足に変わりはない。
が! 今日から少しの間、仕事とはオサラバだ!
『時間がない。早く帰って来るんだ』
という、あの夢のせいではないが、今回の休みは帰省することにした。
実家には、就職してからほとんど帰れていなかったし、たまには親孝行もしなくちゃね。
さて。里帰りの荷物といっても土産と着換えだけだ。寮に帰るのも面倒だったので、朝からロッカーに押し込んであったのだが。
「折角の東京名物が、ペシャンコになっちゃったな」
……まあいいか。味はバナナのままだろう。
最寄りの駅から、南に向かう電車に飛び乗り、僕はそのまま、東京を後にした。
>>>
僕の故郷は、神奈川県の郊外にある自然の多い町。コンビニが2軒、信号機は5個もあるので、都会といえばそうかもしれないし、結構な山とか林もあるので、田舎なのかもしれない。
実家に帰ると、両親と、燻り歴2年ほどの妹が迎えてくれた。
「燻りとか言うな!」
直後に殴られた。
痛てて。兄を何だと思ってるんだ、まったく。
「……で、達也。あなた大晦日はどうするの?」
寝ぼけ眼で朝食を食べる僕に、母さんが尋ねる。
やっぱ実家のメシは美味い!
それと、帰郷後に例の夢は見ていない。やっぱりストレスだったんだな。
「…………へぇ。パーティ?」
父さんと母さんは、地元の友人と年越しパーティだってさ。
あれ、妹は?
「あの子、念願のチケットが当たったのよ」
妹は、某アイドルユニットの年越しライブイベントに行くらしい。
あいつ、まだファンだったのか? 確か、そのアイドル、父さんに近い年齢じゃなかったっけ。
「ん? という事は僕、独りぼっちで年越し?」
それは寂しいぞ。
よし、折角だから友達に声を掛けてみよう。
「……となると、やっぱあの場所だよな、うん」
自宅の近くにある山は、頂上から見る日の出が、なかなかの絶景なんだ。
早速、地元の友人たちを誘ってみた。
『おー、久し振り! 悪りーな。今年は帰れなくってよー』
……マジか。まさかの全滅だ。
まあ、携帯番号を知っているのは、ほんの数人だったけど。
残念だ。非常に残念だ。
「ええい! こうなりゃ意地だ。僕だけでも登るぞ!」
>>>
……という事で、大晦日。
僕は、まだ暗い内からLEDライトを片手に出かけた。近所のコンビニで買ったビールと、妹の〝取って置き〟であろう、冷蔵庫、上から2段目、左奥にあったチーズかまぼこを持って。
子どもの頃は、この山でよく遊んだものだ。
「特に、ここ! 懐かしいな……」
その〝思い出の洞窟〟は、山の中腹、少し道外れの目立たない所にあった。
友人たちと秘密基地ごっこをした洞窟。
おもむろにビールのフタを開け、一口飲む。
「みやげ話には、なる……かな?」
こみ上げて来る懐かしさと不思議な高揚感が、僕の背中を押した。
広いと思っていた洞窟の入り口は、少し屈まないと頭をぶつけそうだ。
あの頃は怖くて奥まで行けなかったけど、もうオトナだし、ちょっとアルコールも入ってるし、新兵器の超絶なライトもある。
「よーし! 今日は、日の出より洞窟探検だ!」
と、腰を屈めて突入。奥へ奥へと進む。
……へぇ。この洞窟、こんなに奥まで続いてたんだ。
「モグモグ。しかしこりゃ、子どもが入ったりしたら危ないぞ?」
チーズかまぼこを囓りながら、どんどん進む。
「えっ?!」
超絶ライトが、クルクルと回転しながら、どこかへすっ飛んで行った。
僕までクルクル回っているのは、突然〝地面〟が無くなったからだ。
「うわあああぁぁぁぁ…………」
アタマ・ヒジ・シリ・ヒザ・背中などをランダムにぶつけながら、僕の意識は途切れる。
>>>
気が付くと、暗くて静かな場所に、横たわっていた。
水の流れる音が聞こえるが、暗くて何も見えない。
そして、冷たい空気が辺りを満たしている。
「……そうか。縦穴に落ちたんだ」
幸い、痛みは感じない。僕はゆっくりとヒザをついた。
「あ、あれ?」
右の手のひらに強い痺れを感じて、力が入らない。
「何だよ。正月でも、バチは当たるのか」
悪態をつきながら、痺れていない左手でポケットを探る。スマートフォンが無事だと良いんだけど。
お、ラッキー! ライトがついたぞ。
「何だ、ここは?!」
そこそこ広い空間だ。岩肌や地面に苔がびっしり生えていて、岩の隙間から水が溢れている。
真上にライトを向けるが……よく見えないな。
「でも、なんだか見覚えがあるような?」
今度は、右手を確認しようとライトを向けた。
……ここで、先程からの右手の痺れの原因が判明する。
「ええっ?! うわぁぁぁっ!」
同時に、情けない声をあげてしまった。
ガラスか水晶のような青い塊が、僕の右手に突き刺さっている。
「……突き刺さっている!!」
細長い、20センチほどの青い石が、掌のド真ん中を手の甲まで貫通している。
「待て、ちょっ! ヤバいヤバいヤバい!!」
〝痺れ〟だと思ってたけど、痛みで感覚が飛んじゃってる状態だったのか!?
ダメだこれ! 意識が向くと痛むパターンだろ!
ほら! 痛た、痛たた? 痛たたた……!
「……くない?」
あ、れ? 痛くない……痺れも、無くなってしまった。
そういえば、これだけ見事に突き刺さっているのに、血も出ていない?
恐る恐る、石に触れてみる。
「硬い……」
石というより、ガラスに触ったような感触だ。
『ようこそ』
「……え?」
誰か居る?! スマホのライトでもう一度、周囲を照らしてみた。が、誰もいない。
「空耳か」
光を右手に戻した瞬間。
『随分待ったよ。タツヤ。遅かったね』
「はいっ?!」
ありえない所から声が聞こえた。
『本来なら、キミが小学生の頃に会える筈だったのだが』
右手の青い塊から声が響く。
「ええ?!」
石はボウっと青く光り、声は間違いなくそこから聞こえる……石が喋っている!
『そうか。キミは大人になってしまったから、先入観が邪魔してしまうかも知れないね。だが、どうか落ち着いて聞いて欲しい』
青い石は、呆然としている僕を放っておいて、流暢に語り始めた。
『私は、この星の意思と力の化身。地球そのものであり、地球とキミをつなぐ、端末でもある』
意思? 地球? 端末?
『これからキミは私と同化して、この星と一つになる』
いやいやいや、待って! ちょっと情報が多過ぎて……
『キミは選ばれた……が、遅かった。もうすぐ、この星は終わる』
……はい? 星が終わるって?
「あの、えっと! 僕のせいで星が終わるって、どういう……」
『いや、君のせい、という事ではない。それに、もうすぐこの星は終わるが、まだ間に合わせる方法がある』
間に合ったのか、間に合わなかったのか、どっちなんだ?
分からない事が多すぎて、色々と頭に入ってこない。
『今からキミを〝本来私と出会うはずだった時間〟に戻す。私の力は一度だけそれを可能にする』
「戻す……僕を? 何を言って……」
『キミの知識と体力はそのまま残して、15年前に、時間を巻き戻す。当然キミは15歳分若返る。簡単なのだが、2度は出来ない』
「ちょっと、何だよそれ、急に!」
……えっと15年前って僕は何歳だ?
待って! まだ心の準備が。
『悪いが、もう時間も選択肢も無い。私も一緒なので時間を戻してから説明しよう』
〝地球の意思〟は、かなりせっかちな感じで話を進める。
そしてその理由はすぐにわかった。
突然の、縦揺れ! いや、横揺れ?!
凄まじい轟音が響く。
信じられない程の大きな地震だ!
……あれ? この揺れ、知ってるぞ?!
『始まったな。これがこの星の最期だ』
右手の青く光る石は、軽い口調で恐ろしい事をサラッと言う。
やっぱりそうだ! この場所は、夢で見たあの洞窟?!
『同時に、私の最期でもある。これをどうにかしてもらうために、キミが選ばれた……あと22分で、星は消える。急ごう』
なんて事だ。まさか現実にあんな事が起きるなんて!
……あれ? 何か忘れているような?
『うん、そうだね。今、キミの頭上に、大きめの岩が迫っている。直撃コースだ』
「えっ?」
見上げると、目と鼻の先に、凄まじい速さで落ちてくる、大きな岩が見えた。そうだ、思い出した!
『大丈夫。キミはもう、死なない』
パーン! という音と共に、大きな岩は粉々に砕け散る。
「うわああああっ?!」
痛あああぁぁあっ! 死んだ! パーンって死んだぁあああ! 痛くて死んだ! 死んだ……死……あれ?
「痛く、ない。し……死んでない?」
なんで? なんで何とも無いんだよ!!
『タツヤ、まだ始まったばかりだが、今のキミは私、つまり〝地球〟と徐々に融合、同化中だ。この時点で、キミは〝不老〟と〝星の強度〟を身につけた。老いる事も無いし、地球が壊れるほどのダメージを受けなければ、キミもダメージを受けない』
「……もしかして、不老不死ってこと?」
『そうだ。そしてもうすぐ、キミは11歳に巻き戻る。体は小学5年生だが、身体能力と、知識や思考能力は大人のままで』
11歳。小学生か。そういえば昔、友達と、親に内緒でこの洞窟に来て、新年をコーラで祝う会をやったような気が……
『ではいくよ。心を落ち着かせて。そう、キミはあの頃の自分の姿に変わるだけだ』
地震が徐々に治まり、轟音も遠のいていく。
周囲が一段と明るくなった。光源は僕の右手。もはや青ではなく白に近い光だ。
「こ、この光は……? うわあ! まっ! 眩しい!!」
目を開けていられないくらいに、光が強くなった。
「うわああああ!! 冷たい! 足先が……冷たい!」
……と同時に、つま先が冷水に浸けられたように冷たくなって来たぞ?
「これが……僕の変化?!」
『違う。キミは先程、落下する岩に怯んで、水たまりの中に足を突っ込んでいる』
先に言ってよ! 巻き戻り関係ないじゃないか!
『あ。巻き戻せた』
ええっ! もう終わったの?! このタイミングで?!
せっかくの荘厳な感じが台無しだよ!!
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髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
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