プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 冬休み

電話

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 あの3人組のお兄さん達は、僕の事は誰にも言わないだろう。これに懲りて、悪さも控えてくれると嬉しい。
 予定よりすっかり遅くなってしまったが、無事に自宅についた。

「ブルー、地下室を開けてくれ。リュックを置いてこないと」

『そうだね。見慣れない物が部屋にあると不審がられるだろう』

「鳥取とオランダのガイドブックなんか見られたら、ちょっと面倒だしな」

 家に入る前に、地下室に向かう。地下室への階段には、おもむきのあるランタン風の灯りが灯っていた。

「仕事が速いな、ブルー」

『丁度、地下に埋もれていたのを見つけたので利用してみた』

 地下室の部屋の机に、新しいリュックサックと、ポケットの中の小銭、残った旧札、そして例の三人の住所が書かれたメモを置く。

「今日の感じだと、あと数日で、鳥取には行けそうだな」

『良かった。タツヤ、よろしくお願いする』

 地下室を出ようとした時、右手から、ブルーではない声が響いた。

『達也さん、聞こえますか? 彩歌あやかです。今、大丈夫?』

『彩歌さん!』

 あれ? ちょっと今、声が裏返ってたかも。
 
『ちょっと色々と手間取っちゃって遅くなったけど、無事に魔界に着いたこと、連絡しようと思って』

『良かった。それで、説明は上手くできた?』

『うん。不老の事とか、ブルーの事は話さずに上手くごまかせたと思う。弱体にはみんな驚いてたけど』

『だろうね。とにかく無事で何よりだ!』

『有難う。達也さんとブルーのおかげよ。何かあったらいつでも言ってね!』

 何か……あ、そうだ。分岐点の件、一応伝えておかなきゃな。

『そうだ。えっと……ブルー、最初の分岐点って何日後だっけ?』

『33日後だよ。今回はタツヤだけで十分対応できるはずだ』

『そっか……彩歌さん、僕だけで大丈夫らしいんだけど、33日後に地球を救うためにオランダへ行くんだ』

『オランダ?! すごい! 行ってみたいな』

『可能なら、アヤカも同行して欲しい。導きの成功率が上がる』

『やった!』

 僕と彩歌、同時に喜びの声を上げる。

『えっと。でも、もしかしたら、その頃はまだ〝清めの儀式〟が終わってないかも……』

『清めの儀式?』

『悪魔を倒した後に、しなくてはならない〝呪いよけの儀式〟なの。今回の悪魔はかなりの上級悪魔だったから、清めを終えるのに凄く時間がかかるかもしれない。それが終わるまでは自由には動けないの』

『そうか。それじゃ、運次第って感じだね。ちょっと残念』

『ええ。でも、それが終わったら私、かなり自由になるの』

『かなりってどういう事?』

『私、弱体化されたでしょ? 任務に支障が出るという事で、城塞都市の守備隊から〝除名扱い〟になっちゃった』

『そんな……!』

『でもね、この弱体も、名誉の負傷というか……逆に、この体で高位の悪魔を倒した事で、私、英雄扱いなのよ。本当は、達也さんがやっつけてくれたのにね』

『いやいや。僕はただ殴ったり蹴ったりしただけだよ』

 本当に、殴って蹴っただけだ。今思えば、高校生が5~6発で行動不能になる僕のパンチを100発以上受けても生きているという事は、あの悪魔って結構タフだったんだな。

『でね。清めの儀式が終わったら、大人になるまで自由にしていいということになったの。お給料も今まで通り、出るみたい』

『凄い高待遇じゃないか!』

『なんてったって英雄ですから、私!』

 良かった。除名と言うからマイナスイメージだったが、有給もらってバカンスモードだな。

『だから、もし今回は無理でも、次からは一緒に連れて行ってね!』

『ああ、よろしく頼むよ彩歌さん!』

 俄然がぜんやる気が出てきた。よし。今回が無理なら、オランダはプライベートで一緒に行こう。あ、鳥取も。

 彩歌との通信を終えて、自宅に戻ると、妹がチーズかまぼこを食べながら、お正月にありがちな、お笑い番組を熱心に見ていた。

「あ、お兄ちゃんお帰り」

「ただいま。父さんと母さんは?」

「なんか、すぐ帰ってくるって言って、出てった」

 はて? どこに行ったのかな。

「おばあちゃんも?」

「ううん。おばあちゃんは部屋にいると思うよ」

 そっか。じゃ、帰って来るまでテレビでも見てるかな。

『タツヤ、ちょっと思い出したのだが』

「何?」

『先日、ユーリが言っていた事だが、宿題はどうなっているのだろう』

「あ、そうだ。よく覚えているな、ブルー」

 僕は自室に戻り、ランドセルの中を見た。冬休みのドリルは、案の定ほとんど白紙だった。連絡帳をチェックすると、他にもいくつか、やらなければならない宿題があるようだ。

「やれやれ、仕方がない。 パパっとやっちまうか」

 ドリルは、さすがにスラスラと進む。面倒臭いかと思ったが、これが意外と楽しい。

「5年生の頃って、こんな問題やってたんだな。懐かしすぎる」

 算数の問題を解きながら、ふと、連絡帳の赤い文字に目が止まる。僕の字だ。

 〝忘れない事! 1月2日 朝 うさぎのエサやり当番〟

 げげ! 今日じゃん! もう夕方6時近いぞ……

『タツヤ、ウサギが可哀想だ』

「本当だ。急いでエサをやりに行こう!」

 僕はおばあちゃんに、学校に行くと伝えて、懐中電灯を片手に、家を出た。外はもう真っ暗だ。

『タツヤ。ウサギは1日食べないと死亡する可能性もある』

「マジか! それは可哀想過ぎる。急ごう!」

 学校についた。懐かしむよりも、今はウサギが先だ。校庭を横断して、飼育小屋向かう。
 
「無事でいてくれよ」

 飼育小屋の扉を開け、かすかな記憶でウサギの部屋を探す。
 ……確か、チャボの右隣だったな。居た! ウサギは元気だった。

「良かった。急いでエサを」

 僕は棚からウサギ用のエサが入った袋を取り、皿に入れた。水も足したし、完璧だ。

「ふう。これで良し! さあ、帰るか」

 エサを食べ始めたウサギを確認して、帰ろうとすると、小屋の入り口に、誰か立っている。

「なんだ、達也か。あけましておめでとう。だな」

 担任の谷口先生だ。懐かしい。

「エサをやりに来るのは朝のハズだろう」

「あけましておめでとうございます。ごめんなさい。忘れていました」

「まあ、思い出しただけ偉かったな。エサやりを忘れると、死んでしまう動物も居るから、先生たちはこうして、午後、確認に来るんだ。今日はちょっと遅くなったがな」

 そうだったのか、全然知らなかった。

「ずいぶん暗くなったし、早く帰るんだ。気をつけてな」

「はい、さようなら先生!」

「また新学期にな! 宿題やれよ!」

「は~い!」

『タツヤ。良い先生だな』

「ああ。生徒思いの優しくて厳しいとても良い先生だ」

 僕は学校と先生の懐かしさに浸りつつ、家路を急いだ。早く帰らないと、また両親に心配をかけるもんな。
 家に着くと、父さんと母さんはすでに帰宅していた。

「達也。お前は正月から色々と忙しいやつだな」

 本当にそう思います。

「今、駐在さんに、お礼に行ってきたのよ。あなたも一緒に行けたら良かったんだけど」

 なるほど、そういう事か。色々と申し訳ないな……

「駐在さん、お前が検査で異常なしだったって聞いて、喜んでくれてたぞ」

「うん。僕も近い内に、お礼に行くよ」

「それが良いわね。きっとよ」

 父さんはソファに腰掛けて、テレビのリモコンを操作し始め、母さんは夕食の準備を始めた。

 そこへ電話が鳴る。丁度近くに居たおばあちゃんが受話器を取る。

「……達也、電話やで」

 正月早々、僕に電話? 誰からだろう。

「もしもし、たっちゃん? 和也だよ。ちょっと良いかな?」

 栗っちだった。

「うん、どうしたの?」

「ちょっと、相談したい事があって……明日、お邪魔しても大丈夫?」

 明日は、ちょっと遠出とおでして、旧札ショッピングをしようかと思ってたのだが、何やら栗っちの声色こわいろが変だ。

「大丈夫だよ。いつでも来て」

「ありがとう。ちょっと僕、大変な事になってるみたい。朝9時に行くね」

「分かった。待ってる」

 電話が切れた。僕は家族に、明日、栗っちが来る事を伝えた。

「和也さんが来るの?! うわ、どうしよう!」

 嬉しそうな妹。そうだ、妹は栗っちが大好きだった。なんと15年後も、密かに想い続けていた。

「明日は、おばあちゃんら親戚まわりするけど、達也だけ残るかえ?」

「お兄ちゃんだけ?! 私も! 私も残る!」

「るりは、お邪魔になるでしょ? 一緒に行きなさい」

「えーっ! お兄ちゃんだけズルい! 私も残るの!」

 半泣きで食い下がる妹。

「こら。栗栖君は、お兄ちゃんと何か話があると言っているんだぞ。お前は父さんたちと行くんだ」

「やだやだやだ! 私も和也さんといっしょに居るのぉ!!!!」

 本当に泣き出す妹。ちょっと可哀想になってきた……

「しょうがないな。栗っちには、また別の日に遊びに来てもらうからさ。るりのために」

 僕の言葉に、真っ赤になって大人しくなる妹。

「私のために?」

 ニヤける妹。ちょっと怖い。

「ああ。頼んでみるよ」

 栗っちは、優しいからきっと来てくれるだろう。

「ありがとうお兄ちゃん! ぜったいよ! やくそくだからね!」

「わかったわかった」

 この後、僕が、

「しつこいな!」

 と言うまで、妹の〝絶対だよ攻撃〟が続く。
 気が済んだ妹は、鼻歌交じりに、ソファでクッションを抱えてゴロゴロしている。

「お昼ごはんはどうする?」

「明日なら、もう開いてると思うから、栗っちと、まりも屋でなんか食べるよ」

 〝まりも屋〟は、駅前にある大衆食堂で、ほぼ年中無休。オススメはカツ丼とオムライスだが、量がハンパナイので注意が必要だ。

「あなた本当に、まりも屋、好きね……お金、ここの引き出しに入れとくから、和也くんの分とね」

「うん。ありがとう!」

 まりも屋は15年後、大将が引退して息子さんが後を継いでいるが、味は見事に劣化していて悲しかった。カレーだけは、なぜか超絶グレードアップしているのだが。

「達也、栗栖君の力になってあげなさい。何か困ったら父さん母さんに相談するんだぞ?」

「わかった。ありがとう父さん」

 夕食を終え、お風呂に入ってから自室に戻る。眠らなくていいので宿題を続ける。

「ブルー、栗っちの相談事って何だろうな」

『うん。私の予想が正しければ、かなりの大事おおごとだと思う』

「何か気付いているのか?」

『私とキミの出会いは、彼の予言によって先延ばしになったよね』

「ああ。そういえばそうだったな……それがどうかした?」

『私とキミの出会いは〝決められていたもの〟で、いわゆる〝頑丈な歴史〟のハズなんだよ。彼はね、それを曲げる事が出来たという事なんだ』

「え? ちょっと待った。それが出来るのって……」

『そう。彼も何らかの〝特異点〟だ』

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