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5年生 冬休み
方向性
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「お邪魔します。たっちゃん、今日はありがとう」
ということで、栗っちが来た。相変わらず、礼儀正しいな。
「よー! 上がって上がって」
「あ、これ、るりちゃんに。このあいだ食べちゃったからお詫びに」
栗っちは、チーズかまぼこを持って来てくれていた。本当に礼儀正しい。
「ありがとう。でも今日は、みんな出掛けちゃってて僕一人なんだ。帰ってきたら渡しとくよ」
「あ、そうなんだ。よろしく伝えてね」
あれ……ちょっと残念そう? ……気のせいか。
「るりのヤツ、栗っちが来るって言ったら、自分も残るって言って、随分ゴネたんだぜ。面倒だと思うけど、今度、あいつが居る時に、遊びに来てやってくれよ」
「えっ? 本当に!? 必ず来るよ!」
あれ……なんか嬉しそう? ……まさかね。きっと気のせいだろう。
「まあ、立ち話もアレだし、僕の部屋に行こう」
「ごめんね、正月早々。忙しかったんじゃない?」
まあ、いろんな意味でスゴく忙しいけど……〝言えない事〟ばかりだな。
「いやいや。あ、そういえば昨日は、ウサギのエサやり、危うく忘れるトコだったよ」
谷口先生の話をしながら、部屋のドアを開け、中に入る。
「ヘぇ! 先生たち、動物の事、ちゃんと見ててくれてるんだね」
僕は押し入れから、折りたたみ式の丸テーブルを出して、部屋の真ん中に置き、台所から持ってきた缶ジュースを2つ並べた。
「で、栗っち、何かあったの?」
さっそく本題に入る。昨日の感じだと、そこそこヘビーな相談事なんだろうな。
「うん。ちょっと、口で説明するより、やってみるね」
栗っちは、缶ジュースのフタを開けた……手を、触れずに。
『タツヤ。これは……』
ブルーが驚いて話しかけてくるが、僕には珍しくもない事だった。
「たっちゃんは、僕のこの力、もう何度も見たことあると思うけど……」
『そうなのか? タツヤ。今のは、あまり普通に見かける能力でもないと思うが……』
そう言われてみれば、ブルーが驚くのも当然かもな。栗っち以外でこんな事が出来る奴は見たことがない。
「言うの忘れてたけど……というか、今まで僕も忘れてたけど、栗っちの特技なんだ。スプーンとかもグニャグニャ曲げるし」
『そういう事はもっと早く教えてほしい。私だけ驚くというのは、いささかキャラ設定が崩れる』
お前のキャラクター設定、わりとブレブレだと思うけどな。むしろそれがウリみたいな。
いや、そんな事より栗っちだ。
「えへへ。今まで僕、あんまり、重いものとか、遠いものを持ったり、できなかったじゃない? でもね……」
ジュースの缶が2本とも空中に浮かぶ。中身が缶から出て球体になると、2本の空き缶はグシャグシャに潰れて細くねじりあげられ、ジュースで出来た球体の周りを、土星の輪のように飾る。
「最近どんどん、力が強くなっているんだよ。〝予知〟も、今までより鮮明になっちゃった」
すごい力だ。僕の記憶では栗っちは、手が届く位の物を手でできるくらいの力で操作することしか出来なかったはずだ。実際には手でやった方が早いっていう感じだった。
『なるほど……やはりそうか。私の思っていた通りだ。タツヤ、彼の詳細を表示するよ?』
そう言うと、ブルーは僕の脳裏に、栗っちのステータスを表示した。
***********************************************
栗栖 和也 Chris Kazuya
AGE 11
H P 18
M P 0
攻撃力 224
守備力 149
体 力 14
素早さ 13
賢 さ 15
<特記事項>
救世主
未来予知
念動力
確率操作
千里眼
精神感応
***********************************************
「救世主?!」
『うん。彼は人々を導き、救いを与える存在。奇跡の体現者だよ』
マジか? 栗っちが?!
「でもブルー、僕の知ってる〝15年後の栗っち〟は、中学に入った辺りから予知もスプーン曲げも 出来なくなってたぞ?」
『そこなんだ。今の彼は、まだ覚醒の途中だ』
「僕みたいな感じ?」
『そう。救世主は様々な時代に稀に現れ、天啓を受けて覚醒し、奇跡の力で人々を救済する存在だ。海を割ったり、大災害を予言したり、死後に復活してみせたり。それは歴史をも曲げられる力だ』
「人を救うための特異点?」
『そうだね。彼はいずれ〝本当の力〟に目覚め、人々を救うのだろう。だが今この時点では、とても弱い存在だ』
栗っちは、ちょっと首を傾げて僕を見ている。僕とブルーの会話を認識できてはいないようだ。
『タツヤ。キミが私と出会い、特異点としての能力に目覚めるはずの歴史を、彼はねじ曲げてしまった。無事で済むはずがない。キミの能力と使命は、カズヤよりも遥かに高位の物なんだ』
「そんな……僕を助けようとしてくれた事が、栗っちの能力を奪った?!」
『そう。彼の救世主としての力は失われた。だが今回の巻き戻しで、キミは無事に私と出会い、歴史は修正された』
「それで栗っちは、救世主の力に、目覚めようとしてるんだな」
『いつ、カズヤが〝天啓〟を受けるかはわからない。だが、近い内に、タツヤと私の事にも、気付くだろう』
大体の事はわかった。僕の事もブルーの事も、いずれ知られる事になるなら、今ここで説明しても良いだろう。
『ダメだ、待ってくれタツヤ。念の為に言っておく』
「何だブルー。何か問題でもあるのか。ちゃんと説明して、協力してもらおうよ」
『キミの使命は〝星を救う事〟だ。だが、カズヤは〝人を救う事〟が使命だ。そういう〝天啓〟をいずれ受けて〝覚醒〟するはずだ』
「だから、同じ方向性じゃないか? 何か問題があるのか」
『方向性は全然違う。星を破壊しようとするのが人間だった場合、キミたちは敵同士になる』
「……あ!」
『星を壊すのが人類なら、キミは人を滅ぼさなければならないんだ。彼はそれを防ぐための救世主となるかもしれないんだよ?』
ということで、栗っちが来た。相変わらず、礼儀正しいな。
「よー! 上がって上がって」
「あ、これ、るりちゃんに。このあいだ食べちゃったからお詫びに」
栗っちは、チーズかまぼこを持って来てくれていた。本当に礼儀正しい。
「ありがとう。でも今日は、みんな出掛けちゃってて僕一人なんだ。帰ってきたら渡しとくよ」
「あ、そうなんだ。よろしく伝えてね」
あれ……ちょっと残念そう? ……気のせいか。
「るりのヤツ、栗っちが来るって言ったら、自分も残るって言って、随分ゴネたんだぜ。面倒だと思うけど、今度、あいつが居る時に、遊びに来てやってくれよ」
「えっ? 本当に!? 必ず来るよ!」
あれ……なんか嬉しそう? ……まさかね。きっと気のせいだろう。
「まあ、立ち話もアレだし、僕の部屋に行こう」
「ごめんね、正月早々。忙しかったんじゃない?」
まあ、いろんな意味でスゴく忙しいけど……〝言えない事〟ばかりだな。
「いやいや。あ、そういえば昨日は、ウサギのエサやり、危うく忘れるトコだったよ」
谷口先生の話をしながら、部屋のドアを開け、中に入る。
「ヘぇ! 先生たち、動物の事、ちゃんと見ててくれてるんだね」
僕は押し入れから、折りたたみ式の丸テーブルを出して、部屋の真ん中に置き、台所から持ってきた缶ジュースを2つ並べた。
「で、栗っち、何かあったの?」
さっそく本題に入る。昨日の感じだと、そこそこヘビーな相談事なんだろうな。
「うん。ちょっと、口で説明するより、やってみるね」
栗っちは、缶ジュースのフタを開けた……手を、触れずに。
『タツヤ。これは……』
ブルーが驚いて話しかけてくるが、僕には珍しくもない事だった。
「たっちゃんは、僕のこの力、もう何度も見たことあると思うけど……」
『そうなのか? タツヤ。今のは、あまり普通に見かける能力でもないと思うが……』
そう言われてみれば、ブルーが驚くのも当然かもな。栗っち以外でこんな事が出来る奴は見たことがない。
「言うの忘れてたけど……というか、今まで僕も忘れてたけど、栗っちの特技なんだ。スプーンとかもグニャグニャ曲げるし」
『そういう事はもっと早く教えてほしい。私だけ驚くというのは、いささかキャラ設定が崩れる』
お前のキャラクター設定、わりとブレブレだと思うけどな。むしろそれがウリみたいな。
いや、そんな事より栗っちだ。
「えへへ。今まで僕、あんまり、重いものとか、遠いものを持ったり、できなかったじゃない? でもね……」
ジュースの缶が2本とも空中に浮かぶ。中身が缶から出て球体になると、2本の空き缶はグシャグシャに潰れて細くねじりあげられ、ジュースで出来た球体の周りを、土星の輪のように飾る。
「最近どんどん、力が強くなっているんだよ。〝予知〟も、今までより鮮明になっちゃった」
すごい力だ。僕の記憶では栗っちは、手が届く位の物を手でできるくらいの力で操作することしか出来なかったはずだ。実際には手でやった方が早いっていう感じだった。
『なるほど……やはりそうか。私の思っていた通りだ。タツヤ、彼の詳細を表示するよ?』
そう言うと、ブルーは僕の脳裏に、栗っちのステータスを表示した。
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栗栖 和也 Chris Kazuya
AGE 11
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M P 0
攻撃力 224
守備力 149
体 力 14
素早さ 13
賢 さ 15
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救世主
未来予知
念動力
確率操作
千里眼
精神感応
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「救世主?!」
『うん。彼は人々を導き、救いを与える存在。奇跡の体現者だよ』
マジか? 栗っちが?!
「でもブルー、僕の知ってる〝15年後の栗っち〟は、中学に入った辺りから予知もスプーン曲げも 出来なくなってたぞ?」
『そこなんだ。今の彼は、まだ覚醒の途中だ』
「僕みたいな感じ?」
『そう。救世主は様々な時代に稀に現れ、天啓を受けて覚醒し、奇跡の力で人々を救済する存在だ。海を割ったり、大災害を予言したり、死後に復活してみせたり。それは歴史をも曲げられる力だ』
「人を救うための特異点?」
『そうだね。彼はいずれ〝本当の力〟に目覚め、人々を救うのだろう。だが今この時点では、とても弱い存在だ』
栗っちは、ちょっと首を傾げて僕を見ている。僕とブルーの会話を認識できてはいないようだ。
『タツヤ。キミが私と出会い、特異点としての能力に目覚めるはずの歴史を、彼はねじ曲げてしまった。無事で済むはずがない。キミの能力と使命は、カズヤよりも遥かに高位の物なんだ』
「そんな……僕を助けようとしてくれた事が、栗っちの能力を奪った?!」
『そう。彼の救世主としての力は失われた。だが今回の巻き戻しで、キミは無事に私と出会い、歴史は修正された』
「それで栗っちは、救世主の力に、目覚めようとしてるんだな」
『いつ、カズヤが〝天啓〟を受けるかはわからない。だが、近い内に、タツヤと私の事にも、気付くだろう』
大体の事はわかった。僕の事もブルーの事も、いずれ知られる事になるなら、今ここで説明しても良いだろう。
『ダメだ、待ってくれタツヤ。念の為に言っておく』
「何だブルー。何か問題でもあるのか。ちゃんと説明して、協力してもらおうよ」
『キミの使命は〝星を救う事〟だ。だが、カズヤは〝人を救う事〟が使命だ。そういう〝天啓〟をいずれ受けて〝覚醒〟するはずだ』
「だから、同じ方向性じゃないか? 何か問題があるのか」
『方向性は全然違う。星を破壊しようとするのが人間だった場合、キミたちは敵同士になる』
「……あ!」
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