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5年生 冬休み

作戦X

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「和也さんが私に?! これ、家宝にする!」

 チーズかまぼこを受け取って、狂喜乱舞する妹。っていうか、とこに飾るな。食え。

「あと、遊びに来るって言ってたぞ、栗っち」

「!? ちょっと待って? もしかして夢?」

 ほっぺを自分でギュッとひねり上げて悶絶もんぜつする妹。

「いたたた! 夢じゃない! 助けて! 幸せすぎる! いつ? いつ来てくれはるの?!」

 落ち着け。ちょっと京都風になってるぞ。

「明日、来るってさ」

 失神する妹。おい、実物に会ったらどうなっちまうんだ、お前。

「達也。栗栖くりす君の相談事は、解決したのか?」

「うん、大丈夫。原因は解ったし、対策もバッチリだよ!」

「そうか、良かったな」

「ありがとう、父さん」

 僕は、昼食のお釣りをポケットから取り出して、母さんに渡した。

「まりも屋さん、開いてたのね」

「うん、カツ丼、美味しかった! でもたまに臨時休業してるから怖いよね」

 妹が意識を取り戻した。本当に気絶してたんだな。

「……お兄ちゃん、空気を読んで」

「はい?」

「明日は、私と和也さんを、二人っきりにして」

「何を言ってるんだ、お前は……」

「カッコン(ししおどしの音)〝それじゃ、あとは若い者同士に任せて〟とか言って、私と和也さんを残して、部屋を出て行って!」

「お見合いか! あと〝若い者同士〟って、栗っちは僕と同い年だから!」

「……あくまでも、私たちの邪魔をするつもりね!?」

 すごい形相で僕をにらんでいる妹。驚いたことに、ここまでが全部、ひとり相撲だ。

「心配しなくても、明日は僕、買い物に行くから」

「ほえ?」

「栗っちは、お前のために来てくれるんだ。僕は別行動だよ」

「ちょ、まって、そんな」

 ガタガタと震えだす妹。

「私、とうとう明日、和也さんと……」

「お前ら、11歳と9歳だからな。普通に遊べよ!」

 足してやっと二十歳はたちだ。そう考えると怖いよな。なんか色んな意味で。

 そんなわけで、明日は旧札でショッピングだ。

『タツヤ、先日の3人組のような事も有り得る。出来る限り、遠方で買い物しよう』

「そうだな。あんな事がチョイチョイ地元近くで起きたら、秘密も何もあったもんじゃない」

 明日は、何か理由をつけて、ちょっと遠出してこよう。それについては、考えがある。





 >>>





 夕食後、誰も来ないのを見計らって、こっそり電話をかける。

「もしもし、内海です。大作君、おられますか?」

 九条大作くじょうだいさく。彼の家はウチから一分も掛からない、超ご近所さんだ。

「あ、大ちゃん、明日、忙しい? おー、良かった! じゃ、久しぶりに作戦X、できないかな」

 〝作戦X〟は、大ちゃんが編み出した。二人とも別々の用事で出かけるのだが、一緒に出かけたフリをする事によって、親に安心感を与えて、お互い一日中、自由行動をしてしまうという、小学生にあるまじき作戦なのだ。

「じゃ、詳しい事は、もう一度後で連絡するから」

 僕は受話器を置くと、リビングに戻り、父さんと母さんが部屋に揃うのを待った。
 ……お、ナイスタイミング。今だ!

「母さん。明日、大ちゃんと出かけてくるね」

「待ちなさい達也。最近よく出かけたりしてるけど、お休みだからって、ちょっとウロウロしすぎじゃない?」

 やはりそう来たか。洞窟での転落事故の事もあるし、そろそろ何か言われるかなとは思っていたんだ。

「それに、宿題は大丈夫なの? いつもギリギリまで放っといて。夏休みの時だって、工作は父さんだし、ドリルはおばあちゃんと母さんが手伝ったじゃない」

 そういえばそんな事もあったな。さて、ここは慎重に。

「うん、大丈夫。ドリルとかプリントは、今日、栗っちと一緒に、ほとんどやっちゃったし、作文は、明日の事を書こうと思ってるんだ」

「本当に? ちょっと見せてみなさい」

 まあ、そう来るよな。僕は2階からプリントとドリルを持ってきて母さんに渡した。

「あら、本当に出来てる。凄いじゃない。でも、あんまり出歩いて、また何かあったらと思うと母さん心配だわ。洞窟の時だって、どれだけ驚いたか」

 やっぱりね。でも、それも想定内だ。

「あの時はごめん。明日は買い物に行くだけだから、危ないところには行かないよ」

 ……路地裏とかも、もう行かない。面倒くさいから。

「でも、母さんが嫌だったら、やめておくよ」

 よし、ここであの台詞だ。

「作文は、洞窟の事を書けばいいし」

「え……それは駄目よ、あまりその事は言わない方が……」

「だって、ほかに書くことないもん」

「今日の、和也君との事を書けばいいじゃない。そうよ、それが良いわ」

「栗っちの相談は男と男の約束で、誰にも言えないんだ」

 というか、それを作文に書いたら、題名は〝聖者の覚醒〟とかになっちゃうな。

「母さん、それはいけない。子どもにだって、誰にも言えない悩みはあるんだ」

 想定どおり、父さんからの援護射撃が来た。実は、そのつもりで、父さんにも聞こえるように話したんだ。

「大丈夫、大ちゃんの買い物に付き合うだけだからさ」

「う~ん……仕方ないわね。でも、明日だけよ?」

 母さんは、しぶしぶOKしてくれた。

「うん、わかった!」

 明日、一日頑張れば、なんとか目標金額までいけるだろう。

「お兄ちゃん、和也さんは、何時ごろ来てくれるの?」

 あー、そういえば聞いてなかったな。

「ちょっと聞いてくるよ」

「あ、達也! 和也君が、もし午前中に来てくれるなら、お昼ご飯も一緒にって」

「うん、わかった!」

 僕は廊下に出て、電話の受話器を持ち、ダイヤルしたフリをしてから、右手に力を込めた。

『栗っち、聞こえる? 達也だけど』

『たっちゃん! 今日は色々ありがとうー!』

『いやいや、こちらこそ、楽しかったよ。さておき、明日なんだけど』

『あ、うん! るりちゃん、明日大丈夫?』

 あの感じが、大丈夫かどうかと聞かれると、わからなくなったのだが。

『すっごい喜んでるよ。悪いけど、来てやってもらえる?』

『うん! えっとね、朝9時でも大丈夫かな。お義父さんとお義母さんにも、よろしく伝えて!』

 今、ウチの両親に対する呼び方に違和感があったような……気のせいかな。

『了解。助かるよ。あ、そうそう。母さんが、お昼ご飯も一緒にどうぞって』

『わあ! なんか毎日ごめんね。ありがとう!』

『いやいや、その方が、るりも喜ぶよ。僕は明日、作戦Xを使って、旧札を使ってくる』

『大ちゃん、OKだったんだ。良かった! 頑張ってきてね!』

『おー! ありがと! じゃあね!』

 通信が切れた。部屋に戻り、恐ろしい位に待ちわびている妹に、明日朝9時に、栗っちが来ることを伝えた。

「そんな! それじゃ二人は、朝っぱらから!?」

「だから、何をする気なんだ!?」

 僕のツッコミには全く無視で、フラフラ踊っている妹。やっぱ大丈夫じゃないな。

「母さん、栗っち、お昼食べるって。よろしくって言ってたよ」

「そう、良かった。じゃ、カレーにでもしましょう」

「私も手伝う! 和也さんに愛情を込めて作る!!」

 妹の踊りがインド風に変わる。

「るり。父さんにも愛情、込めてくれよ」

「しょうがない。ついでに込めておくか!」

 変なモノを込めて、僕が帰って来るまでに、腐らせないようにお願いしたい。カレーは2食目、3食目が旨いんだからな。
 さて、大ちゃんに時間と行き先を連絡しなくちゃ。

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