プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 冬休み

全てを知るという事

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 カマキリのような姿になった〝アル〟こと〝アルレッキーノ〟が、すでに頭と腕がなくなった〝黒スーツ〟の胴体を真っ二つにする。
 悪の秘密組織と怪人か。大ちゃんの親父さん、面倒なヤツらに目をつけられたものだな。 

「はっはー! そう。僕はカマキリ人間なのさー! こうなったら、ちょーっと強いよ?」

 声も若干、特撮の怪人っぽくなってる。

『タツヤ。アイツの強さは中々だね。〝生物部分〟が少ないので誤差は大きいかもしれないけど、先日の悪魔と比べると生命力は20倍ぐらい。防御力も5倍はあると思う』

「凄いな。攻撃力は?」

『分からないので、ちょっと食らってみて?』

「試食コーナーみたいに言うな」

 まあ、それも面白いか。どれどれ……アーン。

「死んじゃってー!」

 アルが振り下ろした鎌が首に当たった。

「んー、チクッとした」

 だが、もちろん僕にそんな攻撃は効かない。
 甲高い衝突音と共に鎌は弾き返され、アルの表情には明らかに動揺の色がうかがえる。

「えええー?! キミ本当に何なのさ?!」

 まあ表情と言っても、カマキリの姿だからイマイチ分かりづらいんだけどね。

『タツヤ。今の攻撃は何で換算するのがいい?』

「仕方ない。あの〝赤い玉の魔法〟でヨロシク」

 ちょっと換算方法を考えないと、さすがに飽きてきたな。

『質が違うので計算が難しいけど、一般的な生物に対する殺傷能力でいえば2分の1ぐらいだね』

 むむ? 僕は〝一般的な生物〟に含まれないと?

『ノーコメントだタツヤ』

 お気遣いありがとうブルー。十分ショックだけどな?
 ……さてと。やっぱちょっと弱めだったか。何となくそんな気がしたんだ。

「アルレッキーノさん。ちょっといい?」

「はーい。いいけどキミ、こーんな状況なのに〝ユルい〟ね?」

 アンタには言われたくないな。

「今の一撃、同時に4000兆ほど出せる?」

「おいおい。なーんかスゴイ数字が出てきたなー。中二病かい?」

 うん、僕もそう思うよ。でも。

「それが出来ないなら、僕は死なないんだ」

「はーはっは! 嘘だよねぇ! そんなやつぁー居ないだろう?」

「本当だよ」

 しばしの沈黙。
 アイツの生命力と防御力から考えると、僕の攻撃では倒すのに時間がかかり過ぎる。
 早く帰らないと〝作戦X〟が失敗に終わるんだ。ここは諦めて帰ってもらおう。

「……あーあ。本当っぽいなあ。キミ何なの? マジ」

 素直に信じるアルレッキーノ。思ったとおりかしこい奴だ。

「ほらぁ。警察も来たし、ボスに叱られちゃうよ」

 本当だ。パトカーと救急車の音がする。スルスルと、人間の姿に戻るアルレッキーノ。
 落胆しながらも、やっぱりマイペースだな、この人。

「ちょーっとさ? 証拠隠滅しなきゃだから、その子、さっさと連れて、電車から離れて?」

 上着の懐からリモコンのような物を取り出し、スイッチを押す。なになに? 何するの?

「危ないよ? ウチの戦闘員を自爆させるから。あと、はーい、9、8、7、」

 アルレッキーノは、カウントダウンしながら逃げ出した。
 ヤバい! 僕も大ちゃんを抱えて車外に飛び出す。

「せめて20秒にしろよなあああ!」

 ドーン!! という爆発音が次々に轟く。
 僕たちが乗っていた車両で、アルレッキーノにやられた2体と、ダイサークキャノンで下半身だけにされた黒焦げの1体だけでなく、3、4両目の戦闘員も、ほぼ同時に爆発したのだろう。

「3両目の奴、バラバラにしたのに、よく起爆したな」

『タツヤ、それより、早く逃げた方がいい。ダイサクも一緒に』

 そうだな、作戦Xは、二人同時に家に帰らなきゃ成功じゃないんだ。
 僕は、燃え盛る車両の横を、大ちゃんを抱えたまま、自転車まで走った。
 顔に巻いたマフラーを外して、バックパックに突っ込む。
 大ちゃんは目を覚まさないし、このまま自転車に乗るのは無理だ。
 
「……とりあえず、少しでもここから離れよう」

 僕は大ちゃんを背負い、自転車を押しながら歩く。

「まあ最悪、あの電車に僕も乗り合わせてた事にすれば、誤魔化すことは出来るか」

『いや、タツヤ。ダイ・サークの目撃者が23人もいる。色々と問題になりそうだぞ?』

 そうか。大ちゃんがあの電車に乗っていた事がバレれば、どう考えてもダイ・サークは大ちゃんという事に、行き着いてしまうな。
 大声で名乗っちゃってたし。
 ……せめて、ネーミングをもう少し、ヒネっておいて欲しかった。

「急いで、良い言い訳を考えなきゃ……」





 >>>






 自転車を押しながら少し歩くと、背中の大ちゃんの意識が戻った。

「ん……あれ、たっちゃん?」

「良かった。大ちゃん大丈夫?」

 僕は大ちゃんを立たせて、自転車にまたがる。
 辺りはすっかり真っ暗だ。

「とにかく、時間がヤバイんだ、説明するから後ろに乗って」

 なんとなく状況を悟り、荷台に乗る大ちゃん。
 二人乗りだが、この際、大目に見て欲しい。
 急いで駅を目指す。

「うわ、たっちゃん超パワフルだな!」

「まあ……ね」

 さすがに、僕がパワフルな理由や、今回の事件の事は、ちゃんと説明しないと、もうどうにもならないよな。

「ブルー。どう思う?」

『良いとおもうよ、タツヤ。どうやらダイサクも、キミの周囲に集中した〝英雄候補〟の一人のようだしね』

 やっぱ、そうだよな。
 どう考えても〝特記事項〟とか〝賢さ〟とか、普通のヒトっぽくない。

「そうか。たっちゃんが助けてくれたんだな……」

 少し間を開けて、大ちゃんが口を開いた。

「…………回路、やっぱり、もたなかった。負けちまったぜ―」

 少し悔しそうに、ボソリと呟く。

「いや、ちゃんと戦えてたよ。スゴいじゃん」

「うーん、エネルギーの制御は完璧だったんだけど、負荷がキツイのが課題だよな」

 さすが大ちゃん。もう問題点に気付いたみたいだ。

「あ、そうだ。大ちゃん、紙とペン、持ってない?」

 すごいスピードで駅に着いた。
 元あった場所に自転車を停めて、さっき壊したチェーンを拾い上げ、前カゴに入れた。

「急ぎだから雑になるけど……盗られちゃったらごめんなさい」

 僕は、大ちゃんから受け取った色紙とサインペンで〝友達を助けるために、少しお借りしました。鍵とチェーンを壊してすみません。このお金で直して下さい〟と書いて4つに折り、旧一万円札を挟んで、そっとチェーンの下に置いた。

「なんで色紙とサインペン持ってるの?」

「だって、東京行ったら、有名人とかに会うじゃん!」

 そうだ。大ちゃん、意外とミーハーだった。
 さて……と。
 駅の時計で今、7時22分。さて、どう言い訳するかな……

「たっちゃん、簡単だぜ。逆に考えてみな」

「え? どういうこと?」

「俺が乗ってた、もうひとつあとの電車に、2人で乗っていた事にすれば、問題解決だ」

 そうか! 先に走ってる電車が遅れてたから、後続の電車も止められて遅れてるんだ!

「次の電車がそのうち着くから、それに合わせて家に電話しよう」

「あ、でも、あの電車、大爆発とかしちゃってたから、簡単には来ないかも……」

「そんな事になってたんだ。でも、開通しないならしないで、鉄道会社が臨時バスを出すだろ。それ待てばいい」

「おおお! さすが大ちゃん、賢さ5882だけのことはあるよ!」

「俺の賢さ、数値化されてるの? なんかちょっと興味あるな」

「ちなみに僕は25だよ」

「うわ! いくらなんでも、そんなに差、ないだろー?」

「あるんだなー。しかも、名工神ヘパイストスだし」

「ヘパイストス? ギリシャ神話の、鍛冶の神だなー」

「なんでも知ってるなぁ。やっぱり賢いよ、大ちゃん」

「いやいや、見聞きした事を忘れないだけだぜ」

「瞬間記憶?」

「あー、それそれ。〝カメラアイ〟とか、色々と呼び方があるみたいだな。一度見たものを、絶対に忘れないんだ」

「便利だな、すごい能力じゃない!」

「でも、忘れたい事だってあるんだぜ? 絶対に忘れられないけど」

「なるほど……うん、それはちょっとイヤかも」

「忘れるっていうのも、すごい能力だと俺は思うよ」

 深いなあ。僕もその内〝死ぬってすごい能力だよ〟とかいう日が来るのかもな。

「……あ、そういえば。大ちゃんって、どこかの〝司書〟なのか?」

 僕の質問に、大ちゃんの表情が強張こわばった。

「たっちゃん、その〝司書〟って、図書館の職員さんの事で合ってるか?」

「うん、僕もそう思ったんだけど。何か心当たりがある?」

 大ちゃんは、少し考えてから、一つ長く息を吐いて話し始めた。

「俺が考え事をする時は、まず、頭の中の記憶を手繰たぐって行って、答えを探すんだけど、どうしても答えが見つからないと思った時、たまに、自分の頭の中ではない〝どこか〟へ通じる、扉が現れるんだ」

「扉……?」

「すごく立派な扉でなー? 開けると、本棚が一杯並んだ部屋に入って行けて、そこには、俺の記憶にない事が書かれた本が、無数にあるんだ」

『なんと?! タツヤ、やっぱりそうだ! 凄いぞ!』

 何故かブルーが興奮した感じになっている。どうしたんだろう。

「俺にはなぜか、欲しい知識の書かれた本の在処ありかがわかるんだ。図書館の司書さんみたいだろ?」

『本物だ! タツヤ! それは、〝バベルの図書館〟だ!』

「バベルの図書館?」

『森羅万象。まさしく〝全ての知識〟が収められている場所だよ』

「そんな場所、あるの?!」

『そんな場所、無いんだ』

「どういう事だよ! 無いのかよ!」

『そう、そんな場所、有り得ない。けど、ダイサクはその図書館の司書だ』

「有り得ない知識の宝庫を自由に見れる……?」

『そうだ。彼は〝全て〟を知ることが出来る』

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