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5年生 冬休み

変身!

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「変身!」

 大ちゃんが、ベルト正面の赤い部分を押し込むと、まばゆい光が車両内を照らした。

「無敵超人! ダイ・サーク!」

 ほぼ、本名ほんみょうだ。
 大声でそんな……聞いている方も、ちょっと恥ずかしいんだけど。
 ……いや、しかし! その姿は思っていた以上にヒーローっぽくてカッコ良いぞ!
 特にカラーリングのセンスは秀逸だ。
 シルバーを基調に、所々赤いラインが入った光沢多めのボディがチープさを払拭ふっしょく
 マスクは、ヒーローというより〝合体ロボ〟にヒントを得たようなちょっとゴツゴツしたデザインで、オリジナリティにあふれたマニアック仕様。
 リュックサックを背負っているせいで少し可愛くなっちゃってるけど、それはまあ〝動力源〟だから仕方ないか。

『おや? タツヤ。今朝の話では確か、あのベルトは〝皮膚が硬質化して被膜ひまくが張る〟という効果だったはずだよね?』

「そうだな。変身まで出来てしまうとは言ってなかった。きっとあの武装も発明品の応用だろう。前に見せてもらった〝W〟文字付きの光線銃も、腕時計のスイッチひとつで何もない所から取り出したし」

『面白いね。もはや人知を超えている』

 ド派手に、パンチで扉を破壊し、

「さあ、みんな逃げるんだ!」

 とか言って、乗客を脱出させるダイ・サーク。
 なぜか棒立ちでそれを許す黒スーツたち。
 ……もしかしてこれ、ヒーローショーじゃないか?

『いや、きっとあのスーツの男たちのターゲットは、ダイサクなのだろう。今回の一件は、彼の父親か彼自身を狙ったものの可能性が高い』

 なるほど。言われてみれば、大ちゃんが中学の時に引っ越して行ったのも、家族に何かあったとか、そんな理由だった気がする。

「ブルー、助けに入らなくてもいいかな?」

『ちょっと待って。今、ダイ・サークの詳細を表示するよ』





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 九条 大作 Kujoh Daisaku

 AGE 11
 H P 17 + 256
 M P 0
 攻撃力 11 + 64
 守備力 3 + 256
 体 力 14 + 128
 素早さ 10 + 64
 賢 さ 5882

<特記事項>
 名工神ヘパイストス
 瞬間記憶
 思考加速
 過集中
 司書
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「強いなあ! まさに〝無敵超人〟だ!」

『〝神〟を冠する特記事項がある。興味深いね』

「本当だ! 名工神ヘパイストスって? あと、賢さがヤバイな!」

『タツヤ。私は、最後の〝司書〟が気になる。もしかして……』

「司書って、図書館とかのアレか? ……あ、思い出した。そんな事より毒ガスとか大丈夫かな?」

『今朝の話では、あのベルトは〝真空中〟でも平気な構造だった。単独で宇宙空間でも活動できるような仕様なら毒ガスも大丈夫だろう。それに誘拐目的なら〝致命的な攻撃〟はしないはずだ』

「あ、そっか。なるほどね」

『キミが先に2体ほど倒したし、カズヤの見た〝未来〟は、回避できたかもしれないよ』

 そういう事なら、今はとりあえずダイ・サークの戦いを見守ることにしようかな。

「ダイサーク・パーンチ!」

「セントウモード・カイシ」

「ダイサーク・キーック!!」

「ターゲット・ロック・ホカク・カイシ」

「ダイサーク・チョップ!」

 なんだろう、この戦い。
 次の行動を全部言っちゃうユルさが妙にイラッとするんだが。

『タツヤ、1体は見守っているだけで動かないが、2体同時だ。少しキツそうだぞ?』

 確かに、若干押されているのかも。
 ……と、ここで大技が飛び出す。

「来い! ダイサーク・キャノン!」

 腕のボタンを押すと、例のサッカーボールを撃ち抜いた光線銃が、頭上に現れた。

「うおおおおおおお!!! ファイヤー!!!!!!」

 すっごい叫んでるけど、たぶんこの〝シャウト〟に意味はないと思う。
 真っすぐ飛ばずに、グネグネとウネって進む怪しい光が〝ジュッ!〟という音と共に、黒スーツ1体の上半身を消滅させる。
 ……ついでに電車の壁も、座席ごと撃ち抜いて大穴が空いてしまった。
 残った黒いスラックスの下半身には火がつき、盛大に燃えている。

『タツヤ、あれが!』

「そう。〝サッカーボール消し炭光線銃〟だ」

『あはは。呼称はもうちょっと格上げしてあげても良いんじゃないかな』

 いや、格上げっていうか……よく考えたら本人が〝ダイサーク・キャノン〟だと言っているのにな。

『あ。タツヤ、あれは……』

「え? なに?」

 ダイ・サークが背負っているリュックサックから、見たこともない色の煙が上がっている。

「おいおい、あれはちょっとヤバくないか?」

 僕が言い終わらない内に、ベルトのバックル部分からも煙が上がる。
 間もなく〝複雑なシャッター構造の赤いカバー〟が開き、今日作ったと思われる制御用の基盤が、黒焦げになって排出された。

「オーバーヒートだ!」

 ダイ・サークは、フラフラと膝をつき、バッタリと倒れ込む。
 そして超カッコ良く、変身が解けた。そこまで凝らなくても良いのに。

「大ちゃん!」

 僕はドアを開けて車両内に入り、大ちゃんに駆け寄る。

『タツヤ、大丈夫。気を失っているだけだ』

「テストも無しで、いきなり実戦なんかするから」

『でも、なかなか強かった。よく戦ったよ』

「そうだな。後は僕がやる」

 僕は、大ちゃんを仰向けに寝かせると、残る2体の方を向いた。

「ピピピ・ターゲット・チンモク・ピピピ・モード・ヘンコウ」

 スーツの男が何か言っている。

「エネミー・ロック・ショウキョ・カイシ」

 左手が外れて、毒ガスの噴射口が現れた。
 ……っておいおい、ちょっと待て!
 そう思った瞬間、先程まで戦いを見物していた、もう一人の男が、手刀しゅとうで、味方であろう男の腹に穴を開ける。

「あーあ。まーたプログラムミスだ。〝ガス〟使ったら、ターゲットまで死んじゃうでしょーよ?」

 腹を貫かれた男は、膝をついて倒れ、ピクピクと痙攣けいれんしている。

「おいー、変な覆面のキミ。ここまで来れるという事は、只者じゃーないな?」

 スーツの男が話しかけてきた。そうか。僕、マフラーで顔を隠してたっけ。

「僕、その倒れてる子に、ちょーっと用があるんだよねー。何も言わずに大人しーく、しててくんない?」

 するわけないだろ。こいつがボスか?

「お兄さん、何者なの?」

「ああー、ごめんねー、名乗るの忘れちゃってた。僕の名前はアルレッキーノ。アルって呼んでね」

 アルレッキーノ。こいつは機械じゃないのか? それにしては、一撃で仲間を倒したし、どういう奴なんだ?

「僕の所属する組織は〝ダーク・ソサイエティ〟って言うんだけど……あ。これ、みんなにはナイショね」

 皆って誰だよ。っていうか、軽いな、口。

「後ろのその彼のお父様に、ずーっと熱いラブコールを送っているんだけど、フラれっぱなしでね。仕方がないんで、搦(から)め手(て)でいこうって話になったのさ」

「ふーん。やることがストーカーチックだね」

「まーね! 僕はあんま、こーんなやり方は好きじゃーないんだけど。ボスがどーしてもって言うからさー」

 ボスが他に居るのか。

『タツヤ。さっき犬か猫が一匹居るって言ったよね。あれ、コイツだ』

「おいおい! どういう間違え方なんだよ。あれ? じゃあ、もう一体は?」

『上だ、タツヤ!』

 突然、天井に穴が開き、何かが降ってきた。黒スーツだ!
 相手の刃物は僕の頭に当たり、ねじ曲がる。

「ああ、ビックリした」

「おーいおい。ビックリしたのはこっちだよ。キミ、頭どーなってんのー?」

 その割には、意外と冷静な感じのアルレッキーノ。ちょっと楽しげなのがイラっとするな。

「この後、ガス使うだろこれ。何とかしろよ」

 僕は落ちてきた黒スーツの腕をつかみ、アルレッキーノの方に蹴り飛ばした。

「はいはい。あーあ、メンドクサイ」

 手刀で、頭と左腕を瞬時に切り飛ばすアルレッキーノ。
 あーあメンドクサイ。アルでいいや、アルで。

「キミ、強いね。ちょっとだけ、本気出しちゃおーかな」

 そう言うと、上着を脱ぐ。次の瞬間、アルの体格が変わった。どんどん肥大する筋肉。徐々に体の色が黄緑(きみどり)色に変わっていく。両手は鎌のような形に変わり、顔も角ばって目は大きく、そして複眼になった。最後に触角が伸びる。これは!?

『タツヤ。犬か猫ぐらいの反応が、熊のサイズになった』

「なるほどね。本気を出すまでは、生物部分がイヌネコサイズだったのか」

 だが、これは熊じゃなくて……

『カマキリだね』

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