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5年生 冬休み明け
姉と妹
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「全くの健康体ですね」
「いいえ先生、そんな筈ありません。もっと詳しく調べて下さい!」
……ということで、栗っちの土人形は、入院して精密検査を受ける事になった。
「ゴメン、たっちゃん。今日は帰ってこれないね」
地下の練習場に栗っちがいる。咄嗟にフォロー出来るように、〝精神感応〟を使って僕の思考を読み、土人形とお母さんの会話を、間接的に聞いてもらっているのだ。
「検査入院かー! やっぱりそうなるよな」
『大丈夫だタツヤ。絶対にバレはしないよ』
「いや、検査ではバレないだろうけどさ。僕のモノマネがどこまで通じるかが問題だろ」
栗っちのお母さんに心配を掛けないように、なるべく普段通りに振舞おうとはしているが、やはり少し違和感があるようだ。
「えー、次は心電図とエコー検査ですので、こちらの部屋に……」
「えへへー。〝エコー検査〟って、カラオケなのかな?」
「……和也、ふざけているの?」
くぅっ! 今のはダメだったか、言いそうなのに!
『タツヤ……カズヤの事、馬鹿にしてはいないか?』
ブルーにまで突っ込まれた。
そんなにおかしかったか? 大体いつもあんな感じだろう?!
「たっちゃん……僕、さすがにエコー検査は知ってるよ……?」
ああっ……ごめんなさい。悲しそうな目で見ないで。
「えー、これで今日の検査は終了です。明日はレントゲン撮影がありますので、9時以降は何も食べないで下さいね」
食事は、消化に良いものなら何でも良いということで、食堂で済ませる事になった。
「うどんで良いわね?」
「うん。うどん美味しいよねー!」
「……和也、ふざけているの?」
これは普通だろう! 何がいけなかった?!
『タツヤ……今のはマズかったな』
何がさ?! 何が地雷なのか教えてくれブルー!
「たっちゃん……あんまりだよ……」
どの部分が?! なんで涙ぐんでるの?!
「おいおい、何か盛り上がってるな! 差し入れ持ってきたぜー!」
そこへ、大ちゃんが現れた。スーパーのビニール袋と、電気ケトルを持っている。すぐにお湯が沸くヤツだ。
「シャワールームがある位だから熱湯も出るかもと思ったけど、念の為になー」
さすが大ちゃん、すごく気が利く。
「カップうどんで良かったか? 親父が好きなんで、いつも箱買いなんだ」
「えへへー! ありがとう! うどん美味しいよねー!」
「ほら! 言った! 今言った! さっきのと何が違うの?!」
『タツヤ……カズヤの身にもなって欲しい』
「ブルーさん、たっちゃんは悪くないよ。僕は大丈夫だから」
だあああ!! わざとだ! 僕で遊んでいるな?!
ほら、ブルーからは、なんとなく押し殺したようなクスクス笑いが聞こえてくるし! 栗っちも腹を抱えて小刻みに震えながらうずくまってるし!
……あれ? でも、そうすると栗っちのお母さんは何に反応してるんだ?
「お前ら、本当に仲いいよなー! ……で、どんな状況?」
検査入院になってしまった事を伝えると、大ちゃんは、やっぱりな。という顔をした。
「それにしても、今日はオムライスの日だった筈だけど、うどんの日になっちゃったな」
「うん? たっちゃんは自分ちで食べるだろー? 一応、カップうどんは多めに持ってきたけどなー」
そうか。僕は今、自分の人形が操作できないから、家で食べなきゃな。
という事は、そろそろ自宅に戻っておかないとマズイ。
>>>
「……お母さん、ちょっと電話してくるわね。先に食べてなさい」
栗っち人形視点。あまりに心配過ぎて、自宅への連絡を忘れていたのだろう。栗っちお母さんが、席を立った。
いやあ、しかし、栗っちの家族にも、余計な心配を掛けて申し訳ないなあ。
「あれれ? 栗っち? どうしたのん?」
栗っち人形が、うどんをすすり始めた時、不意に声を掛けられた。ユーリだ。なんで病院の食堂に居るんだ?
……とにかく、栗っちのフリして対応しなきゃ。
「えへへ。急に検査で入院することになっちゃって。ユーリちゃんこそ、どうしたの?」
「やー、実は姉ちゃんが怪我してさー。今日は付き添いなんだ」
そういえば、そんな事言ってたな。いや、あれは栗っちの〝精神感応〟で聞いたんだっけ。
「お姉さん、大丈夫?」
「それがさー、結構重症でね。三日前まで、ICUっていうの? 入っちゃっててさー」
ICU……集中治療室か。かなりの怪我だったんだな。
「まあ、なんとか普通の病室に移れたから、もう大丈夫だと思うんだけどね。ほら、ウチ、とーちゃんもかーちゃんも忙しくってさー」
ユーリの家が忙しいというのは聞いていた。お姉さんも大怪我をして、すごく大変だと思う。だが、それより気になるのは……
「ユーリちゃん、大変な事に巻き込まれてない? お姉さんの怪我って何が原因なの?」
「やー、前にも言ったけど、大丈夫だよ! 心配してくれてありがとう」
やはり、何も教えてくれない。いっそ、僕たちの秘密をバラしてしまう方が良いのかも……
「あら、ユーリちゃんじゃない。お久しぶりね!」
電話を掛けに行っていた、栗っちのお母さんが戻ってきた。
「あ、こんにちは!」
ユーリが栗っちのお母さんと話し始めてしまった。
……これ以上は突っ込めないか。
「じゃあ、栗っちもお大事にねー!」
「うん、またねー!」
>>>
再び視点が変わり、地下室。
ユーリは、お姉さんの居る病室に戻っていった。こんな時、栗っち本人なら〝精神感応〟で色々と聞き出せるんだろうけどな。
「まあ、仕方ないか。ちょっと、晩御飯食べてくるよ」
「俺も戻るぜー! あー、もしかしたら深夜に来るかも」
「えへへ、行ってらっしゃい! 僕も部屋で、うどん頂くね」
3人揃って練習場から出ようとした時、栗っちが止まった。ニコニコしたまま固まっている。これは……
「たっちゃん、これってまさか!」
「ブルー! もしかして!?」
『そうだね。時券が1つ、消費された。〝時神の休日〟だ』
「マジか!? たっちゃん、土人形は大丈夫か?」
「大丈夫。全然問題なく動くよ」
>>>
病院の、栗っち人形視点。
食堂から、病室に向かう廊下だ。
周囲のすべての物は動きを止め、もちろん栗っちのお母さんも固まってしまっている。
『タツヤ、キミと土人形は繋がっている。時券は離れていても有効だ』
なるほど。土人形は、時間を止められても自由に動けるのか。
でも、待てよ? ということは〝壊されても元に戻らない〟という事だな。気をつけよう。
「……ね、簡単でしょ? ガジェットを使えば、あなたも〝戦場〟を作れる」
声だ……すぐ目の前の病室から話し声が聞こえる。
……ってちょっと待った! 停止した時間の中、動いている者がいるのか?!
病室の名札には〝大波愛里〟と書かれている。もしかしてユーリのお姉さんの病室?
僕は聞き耳を立てた。
「作った〝戦場〟は、どれだけ破壊しても元に戻るから安心して戦えるわ。で、こうしてガジェットに触れている者は、自由に動ける。だから、戦士は必ずガジェットを身に着けて戦うの」
破壊しても元に戻る? もしかして、時神の休日の事か?
「予約の日、敵はマーカーを目指してやって来る。戦士は最大5対5と決まっているわ。でも、もう戦えるのはあなた1人。あなただけで5人に勝たないと……」
「やー! 大丈夫だよ姉ちゃん! 私、こう見えて、ちょー強いんだから!」
「そうね、あなたは〝ウォルナミス〟の血が凄く濃く出ている子だから」
ウォル……何だって?
「でも、できれば、あなたがもっと大きくなるまでは、私が戦いたかった。友里、あなたは、まだ幼なすぎる」
「ううん、お姉ちゃんは充分過ぎるぐらい戦ってくれたよ。後は任せて!」
「友里……」
やはり、ユーリは何かと戦うんだな。止まった時の中で。
「さあ友里、もう一度説明するわね」
「いいえ先生、そんな筈ありません。もっと詳しく調べて下さい!」
……ということで、栗っちの土人形は、入院して精密検査を受ける事になった。
「ゴメン、たっちゃん。今日は帰ってこれないね」
地下の練習場に栗っちがいる。咄嗟にフォロー出来るように、〝精神感応〟を使って僕の思考を読み、土人形とお母さんの会話を、間接的に聞いてもらっているのだ。
「検査入院かー! やっぱりそうなるよな」
『大丈夫だタツヤ。絶対にバレはしないよ』
「いや、検査ではバレないだろうけどさ。僕のモノマネがどこまで通じるかが問題だろ」
栗っちのお母さんに心配を掛けないように、なるべく普段通りに振舞おうとはしているが、やはり少し違和感があるようだ。
「えー、次は心電図とエコー検査ですので、こちらの部屋に……」
「えへへー。〝エコー検査〟って、カラオケなのかな?」
「……和也、ふざけているの?」
くぅっ! 今のはダメだったか、言いそうなのに!
『タツヤ……カズヤの事、馬鹿にしてはいないか?』
ブルーにまで突っ込まれた。
そんなにおかしかったか? 大体いつもあんな感じだろう?!
「たっちゃん……僕、さすがにエコー検査は知ってるよ……?」
ああっ……ごめんなさい。悲しそうな目で見ないで。
「えー、これで今日の検査は終了です。明日はレントゲン撮影がありますので、9時以降は何も食べないで下さいね」
食事は、消化に良いものなら何でも良いということで、食堂で済ませる事になった。
「うどんで良いわね?」
「うん。うどん美味しいよねー!」
「……和也、ふざけているの?」
これは普通だろう! 何がいけなかった?!
『タツヤ……今のはマズかったな』
何がさ?! 何が地雷なのか教えてくれブルー!
「たっちゃん……あんまりだよ……」
どの部分が?! なんで涙ぐんでるの?!
「おいおい、何か盛り上がってるな! 差し入れ持ってきたぜー!」
そこへ、大ちゃんが現れた。スーパーのビニール袋と、電気ケトルを持っている。すぐにお湯が沸くヤツだ。
「シャワールームがある位だから熱湯も出るかもと思ったけど、念の為になー」
さすが大ちゃん、すごく気が利く。
「カップうどんで良かったか? 親父が好きなんで、いつも箱買いなんだ」
「えへへー! ありがとう! うどん美味しいよねー!」
「ほら! 言った! 今言った! さっきのと何が違うの?!」
『タツヤ……カズヤの身にもなって欲しい』
「ブルーさん、たっちゃんは悪くないよ。僕は大丈夫だから」
だあああ!! わざとだ! 僕で遊んでいるな?!
ほら、ブルーからは、なんとなく押し殺したようなクスクス笑いが聞こえてくるし! 栗っちも腹を抱えて小刻みに震えながらうずくまってるし!
……あれ? でも、そうすると栗っちのお母さんは何に反応してるんだ?
「お前ら、本当に仲いいよなー! ……で、どんな状況?」
検査入院になってしまった事を伝えると、大ちゃんは、やっぱりな。という顔をした。
「それにしても、今日はオムライスの日だった筈だけど、うどんの日になっちゃったな」
「うん? たっちゃんは自分ちで食べるだろー? 一応、カップうどんは多めに持ってきたけどなー」
そうか。僕は今、自分の人形が操作できないから、家で食べなきゃな。
という事は、そろそろ自宅に戻っておかないとマズイ。
>>>
「……お母さん、ちょっと電話してくるわね。先に食べてなさい」
栗っち人形視点。あまりに心配過ぎて、自宅への連絡を忘れていたのだろう。栗っちお母さんが、席を立った。
いやあ、しかし、栗っちの家族にも、余計な心配を掛けて申し訳ないなあ。
「あれれ? 栗っち? どうしたのん?」
栗っち人形が、うどんをすすり始めた時、不意に声を掛けられた。ユーリだ。なんで病院の食堂に居るんだ?
……とにかく、栗っちのフリして対応しなきゃ。
「えへへ。急に検査で入院することになっちゃって。ユーリちゃんこそ、どうしたの?」
「やー、実は姉ちゃんが怪我してさー。今日は付き添いなんだ」
そういえば、そんな事言ってたな。いや、あれは栗っちの〝精神感応〟で聞いたんだっけ。
「お姉さん、大丈夫?」
「それがさー、結構重症でね。三日前まで、ICUっていうの? 入っちゃっててさー」
ICU……集中治療室か。かなりの怪我だったんだな。
「まあ、なんとか普通の病室に移れたから、もう大丈夫だと思うんだけどね。ほら、ウチ、とーちゃんもかーちゃんも忙しくってさー」
ユーリの家が忙しいというのは聞いていた。お姉さんも大怪我をして、すごく大変だと思う。だが、それより気になるのは……
「ユーリちゃん、大変な事に巻き込まれてない? お姉さんの怪我って何が原因なの?」
「やー、前にも言ったけど、大丈夫だよ! 心配してくれてありがとう」
やはり、何も教えてくれない。いっそ、僕たちの秘密をバラしてしまう方が良いのかも……
「あら、ユーリちゃんじゃない。お久しぶりね!」
電話を掛けに行っていた、栗っちのお母さんが戻ってきた。
「あ、こんにちは!」
ユーリが栗っちのお母さんと話し始めてしまった。
……これ以上は突っ込めないか。
「じゃあ、栗っちもお大事にねー!」
「うん、またねー!」
>>>
再び視点が変わり、地下室。
ユーリは、お姉さんの居る病室に戻っていった。こんな時、栗っち本人なら〝精神感応〟で色々と聞き出せるんだろうけどな。
「まあ、仕方ないか。ちょっと、晩御飯食べてくるよ」
「俺も戻るぜー! あー、もしかしたら深夜に来るかも」
「えへへ、行ってらっしゃい! 僕も部屋で、うどん頂くね」
3人揃って練習場から出ようとした時、栗っちが止まった。ニコニコしたまま固まっている。これは……
「たっちゃん、これってまさか!」
「ブルー! もしかして!?」
『そうだね。時券が1つ、消費された。〝時神の休日〟だ』
「マジか!? たっちゃん、土人形は大丈夫か?」
「大丈夫。全然問題なく動くよ」
>>>
病院の、栗っち人形視点。
食堂から、病室に向かう廊下だ。
周囲のすべての物は動きを止め、もちろん栗っちのお母さんも固まってしまっている。
『タツヤ、キミと土人形は繋がっている。時券は離れていても有効だ』
なるほど。土人形は、時間を止められても自由に動けるのか。
でも、待てよ? ということは〝壊されても元に戻らない〟という事だな。気をつけよう。
「……ね、簡単でしょ? ガジェットを使えば、あなたも〝戦場〟を作れる」
声だ……すぐ目の前の病室から話し声が聞こえる。
……ってちょっと待った! 停止した時間の中、動いている者がいるのか?!
病室の名札には〝大波愛里〟と書かれている。もしかしてユーリのお姉さんの病室?
僕は聞き耳を立てた。
「作った〝戦場〟は、どれだけ破壊しても元に戻るから安心して戦えるわ。で、こうしてガジェットに触れている者は、自由に動ける。だから、戦士は必ずガジェットを身に着けて戦うの」
破壊しても元に戻る? もしかして、時神の休日の事か?
「予約の日、敵はマーカーを目指してやって来る。戦士は最大5対5と決まっているわ。でも、もう戦えるのはあなた1人。あなただけで5人に勝たないと……」
「やー! 大丈夫だよ姉ちゃん! 私、こう見えて、ちょー強いんだから!」
「そうね、あなたは〝ウォルナミス〟の血が凄く濃く出ている子だから」
ウォル……何だって?
「でも、できれば、あなたがもっと大きくなるまでは、私が戦いたかった。友里、あなたは、まだ幼なすぎる」
「ううん、お姉ちゃんは充分過ぎるぐらい戦ってくれたよ。後は任せて!」
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