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5年生 冬休み明け
救急車
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栗っちの土人形は、ぐったりとしている。
アリバイ作りのために運んで来ただけで、元々、栗っち本人ですら、まだ上手く動かせないのだ。
なんとか誤魔化さなきゃ……!
「えっと。栗っち、急に気分が悪くなったみたいで……」
「いつもごめんなさいね、達也くん、大作くん」
栗っちのお母さんは、申し訳なさそうにしている。
……ちなみに、この〝達也くん〟と〝大作くん〟も、土人形だ。
「熱は……うーん、無さそうね。和也、しっかりしなさい。達也くんたち、重いでしょう?」
土人形は、体温もあれば呼吸もしているし、脈まである。じっとしていれば気付かれる心配はないが、問題は栗っちの操作技術だ。下手に動かそうとするとカクカクと不気味に振動したりして、極めてマズい事になる。
>>>
……で〝本体〟の僕たち3人は、遠く離れた場所にいる。
「ブルー、栗っち人形を、僕に繋げられないのか?」
『駄目だ、タツヤ。本人が〝操作権〟を持ったまま気を失っている。カズヤが許可しない限り、回線をキミに繋ぐ事は出来ない』
そう。僕たちは、2つ隣町の砂浜に墜落した。
怪我こそ無かったものの、変身は自動的に解除されて、栗っちと大ちゃんは気を失っている。
「栗っち! 大ちゃん! 起きてくれ、大変なんだ!」
『無理だな、タツヤ。このまま少しでも移動しよう』
やれやれ。まあ、大人の身体能力だから、大した事ないんだけどさ……
僕は二人を抱えて、無人の砂浜を、国道目指して歩く。
>>>
「ごめんなさい? 和也、具合が悪いみたいだから、連れて帰るわね」
結局、栗っちのお母さんは、栗っちの土人形を背負って、帰って行ってしまった。残念ながら、止める方法を思いつかなかったのだ。
まあ、戻ってきたら、そっと入れ替わればいいかな。
「はぁ。まりも屋、行きたかったな……」
僕は土人形2体を操作して地下室に行き、大ちゃんの人形を消した。
>>>
国道を歩いてしばらくすると、2人は意識を取り戻した。
「いやー、ごめんなー、たっちゃん。飛行ユニットは、根本的に見直しが必要だなー」
「えへへ。僕たち、空、飛んだね! すごいね!」
2人とも、無事で何よりだ。救星戦隊の初陣も何とか上手く行ったし、偶然だが車の修理代も返せたし、これで、まりも屋に行ければ最高だったのだが。
「で、栗っち。さっきね、火災現場からの帰りに、土人形が……あ、待って、動かそうとしないで!」
「どうしたの? 僕の人形に、何かあったの?」
栗っちにはまだ、人形の感覚が、ほとんどフィードバックされていない。何が起きているかは直接見てもらおう。
「栗っちのお母さんにバッタリ会っちゃってね。栗っち人形がグッタリしてるから、心配して連れて帰っちゃったんだ」
「うわあ! そうだったの?! ちょっと見てみる!」
栗っちは〝千里眼〟で確認している。
「大丈夫。台所のソファーに寝かされてるみたい…………あれ?」
にわかに表情が曇る栗っち。
「栗っち、どうかした?」
「救急車がね、ウチの前に止まったんだけど、誰か病気かな?」
「おいおい、違う違う! それって絶対、栗っちの様子がおかしいから、お母さんが呼んだんだろー!!」
急に目を覚まさなくなった息子を心配しない親は居ない。このままだと、土人形が病院に連れて行かれるぞ!
「あわわわ! どうしよう!」
あたふたする栗っち。人形は、救急隊員にストレッチャーに乗せられようとしている。
「ああっ! やっちゃった!」
「どうした、栗っち!」
「人形がカクカクして、お母さんが泣き出しちゃった!」
恐れていた事が起きてしまった。
意識の無い息子が、あの動きをしたら、不安感ハンパないよな。
……そして、栗っちも半泣きになっている。
「栗っち、操作を代わって! 僕が何とかしてみるよ」
「あ、そっか! たっちゃんなら、僕の人形も普通に動かせるんだ!」
「ブルー、回線を僕に繋いで!」
『了解だタツヤ。今、通信の秘匿性を解除した』
>>>
栗っち人形の感覚が来た。救急車に乗せられてしまった所だ。さて、どうやって誤魔化せばいいのやら。
「お母さん?」
「和也! ああ、和也、大丈夫なの?!」
栗っちのお母さんは、泣きながら、悲壮な表情でこちらを見ている。悪い事をしたな……
「大丈夫だよ。心配しないで」
「大丈夫じゃないわ! だってあなた、全然目を覚まさなかったし、変な痙攣もしていたし!」
「いや、違うんだよ、あれは……」
「このまま病院で診てもらいましょうね」
ダメだ。これ以上は抗えない。救急車は走り始めてしまった。
>>>
「おいー、どうなったんだ? 大丈夫なのか?」
千里眼で見ている栗っちと違い、大ちゃんは状況が全く見えない。
「ダメだ、止められなかった。救急車で搬送されてしまう」
「マジかー! ヤバくないか?」
「ごめんね、たっちゃん! 僕がもっと上手に土人形さんを動かせていたら」
いや、そうなんだが、どちらかというと何もせずに交代した方が良かったんだよね。カクカクしちゃったのがトドメになった気がする。さて……
「ブルー、土人形は精密検査とか、大丈夫か?」
『大丈夫だタツヤ。脈も血圧も偽装してあるし、レントゲンも問題ない。解剖などをされない限り、気付かれる事はないだろう。あ、注射針も通るよ』
なんだ、僕自身が調べられるよりも安全じゃないか。
「じゃ、このまま僕が操作して、大人しく検査を受けるよ。下手に入れ替わりに行くよりも、その方がバレないだろうし。無事に帰れるまでは、栗っちは地下室に居ればいい」
しかし、自分の人形と違って〝栗っちのモノマネ〟をしながらの人形操作な上に、普段の生活を同時進行となると、若干ヘビーだな。
「長引くようなら、食べ物とかは、俺が何とかするぜー! まあ、カップ麺とかだけどなー」
「ありがとう、大ちゃん!」
『タツヤ、人形同士の距離が開き過ぎたので、カズヤの人形を、直接キミと繋ぎ直すぞ』
そうだった。栗っちが操作するために、人形同士を繋いでたんだったな。その間の距離は、最大1キロぐらいだったか。
『必然的に、キミの人形は操作できなくなる』
「ああ、頼む。今は栗っち優先だ」
一瞬、人形の感覚が消え、再び繋がった。
「まあ、バレないように頑張るよ。お母さんを安心させよう」
「えへへ、ありがとう、たっちゃん! なるべく早く帰ってきてね!」
新妻か。
いや、早く帰れるかどうかは、お医者さんとお母さん次第だよな。〝健康体です〟で、納得してくれれば良いんだけど……
アリバイ作りのために運んで来ただけで、元々、栗っち本人ですら、まだ上手く動かせないのだ。
なんとか誤魔化さなきゃ……!
「えっと。栗っち、急に気分が悪くなったみたいで……」
「いつもごめんなさいね、達也くん、大作くん」
栗っちのお母さんは、申し訳なさそうにしている。
……ちなみに、この〝達也くん〟と〝大作くん〟も、土人形だ。
「熱は……うーん、無さそうね。和也、しっかりしなさい。達也くんたち、重いでしょう?」
土人形は、体温もあれば呼吸もしているし、脈まである。じっとしていれば気付かれる心配はないが、問題は栗っちの操作技術だ。下手に動かそうとするとカクカクと不気味に振動したりして、極めてマズい事になる。
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……で〝本体〟の僕たち3人は、遠く離れた場所にいる。
「ブルー、栗っち人形を、僕に繋げられないのか?」
『駄目だ、タツヤ。本人が〝操作権〟を持ったまま気を失っている。カズヤが許可しない限り、回線をキミに繋ぐ事は出来ない』
そう。僕たちは、2つ隣町の砂浜に墜落した。
怪我こそ無かったものの、変身は自動的に解除されて、栗っちと大ちゃんは気を失っている。
「栗っち! 大ちゃん! 起きてくれ、大変なんだ!」
『無理だな、タツヤ。このまま少しでも移動しよう』
やれやれ。まあ、大人の身体能力だから、大した事ないんだけどさ……
僕は二人を抱えて、無人の砂浜を、国道目指して歩く。
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「ごめんなさい? 和也、具合が悪いみたいだから、連れて帰るわね」
結局、栗っちのお母さんは、栗っちの土人形を背負って、帰って行ってしまった。残念ながら、止める方法を思いつかなかったのだ。
まあ、戻ってきたら、そっと入れ替わればいいかな。
「はぁ。まりも屋、行きたかったな……」
僕は土人形2体を操作して地下室に行き、大ちゃんの人形を消した。
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国道を歩いてしばらくすると、2人は意識を取り戻した。
「いやー、ごめんなー、たっちゃん。飛行ユニットは、根本的に見直しが必要だなー」
「えへへ。僕たち、空、飛んだね! すごいね!」
2人とも、無事で何よりだ。救星戦隊の初陣も何とか上手く行ったし、偶然だが車の修理代も返せたし、これで、まりも屋に行ければ最高だったのだが。
「で、栗っち。さっきね、火災現場からの帰りに、土人形が……あ、待って、動かそうとしないで!」
「どうしたの? 僕の人形に、何かあったの?」
栗っちにはまだ、人形の感覚が、ほとんどフィードバックされていない。何が起きているかは直接見てもらおう。
「栗っちのお母さんにバッタリ会っちゃってね。栗っち人形がグッタリしてるから、心配して連れて帰っちゃったんだ」
「うわあ! そうだったの?! ちょっと見てみる!」
栗っちは〝千里眼〟で確認している。
「大丈夫。台所のソファーに寝かされてるみたい…………あれ?」
にわかに表情が曇る栗っち。
「栗っち、どうかした?」
「救急車がね、ウチの前に止まったんだけど、誰か病気かな?」
「おいおい、違う違う! それって絶対、栗っちの様子がおかしいから、お母さんが呼んだんだろー!!」
急に目を覚まさなくなった息子を心配しない親は居ない。このままだと、土人形が病院に連れて行かれるぞ!
「あわわわ! どうしよう!」
あたふたする栗っち。人形は、救急隊員にストレッチャーに乗せられようとしている。
「ああっ! やっちゃった!」
「どうした、栗っち!」
「人形がカクカクして、お母さんが泣き出しちゃった!」
恐れていた事が起きてしまった。
意識の無い息子が、あの動きをしたら、不安感ハンパないよな。
……そして、栗っちも半泣きになっている。
「栗っち、操作を代わって! 僕が何とかしてみるよ」
「あ、そっか! たっちゃんなら、僕の人形も普通に動かせるんだ!」
「ブルー、回線を僕に繋いで!」
『了解だタツヤ。今、通信の秘匿性を解除した』
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栗っち人形の感覚が来た。救急車に乗せられてしまった所だ。さて、どうやって誤魔化せばいいのやら。
「お母さん?」
「和也! ああ、和也、大丈夫なの?!」
栗っちのお母さんは、泣きながら、悲壮な表情でこちらを見ている。悪い事をしたな……
「大丈夫だよ。心配しないで」
「大丈夫じゃないわ! だってあなた、全然目を覚まさなかったし、変な痙攣もしていたし!」
「いや、違うんだよ、あれは……」
「このまま病院で診てもらいましょうね」
ダメだ。これ以上は抗えない。救急車は走り始めてしまった。
>>>
「おいー、どうなったんだ? 大丈夫なのか?」
千里眼で見ている栗っちと違い、大ちゃんは状況が全く見えない。
「ダメだ、止められなかった。救急車で搬送されてしまう」
「マジかー! ヤバくないか?」
「ごめんね、たっちゃん! 僕がもっと上手に土人形さんを動かせていたら」
いや、そうなんだが、どちらかというと何もせずに交代した方が良かったんだよね。カクカクしちゃったのがトドメになった気がする。さて……
「ブルー、土人形は精密検査とか、大丈夫か?」
『大丈夫だタツヤ。脈も血圧も偽装してあるし、レントゲンも問題ない。解剖などをされない限り、気付かれる事はないだろう。あ、注射針も通るよ』
なんだ、僕自身が調べられるよりも安全じゃないか。
「じゃ、このまま僕が操作して、大人しく検査を受けるよ。下手に入れ替わりに行くよりも、その方がバレないだろうし。無事に帰れるまでは、栗っちは地下室に居ればいい」
しかし、自分の人形と違って〝栗っちのモノマネ〟をしながらの人形操作な上に、普段の生活を同時進行となると、若干ヘビーだな。
「長引くようなら、食べ物とかは、俺が何とかするぜー! まあ、カップ麺とかだけどなー」
「ありがとう、大ちゃん!」
『タツヤ、人形同士の距離が開き過ぎたので、カズヤの人形を、直接キミと繋ぎ直すぞ』
そうだった。栗っちが操作するために、人形同士を繋いでたんだったな。その間の距離は、最大1キロぐらいだったか。
『必然的に、キミの人形は操作できなくなる』
「ああ、頼む。今は栗っち優先だ」
一瞬、人形の感覚が消え、再び繋がった。
「まあ、バレないように頑張るよ。お母さんを安心させよう」
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