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5年生 3学期 2月
回想と決闘
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俺は九条大作。
ちょっとだけ、昔話をしてもいいかな。
>>>
……神奈川に引っ越してきたばかりの頃の俺は、新しい環境に馴染めずにいた。
「やー! 何してるの?」
「あー、えっと……別に……」
世の中には、チヤホヤされるタイプの転校生と、そうでない転校生がいる。
後者だった俺は、教室の隅で、新しく貰った教科書を、ただ眺めていた。
……そんな俺に、ユーリは話し掛けてくれたんだ。
「だったらさー、こっちへおいでよ! のっさんがね、また、変顔の新作を発表するんだって!」
嬉しかった。
もちろん、聞いたことのないあだ名で、変顔自慢の誰かさんを紹介された事ではないぜー。
自分で勝手に壁を作って、孤立しようとしていた俺を、ユーリは救ってくれたんだ。
「えー! それって、たっちゃん家の近くだよー!」
その日の内に、俺がどこに住んでいるのか聞かれた。
まったく。ラテン系とガテン系を、足して2で割らないタイプの性格は、昔から、面白いほど変わっていないよな。
たっちゃんは忘れてるみたいだけど、実は、俺と、たっちゃん、栗っちが、仲良し3人組になったのも、ユーリの手引きなんだぜー。
「ねえ、たっちゃん! 今日は大ちゃんも一緒に行っていいよね!」
その頃ユーリは、たっちゃんの家に毎日のように遊びに行っていたし、俺も、即日連れて行かれたんだ。〝大ちゃん〟っていうのも、その時ユーリがつけた、あだ名だ。
「僕は内海達也。あの大きな家って九条くん家だったんだね! 明日から、一緒に登校しようよ!」
たっちゃん、結構長い間、俺の事〝九条くん〟って呼んでたよなー。
「もー! たっちゃん! 次に〝九条くん〟って呼んだら、罰ゲームだからねー!」
「なんでだよユーリ!?」
それを強制的に〝大ちゃん〟に変えたのも、ユーリだった。
……で、暫くすれば、ユーリがたっちゃんを好きなんだって、なんと無くわかってしまった。
ショックだった。で、そのショックで、自分がユーリの事を好きだって気付いたんだ。皮肉なもんだよなー。
確かにショックだったんだけど、たっちゃんは……ああ。今思えば、栗っちもだな。なんとなく、普通と違う、ヒロイックな部分とかがあって、不思議と納得したんだ。
「まさか、本当に英雄候補だとは思わなかったけどな?」
俺、こっちに引っ越してくる前は、本当に友達がいなくてな。まあ、俺の能力を理解してくれと言っても、普通の子どもには無理だろうから。
ユーリは、そんな事お構い無しに、俺とたっちゃん、栗っちを繋いでくれたし、おかげでクラスの皆とも、仲良くなれた。そして俺は、どんどんユーリに惹かれて行ったんだ。
>>>
俺の昔語りを聞いてくれてありがとなー。
おっと。時間を食っちまったけど、今は降って湧いたこの状況を、どうにかしないと……
「やー! 里人! 大ちゃんは嘘なんかついてないんだよ!」
ユーリが必死に止めようとしているのは、ユーリの従兄弟の里人。
彼も、ウォルナミスの血を引く者だ。その証拠に、彼らの戦闘衣装である、ウォルナミス・ガジェットの、レプリカを装備している。
その姿は、埴輪にそっくりだ。ずんぐりむっくりで、見ている分には可愛い。
「ユーリちゃんは黙ってて! こいつは一族の敵なんだ!」
しかし、可愛いとか言って、和んでいる余裕はない。
ガジェットを装備した彼らは、人間など一瞬で葬れる程の戦闘力を持っているぜ。
頼むから落ち着いてくれ、里人。
「大ちゃんは、本当に私を助けてくれたんだよ! ガジェットも直せるんだよ!」
ユーリ、説得は有り難いんだけど、俺の腕にしがみついたままだと、彼の怒りは蓄積されていく一方だぜー?
「もう我慢できません! この恥知らずの大嘘を、ボクが暴いてやる! 長老様、どうか、こいつと戦わせて下さい!」
血走った目で、そう言い放つと、里人は俺に向かって戦闘態勢をとる。
「これだけ言ってもまだわからんか! やめいと言うておる!」
声を荒げて制止する長老。
「いいえ、やめません! さあ、覚悟しろ、ペテン師!」
どうやら、彼は怒りで我を忘れているようだ。
長老は、やれやれといった表情を浮かべて、申し訳なさそうに、こちらを見る。
「仕方がない……大作さん。済みませんが、相手をしてやってもらえますか」
俺は、軽くうなずいて、ベルトをリュックから取り出し、腰に巻いた。
「ユーリ、ちょっと離れててくれ」
リュックサックは、もう動力源ではない。
ブルーの欠片が埋め込まれ、そこから無尽蔵に、高濃度のエネルギーが供給されるようになったから、ベルトは単体で稼働するんだ。
ちなみにリュックの中には、おふくろが作ってくれた、今日の昼飯のサンドイッチが詰まっている。
「……変身!」
まばゆい光が辺りを包み、変身が完了した。
「な……! お前、何なんだよ!!」
里人は、俺の変身を見て、驚いている。
聞かれたからには、自己紹介しなくちゃなー。
「私はレッド。地球を守るために戦う、正義の戦士だ」
「やーん! 大ちゃんカッコイイ! 私も守って!!」
ユーリ、色々と拗れるから、静かに見ててくれないかなー。
……ほら見ろ、里人くん、鬼の形相で襲い掛かってきたじゃないか。
「ち、畜生! 死ねえええぇぇぇ!!」
〝死ね〟って言っちゃったなー!
……まあ気持ちはわかるけど。
逆の立場なら、俺だって死に物狂いで戦うぜー。
「自動回避システム、発動」
『Ready』
でも、悪いなー。俺は死ねないし、絶対に負けられない。
突進してきた里人を、難なく躱す。
「なかなかのスピードだが、私には当たらない」
あー、回避システムが無くても、俺、攻撃が見えてるなー。機械仕掛けの神の効果で、俺自身の身体能力も上がってるんだよな。
「避けた?! ふ……普通の人間が、なんでそんなに動けるんだよ!」
「私は普通の人間ではないぞ、リヒト少年。もうやめ……」
「うるさい! まぐれだ! まぐれに決まってる!」
俺の言葉を遮って、里人は、何度も攻撃を仕掛けてくる。
が、もちろん俺には当たらない。そろそろ、わかってもらえたかな。
俺は、彼の強烈な右ストレートを、手首を掴むことによって、目の前で止めた。
「無駄だ。君は、私には勝てない。これで私が普通の人間ではないと、わかっただろう?」
「うそ……だ……嘘だ嘘だ嘘だ!」
里人は、俺の手を振りほどき、距離を置いた。
「魔神の剣!」
そして、彼はとうとう、剣を抜いた。
「いかん! やめるんじゃ、里人よ!」
長老が止めようとするが、彼は聞く耳を持たない。あれが、ユーリのガジェットの剣と同じ威力なら、俺にとっても油断の出来ない攻撃力を秘めているはずだ。
「リヒト少年。私は、君達と戦いに来たのでも、騙すために来たのでもない。共に地球を守るために来たのだ」
「知るか! ユーリちゃんに……! ユーリちゃんに近づく奴は許さない!!」
やっと、本音が聞けたな。俺も昔、心の底では、たっちゃんに、そう叫び続けていたんだぜ。
「リヒトくん。君の気持ちはよく分かる。私の事を認めたくないのだろう」
俺も最初は、ただ、たっちゃん……内海達也を、恋敵としか見れなかった。けど……
「パープル・ブレード」
腕から飛び出した柄に、紫色の怪しい光が伸びる。
「それならば、私も君に認めてもらえるよう、全身全霊でお相手しよう」
内海達也という男を、知れば知るほど、俺は彼を認めざるを得なかった。彼は、どんな時も、優しく、強く、正しかった。
俺は、たっちゃんに勝てるように、頑張ってきたんだ。ユーリに、相応しい男になるためになー!
「リヒト少年! 私を超えてみろ!」
魔神の剣で、斬り掛かって来る里人。
「メルキオール・マリオネット、発動」
『Ready』
次の瞬間、紫色の光を放つ剣が、魔神の剣を弾き、里人の全身の装甲を一瞬にして剥ぎ取る。
魔神の剣は、床に突き刺さり、レプリカ・ガジェットは、ドムン! という不思議な音を立てて、勾玉の姿に戻った。
「そこまでじゃ!」
長老が右手を挙げると、どこから現れたのか、ウォルナミス人であろう数人に、取り押さえられる里人。暴れることもなく、ただ、俯いて、呆然としている。
「私で良ければ、いつでも相手になろう。だが、何度も言うように、私が君達の味方だという事は、覚えておいて欲しい」
俺の声が届いているのかどうかわからないが、里人は表情も無く、ただ涙を流していた。
ちょっとだけ、昔話をしてもいいかな。
>>>
……神奈川に引っ越してきたばかりの頃の俺は、新しい環境に馴染めずにいた。
「やー! 何してるの?」
「あー、えっと……別に……」
世の中には、チヤホヤされるタイプの転校生と、そうでない転校生がいる。
後者だった俺は、教室の隅で、新しく貰った教科書を、ただ眺めていた。
……そんな俺に、ユーリは話し掛けてくれたんだ。
「だったらさー、こっちへおいでよ! のっさんがね、また、変顔の新作を発表するんだって!」
嬉しかった。
もちろん、聞いたことのないあだ名で、変顔自慢の誰かさんを紹介された事ではないぜー。
自分で勝手に壁を作って、孤立しようとしていた俺を、ユーリは救ってくれたんだ。
「えー! それって、たっちゃん家の近くだよー!」
その日の内に、俺がどこに住んでいるのか聞かれた。
まったく。ラテン系とガテン系を、足して2で割らないタイプの性格は、昔から、面白いほど変わっていないよな。
たっちゃんは忘れてるみたいだけど、実は、俺と、たっちゃん、栗っちが、仲良し3人組になったのも、ユーリの手引きなんだぜー。
「ねえ、たっちゃん! 今日は大ちゃんも一緒に行っていいよね!」
その頃ユーリは、たっちゃんの家に毎日のように遊びに行っていたし、俺も、即日連れて行かれたんだ。〝大ちゃん〟っていうのも、その時ユーリがつけた、あだ名だ。
「僕は内海達也。あの大きな家って九条くん家だったんだね! 明日から、一緒に登校しようよ!」
たっちゃん、結構長い間、俺の事〝九条くん〟って呼んでたよなー。
「もー! たっちゃん! 次に〝九条くん〟って呼んだら、罰ゲームだからねー!」
「なんでだよユーリ!?」
それを強制的に〝大ちゃん〟に変えたのも、ユーリだった。
……で、暫くすれば、ユーリがたっちゃんを好きなんだって、なんと無くわかってしまった。
ショックだった。で、そのショックで、自分がユーリの事を好きだって気付いたんだ。皮肉なもんだよなー。
確かにショックだったんだけど、たっちゃんは……ああ。今思えば、栗っちもだな。なんとなく、普通と違う、ヒロイックな部分とかがあって、不思議と納得したんだ。
「まさか、本当に英雄候補だとは思わなかったけどな?」
俺、こっちに引っ越してくる前は、本当に友達がいなくてな。まあ、俺の能力を理解してくれと言っても、普通の子どもには無理だろうから。
ユーリは、そんな事お構い無しに、俺とたっちゃん、栗っちを繋いでくれたし、おかげでクラスの皆とも、仲良くなれた。そして俺は、どんどんユーリに惹かれて行ったんだ。
>>>
俺の昔語りを聞いてくれてありがとなー。
おっと。時間を食っちまったけど、今は降って湧いたこの状況を、どうにかしないと……
「やー! 里人! 大ちゃんは嘘なんかついてないんだよ!」
ユーリが必死に止めようとしているのは、ユーリの従兄弟の里人。
彼も、ウォルナミスの血を引く者だ。その証拠に、彼らの戦闘衣装である、ウォルナミス・ガジェットの、レプリカを装備している。
その姿は、埴輪にそっくりだ。ずんぐりむっくりで、見ている分には可愛い。
「ユーリちゃんは黙ってて! こいつは一族の敵なんだ!」
しかし、可愛いとか言って、和んでいる余裕はない。
ガジェットを装備した彼らは、人間など一瞬で葬れる程の戦闘力を持っているぜ。
頼むから落ち着いてくれ、里人。
「大ちゃんは、本当に私を助けてくれたんだよ! ガジェットも直せるんだよ!」
ユーリ、説得は有り難いんだけど、俺の腕にしがみついたままだと、彼の怒りは蓄積されていく一方だぜー?
「もう我慢できません! この恥知らずの大嘘を、ボクが暴いてやる! 長老様、どうか、こいつと戦わせて下さい!」
血走った目で、そう言い放つと、里人は俺に向かって戦闘態勢をとる。
「これだけ言ってもまだわからんか! やめいと言うておる!」
声を荒げて制止する長老。
「いいえ、やめません! さあ、覚悟しろ、ペテン師!」
どうやら、彼は怒りで我を忘れているようだ。
長老は、やれやれといった表情を浮かべて、申し訳なさそうに、こちらを見る。
「仕方がない……大作さん。済みませんが、相手をしてやってもらえますか」
俺は、軽くうなずいて、ベルトをリュックから取り出し、腰に巻いた。
「ユーリ、ちょっと離れててくれ」
リュックサックは、もう動力源ではない。
ブルーの欠片が埋め込まれ、そこから無尽蔵に、高濃度のエネルギーが供給されるようになったから、ベルトは単体で稼働するんだ。
ちなみにリュックの中には、おふくろが作ってくれた、今日の昼飯のサンドイッチが詰まっている。
「……変身!」
まばゆい光が辺りを包み、変身が完了した。
「な……! お前、何なんだよ!!」
里人は、俺の変身を見て、驚いている。
聞かれたからには、自己紹介しなくちゃなー。
「私はレッド。地球を守るために戦う、正義の戦士だ」
「やーん! 大ちゃんカッコイイ! 私も守って!!」
ユーリ、色々と拗れるから、静かに見ててくれないかなー。
……ほら見ろ、里人くん、鬼の形相で襲い掛かってきたじゃないか。
「ち、畜生! 死ねえええぇぇぇ!!」
〝死ね〟って言っちゃったなー!
……まあ気持ちはわかるけど。
逆の立場なら、俺だって死に物狂いで戦うぜー。
「自動回避システム、発動」
『Ready』
でも、悪いなー。俺は死ねないし、絶対に負けられない。
突進してきた里人を、難なく躱す。
「なかなかのスピードだが、私には当たらない」
あー、回避システムが無くても、俺、攻撃が見えてるなー。機械仕掛けの神の効果で、俺自身の身体能力も上がってるんだよな。
「避けた?! ふ……普通の人間が、なんでそんなに動けるんだよ!」
「私は普通の人間ではないぞ、リヒト少年。もうやめ……」
「うるさい! まぐれだ! まぐれに決まってる!」
俺の言葉を遮って、里人は、何度も攻撃を仕掛けてくる。
が、もちろん俺には当たらない。そろそろ、わかってもらえたかな。
俺は、彼の強烈な右ストレートを、手首を掴むことによって、目の前で止めた。
「無駄だ。君は、私には勝てない。これで私が普通の人間ではないと、わかっただろう?」
「うそ……だ……嘘だ嘘だ嘘だ!」
里人は、俺の手を振りほどき、距離を置いた。
「魔神の剣!」
そして、彼はとうとう、剣を抜いた。
「いかん! やめるんじゃ、里人よ!」
長老が止めようとするが、彼は聞く耳を持たない。あれが、ユーリのガジェットの剣と同じ威力なら、俺にとっても油断の出来ない攻撃力を秘めているはずだ。
「リヒト少年。私は、君達と戦いに来たのでも、騙すために来たのでもない。共に地球を守るために来たのだ」
「知るか! ユーリちゃんに……! ユーリちゃんに近づく奴は許さない!!」
やっと、本音が聞けたな。俺も昔、心の底では、たっちゃんに、そう叫び続けていたんだぜ。
「リヒトくん。君の気持ちはよく分かる。私の事を認めたくないのだろう」
俺も最初は、ただ、たっちゃん……内海達也を、恋敵としか見れなかった。けど……
「パープル・ブレード」
腕から飛び出した柄に、紫色の怪しい光が伸びる。
「それならば、私も君に認めてもらえるよう、全身全霊でお相手しよう」
内海達也という男を、知れば知るほど、俺は彼を認めざるを得なかった。彼は、どんな時も、優しく、強く、正しかった。
俺は、たっちゃんに勝てるように、頑張ってきたんだ。ユーリに、相応しい男になるためになー!
「リヒト少年! 私を超えてみろ!」
魔神の剣で、斬り掛かって来る里人。
「メルキオール・マリオネット、発動」
『Ready』
次の瞬間、紫色の光を放つ剣が、魔神の剣を弾き、里人の全身の装甲を一瞬にして剥ぎ取る。
魔神の剣は、床に突き刺さり、レプリカ・ガジェットは、ドムン! という不思議な音を立てて、勾玉の姿に戻った。
「そこまでじゃ!」
長老が右手を挙げると、どこから現れたのか、ウォルナミス人であろう数人に、取り押さえられる里人。暴れることもなく、ただ、俯いて、呆然としている。
「私で良ければ、いつでも相手になろう。だが、何度も言うように、私が君達の味方だという事は、覚えておいて欲しい」
俺の声が届いているのかどうかわからないが、里人は表情も無く、ただ涙を流していた。
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