プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

大波神社

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 大波神社おおなみじんじゃ
 ここは、一見、普通の神社のように見えるが、実は太古の昔、ワケあって地球に住み着いた、異星人たちの、活動拠点である。
 ……あ、俺は、九条大作くじょうだいさく。たぶん、地球で一番頭が良い小学生だぜ。

「やー! あの時、私ときょうちゃんを助けてくれたのって、大ちゃんたちだったの?!」

 正月の、誘拐事件の時の話だ。
 この神社の前で、ユーリは、町田鏡華まちだきょうか橋月日奈美はしづきひなみと共に、暴漢に襲われたんだ。

「あー、そうだぜ。たっちゃんが運転して、栗っちが、ナビだったなー」

 ちなみに俺はメカニックだ。ナイスコンビネーションだったぜ。
 ……パッと見は、ヒーローと銀行強盗の仮装をした、ちびっ子3人組だろうけどな。

「やっぱ、大ちゃんたちはすごいなー! これからは私も、一緒に頑張るよー!」

「おう、もちろんだ! みんなで地球を守ろうぜ!」

 大波神社の、長い長い石段を登る。

「大ちゃん! 早く早く!」

「ちょっと待ってくれユーリ」

 お前のペースに合わせるのは、普通の人間には無理だぜ、ひぃふぅ。

「大ちゃん、変身しちゃえばいいのに」

「いや、良くねえよ。神社の階段がキツくて変身するヒーローなんてイヤだろ」

 たっちゃんと藤島さんは、ドイツでベルリン観光らしいけど、その話は、後でゆっくり聞くとして、今回はちょっとだけ、俺とユーリの話に付き合ってくれよな。
 さっき俺は、たっちゃんとブルーに連絡を取った。
 あっちは深夜だけど、たっちゃんもブルーも寝ないから、いつでも応対してくれて助かるぜー。

「大ちゃん! こっち! 長老様は、この奥に居るんだよ」

 ちなみに時差があるので、日本こっちは今、朝の8時だ。
 なぜ俺が大波神社に来ているかというと、さっき、たっちゃんとブルーに、おうかがいを立てた事に関係があるんだ。
 ……俺は昨日、ユーリのお姉さんを安心させるために、修理したばかりのガジェットを見せた。

「やー! それにしても、姉ちゃん、驚いてたなー!」

 そりゃ、驚くよな。扱える技術者もまれな、星間戦争用の装備を、俺みたいな小学生が、修理どころか、劇的に改良してしまったんだから。
 ガジェットの能力は、数十倍に向上させた。まあ、土台が良いから出来たパワーアップなんだけどな。
 そして、それを見たお姉さんが、俺を、一族に紹介したいって事になったんだ。
 俺たちの事は、極秘事項だ。たっちゃんとブルーには、ちゃんと話しとかなきゃな。
 あ、返事はもちろんOKだったぜ。

「でも、取り敢えず今日話すのは、俺の事だけだぜー?」

 たっちゃんや、栗っちの事を説明するのは、また次の機会に、直接みんなで来たときにしよう。

「大ちゃん。もし、反対されたら……私と逃げてくれる?」

「〝反対されたら〟って、ちょっと待て! 〝娘さんを下さい〟って言えってのか? 俺、これから、お前の一族に、協力者になることを、伝えに行くんだぞ?」

「……ちぇ」

「ちぇ、じゃないぜ……まあ、〝娘さんを下さい〟は、いつか必ず言うし、もしお前の一族が反対するようなら、全員を敵に回してでも、かっさらうけどなー」

「にゃうう!! もう我慢できにゃい! いますぐさらって!!」

「何でだよ! ちょっ、耳が出てるって! いま攫ってどうするんだよ!」

「にゃー! 攫ってくれないなら、私が攫う! もう離さにゃい!!」

「痛い痛い! 抱きつくなって!」

 俺、常時、変身してないと、いつかお前に絞め殺されるなー。

「…………おい! お前!」

 ……ん? 誰か呼んだか?
 通路の脇に、俺たちと同い年ぐらいの子どもが立っている。
 明らかに敵意をはらんだ眼差しで、俺をにらんでいるな。

「お前! ユーリちゃんから離れろ! ただの人間のくせに!」

 ……俺に〝ただの人間〟と言うって事は、彼は、ウォルナミス人の末裔だなー。

「悪いけど、離れろっていうのは、ユーリの方に言ってくれ。その方が俺も助かる」

 事実、あと少しで、窒息具合が限界を迎える。
 まあ、ユーリに絞め殺されるなら、まんざら悪くない気もするが。

「聞いたぞ! お前、この前の戦いで〝戦場ボードに立った〟とか言っているらしいな!」

 お姉さんから、既に連絡が来ているみたいだ。そりゃ、一族にしてみたら、大ニュースだもんな。

「ガジェットも修理できるとか、デタラメ言うにも程があるぞ! このペテン師め!」

 〝ペテン師〟って、久し振りに聞いたな。
 ちなみに〝ペテン〟の語源は、中国の方言から来てるんだぜー。

「ユーリちゃん! 騙されないで! 地球人の子どもが、ユーリちゃんを助けたなんて……! その上、ガジェットを修理する技術を持っているなんて、嘘に決まってるよ!」

里人りひと。大ちゃんは、誰も騙したりしないんだよ。大ちゃんはね、スゴいんだ!」

 彼は、リヒトって言うのか。ドイツ語で〝光〟を表す言葉でもあるけど、ユーリはともと、さとだし、お姉さんは、あいさとあいりあいりだった。
 ウォルナミス人の名前には、よく〝里〟という字が使われてるみたいだから、もしかしたら、彼は、さとひとと書くのかもな。

「ユーリちゃん、何を言ってるんだ! そいつ、ただの地球人だろ? 何がどうスゴいんだよ、わけがわからない!」

 それにしても、どうやら、かなり嫌われてしまっているようだなー。
 好きだった親戚の女の子が、急に彼氏を連れて来た、みたいな感じかもな。

「あー、リヒト君。初めまして、俺は九条大作。俺が止まった時間の中で動けるのも、ガジェットを直せるのも、本当の事なんだ。君たち一族の、力になりたいと思っている」

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「まだ言うのか、この泥棒猫! それ以上言うなら、ボクが叩きのめしてやるぞ!」

 〝泥棒猫〟は、一般的に、女性が女性に対して使う言葉だし、たっちゃん風に言うと〝猫はお前だろう〟。

「永い間、地球を守り続けてくれたウォルナミス人を、俺は心から尊敬している。お前と争う気は全く無いぜ」

「ぬかせ! お前のやせ我慢がいつまで続くか、試してやる! ……武装!」

 ポケットから取り出した勾玉まがたまを頭の上にかざすと、里人りひとは一瞬にして、埴輪のような姿になった。
 ……おいおい。ガジェットは、ユーリの持っている物が最後だったはずだが?

「やー! やめて里人りひと! 〝レプリカ・ガジェット〟まで持ち出して……!」

 なるほど。複製品レプリカなのか。たぶん、訓練用とかに、武装部分だけ再現した物だろう。
 生身でもヤバいのに、武装したウォルナミス人に、叩きのめされたりしたら、命にかかわるぞ。
 どうせ死ぬなら、いっそ、さっきユーリに絞め殺されとけばよかったなー。

「……やめい! 里人りひと! そこまでじゃ!」

 通路の奥から、声が響いた。
 ゆっくりと現れたのは、白くて長い髭を生やした、猫耳のお爺さん。

「やー! 長老様!」

 ユーリが叫んだ。
 ……やっぱり長老か。ひと目で、そうだろうと思った。

「長老様! とめないで下さい! この破廉恥はれんちな嘘つきを、懲らしめてやらないと!」

 まてまて。さっきから〝破廉恥な行為〟をしているのはユーリの方だ。
 埴輪の格好をしているせいで、妙にコミカルな里人りひと
 だが、こう見えて、もし俺が生身で、一撃でも攻撃を食らえば〝懲らしめる〟とかいう、優しい表現では収まらない。
 ……俺は、ひとたまりもなく絶命するだろう。

「ならぬ! 控えよ!」

 長老の声に、里人りひとは、唇を噛み、渋々、長老の方に向き直り、ひざまずく。

「九条大作さん。お話は、愛里あいりから聞いております。よくぞお越し下さいました。この者……里人りひとが、大変なご無礼を働き、申し訳ございません」

 長老は、深々と頭を下げた。
 猫耳老人がペコリと頭を下げるさまは、可愛らしいの一言に尽きる。

里人りひと友里ゆうりは、従兄弟いとこ同士で、幼い頃から、兄弟のように仲良くしておりました。此奴こやつも、色々と思う所があるのでしょう。どうか、お許し下さい」

 そうか、従兄弟だったのか。ユーリは誰にでも人気だなー。

「長老様、大ちゃんは優しいから、そんな事は、全然気にしないのさー!」

 俺の腕にしがみついてくるユーリ。ダメだ、空気読め! 腕から手を離せ!
 ……にらんでる。里人りひとくん、無茶苦茶睨んでるんだけど。

「……プチッ」

 おう?!

「……プチプチプチッ!」

 あ、これは、里人りひと堪忍袋かんにんぶくろの緒が切れる音だなー。

 
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