プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

ドイツのマイスターやで

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『タツヤ、アヤカ、見えたぞ』

 ライナルトが指差ゆびさす先に、巨大な石造りの門が見えた。

『ブランデンブルク門ね!』

 彩歌あやかが嬉しそうに言う。
 高さ26メートル、幅は65メートル余り。言わずと知れた、ベルリンのシンボルだ。

『見て! あの、門の上にあるヴィクトリア像は、一度、ナポレオンに奪われて、フランスへ持ち去られたんだよ。その後……』

 ダニロが説明を始めると、それをさえぎるように、ラウラが続けた。

『その後、プロイセンがパリを占領した時に、取り返して、またあの場所に戻されたのよね』

 セリフを奪われて、ちょっとふくれっ面のダニロ。

『で、次は……』

 ウィルヘルム通りを南下。ライプツィガー通りを経て、マウアー通り、フリードリッヒ通りへと抜ける。

『ここが、チェックポイント・チャーリーだ』

 第二次世界大戦後、ベルリンを東西に分けた、境界に設置された国境検問所だ。

『チャーリーっていう人が、検問をしていたの?』

 彩歌あやかの質問に、ライナルトが笑って答える。

『いや、チャーリーっていうのは、A・B・C・D……の、〝C〟を表しているんだよ』

『え?! そうなの?』

 ダニロとハンナが同時に驚く。
 ちょっと自慢げなライナルトだが、その情報、いま背中に隠した、ガイドブックに載ってたんだろう?

『Aはアルファ、Bがブラボー、そしてCがチャーリー。って事で、ここは、チェックポイントCというわけさ』

 ああ! なるほど。映画で、よく軍人さんとかが使ってるアレか。
 説明がうまいな、ライナルト。ガイドで食っていけるぞ。

『この検問所も、冷戦の象徴として、すごく有名だ。今でこそ、見ての通り自由に往来が出来るけど、東西が分断されていた頃は、下手をすれば命を奪われる程の〝恐ろしい場所〟だったんだ』

 もちろん、その時代を若い4人は体験していない。
 しかし、確かに実在したのだ。しかも、下手をすれば手が届いてしまうほどの〝近い過去〟に。

『……にしても、腹減ったんだけど。昼飯はどこの予定なんだ? ライナルト』

 ダニロが、空腹を体全体で表現している。朝から歩きっぱなしだしな。

『私もおなかいちゃった! ね、ハンナ、アヤカ!』

『うん。ペコペコー!』

『実は、私も! 昨日から携帯食しか食べてないの』

 女子チームも、ダニロの意見に乗っかる。
 僕は元々〝摂食不要せっしょくふよう〟のおかげで空腹という感覚は無いんだけど、ドイツ料理は楽しみだ。
 昨日は、結局食いっぱぐれたし、リュックに詰めてきたバランス栄養食 (固形)も、昨日の夜と今朝、彩歌が食べた分で底をついた。

『ふふっ。このライナルト様に抜かりは無いぜ! ついて来い!』

 ライナルトの案内で20分ほど歩くと、左右に小さな食堂やレストランが立ち並ぶ通りに差し掛かる。

『じゃーん! ここだ!』

 白い看板の店の前で足を止めるライナルト。
 看板には、〝Japanis Sushi aus Meisterhand〟の文字が。
 ……おいおい、ブルーの翻訳無しでも読めるぞ。

『やったー! さすがライナルト!』

『ふふん。やっぱ、日本人といえばこれ一択だろ!』

 寿司屋すしやだ! いや、嫌いじゃないけどさ!
 アレか、ホームステイに来た米国アメリカ人に、連日ステーキを出してしまう、みたいなヤツか!

『スシ、おいしいよね!』

『ここはベルリンでは、結構有名な店なんだぜ!』

 盛り上がるドイツ組。
 そう。実はヨーロッパでは、寿司が大人気で超ポピュラーだったりするのだ。正月に買ったガイドブックで見たぞ。
 ……でも彩歌さん、ここまで来て寿司ってどうなのさ?

『お寿司屋さん? すごい! 私、初めてよ!』

 彩歌も、まさかの好感触。そうか、魔界に寿司はなかったか。
 ……だがちょっと待て。初めての寿司がドイツ製で良いのか?!

『高いんでしょう?』

『ところがこの店、本格的なのにリーズナブルなんだって』

『すごいわ。さすがライナルトね』

 えっと……この盛り上がりを止める力は、僕には無さそうだ。こうなったら、土産話のネタにするか……大ちゃんに大爆笑されそうだよな。

『寿司だけにネタにするか……さすがだな、タツヤ』

『いやいやいや。無理に感心して、スベったみたいにしないでくれブルー』

『そこに気付いてしまうのがタツヤの悪い所だ』

『やっぱりワザとじゃないか……っていうか、悪い所ってどういう事だよ!』

 ライナルト率いるスシ肯定派が、勇んで〝職人が握る寿司店〟に入っていく。僕も内心、ヤレヤレと思いながら、後に続く。だって、この斜め向かいの店とか、すっごい良い感じのレストランだし。

『彩歌は喜んでるみたいだよ。ここは黙って、生魚をライスに貼り付けた料理をむさぼれ、達也』

 彩歌の頭の上から嬉しそうに、イヤな表現で追い打ちをかけるルナ。貼り付けたって言うな。マイスターに、つまみ出されるぞ?

『いらっしゃい、6名さんだね』

 その、マイスターらしき人物が、カウンター越しに応対してくれた。あ、あれ?

「……おっと、そっちの2人は、もしかして日本人か?」

 これは失礼。〝マイスター〟じゃなくて〝大将〟だったみたいだ。
 黒髪に黒い瞳。そして自然な日本語。というか関西弁。間違いなく日本人だな。

「はい。そうです」

 僕が答えると、彩歌も、にっこり微笑んでうなずく。
 大将は、僕たちを奥のテーブル席に案内してくれた。

『ほら、ここに。〝日本人が握る本格的なスシ店〟って書いてある』

 ライナルトがガイドブックをテーブルに広げて指差した。
 結局、この店もその本に載ってたんだな。ギザギザ吹き出しに、〝Empfohlenおすすめ〟と書いてある。

「坊っちゃん、嬢ちゃん、どこから来たん?」

「神奈川です」

 あと、厳密に言えば魔界。

「ほー! がいな都会モンやな!」

 ん……? この言い回し、大阪とか京都じゃない。もっと聞き慣れたヤツだ。もしかして。

おいやんおじさん、和歌山ちゃうじゃない?」

なんやなんだ知っちゃあるんかしっているのか! 和歌山の有田ちゅうとこやでというところだよ?」

 驚いた。有田といえば、おばあちゃんの故郷だ。

ほんまにほんとうに?! うちのおばあちゃんも有田やでです! おいやんおじさん、有田のどこやんのどこですか?」

わえはなぁわたしはね……」

 ……なんと、おばあちゃんの実家の隣町だった。

『いけないタツヤ、もしキミのおばあちゃんと知り合いだったら、大変な事になる』

『そうだな。興味は尽きないけど……』

 これ以上話すと、色んな意味でマズいので、なんとか話を切り上げた。大将も、丁度お客さんが入り始めたので、僕たちに構っていられなくなったし。

『ビックリしたな! まさかマスターが日本人で、しかもタツヤのおばあさんの実家の、隣町の人だなんて!』

『タツヤ、君のおばあちゃんは、パンチで地震を起こせるのかい?』

『いやいや。僕以外は、家族みんな普通の人間だよ』

 妹が、ちょっと人間離れしてきた気がするが、気のせいという事にしておこう。

『だからこそ、昨日も言ったように、絶対に僕の事は、誰にも知られちゃいけないんだ』

 家族を人質に取られる……か。正直、ゾッとする。

『大丈夫。2人の事は、絶対誰にも言わないからね!』

 そう言って、うなずき合う4人。
 そしてこのタイミングで、お待ちかねの寿司が運ばれて来る。

『うわ! なんだ?!』

『すごい……! こんなおスシ、見たことないわ!』

 マグロ、イカ、タコ、ハマチ、サーモン、うに、いくら、トロ、うなぎ……あれあれあれ? 大将、ちょっと豪華過ぎやしません?

「はっはー! ちょっとやけど、サービスや! 遠慮せんと食べな!」

「ほんとに?! ありがとう!」

『え? 何? なんて言ったの?』

『サービスしてくれたって。やったな、みんな!』

『うおおお! タツヤ! ナイス!』

『本物のおスシってこんなに綺麗なのね!』

『達也さん、早く食べましょうよ!』

 みんな、ラッキーだったな! 僕のおかげだぞ?
 ……なんてね。ここはむしろ〝おばあちゃんありがとう〟だよな。

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