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5年生 3学期 2月
魔界へ
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「たぶん、魔界では変身できないから用意しといたぜ」
大ちゃんが、彩歌に〝ロッド〟と〝マント〟を手渡す。
これらは普通、変身した時に、一緒に転送されるのだが、魔界は〝転送先〟に設定できない可能性があるらしい。
「ありがとう、九条くん!」
ちなみに、彩歌がいま被っている〝いかにも魔道士〟って感じのとんがり帽子は、彩歌の自前で、なかなか高級な逸品だそうだ。
「地球上なら、地下だろうが成層圏だろうが転送できるんだけどなー。魔界とか異世界とか……要は、地図で〝ここだ〟って指定できないような場所では、ユーリ以外、変身できないぜー」
そっか。ユーリはガジェットで変身するから、もともと転送装置は必要ないんだ。
「あとさ、これ、色々と詰め込んどいたから、中身確認しといてくれよなー?」
バックパックを手渡された。
先月、ちょっと遠くの商店街で買ったアレだ。
中身は、救急箱、懐中電灯、携帯食料、固形燃料、ライター、水、ナイフ、ビニールシート、他にも色々と……ん? これは。
「あー、それは、催眠ガスの詰まったカプセルだ。投擲すれば、結構な範囲に広がると思うぜ。10分ぐらいしか効かないけどなー」
ああ、マラソン大会の時に、ダーク・ソサイエティが使った薬品か!
「かさばるから、そこには3個しか入れてないけど、彩歌さんのマントの肩パッドにも、左右一個ずつ仕込んでおいた。時計と反対に回せば外れるからな」
さすがだ大ちゃん。頼りになるな。
「助かるよ、大ちゃん。それじゃ、行ってくる!」
「おう! なんか面白そうな物を見つけたら、ゲットして来てくれよな!」
「えへへ。たっちゃん、彩歌さん、頑張ってね! 次は僕も連れて行ってね!」
「お兄ちゃん、彩歌さんに変な事しちゃだめよ!」
「やー! たっちゃん、アヤちゃん、気をつけてね?」
「うん、ありがとう! 必ず、時券を見つけて来るから!」
>>>
今日、僕と彩歌は魔界へと旅立つ。
目的は、時券の効果を持つ魔法か、アイテムだ。
『タツヤ、急ごう。好奇心が爆発しそうだ』
「今はやめてくれ。バスガスバクハツを実体験は、したくない」
魔界のゲートを目指して、電車とバスで40分ほど移動した。
ゴルフ場に併設された公園の一角にある、無骨なコンクリート製の建物の中。ドイツで見たのとよく似たデザインの〝扉〟があった。
「これが、魔道士の管理している門よ」
彩歌が、建物入口の扉を閉めながら言う。
「門番とかは、居ないんだね」
それどころか、入り口の扉に、鍵すら掛かっていない。
「魔力のない人は、この部屋に入れない仕組みなの。万が一入れても、魔力のない者が門に近づけば、少し痛い目を見て、外に放り出されるわ」
そういえば前に聞いたな。
確か、魔力が無いと、軽いダメージを受けて、拒絶されるとかなんとか。
「達也さん、もう一度おさらいね。城塞都市では、私から離れないで。もし、部外者が魔界に入り込んだとわかれば、大騒ぎになるから」
いきなり地下牢へ。
……とかも有り得るらしい。
地下牢って本当にあるんだな。
ちょっと入ってみたい気もするぞ?
「私のコネで、身分証を偽ぞ……作るまでは、目立たないようにして欲しいの。くれぐれも、地下牢に入ってみたいとか思わないで?」
……偽造なんだな、身分証。
地下牢の件も読まれてるし。仕方がない。大人しくしていようっと。
「ちょっと綺麗すぎるけど、その格好なら怪しまれないと思う」
僕の服装は、文化祭の劇で使った魔法使いの衣装だ。同級生の暁雄に、頼み込んで借りてきた。
彼の演じた魔法使いはコミカルで、主役より目立っていた。
おかげで、シリアスなはずのクライマックスが、大爆笑で終わったんだっけ。
「達也さんの衣装でも、怪しまれないと思うんだけど……」
「やだよ! なんでお姫様の格好しなきゃならないんだよ!」
「……かわいいのに」
いやいや。アルバム見て大爆笑してたじゃんか!
……あれ? 笑ってたの、ユーリと妹だっけ?
『アヤカは、うっとりと見入っていたぞ、タツヤ』
「だって、かわいかったんだもん」
「そんなに?!」
そういえば確か、あの後、ラブレターが2通ほど届いた記憶が。
……男子からだけど。
思い出したくないから、早く行こう。
「パズズさ、心当たり、あるんだよな?」
『……主よ。私の知る〝時〟に関わりのある品は4つ。どれも、伝説級の秘宝です』
〝砂抜きされた砂時計〟
いつ、何のために、誰が作ったのかは分からない。
何の変哲もない、砂の入っていない砂時計だが、上下逆さにした者の寿命と引き換えに、時を止めると言われている。
上下を元に戻しても、効果は継続される。
やがて使用者の寿命が尽きれば、時は動き始める。
〝時の天秤〟
右の皿に金貨を3枚、左の皿に自分の体の一部を乗せ、釣り合えば、時間を自由に出来る力を得る。
ただし、3度試して釣り合わなければ、右の皿の金貨と、左の皿に乗せた部分以外の肉体を奪われる。
〝卵と雛と何かの像〟
ブロンズ製の像。見る者によって、姿が変わる。
卵に見えるものには死を、雛に見えるものには病を与える。
それ以外の〝何か〟に見える者には、それが何かを答える事が出来れば、時を自由に行き来する力を。
答えられなければ、その〝何か〟そのものを与えると言われている。
〝モース・ギョネ〟
古い書物に、記録だけが残っている。
見れば死ぬ、触れれば死ぬが、それを前にして〝モース・ギョネを得たり〟と唱えれば、その者は時間と空間を支配できると言われている存在。
形状等は一切不明。
ただし、目の前にモース・ギョネが無い状態で、その言葉を唱えると、得体の知れない者が現れ、どこかに連れ去られてしまうという。
『……主よ。どれから探索しますか?』
「どれも怖いよ! もっと安全なやつは無いのか?!」
……大体、死ぬじゃんか! 軒並み呪いのアイテムだろ?
っていうか、最後のなんて、得体が知れなさすぎて、即リストから外すぞ、普通。
『そう申されましても……』
「達也さん。とにかく、情報収集から始めましょう。他にも何か手がかりが見つかるかもしれないし……」
『タツヤ、キミは無敵の存在だし、アヤカもそれに次ぐ能力を持っている。ある程度マイナス効果の付いたアイテムでも、キミ達なら何とかなるかもしれないよ?』
あ、そっか。彩歌は不老だし、僕は地球と同じ頑丈さだ。
「そうだな。色々考えてても仕方ないよな。行こうか!」
急がないと、ブルーの好奇心が暴発して生き埋めになるかもしれない。
僕と彩歌は、魔界のゲートをくぐった。
「彩歌さん。城塞都市側には、門番は居ないのかな?」
「……達也さん。ごめんなさい、すっかり忘れていたわ」
えっと……嫌な予感がするんですが。
「向こう側に、門番が居るわね。身分証を求められるかも……」
彩歌が襲われた〝あの事件〟以降、城塞都市側に門番が立つ事になった事を忘れていたらしい。
「ええっ?! ど……どうしよう、彩歌さん!」
と、言いつつ目をやると、彩歌はマントの右肩の飾りを、時計と反対に回している。ああ。やっぱり強硬手段で行くのね。
大ちゃんが、彩歌に〝ロッド〟と〝マント〟を手渡す。
これらは普通、変身した時に、一緒に転送されるのだが、魔界は〝転送先〟に設定できない可能性があるらしい。
「ありがとう、九条くん!」
ちなみに、彩歌がいま被っている〝いかにも魔道士〟って感じのとんがり帽子は、彩歌の自前で、なかなか高級な逸品だそうだ。
「地球上なら、地下だろうが成層圏だろうが転送できるんだけどなー。魔界とか異世界とか……要は、地図で〝ここだ〟って指定できないような場所では、ユーリ以外、変身できないぜー」
そっか。ユーリはガジェットで変身するから、もともと転送装置は必要ないんだ。
「あとさ、これ、色々と詰め込んどいたから、中身確認しといてくれよなー?」
バックパックを手渡された。
先月、ちょっと遠くの商店街で買ったアレだ。
中身は、救急箱、懐中電灯、携帯食料、固形燃料、ライター、水、ナイフ、ビニールシート、他にも色々と……ん? これは。
「あー、それは、催眠ガスの詰まったカプセルだ。投擲すれば、結構な範囲に広がると思うぜ。10分ぐらいしか効かないけどなー」
ああ、マラソン大会の時に、ダーク・ソサイエティが使った薬品か!
「かさばるから、そこには3個しか入れてないけど、彩歌さんのマントの肩パッドにも、左右一個ずつ仕込んでおいた。時計と反対に回せば外れるからな」
さすがだ大ちゃん。頼りになるな。
「助かるよ、大ちゃん。それじゃ、行ってくる!」
「おう! なんか面白そうな物を見つけたら、ゲットして来てくれよな!」
「えへへ。たっちゃん、彩歌さん、頑張ってね! 次は僕も連れて行ってね!」
「お兄ちゃん、彩歌さんに変な事しちゃだめよ!」
「やー! たっちゃん、アヤちゃん、気をつけてね?」
「うん、ありがとう! 必ず、時券を見つけて来るから!」
>>>
今日、僕と彩歌は魔界へと旅立つ。
目的は、時券の効果を持つ魔法か、アイテムだ。
『タツヤ、急ごう。好奇心が爆発しそうだ』
「今はやめてくれ。バスガスバクハツを実体験は、したくない」
魔界のゲートを目指して、電車とバスで40分ほど移動した。
ゴルフ場に併設された公園の一角にある、無骨なコンクリート製の建物の中。ドイツで見たのとよく似たデザインの〝扉〟があった。
「これが、魔道士の管理している門よ」
彩歌が、建物入口の扉を閉めながら言う。
「門番とかは、居ないんだね」
それどころか、入り口の扉に、鍵すら掛かっていない。
「魔力のない人は、この部屋に入れない仕組みなの。万が一入れても、魔力のない者が門に近づけば、少し痛い目を見て、外に放り出されるわ」
そういえば前に聞いたな。
確か、魔力が無いと、軽いダメージを受けて、拒絶されるとかなんとか。
「達也さん、もう一度おさらいね。城塞都市では、私から離れないで。もし、部外者が魔界に入り込んだとわかれば、大騒ぎになるから」
いきなり地下牢へ。
……とかも有り得るらしい。
地下牢って本当にあるんだな。
ちょっと入ってみたい気もするぞ?
「私のコネで、身分証を偽ぞ……作るまでは、目立たないようにして欲しいの。くれぐれも、地下牢に入ってみたいとか思わないで?」
……偽造なんだな、身分証。
地下牢の件も読まれてるし。仕方がない。大人しくしていようっと。
「ちょっと綺麗すぎるけど、その格好なら怪しまれないと思う」
僕の服装は、文化祭の劇で使った魔法使いの衣装だ。同級生の暁雄に、頼み込んで借りてきた。
彼の演じた魔法使いはコミカルで、主役より目立っていた。
おかげで、シリアスなはずのクライマックスが、大爆笑で終わったんだっけ。
「達也さんの衣装でも、怪しまれないと思うんだけど……」
「やだよ! なんでお姫様の格好しなきゃならないんだよ!」
「……かわいいのに」
いやいや。アルバム見て大爆笑してたじゃんか!
……あれ? 笑ってたの、ユーリと妹だっけ?
『アヤカは、うっとりと見入っていたぞ、タツヤ』
「だって、かわいかったんだもん」
「そんなに?!」
そういえば確か、あの後、ラブレターが2通ほど届いた記憶が。
……男子からだけど。
思い出したくないから、早く行こう。
「パズズさ、心当たり、あるんだよな?」
『……主よ。私の知る〝時〟に関わりのある品は4つ。どれも、伝説級の秘宝です』
〝砂抜きされた砂時計〟
いつ、何のために、誰が作ったのかは分からない。
何の変哲もない、砂の入っていない砂時計だが、上下逆さにした者の寿命と引き換えに、時を止めると言われている。
上下を元に戻しても、効果は継続される。
やがて使用者の寿命が尽きれば、時は動き始める。
〝時の天秤〟
右の皿に金貨を3枚、左の皿に自分の体の一部を乗せ、釣り合えば、時間を自由に出来る力を得る。
ただし、3度試して釣り合わなければ、右の皿の金貨と、左の皿に乗せた部分以外の肉体を奪われる。
〝卵と雛と何かの像〟
ブロンズ製の像。見る者によって、姿が変わる。
卵に見えるものには死を、雛に見えるものには病を与える。
それ以外の〝何か〟に見える者には、それが何かを答える事が出来れば、時を自由に行き来する力を。
答えられなければ、その〝何か〟そのものを与えると言われている。
〝モース・ギョネ〟
古い書物に、記録だけが残っている。
見れば死ぬ、触れれば死ぬが、それを前にして〝モース・ギョネを得たり〟と唱えれば、その者は時間と空間を支配できると言われている存在。
形状等は一切不明。
ただし、目の前にモース・ギョネが無い状態で、その言葉を唱えると、得体の知れない者が現れ、どこかに連れ去られてしまうという。
『……主よ。どれから探索しますか?』
「どれも怖いよ! もっと安全なやつは無いのか?!」
……大体、死ぬじゃんか! 軒並み呪いのアイテムだろ?
っていうか、最後のなんて、得体が知れなさすぎて、即リストから外すぞ、普通。
『そう申されましても……』
「達也さん。とにかく、情報収集から始めましょう。他にも何か手がかりが見つかるかもしれないし……」
『タツヤ、キミは無敵の存在だし、アヤカもそれに次ぐ能力を持っている。ある程度マイナス効果の付いたアイテムでも、キミ達なら何とかなるかもしれないよ?』
あ、そっか。彩歌は不老だし、僕は地球と同じ頑丈さだ。
「そうだな。色々考えてても仕方ないよな。行こうか!」
急がないと、ブルーの好奇心が暴発して生き埋めになるかもしれない。
僕と彩歌は、魔界のゲートをくぐった。
「彩歌さん。城塞都市側には、門番は居ないのかな?」
「……達也さん。ごめんなさい、すっかり忘れていたわ」
えっと……嫌な予感がするんですが。
「向こう側に、門番が居るわね。身分証を求められるかも……」
彩歌が襲われた〝あの事件〟以降、城塞都市側に門番が立つ事になった事を忘れていたらしい。
「ええっ?! ど……どうしよう、彩歌さん!」
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