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5年生 3学期 2月
尾行猫
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門を抜けると、そこそこ広い空間に出た。
赤茶けた壁と天井。
大ちゃん特製の催眠カプセルを片手に、彩歌が少し驚いたような表情で周囲を見回す。
「……え? なんで門番がいないの?」
2人1組、24時間体制で、この部屋を警備しているはずの門番の姿がないらしい。
彩歌はキョロキョロと辺りの様子を伺っている。
「ブルー、人の気配は?」
『半径1キロ以内に、人間は6人。この部屋と隣接する4つの小部屋、そして廊下には、生物は居ないよ』
あらら、ちょっと手薄過ぎないか?
「おかしいわ……」
「あれじゃない? もう何日も大丈夫だったから〝平常運転〟に戻したとか」
大晦日に、彩歌が襲われてから一ヶ月半。
……あ、あれ? まだ一ヵ月半?
色々と起き過ぎて、ずいぶん昔の事のように思えてしまうな。
「平常運転? ……そうかもしれないわ。とにかく、そっとここを出ましょう」
ちょっと腑に落ちない感じの彩歌。まあ、何事も無く先に進めるなら有り難い。
僕達は、ゲートのある部屋を出て、廊下を早足で歩く。
「あの階段よ」
石造りの、上へと続く階段。かなり上った先に、分厚い扉がある。
「通常なら、この扉の向こうには、見張りが2人居るはずなんだけど……」
『アヤカ。誰も居ないぞ?』
どうなっているんだ?
まあ、僕たちにとっては超ラッキーなんだけど。
「何か、様子がおかしいわね……」
『彩歌、彩歌。ちょっといいかな?』
彩歌のとんがり帽子の中から声がした。
ルナ、お前ずっとその中に居たのか。
……どうやって、その狭い帽子の中に入ってるんだ?
「なあに? ルナ」
『ちょっと気になって門を調べたんだけど、僕たちが通るより1時間13分前に、あの門をこっちからあっちに向けて、悪魔が3体、通った記録が残ってるよ』
「……なっ!?」
『しかも、その悪魔の所持品に〝死んで間もない人間〟が5つとある』
「達也さん!」
青ざめる彩歌。悪魔が門を通った?! しかも3匹も!
「引き返しましょう! 向こうの世界が大変な事になるわ!」
「待って彩歌さん。これはある意味チャンスだ。このまま行こう」
門番たちは、悪魔に殺されたのだろう。
気の毒ではあるが、このまま誰にも見つからずに城塞都市に入れるなら有り難い。
「駄目! 悪魔を野放しには出来ないわ!」
彩歌は悪魔の事になると、目の色が変わる。
……まあ、仲間を殺されたり、自分が殺されそうになったら、そうなるよな。
「大丈夫。野放しになんかしないから」
僕は右手に力をを込めた。
『……栗っち、大ちゃん、聞こえる?』
『おー! 聞こえるぜ。あと、ユー……』
『ふっふっふ! ユーリちゃんもいるよ! たっちゃん、もう魔界なのん?』
『えへへー。僕も聞こえてるよ』
よし、全員いた。
『悪魔が3匹、そっちに行ったみたいなんだ。なんとかできる?』
「ちょっと達也さん! 危険だわ。悪魔は恐ろしい奴らよ?」
栗っち、大ちゃん、ユーリは、悪魔と戦ったことがない。彩歌が不安になるのはわかる。
「大丈夫。あの3人は強いよ。正月に出くわした程度の悪魔なら相手にもならないだろう」
今はまだ、悪魔が門番たちを殺してゲートを通った事に誰も気付いていないはずだ。
もし僕と彩歌が一旦引き返している内に、こっちで騒ぎになったら、次にここを通過するのは、かなり苦労するだろう。
「でも達也さん。悪魔には魔法と呪いがあるわ。未知の魔法道具を持っているかも知れないし……」
『あー、やっぱあいつが悪魔か。とりあえず1匹、仕留めたぜー?』
え?
『トドメは僕が刺したから、呪いの心配はしなくても大丈夫だよ?』
ええ?
『ね! ね! 私の言った通りでしょ? やっぱりアレ、悪魔だったんだよー!』
えええ?!
『だからって、笑顔で殴りかかるなよなー? 無関係の善良な生き物かもしれないだろー?』
ええええ?!
『えへへ。あんなに邪悪なデザインの〝善良な生き物〟は、いないと思う……それにしても、弱かったよね!』
えええええっ?!
『という事で、いま俺たち、逃げた2匹を追ってるんだ。少なくとも1匹は生け捕りにしたいぜー』
『マジか?!』
仕事が早い! というか、有能過ぎて怖いな。でも……
『3人とも、どうやって悪魔を見つけたの? あなたたち、達也さんと私が出発した時、地下室に居たわよね?』
そうだよ。魔界のゲートからウチの町って、かなり距離があるだろ。
『やー! えっと……そう! たまたまなんだよ、たまたま近くを通りかかってさー!』
笑っちゃうほど分かりやすい……嘘をついているな、ユーリ。
『ユーリ。後をつけてきたな?』
『いやいやいや、やははー』
『友里さん、そうなの?』
『……ゴメン! たっちゃんとアヤちゃんの、アツアツでラブラブな様子を見たかったんだよー!』
やっぱりか! 全く気付かなかった!
でも、待てよ? という事は……
『ブルー。お前、気付いてただろう?』
僕と彩歌を観察できるような距離に居たなら、ブルーの感知に引っ掛からないわけがない。
『もちろん気付いていた。なかなか面白かったよ?』
ほらね。そして更には、大ちゃんと栗っちも共犯なのか……?
『あー、俺はほら、止めたんだぜー?』
『僕もやめようって言ったんだよ?』
大ちゃんは他人のラブラブなんて興味ないだろうし、栗っちは見ようと思えば、千里眼でいくらでも見れるか……やっぱりユーリが主犯だな。
『ユーリ、帰ったらちょっと話がある。首を洗って待ってろ』
『や?! やあぁぁ……許して、たっちゃん……』
猫なで声で言っても駄目だ。なんで仲間に尾行されなきゃいけないんだよ?
……確かにそのおかげで、悪魔を何とか出来そうなんだけどさ。
『よし、それじゃ、残り2匹の悪魔を倒してくれたら大幅に減刑するから、そっちは頼んだぞ!』
『やったー! お安い御用だよ! ユーリちゃんにまっかせなさーい!!』
急に元気になるユーリ。
……おいおい気をつけろよ。そういう風に調子に乗ると、痛い目を見るぞ?
『それじゃ、みんな、悪魔退治をお願いします。くれぐれも気を付けて?』
『えへへ。たっちゃんと彩歌さんも、気をつけてね』
『あー、面白そうな物は、全部持って帰ってきてくれよなー?』
『やー! 2人とも頑張ってー!』
良かった。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなりそうだ。
「達也さん。急いで! ここを抜ければ、もう外よ」
「いよいよ魔界の城塞都市か!」
『楽しみだな、タツヤ。もうそろそろ爆発しても良いだろうか』
なんでだよ?! ただのテロじゃないか!
……お前もう、爆発が目的になってないか?
「この扉を出たら、なるべく目を伏せて、私についてきて。あ、フードは被ったまま、外さないでね?」
彩歌は、催眠カプセルを肩に戻しながら真剣な表情で言う。
……地下牢行きって、そんなにヤバイのかな。
ああ、早く身分証を手に入れて、大手を振って、魔界を散策したいなあ。
赤茶けた壁と天井。
大ちゃん特製の催眠カプセルを片手に、彩歌が少し驚いたような表情で周囲を見回す。
「……え? なんで門番がいないの?」
2人1組、24時間体制で、この部屋を警備しているはずの門番の姿がないらしい。
彩歌はキョロキョロと辺りの様子を伺っている。
「ブルー、人の気配は?」
『半径1キロ以内に、人間は6人。この部屋と隣接する4つの小部屋、そして廊下には、生物は居ないよ』
あらら、ちょっと手薄過ぎないか?
「おかしいわ……」
「あれじゃない? もう何日も大丈夫だったから〝平常運転〟に戻したとか」
大晦日に、彩歌が襲われてから一ヶ月半。
……あ、あれ? まだ一ヵ月半?
色々と起き過ぎて、ずいぶん昔の事のように思えてしまうな。
「平常運転? ……そうかもしれないわ。とにかく、そっとここを出ましょう」
ちょっと腑に落ちない感じの彩歌。まあ、何事も無く先に進めるなら有り難い。
僕達は、ゲートのある部屋を出て、廊下を早足で歩く。
「あの階段よ」
石造りの、上へと続く階段。かなり上った先に、分厚い扉がある。
「通常なら、この扉の向こうには、見張りが2人居るはずなんだけど……」
『アヤカ。誰も居ないぞ?』
どうなっているんだ?
まあ、僕たちにとっては超ラッキーなんだけど。
「何か、様子がおかしいわね……」
『彩歌、彩歌。ちょっといいかな?』
彩歌のとんがり帽子の中から声がした。
ルナ、お前ずっとその中に居たのか。
……どうやって、その狭い帽子の中に入ってるんだ?
「なあに? ルナ」
『ちょっと気になって門を調べたんだけど、僕たちが通るより1時間13分前に、あの門をこっちからあっちに向けて、悪魔が3体、通った記録が残ってるよ』
「……なっ!?」
『しかも、その悪魔の所持品に〝死んで間もない人間〟が5つとある』
「達也さん!」
青ざめる彩歌。悪魔が門を通った?! しかも3匹も!
「引き返しましょう! 向こうの世界が大変な事になるわ!」
「待って彩歌さん。これはある意味チャンスだ。このまま行こう」
門番たちは、悪魔に殺されたのだろう。
気の毒ではあるが、このまま誰にも見つからずに城塞都市に入れるなら有り難い。
「駄目! 悪魔を野放しには出来ないわ!」
彩歌は悪魔の事になると、目の色が変わる。
……まあ、仲間を殺されたり、自分が殺されそうになったら、そうなるよな。
「大丈夫。野放しになんかしないから」
僕は右手に力をを込めた。
『……栗っち、大ちゃん、聞こえる?』
『おー! 聞こえるぜ。あと、ユー……』
『ふっふっふ! ユーリちゃんもいるよ! たっちゃん、もう魔界なのん?』
『えへへー。僕も聞こえてるよ』
よし、全員いた。
『悪魔が3匹、そっちに行ったみたいなんだ。なんとかできる?』
「ちょっと達也さん! 危険だわ。悪魔は恐ろしい奴らよ?」
栗っち、大ちゃん、ユーリは、悪魔と戦ったことがない。彩歌が不安になるのはわかる。
「大丈夫。あの3人は強いよ。正月に出くわした程度の悪魔なら相手にもならないだろう」
今はまだ、悪魔が門番たちを殺してゲートを通った事に誰も気付いていないはずだ。
もし僕と彩歌が一旦引き返している内に、こっちで騒ぎになったら、次にここを通過するのは、かなり苦労するだろう。
「でも達也さん。悪魔には魔法と呪いがあるわ。未知の魔法道具を持っているかも知れないし……」
『あー、やっぱあいつが悪魔か。とりあえず1匹、仕留めたぜー?』
え?
『トドメは僕が刺したから、呪いの心配はしなくても大丈夫だよ?』
ええ?
『ね! ね! 私の言った通りでしょ? やっぱりアレ、悪魔だったんだよー!』
えええ?!
『だからって、笑顔で殴りかかるなよなー? 無関係の善良な生き物かもしれないだろー?』
ええええ?!
『えへへ。あんなに邪悪なデザインの〝善良な生き物〟は、いないと思う……それにしても、弱かったよね!』
えええええっ?!
『という事で、いま俺たち、逃げた2匹を追ってるんだ。少なくとも1匹は生け捕りにしたいぜー』
『マジか?!』
仕事が早い! というか、有能過ぎて怖いな。でも……
『3人とも、どうやって悪魔を見つけたの? あなたたち、達也さんと私が出発した時、地下室に居たわよね?』
そうだよ。魔界のゲートからウチの町って、かなり距離があるだろ。
『やー! えっと……そう! たまたまなんだよ、たまたま近くを通りかかってさー!』
笑っちゃうほど分かりやすい……嘘をついているな、ユーリ。
『ユーリ。後をつけてきたな?』
『いやいやいや、やははー』
『友里さん、そうなの?』
『……ゴメン! たっちゃんとアヤちゃんの、アツアツでラブラブな様子を見たかったんだよー!』
やっぱりか! 全く気付かなかった!
でも、待てよ? という事は……
『ブルー。お前、気付いてただろう?』
僕と彩歌を観察できるような距離に居たなら、ブルーの感知に引っ掛からないわけがない。
『もちろん気付いていた。なかなか面白かったよ?』
ほらね。そして更には、大ちゃんと栗っちも共犯なのか……?
『あー、俺はほら、止めたんだぜー?』
『僕もやめようって言ったんだよ?』
大ちゃんは他人のラブラブなんて興味ないだろうし、栗っちは見ようと思えば、千里眼でいくらでも見れるか……やっぱりユーリが主犯だな。
『ユーリ、帰ったらちょっと話がある。首を洗って待ってろ』
『や?! やあぁぁ……許して、たっちゃん……』
猫なで声で言っても駄目だ。なんで仲間に尾行されなきゃいけないんだよ?
……確かにそのおかげで、悪魔を何とか出来そうなんだけどさ。
『よし、それじゃ、残り2匹の悪魔を倒してくれたら大幅に減刑するから、そっちは頼んだぞ!』
『やったー! お安い御用だよ! ユーリちゃんにまっかせなさーい!!』
急に元気になるユーリ。
……おいおい気をつけろよ。そういう風に調子に乗ると、痛い目を見るぞ?
『それじゃ、みんな、悪魔退治をお願いします。くれぐれも気を付けて?』
『えへへ。たっちゃんと彩歌さんも、気をつけてね』
『あー、面白そうな物は、全部持って帰ってきてくれよなー?』
『やー! 2人とも頑張ってー!』
良かった。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなりそうだ。
「達也さん。急いで! ここを抜ければ、もう外よ」
「いよいよ魔界の城塞都市か!」
『楽しみだな、タツヤ。もうそろそろ爆発しても良いだろうか』
なんでだよ?! ただのテロじゃないか!
……お前もう、爆発が目的になってないか?
「この扉を出たら、なるべく目を伏せて、私についてきて。あ、フードは被ったまま、外さないでね?」
彩歌は、催眠カプセルを肩に戻しながら真剣な表情で言う。
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