プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 2月

遅れて来た男

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「大変おまたせ致しました。これで登録は完了です。初めての〝探検〟という事ですので、別室にて講習を受けて頂く事になります」

 初心者向けの講習があるのか……

「私が一緒だから、別に必要ないと思うけど?」

 彩歌あやかが軽くため息をつく。

「もももももっ……申し訳ございません、彩歌様、き、き、規則ですのでっ……!」

 やめてあげて! 〝も〟が多くなっちゃってるぞ?

「ふふ、ごめんなさい。言ってみただけよ。私も一緒に居ていいかしら?」

 受付のお姉さんに、にっこり微笑む彩歌。
 真っ赤になって、あたふたしているお姉さん。

「ももも?! もちろんで御座います! そ、それでは、そちらの奥へどうぞ。あと15分ほどで、午前中最後の講習が始まります。担当者もおりますので……!」

「ありがとう。またね」

「ひぃッ! ステキ! あ、あの……探検、お気をつけて!!」

 受付のお姉さんだけじゃなく、奥で事務をしている人や、さっきの大声で気付いた多くの客たちも、ずっと彩歌を見ている。

「すごい人気だな、彩歌さん」

 〝売れっ子アイドルが現れた〟ぐらいの勢いだ。

「ふう……そうなのよ。ここまで有名人になるとは思ってなかったんだけど……」

 若干、面倒臭そうに苦笑いする彩歌。
 僕としては鼻が高いんだけどな。

「講習なんて、飾りみたいな物なのよ。眠いだけ……あ、達也さんはその心配、要らなかったわね」

 僕が眠くなるなら相当なものだ。
 その講習は〝ノームの精霊魔法〟を超えた事になるんだから。

『アハハ! それは面白いねタツヤ!』

 ……あ、そうそう。
 ノームは、とりあえず元の宝玉に戻して、バックパックに突っ込んである。
 彩歌曰く〝封印が解けて暴れだす可能性がある精霊〟は、所持や持ち込み禁止だが、今のノームは〝封印が解けちゃってる上に、すっかり丸くなった〟状態なので、もし万が一、衛兵に見つかっても大丈夫。だそうだ。

「死ぬほど驚かれるでしょうけど。あ、達也さんが、私より有名人になっちゃうかもね?」

 って、ああ。そりゃ面倒くさいな……っていうか〝偽造の身分証持ち〟の分際で、有名になってしまったりしても大丈夫なのかな?

「お爺さんが身分証を用意してくれた時点で、もう達也さんは城塞都市の市民よ。さっきも言ったけど、その身分証は、正規の方法で登録されているのだから」

「すごいな。〝偽造〟っていうレベルじゃないよ、それ」

 受付のお姉さんが指示してくれた通り、廊下の奥へと向かう。
 突き当りの扉を開けると、既に一組の男女が椅子に座って雑談をしていた。

「あら、こんなに受講者が居るなんて珍しいわね」

 2人とも見た目は二十歳前後。
 男性は、見るからに軽いノリで、話している内容も中身のない軽薄な感じだ。
 そして女性の方は、男性の目を見ながらウットリとその話を聞いている。

「お? 何だお前ら。迷子か?」

「えー? なんで子どもが入ってくるわけー?」

 ヘラヘラと話し掛けて来る男と、明らかに〝邪魔するな〟といった態度の女。

「私たちも受講者よ。よろしくね」

 にっこり笑って挨拶する彩歌。大人の対応だな。それじゃ、僕も……

「はじめまして。内海達也うつみたつやと言います。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げてみた。目上のヒトには礼儀正しくしなきゃ……本当の年齢は、僕と彩歌の方が上だろうけど。

「ギャハハ! 聞いたかよ! ボクちゃんたちは探検に行くんだってよ!」

「ちょっと、まじウケるんですけど! すみませーん! 誰かこの子たちをパパとママの所へ連れてってあげてー? ゲラゲラ」

 僕たちの挨拶に、爆笑を始める2人。
 何だ? 感じ悪いな。

「達也さん、座りましょ?」

「あ、そうだね」

 バカップルは放っておいて、僕と彩歌は少し離れた席に座る。
 ……なんかあの2人、まだこっちをチラチラ見ては笑い合っているな。

「えー、お待たせ致しました。それでは講習を始めます。私は指導員の宮若みやわかです。よろしくお願いします」

 生真面目そうな、初老の男性が入ってきた。
 少しこちらを見て、手に持った名簿らしきものと照らし合わせているようだ。

遠藤翔えんどうかける様と、辻村富美つじむらふみ様で、間違いないですね?」

「……へーい!」

「キャハハ、オジサン、早く始めてよー」

 すごいな。
 どうやったら、ここまで周囲をイラつかせる事ができるんだろう。

「はい、少々お待ち下さいね。そして……内海達也様、ですね。あと、ご一緒されているのは、ふじし……」

「……すみません、私の事は」

 ハッとした表情で彩歌とバカップルを交互に見たあと、少し申し訳無さそうにする宮若さん。

「あ、えっと……はい、それでは講習を始めます。念の為に申し上げますが……」

 と、言いかけた所へ、バーン! という音と共に入り口の扉が開いて、二十代後半ぐらいの男性が入ってきた。

「すみません、まだ大丈夫ですか……?!」

 息を切らしながら、ローブのフードを取って、僕たちとバカップルに軽く会釈えしゃくをする。
 遠藤翔から、聞こえるように鳴らしたであろう、大きめの〝舌打ち〟が聞こえてきた。
 辻村富美は、それより大きいぐらいのため息をついて、しかめっ面だ。

「すみませんねえ……」

 申し訳なさそうに更に頭を下げる男性。
 ……いや、そんなに謝らなくてもいいよ。
 むしろこいつらが態度の悪さを謝るべきだね。
 そう思っていると、さっき受付に居たお姉さんが奥の扉から現れて、追加の書類を宮若さんに渡す。

「はい、あ、なるほど。はい、分かりました。彼も同じ組で受講して頂きます」

 さっきのお姉さんは、彩歌をチラッと見たあと、キャー! って言いながら部屋を出ていった。
 ……そんなにか?

「えっと、織田啓太郎おだけいたろうさん。ですね」

 渋いお名前だな。顔立ちも〝劇画の主人公〟みたいに凛々しくてカッコイイ。
 それに、初心者向けの講習には似つかわしくない、熟練者のような風体ふうていだ。
 使い込まれたローブに、傷がいたる所に入った杖、うわ、靴もかなり年季が入ってそうだぞ。

「はい、織田です。よろしくお願いします」

 ニコリと笑い、席に座る織田さん。こちらを見て、また頭を下げている。
 どんだけいい人なんだよ。あのバカップルとの差がありすぎて、好感度MAXだぞ。

「えー、それではまず、探検者規約から説明させて頂きますね」

 講習が始まると、織田さんは小さなノートを取り出し、メモを取り始める。あっちでイチャつき始めたバカどもとは大違いだな。

「心得その1。探検者は、相互に助け合いの精神を持たなければなりません。城塞都市を一歩でも外に出れば、そこはもう、人が生きていける世界ではないのです。すぐ隣に、死が待っています……」

 講習が進むと、バカップルは二人とも、盛大に居眠りを始めた。もう開いた口が塞がんないよ!
 ……ん? あれあれ?
 織田さんが急に席を立って、寝ているバカ2人に近づいていくぞ? まさか注意するのか?!
 よし、ガツンと言ってやって下さい! って、おいおい、織田さん?

「……達也さん。彼、すごいわね」

「……うん。ホントに」

 彼は自分の持っていた毛布を、眠っている2人に、そっと掛けたのだった。

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