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5年生 3学期 2月
父と母
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「HuLex UmThel TchwEKnd iL」
杖を体に密着させて〝接触弱体〟の呪文を唱える。
自分の体に触れている全ての物が、ガチガチに固くなった。
……不思議な事に、効果を受けている部分の強度と効果時間が何となく分かる。
「さて、試してみるかな。パズズ、悪いけどちょっと付き合ってくれる?」
『主よ。何なりとお申し付け下さい』
僕は〝使役:土〟でゴーレムを呼び出した。
「ブルー、パズズとコイツ、繋いで」
『了解だタツヤ』
ゴーレムが、僕の操作の手を離れ、跪く。
『恐れながら、お相手させて頂きます』
「おう、頼んだぞ。手加減は要らないからな」
今回作ったゴーレムは、身長2メートル。
細マッチョでスポーティーな格闘タイプだ。
一応、小型の盾と、青龍刀っぽい剣を持たせてある。
……辮髪は、雰囲気作りだ。
僕は、伸ばした杖を右手で掴んでクルリと回し、右の脇に挟む。
左手は正面に出して手のひらを相手に見せる形で構えた。
「行くぞ!」
右脇から縦に回した杖を左手で掴み、頭上で水平に一回転させて、今度は左脇で挟んで止めた。
腰を一周させて正面で両手持ちにし、垂直に構える。
「はいっ!」
右、左、右と、バトントワリングのように、両手で大きく回転させつつ5歩下がる。
右足を上げて片足立ちしたまま、頭上で、回転させ、上げた右足を後ろに大きく引きつつ、右手を杖の端まで移動させた。
姿勢をさらに低くすると同時に、杖を大きく振りかぶった。
「やあっ!」
床を、杖で縦に打ち据える。
〝ドォン!〟と言う音が響くが……大丈夫。そこは丁度〝 接触弱体〟を掛けた時に、僕の足の裏が付いていた場所だ。
素早く右手を引き、再び片足立ちに。
両手で右、左、右、と素早く回して、もう一度左脇で挟んで止める。
よし、この杖、良い重さと長さだ。強度も、もちろん申し分ない。
「たあっ!」
上げた右足からジャンプ気味に踏み出し、杖ごと体を水平に一回転。
足をついた瞬間、さらに片手に持ち替えて手を伸ばつつ、もう一歩飛んで一回転。
計算通り、杖の先が、ちょうどゴーレムに届く。
『速いですね!』
パズズは咄嗟に盾でガードしたが、パリンという音と共に砕けて弾け飛んだ。
『ウオオオオ!!!』
次の瞬間、僕の右顔面を狙い、横薙ぎに斬り掛かって来るパズズ。
杖を左手で持ち、床に垂直に置いて右腕を添え、受ける。
キン。という音が響き、剣は弾き返された。
『せえいっ!!』
パズズは弾かれた勢いを逆に利用し、体を一回転。逆からもう一撃仕掛けてくる。
「さすが!」
顔の右横にある、杖を掴んだ左の拳を、右腕を添えたまま素早く左腰まで移動させる。杖は僕の首を狙ったパズズの攻撃を再び弾いた。
「はぁっ!!」
パズズの剣を弾いた瞬間、添えていた右手で杖を握り、それを軸に左腕を突き出す。
左下から右上へ、鋭い一撃。
パァン! という音と共に、ガードした腕を千切り飛ばしつつ、杖はゴーレムの頭を抉った。
『見事です、主よ!』
ゴーレムは、ゆっくりと土に還っていく。
『すごいなタツヤ! 何なんだ、その動き!』
「実は昔、練習したんだよ。カンフー映画にハマってね」
確かあれは中2の頃だった。
最終的に、持っていた鉄パイプがスッポ抜けて、物置をへこませてしまい、父さんにこっ酷く怒られたっけ。懐かしいなあ。
「素晴らしい!」
不意に、パチパチという拍手の音。
……現れたのは、彩歌のお父さんだ。
「いつの間に?!」
全く気付かなかった……!
ブルー、知っていたのか?
『いやタツヤ。この瞬間まで、生命反応は、全く感じられなかった』
「ははは。済まないね。さっき妻が来た時に、そっと入らせて貰ったんだよ」
〝そっと〟?! ブルーにも気付かれずにって……?
「もしかして魔法で?」
「うふふ。やっぱり賢い子ね。そう。魔法を使っていたのよ」
突然、お父さんの隣にお母さんも現れた。マジか?!
「姿を隠す魔法はね、声を出したりすると効果が消えるんだ。覚えておくといいよ」
ニヤリと笑うお父さん。
「さて、申し訳ないが君の力、見せてもらったよ」
『見られてしまったようだね、タツヤ』
そうだな。さて、誤魔化し切れるかな……?
「君は魔法の力に頼らず、このゴーレムを呼び出したね?」
じわじわと消えつつあるゴーレムを指差して言う。
「……あ、いえ。ちゃんと呪文を唱えましたけど」
クスリと笑うお母さん。お父さんは、口角を上げたまま、僕の斜め後ろ方向を指差す。
「え?」
振り返ると、さっき切り飛ばしたゴーレムの腕と、少し離れて、真っ二つに割れた小型の盾が、壁に突き刺さっていた。こちらもそれぞれ、じわじわと土に還ろうとしている。
「さっき言ったけど、魔法由来で呼び出された力や物なら、あんな風にはならないんだよ。ここの壁はね」
あんな風にならない……?
……あ、そうか!
「耐魔構造の壁!!」
戦いに集中し過ぎて、ゴーレムの部品が壁に当たった事に気付かなかった!
僕の〝使役:土〟が、バレちゃった?
……いや、それもそうだけど。
「すみません! 壁を壊してしまいました!」
せっかく貸してくれた練習部屋の壁を、壊しちゃマズイだろう。
「弁償します。とりあえず仮に穴は塞ぎますので……」
僕が直した所だけ、文字通り、土壁になっちゃうけど。
「うふふ……あなた。聞きました?」
お母さんが、嬉しそうな口調で言う……え? 何?
「ああ。自分の秘密がバレた事より先に、ウチの壁を心配してくれるなんてね」
お父さんも、笑いながら頭を掻いている。
「あ、えっと、すみません。僕のこの力は、誰にも言っちゃいけないので……秘密にしていてごめんなさい!」
頭を下げ、素直に謝った……許してもらえるとは思えないけど。
「それはこちらの台詞だ。頭を上げてくれないか」
こちらに歩み寄ってくるお父さんとお母さん。少し申し訳無さそうな表情だ。
「……彩歌はね、普通じゃないんだ」
それは知ってるよ? 彩歌は心臓に星の欠片を宿した〝不老〟の〝救星特異点〟だ。
……あれ? そうか、違うな。その事は2人とも知らない筈だ。
じゃあ、何が普通じゃないんだ?
「達也君。彩歌はね、この魔界の全てを支配できる秘宝を体内に埋め込まれているの」
……そうか、普通じゃないっていうのは、その事か。
「……? まさか君は……!」
僕の表情の変化から、何かを感じ取ったのだろう。
逆にお父さんが驚いた感じになってしまった。
「〝魔界の軸石〟の事ですね?」
僕がそう言った途端、2人とも、相当驚いた表情を見せた。
「そんな! あなたが軸石の事を知っているなんて! 考えられないわ!」
「達也くん、どうやって君がそれを知り得たか、教えてくれるかい? とても大切な事なんだ」
『……ブルー。良いよな?』
『構わないよ。この2人がキミの秘密を知った所で、何も問題は無いだろう』
そうだな。むしろ、聞いておいてもらいたい。
きっとこの2人は近い将来、他人じゃ無くなるんだから。
「わかりました。僕と、彩歌さんに、何があったのかを、全てお話します」
>>>
……僕の説明を、神妙な面持ちで聞いていたお母さんは、静かに僕の手を握って言った。
「達也君。娘を救ってくれてありがとう」
お母さんに握られた手の上から、お父さんにも手を握られる。
「よく、話してくれたね。そして〝魔界の軸石〟が、そんな不思議な事になっているとは、夢にも思わなかった……数々の無礼、どうか許して欲しい」
今度は、軸石と彩歌の関係について、2人が語り始めた。
彩歌の両親は、名うての探検者だったらしい。
名も無い遺跡の、隠し通路の奥の奥に安置されていた〝魔界の軸石〟を見つけた2人は一計を案じる。
「魔界の全てを、どうにでも出来る秘宝中の秘宝。魔物はもちろん、人間が持つ事さえ、危険極まりない」
「人は、悪魔よりも邪悪で怖いわ。〝魔界の軸石〟を人の手に委ねれば、きっと遠くない将来、魔界は終わる。それは、主人や私が持っていたとしても同じ事」
2人は、城塞都市に持ち帰った軸石を、産まれて来る我が子の体内に隠す事にしたのだ。
いずれ子どもが死んだ時に、共に魔界の土に還るよう、特殊な術を施して。
「誤算だった。術式に小さなミスがあったんだ」
「彩歌に子どもが出来た時、軸石はその子どもに〝再構成〟されてしまう事がわかったの。軸石が、人間として生まれてくる……」
「無邪気な大魔王の誕生だ。夜泣きひとつで、魔界は終わるだろう」
慌てた2人は、試行錯誤する。
完全に融合してしまっている軸石を、彩歌から取り出す方法は無かった。
……無理に取り出そうとすれば、彩歌が死ぬ。
ちなみに、避妊手術も同様だ。複雑に編み込まれた術式を乱し、軸石を無理に取り出すのと同じ様に、彩歌の命はない。
術を再構築する事も出来ない。下手に軸石の機能を刺激すれば、魔界が崩壊するかもしれないからだ。
「なぜ、本人に説明しなかったんですか?」
「彩歌自身には言えなかったの。言えば術式が変質して、想像もつかない何かが起こる。そういう術も多いのよ」
「彩歌を……」
お父さんは息をつまらせた。
「あの子を、殺す……」
お母さんが涙ぐむ。
「成長する前に、命を絶つ。それは出来なかった。出来てたまるものか」
少し間を空け、お父さんは続ける。
「私は、あの子から男性を遠ざけ、子を宿すこと無く人生を終えさせる事を選んだのだ。身勝手な親だ。本当に申し訳ないと思っている」
なるほど、そういう事だったのか。
……おかしいとは思ってたんだよな。
あのバカ親っぷりは、さすがに無理がある。
演技だったのか……
「キミの言う通り〝魔界の軸石〟が彩歌の能力として再構成されたのなら、もう何も心配は要らないのかもしれない……こんな嬉しいことはない!」
「達也君、どうか彩歌の事、よろしくお願いしますね」
「そそっかしくて、気の強い子だが、自慢の娘だ。よろしく頼む」
2人は、揃って頭を下げる。
今まで彩歌の事でどれだけ思い悩んだのだろう。その苦しみは計り知れない。
「僕の方こそ、どうか末永く、よろしくお願いします。お父さん、お母さん」
と言って、僕も頭を下げた所へ、パジャマにスリッパ姿の彩歌が、ペタペタという音と共にやって来た。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって……あれ? どうしたの? 3人とも」
「あーーーちゃぁああん! 湯加減はどうだった? ああもう! そんな格好じゃ風邪引いちゃうじゃなーい!」
……それ、演技ですよね、お父さん?!
杖を体に密着させて〝接触弱体〟の呪文を唱える。
自分の体に触れている全ての物が、ガチガチに固くなった。
……不思議な事に、効果を受けている部分の強度と効果時間が何となく分かる。
「さて、試してみるかな。パズズ、悪いけどちょっと付き合ってくれる?」
『主よ。何なりとお申し付け下さい』
僕は〝使役:土〟でゴーレムを呼び出した。
「ブルー、パズズとコイツ、繋いで」
『了解だタツヤ』
ゴーレムが、僕の操作の手を離れ、跪く。
『恐れながら、お相手させて頂きます』
「おう、頼んだぞ。手加減は要らないからな」
今回作ったゴーレムは、身長2メートル。
細マッチョでスポーティーな格闘タイプだ。
一応、小型の盾と、青龍刀っぽい剣を持たせてある。
……辮髪は、雰囲気作りだ。
僕は、伸ばした杖を右手で掴んでクルリと回し、右の脇に挟む。
左手は正面に出して手のひらを相手に見せる形で構えた。
「行くぞ!」
右脇から縦に回した杖を左手で掴み、頭上で水平に一回転させて、今度は左脇で挟んで止めた。
腰を一周させて正面で両手持ちにし、垂直に構える。
「はいっ!」
右、左、右と、バトントワリングのように、両手で大きく回転させつつ5歩下がる。
右足を上げて片足立ちしたまま、頭上で、回転させ、上げた右足を後ろに大きく引きつつ、右手を杖の端まで移動させた。
姿勢をさらに低くすると同時に、杖を大きく振りかぶった。
「やあっ!」
床を、杖で縦に打ち据える。
〝ドォン!〟と言う音が響くが……大丈夫。そこは丁度〝 接触弱体〟を掛けた時に、僕の足の裏が付いていた場所だ。
素早く右手を引き、再び片足立ちに。
両手で右、左、右、と素早く回して、もう一度左脇で挟んで止める。
よし、この杖、良い重さと長さだ。強度も、もちろん申し分ない。
「たあっ!」
上げた右足からジャンプ気味に踏み出し、杖ごと体を水平に一回転。
足をついた瞬間、さらに片手に持ち替えて手を伸ばつつ、もう一歩飛んで一回転。
計算通り、杖の先が、ちょうどゴーレムに届く。
『速いですね!』
パズズは咄嗟に盾でガードしたが、パリンという音と共に砕けて弾け飛んだ。
『ウオオオオ!!!』
次の瞬間、僕の右顔面を狙い、横薙ぎに斬り掛かって来るパズズ。
杖を左手で持ち、床に垂直に置いて右腕を添え、受ける。
キン。という音が響き、剣は弾き返された。
『せえいっ!!』
パズズは弾かれた勢いを逆に利用し、体を一回転。逆からもう一撃仕掛けてくる。
「さすが!」
顔の右横にある、杖を掴んだ左の拳を、右腕を添えたまま素早く左腰まで移動させる。杖は僕の首を狙ったパズズの攻撃を再び弾いた。
「はぁっ!!」
パズズの剣を弾いた瞬間、添えていた右手で杖を握り、それを軸に左腕を突き出す。
左下から右上へ、鋭い一撃。
パァン! という音と共に、ガードした腕を千切り飛ばしつつ、杖はゴーレムの頭を抉った。
『見事です、主よ!』
ゴーレムは、ゆっくりと土に還っていく。
『すごいなタツヤ! 何なんだ、その動き!』
「実は昔、練習したんだよ。カンフー映画にハマってね」
確かあれは中2の頃だった。
最終的に、持っていた鉄パイプがスッポ抜けて、物置をへこませてしまい、父さんにこっ酷く怒られたっけ。懐かしいなあ。
「素晴らしい!」
不意に、パチパチという拍手の音。
……現れたのは、彩歌のお父さんだ。
「いつの間に?!」
全く気付かなかった……!
ブルー、知っていたのか?
『いやタツヤ。この瞬間まで、生命反応は、全く感じられなかった』
「ははは。済まないね。さっき妻が来た時に、そっと入らせて貰ったんだよ」
〝そっと〟?! ブルーにも気付かれずにって……?
「もしかして魔法で?」
「うふふ。やっぱり賢い子ね。そう。魔法を使っていたのよ」
突然、お父さんの隣にお母さんも現れた。マジか?!
「姿を隠す魔法はね、声を出したりすると効果が消えるんだ。覚えておくといいよ」
ニヤリと笑うお父さん。
「さて、申し訳ないが君の力、見せてもらったよ」
『見られてしまったようだね、タツヤ』
そうだな。さて、誤魔化し切れるかな……?
「君は魔法の力に頼らず、このゴーレムを呼び出したね?」
じわじわと消えつつあるゴーレムを指差して言う。
「……あ、いえ。ちゃんと呪文を唱えましたけど」
クスリと笑うお母さん。お父さんは、口角を上げたまま、僕の斜め後ろ方向を指差す。
「え?」
振り返ると、さっき切り飛ばしたゴーレムの腕と、少し離れて、真っ二つに割れた小型の盾が、壁に突き刺さっていた。こちらもそれぞれ、じわじわと土に還ろうとしている。
「さっき言ったけど、魔法由来で呼び出された力や物なら、あんな風にはならないんだよ。ここの壁はね」
あんな風にならない……?
……あ、そうか!
「耐魔構造の壁!!」
戦いに集中し過ぎて、ゴーレムの部品が壁に当たった事に気付かなかった!
僕の〝使役:土〟が、バレちゃった?
……いや、それもそうだけど。
「すみません! 壁を壊してしまいました!」
せっかく貸してくれた練習部屋の壁を、壊しちゃマズイだろう。
「弁償します。とりあえず仮に穴は塞ぎますので……」
僕が直した所だけ、文字通り、土壁になっちゃうけど。
「うふふ……あなた。聞きました?」
お母さんが、嬉しそうな口調で言う……え? 何?
「ああ。自分の秘密がバレた事より先に、ウチの壁を心配してくれるなんてね」
お父さんも、笑いながら頭を掻いている。
「あ、えっと、すみません。僕のこの力は、誰にも言っちゃいけないので……秘密にしていてごめんなさい!」
頭を下げ、素直に謝った……許してもらえるとは思えないけど。
「それはこちらの台詞だ。頭を上げてくれないか」
こちらに歩み寄ってくるお父さんとお母さん。少し申し訳無さそうな表情だ。
「……彩歌はね、普通じゃないんだ」
それは知ってるよ? 彩歌は心臓に星の欠片を宿した〝不老〟の〝救星特異点〟だ。
……あれ? そうか、違うな。その事は2人とも知らない筈だ。
じゃあ、何が普通じゃないんだ?
「達也君。彩歌はね、この魔界の全てを支配できる秘宝を体内に埋め込まれているの」
……そうか、普通じゃないっていうのは、その事か。
「……? まさか君は……!」
僕の表情の変化から、何かを感じ取ったのだろう。
逆にお父さんが驚いた感じになってしまった。
「〝魔界の軸石〟の事ですね?」
僕がそう言った途端、2人とも、相当驚いた表情を見せた。
「そんな! あなたが軸石の事を知っているなんて! 考えられないわ!」
「達也くん、どうやって君がそれを知り得たか、教えてくれるかい? とても大切な事なんだ」
『……ブルー。良いよな?』
『構わないよ。この2人がキミの秘密を知った所で、何も問題は無いだろう』
そうだな。むしろ、聞いておいてもらいたい。
きっとこの2人は近い将来、他人じゃ無くなるんだから。
「わかりました。僕と、彩歌さんに、何があったのかを、全てお話します」
>>>
……僕の説明を、神妙な面持ちで聞いていたお母さんは、静かに僕の手を握って言った。
「達也君。娘を救ってくれてありがとう」
お母さんに握られた手の上から、お父さんにも手を握られる。
「よく、話してくれたね。そして〝魔界の軸石〟が、そんな不思議な事になっているとは、夢にも思わなかった……数々の無礼、どうか許して欲しい」
今度は、軸石と彩歌の関係について、2人が語り始めた。
彩歌の両親は、名うての探検者だったらしい。
名も無い遺跡の、隠し通路の奥の奥に安置されていた〝魔界の軸石〟を見つけた2人は一計を案じる。
「魔界の全てを、どうにでも出来る秘宝中の秘宝。魔物はもちろん、人間が持つ事さえ、危険極まりない」
「人は、悪魔よりも邪悪で怖いわ。〝魔界の軸石〟を人の手に委ねれば、きっと遠くない将来、魔界は終わる。それは、主人や私が持っていたとしても同じ事」
2人は、城塞都市に持ち帰った軸石を、産まれて来る我が子の体内に隠す事にしたのだ。
いずれ子どもが死んだ時に、共に魔界の土に還るよう、特殊な術を施して。
「誤算だった。術式に小さなミスがあったんだ」
「彩歌に子どもが出来た時、軸石はその子どもに〝再構成〟されてしまう事がわかったの。軸石が、人間として生まれてくる……」
「無邪気な大魔王の誕生だ。夜泣きひとつで、魔界は終わるだろう」
慌てた2人は、試行錯誤する。
完全に融合してしまっている軸石を、彩歌から取り出す方法は無かった。
……無理に取り出そうとすれば、彩歌が死ぬ。
ちなみに、避妊手術も同様だ。複雑に編み込まれた術式を乱し、軸石を無理に取り出すのと同じ様に、彩歌の命はない。
術を再構築する事も出来ない。下手に軸石の機能を刺激すれば、魔界が崩壊するかもしれないからだ。
「なぜ、本人に説明しなかったんですか?」
「彩歌自身には言えなかったの。言えば術式が変質して、想像もつかない何かが起こる。そういう術も多いのよ」
「彩歌を……」
お父さんは息をつまらせた。
「あの子を、殺す……」
お母さんが涙ぐむ。
「成長する前に、命を絶つ。それは出来なかった。出来てたまるものか」
少し間を空け、お父さんは続ける。
「私は、あの子から男性を遠ざけ、子を宿すこと無く人生を終えさせる事を選んだのだ。身勝手な親だ。本当に申し訳ないと思っている」
なるほど、そういう事だったのか。
……おかしいとは思ってたんだよな。
あのバカ親っぷりは、さすがに無理がある。
演技だったのか……
「キミの言う通り〝魔界の軸石〟が彩歌の能力として再構成されたのなら、もう何も心配は要らないのかもしれない……こんな嬉しいことはない!」
「達也君、どうか彩歌の事、よろしくお願いしますね」
「そそっかしくて、気の強い子だが、自慢の娘だ。よろしく頼む」
2人は、揃って頭を下げる。
今まで彩歌の事でどれだけ思い悩んだのだろう。その苦しみは計り知れない。
「僕の方こそ、どうか末永く、よろしくお願いします。お父さん、お母さん」
と言って、僕も頭を下げた所へ、パジャマにスリッパ姿の彩歌が、ペタペタという音と共にやって来た。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって……あれ? どうしたの? 3人とも」
「あーーーちゃぁああん! 湯加減はどうだった? ああもう! そんな格好じゃ風邪引いちゃうじゃなーい!」
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