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5年生 3学期 2月
開門
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城塞都市の北門前。大勢の探検者が、開門の時刻を待っている。
重装備の人もいれば、軽装の人もいるし、深刻な表情の人もいれば、仲間と談笑している人もいる。
……子どもは、僕と彩歌だけだな。
「時間よ、達也さん。門が開くわ」
内門が開きはじめ、結界が解かれる頃には、さらに人は増えていた。少なくとも50人は居るぞ。
『タツヤ、アヤカ、気をつけて。外門の向こう、続々と生き物が集まってきている。あまり〝好意的〟ではない雰囲気だ』
「魔物よ。大体いつも、開門と同時に、数人は殺されるか攫われるわ」
「本当に物騒だなあ! なんとかならないの?」
猛獣の檻に放り込まれる気分だ。
それでもこんなに大勢の人達が外に出たがるんだな。
「一応、援護射撃はしてくれるのよ? でも、気休めぐらいにしかならない。自分の身は自分で守らないといけないの」
内門が完全に開いた。守備隊員の指示が出ると、探検者達は、わらわらと外門に向けて歩き出す。
確か〝内門と外門の間で待機〟だったな。
「門の使用料は、足元に置いて下さい。ご寄付もよろしくお願い致します」
門の前の係員らしき人が叫んでいる。
……あ、そっか。有料だった。
「でも、なんで身分証を集める時に、一緒に集めないんだろう」
「ふふ。〝おまじない〟みたいな物なの。この外門と内門の間は、生と死の境目。ここに〝私財〟という、いわば自分の一部を置く事によって、あの世とこの世の間に、道標を記すという事らしいわ」
ちなみに、足元に置く金額が多ければ多いほど、無事に帰還する確率が上がると信じられているらしい。
「でね、お金を置かなかったり、誰かが置いたお金を盗っちゃうような人は、驚くほどの高確率で、帰ってこれないのよね」
『それは興味深いね……そうだ、タツヤ。足元のお金を、いくつか拾って行ってみてはくれないだろうか』
「やだよ! 帰って来れなかったらどうするんだよ?!」
っていうか、そんな賽銭泥棒みたいな真似できるか!
「あ、そうだ。彩歌さん、必要経費だから、これ使って」
僕が差し出した五千円札を、彩歌さんは首を横に振って、受け取らなかった。
「ありがとう。でも、ここだけはちゃんと自分のお金を置かないと、気持ち悪いから。ね?」
あ、そっか。おまじないと言うなら、そうなんだろうな。
賽銭箱に入れるのだって〝貰ったお金〟じゃ、ご利益が薄そうな気がするし。
「ちょっと! 織田っち、チョー金持ちじゃん!」
不意に、辻村富美の声が響く……だから〝織田っち〟言うなって。
「おいおい! おっさん、何やってんだよ!」
今度は、遠藤翔の声だ。いったい何事だ? って……
「……えええ?! それって!!」
僕まで叫んでしまった。
理由は、織田さんの足元の札束。
……厚さから見て、百万円くらいあるぞ。
「いや、ははは。ちょっと珍しい魔法が手に入ったので、売ったんですよ」
「あ、それ僕の買った〝治癒連鎖〟?」
「そうなんです。私、あの魔法には適性が無かったので、買って頂けて、嬉しかったです!」
ニコニコ笑いながら話す織田さん。しかし、その対価をポーンと足元に置くってスゴいな。
「……私は、どうしてもここに戻って来なくてはならないんです」
お金持ちの社長とかが、賽銭箱に札束を突っ込むシーンを、テレビとかで見たことはあるけど……やっぱり不思議な人だ。
あれ? でも、そのお金で護衛を雇うとかすれば良いんじゃ……
「〝砦超え〟に付き合ってくれるような護衛は、居ないわ」
そこまで酷いんだ、砦の向こうって。
などと感心していると、後方で内門が閉まり始めた。壁の松明と、天井の得体の知れない光る玉に照らされて、周囲の緊張は高まっていく。
「あと20分少々で、外門を開放します。その後は速やかに出発願います。外門は3分で閉門します。この場所に残られますと、必ず絶命しますのでお気をつけ下さい」
無機質なアナウンスが流れる……絶命するってどういう事?!
「この場所は、外門が開くと悪魔とか魔物が入って隠れるかも知れないから、閉門後に、5種類の魔法で無菌状態にされるの。閉門後に、ここに残って生きていられるのは、達也さんだけね」
なるほど。徹底しているんだな。おっと、アナウンスには続きがあるみたいだ。
「……本日の外界の様子をお知らせします。天候、晴れ。気温、12度。今現在、目視できる敵性生物、悪魔、ゼロ。魔物、31。その他、ゼロ。本日の援護は、守備隊4名で行います。櫓からの射線上に、入らないようご注意下さい」
……魔物は31か。
周りの探検者たちは、装備の確認や、魔法の重ね掛けを始めている。
バカップルも、お互いに防御魔法を掛け合っているな。よし、じゃあ僕も。
「彩歌さん、ちょっといい?」
「えっ?」
僕は、彩歌の手を引いて、ギュッと包み込むように抱く。
「HuLex UmThel TchwEKnd iL」
静かに〝接触弱体〟の呪文を唱えた。これで彩歌の装備は無敵の強度を得たわけだ。
「あ、ありがとう、達也さん……!」
少し赤くなって、にっこり微笑む彩歌。まあ、強化なんかしなくても、平気なんだろうけどね。
『なるほどタツヤ、そういう事か。キミは本当に……』
「アレじゃないやい! 念のためだろ?」
『ほほう。達也氏は……』
「お前もかよ、ルナ! 僕はアレじゃないって言ってるだろう?!」
「ご注意願います。開門、30秒前です。今現在、目視できる敵性生物、悪魔、ゼロ。魔物、68。その他、ゼロ。開門します。探検者の皆さん、実りある探検と命ある帰還を」
突然のアナウンス。とうとう、扉が開くぞ!
「っていうか、魔物の数、むちゃくちゃ増えてるんですけど?!」
「魔物にしてみれば、門の前は活きの良い餌が出てくる、格好の狩場よ」
怖いって! やっぱおウチに帰りたい!!
……って思っても、もう内門は閉じられていて、ここに残って外に出なければ、やはり死ぬ。
徹底して追い詰められていくパターンだ。
ほら、何人か悲壮な顔つきの人が……ってお前もか、遠藤翔!
「さあ、行きましょうか!」
織田さんが前へと進み、僕と彩歌も、それに続く。
「ちょ、待てよ!」
「危ないし! なんで進むし!」
バカップルがなんか言ってるが、無視だ。
……誰かが犠牲になるのは嫌だからな。せめて今回の開門では、誰も殺させはしない。
外門近くまで進んだ所で、ゴウン! という音と共に、門が開き始める。
同時に、櫓からの魔法による攻撃が始まった。
「彩歌さん、実りある探検と命ある帰還を!」
「ふふ。実りある探検と命ある帰還を……達也さんと一緒なら、ちっとも怖くないわ」
周囲で、一斉に、呪文の詠唱が聞こえ始める。それに紛れて、僕も石の塊を準備し始めた。
さーて! 派手に行こうか!
重装備の人もいれば、軽装の人もいるし、深刻な表情の人もいれば、仲間と談笑している人もいる。
……子どもは、僕と彩歌だけだな。
「時間よ、達也さん。門が開くわ」
内門が開きはじめ、結界が解かれる頃には、さらに人は増えていた。少なくとも50人は居るぞ。
『タツヤ、アヤカ、気をつけて。外門の向こう、続々と生き物が集まってきている。あまり〝好意的〟ではない雰囲気だ』
「魔物よ。大体いつも、開門と同時に、数人は殺されるか攫われるわ」
「本当に物騒だなあ! なんとかならないの?」
猛獣の檻に放り込まれる気分だ。
それでもこんなに大勢の人達が外に出たがるんだな。
「一応、援護射撃はしてくれるのよ? でも、気休めぐらいにしかならない。自分の身は自分で守らないといけないの」
内門が完全に開いた。守備隊員の指示が出ると、探検者達は、わらわらと外門に向けて歩き出す。
確か〝内門と外門の間で待機〟だったな。
「門の使用料は、足元に置いて下さい。ご寄付もよろしくお願い致します」
門の前の係員らしき人が叫んでいる。
……あ、そっか。有料だった。
「でも、なんで身分証を集める時に、一緒に集めないんだろう」
「ふふ。〝おまじない〟みたいな物なの。この外門と内門の間は、生と死の境目。ここに〝私財〟という、いわば自分の一部を置く事によって、あの世とこの世の間に、道標を記すという事らしいわ」
ちなみに、足元に置く金額が多ければ多いほど、無事に帰還する確率が上がると信じられているらしい。
「でね、お金を置かなかったり、誰かが置いたお金を盗っちゃうような人は、驚くほどの高確率で、帰ってこれないのよね」
『それは興味深いね……そうだ、タツヤ。足元のお金を、いくつか拾って行ってみてはくれないだろうか』
「やだよ! 帰って来れなかったらどうするんだよ?!」
っていうか、そんな賽銭泥棒みたいな真似できるか!
「あ、そうだ。彩歌さん、必要経費だから、これ使って」
僕が差し出した五千円札を、彩歌さんは首を横に振って、受け取らなかった。
「ありがとう。でも、ここだけはちゃんと自分のお金を置かないと、気持ち悪いから。ね?」
あ、そっか。おまじないと言うなら、そうなんだろうな。
賽銭箱に入れるのだって〝貰ったお金〟じゃ、ご利益が薄そうな気がするし。
「ちょっと! 織田っち、チョー金持ちじゃん!」
不意に、辻村富美の声が響く……だから〝織田っち〟言うなって。
「おいおい! おっさん、何やってんだよ!」
今度は、遠藤翔の声だ。いったい何事だ? って……
「……えええ?! それって!!」
僕まで叫んでしまった。
理由は、織田さんの足元の札束。
……厚さから見て、百万円くらいあるぞ。
「いや、ははは。ちょっと珍しい魔法が手に入ったので、売ったんですよ」
「あ、それ僕の買った〝治癒連鎖〟?」
「そうなんです。私、あの魔法には適性が無かったので、買って頂けて、嬉しかったです!」
ニコニコ笑いながら話す織田さん。しかし、その対価をポーンと足元に置くってスゴいな。
「……私は、どうしてもここに戻って来なくてはならないんです」
お金持ちの社長とかが、賽銭箱に札束を突っ込むシーンを、テレビとかで見たことはあるけど……やっぱり不思議な人だ。
あれ? でも、そのお金で護衛を雇うとかすれば良いんじゃ……
「〝砦超え〟に付き合ってくれるような護衛は、居ないわ」
そこまで酷いんだ、砦の向こうって。
などと感心していると、後方で内門が閉まり始めた。壁の松明と、天井の得体の知れない光る玉に照らされて、周囲の緊張は高まっていく。
「あと20分少々で、外門を開放します。その後は速やかに出発願います。外門は3分で閉門します。この場所に残られますと、必ず絶命しますのでお気をつけ下さい」
無機質なアナウンスが流れる……絶命するってどういう事?!
「この場所は、外門が開くと悪魔とか魔物が入って隠れるかも知れないから、閉門後に、5種類の魔法で無菌状態にされるの。閉門後に、ここに残って生きていられるのは、達也さんだけね」
なるほど。徹底しているんだな。おっと、アナウンスには続きがあるみたいだ。
「……本日の外界の様子をお知らせします。天候、晴れ。気温、12度。今現在、目視できる敵性生物、悪魔、ゼロ。魔物、31。その他、ゼロ。本日の援護は、守備隊4名で行います。櫓からの射線上に、入らないようご注意下さい」
……魔物は31か。
周りの探検者たちは、装備の確認や、魔法の重ね掛けを始めている。
バカップルも、お互いに防御魔法を掛け合っているな。よし、じゃあ僕も。
「彩歌さん、ちょっといい?」
「えっ?」
僕は、彩歌の手を引いて、ギュッと包み込むように抱く。
「HuLex UmThel TchwEKnd iL」
静かに〝接触弱体〟の呪文を唱えた。これで彩歌の装備は無敵の強度を得たわけだ。
「あ、ありがとう、達也さん……!」
少し赤くなって、にっこり微笑む彩歌。まあ、強化なんかしなくても、平気なんだろうけどね。
『なるほどタツヤ、そういう事か。キミは本当に……』
「アレじゃないやい! 念のためだろ?」
『ほほう。達也氏は……』
「お前もかよ、ルナ! 僕はアレじゃないって言ってるだろう?!」
「ご注意願います。開門、30秒前です。今現在、目視できる敵性生物、悪魔、ゼロ。魔物、68。その他、ゼロ。開門します。探検者の皆さん、実りある探検と命ある帰還を」
突然のアナウンス。とうとう、扉が開くぞ!
「っていうか、魔物の数、むちゃくちゃ増えてるんですけど?!」
「魔物にしてみれば、門の前は活きの良い餌が出てくる、格好の狩場よ」
怖いって! やっぱおウチに帰りたい!!
……って思っても、もう内門は閉じられていて、ここに残って外に出なければ、やはり死ぬ。
徹底して追い詰められていくパターンだ。
ほら、何人か悲壮な顔つきの人が……ってお前もか、遠藤翔!
「さあ、行きましょうか!」
織田さんが前へと進み、僕と彩歌も、それに続く。
「ちょ、待てよ!」
「危ないし! なんで進むし!」
バカップルがなんか言ってるが、無視だ。
……誰かが犠牲になるのは嫌だからな。せめて今回の開門では、誰も殺させはしない。
外門近くまで進んだ所で、ゴウン! という音と共に、門が開き始める。
同時に、櫓からの魔法による攻撃が始まった。
「彩歌さん、実りある探検と命ある帰還を!」
「ふふ。実りある探検と命ある帰還を……達也さんと一緒なら、ちっとも怖くないわ」
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