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5年生 3学期 3月
悪魔と晩餐会
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「そっかー! ギリギリだな。まあ、2人とも、代役が居るからいいんじゃね?」
あー、久しぶり。九条大作だぜー?
そうなんだ。卒業式が迫っている。
まあ、まだ2週間近くあるから、急げば間に合うだろー。
「卒業生への言葉? 生で言いたい? たっちゃんは本当にロマンチストだなー!」
たっちゃん達は、とうとう魔界の〝大砦〟を超えたらしい。
人間が容易には立ち入れない秘境。
命がいくつ有っても足りないと言われる、恐ろしい場所らしいんだけど……
「やー、たっちゃん! なんか美味しい物あった? え? 蛙? 美味しいよね、カエル!」
緊張感なさすぎだ!
やめろユーリ、お前の言っているカエルと、たっちゃんの言ってる〝蛙〟は、たぶん別物だし、お前の冗談か本気かわからないボケは、聞いてる皆さんが不安になるんだ。
……お前、悪魔も本当に食べると思われてるからな?
「でもさー、一匹じゃ足りなくない? え! そんなでっかいの?!」
……って、まさか本気じゃないよな、蛙。
「ま、まあ〝間に合えば〟で良いんじゃないか? 自分の卒業式じゃないんだし」
それに、たっちゃんは2回目だ。
藤島さんに至っては、まだ転校 (?)して来て2ヶ月ぐらいだから、卒業生には、そんなに思い入れもないだろー。
「じゃあ、また明日なー!」
今は、夜の8時だ。
練習場に仮設されたテントで、魔界人5人と悪魔2匹は、奇妙な共同生活をしている。
そう。悪魔はもう、ケージには入っていないんだぜ。マスクも外したままだ。
「やっぱ、名前が無いのは不便っスよー!」
「何度も言うが、無いんじゃない。お前たちには発音できないだけだ」
悪魔に話し掛けているのは〝岩木ちゃん〟。藤島さんの同僚らしい。
「そうだな……人間が発声できる〝一番近い音〟で呼べばいい。俺が〝ヴェットル〟、コイツは〝フツォメニ〟だ」
「やったー! じゃあ、よろしくね! 〝ヴェットル〟と〝フツォメニ〟」
「ああ」
「よろシくナ」
仏頂面を崩さない悪魔たち。別に機嫌が悪いわけでも、怒っているわけでもなさそうだけどなー……
「えへへ。むしろ、かなり嬉しいみたいだよ?」
栗っちは〝精神感応〟で悪魔の心が読める。
「へえー! なんか面白いな!」
確かに、2体とも、しっぽをパタパタさせている。犬っぽいなー。
「いつも缶詰めとかカップ麺とかじゃ、栄養が偏っちまうからなー! 今日はちょっと奮発したんだぜー?」
携帯コンロと鍋を2セット。そして、肉と野菜、豆腐に白滝。春菊は、ビタミンたっぷりでカリウム、カルシウム、鉄分も豊富だ。
「やー! スキヤキ! やったー!!」
「ユーリ、お前、晩メシ食ってきたんじゃなかったか?」
まあ、そんな事もあろうかと、多めに買ってきたんだが……
「大ちゃん! ミカンとスキヤキは別腹だよ?」
わけがわからん!
「お前の晩メシ、ミカンだったのか?」
あり得るからな。そしてあんま驚かなくなってる自分が怖いぜ……?
「やはは! 大ちゃん! 晩ごはんの後にミカン食べるじゃない、そうしたらさー、次はスキヤキじゃん! なに言ってるの?」
「お前が何を言ってるんだ?」
お前の別腹システムは地球人と違う構造なのか?!
「とにかく、藤島さんが野菜を準備してくれているから、ここへ運んでくれ。お前の分もあるから」
「やったー! さすが大ちゃん、愛してる!!」
ほっぺにキスされた。人前でやるなと言ってるだろー!
……あ、いや、人前でっていうか、ほら、アレだ。アレ。
「ゲゲゲ。お前ラ、仲が良いナ」
「お前たちのように圧倒的な強さを持つ者が、なぜ他者を思いやって生きられるのか。興味深いな」
悪魔たちがそう言った……悪魔同士は殺し合わないと聞いたことがある。しかし、殺し合わないだけで、他者を思いやることは無い。あるのは、上下関係や主従関係。強い者の言いなりになって働くだけだ。
「えへへー! 僕はね、これを持ってきたんだよ!」
「おー! 栗っち、やるなあ!」
本場さぬきうどんだ。スキヤキのシメには、やっぱうどんだよな!
「親戚のおじさんが、いっぱい送ってくれたんだけど、食べきれないからお裾分けだって!」
香川県のうどんか! 本場のうどんをスキヤキに入れて、バチは当たらないのかー?
コンロに鍋を置き、火をつける。えっと、油、アブラ……
「わぁ! 何ですか、これ!」
岩木ちゃんは、興味津々といった感じだ。魔界にスキヤキは無いのか。
「いつもすみません、ご迷惑をおかけします」
手越さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「困った時はお互い様だからなー! そのかわりと言っては何だけど〝例の件〟はよろしく頼むぜー!」
「お安い御用です。むしろこちらからお願いしたい位だ」
あー、そのお願いっていうのは……
「野菜が来たよー! 食器も!」
おいおい、ユーリ! 百均とはいえ、ワレモノを頭に乗せて運ぶなよなー!
……すごいバランス感覚だな、しかし。
「タマゴも要るわよね。人数分で良いかしら?」
さすがに藤島さんは、スキヤキを知っているようだ。
チョイチョイこちらに来ていたらしいしな。
「ちょっと待ってね、すぐに茹でてくるから!」
「待った藤島さん! それは生でいいんだぜー?」
やはりちょっと間違っていたなー。魔界人だから仕方ないけど。
「ああっ! 先輩! お手伝いしまス!」
ふらっと立ち上がろうとする岩木ちゃん。
「良いのよ岩木隊員。今はゆっくり体を休めてね?」
「優しいっス! 先輩、一生ついていくっス!」
パッと見、岩木ちゃんの方が藤島さんよりもずっと大人なので、上下関係が真逆だ。見ていて面白いな。
……さて、油を引いて肉を焼く、と。
「美味そうだナ! 何だソレ!」
「これは牛肉……牛の肉だぜ。おっと、そっちの〝牛〟とは違うけどなー」
たっちゃんに聞いた魔界の〝牛〟は、2足歩行で棍棒を持っていたはずだ。神話に出て来そうだな。
「牛……ですか……?」
魔界人は、2足歩行の魔物は気味悪がって食べないと聞いた。
この〝牛ですか〟は、俺達で言う所の〝蛙ですか〟と同じ意味だなー。
「牛ハ、暴れるかラ、料理が面倒なんだよナ」
……悪魔は〝牛〟を食べるようだ。でも、魔界の人達には、ちょっとハードル高いよな。誤解を解くか。
俺は、自分の部屋からノートパソコンを取ってきて、こっちの世界の牛を動画で紹介した。
「これがアガルタの牛?」
「かわいいー! え? この子を食べるの?」
「ウガ! 何だこの気味の悪イ生き物ハ!」
「不思議な〝牛〟が居たものだな!」
様々な意見が飛び交ったが、スキヤキが出来上がり、器に入れた生タマゴをかき混ぜ終えた頃には、全員、食欲に抗える状態ではなくなっていた。
「よーし! いっただっきまーす!」
「ユーリ! 先ずはお客様からだろー!」
まあいいか。ちなみに俺も、晩飯は少なめにしといたからなー! ガッツリ行くぜ。
「うわわわ! とろける! お肉がすっごい美味しい!」
「タマゴを生で食べるって、魔界ではちょっと信じられないけど、これがまた絶妙ですね!」
「ゲゲゲ…… アガルタの人間ハ、こんな美味いものヲ食ってるのカ?!」
「ああ~ん! お肉ばっかりズルいよ、フツォメニ~!」
「幸せだー! 何ですか、この新鮮な野菜! スゴイ! 美味しすぎる!」
「……美味いな。人間達の食事も悪くない」
「このプニョプニョしたものは何ですか? シラタキって……え? 元は芋? 芋が何でこんな食感に……」
「こっちの白いのは……あ、砕けた。え? 豆? 豆が四角くて白いって?」
「えへへー。ご飯もいっぱいあるけど、最後にうどんを入れるからね」
「最高だ! なんて美味いんだ! 有難う、本当に有難う!」
どうやら喜んでもらえたようだなー!
「……あれ? 大ちゃん大ちゃん?」
んー? どうしたユーリ?
「……カエルは?」
「だからユーリ! またそういう……」
首を傾げて、不思議そうに俺を見ているユーリ。
……冗談だよな? 冗談だと言ってくれ!
あー、久しぶり。九条大作だぜー?
そうなんだ。卒業式が迫っている。
まあ、まだ2週間近くあるから、急げば間に合うだろー。
「卒業生への言葉? 生で言いたい? たっちゃんは本当にロマンチストだなー!」
たっちゃん達は、とうとう魔界の〝大砦〟を超えたらしい。
人間が容易には立ち入れない秘境。
命がいくつ有っても足りないと言われる、恐ろしい場所らしいんだけど……
「やー、たっちゃん! なんか美味しい物あった? え? 蛙? 美味しいよね、カエル!」
緊張感なさすぎだ!
やめろユーリ、お前の言っているカエルと、たっちゃんの言ってる〝蛙〟は、たぶん別物だし、お前の冗談か本気かわからないボケは、聞いてる皆さんが不安になるんだ。
……お前、悪魔も本当に食べると思われてるからな?
「でもさー、一匹じゃ足りなくない? え! そんなでっかいの?!」
……って、まさか本気じゃないよな、蛙。
「ま、まあ〝間に合えば〟で良いんじゃないか? 自分の卒業式じゃないんだし」
それに、たっちゃんは2回目だ。
藤島さんに至っては、まだ転校 (?)して来て2ヶ月ぐらいだから、卒業生には、そんなに思い入れもないだろー。
「じゃあ、また明日なー!」
今は、夜の8時だ。
練習場に仮設されたテントで、魔界人5人と悪魔2匹は、奇妙な共同生活をしている。
そう。悪魔はもう、ケージには入っていないんだぜ。マスクも外したままだ。
「やっぱ、名前が無いのは不便っスよー!」
「何度も言うが、無いんじゃない。お前たちには発音できないだけだ」
悪魔に話し掛けているのは〝岩木ちゃん〟。藤島さんの同僚らしい。
「そうだな……人間が発声できる〝一番近い音〟で呼べばいい。俺が〝ヴェットル〟、コイツは〝フツォメニ〟だ」
「やったー! じゃあ、よろしくね! 〝ヴェットル〟と〝フツォメニ〟」
「ああ」
「よろシくナ」
仏頂面を崩さない悪魔たち。別に機嫌が悪いわけでも、怒っているわけでもなさそうだけどなー……
「えへへ。むしろ、かなり嬉しいみたいだよ?」
栗っちは〝精神感応〟で悪魔の心が読める。
「へえー! なんか面白いな!」
確かに、2体とも、しっぽをパタパタさせている。犬っぽいなー。
「いつも缶詰めとかカップ麺とかじゃ、栄養が偏っちまうからなー! 今日はちょっと奮発したんだぜー?」
携帯コンロと鍋を2セット。そして、肉と野菜、豆腐に白滝。春菊は、ビタミンたっぷりでカリウム、カルシウム、鉄分も豊富だ。
「やー! スキヤキ! やったー!!」
「ユーリ、お前、晩メシ食ってきたんじゃなかったか?」
まあ、そんな事もあろうかと、多めに買ってきたんだが……
「大ちゃん! ミカンとスキヤキは別腹だよ?」
わけがわからん!
「お前の晩メシ、ミカンだったのか?」
あり得るからな。そしてあんま驚かなくなってる自分が怖いぜ……?
「やはは! 大ちゃん! 晩ごはんの後にミカン食べるじゃない、そうしたらさー、次はスキヤキじゃん! なに言ってるの?」
「お前が何を言ってるんだ?」
お前の別腹システムは地球人と違う構造なのか?!
「とにかく、藤島さんが野菜を準備してくれているから、ここへ運んでくれ。お前の分もあるから」
「やったー! さすが大ちゃん、愛してる!!」
ほっぺにキスされた。人前でやるなと言ってるだろー!
……あ、いや、人前でっていうか、ほら、アレだ。アレ。
「ゲゲゲ。お前ラ、仲が良いナ」
「お前たちのように圧倒的な強さを持つ者が、なぜ他者を思いやって生きられるのか。興味深いな」
悪魔たちがそう言った……悪魔同士は殺し合わないと聞いたことがある。しかし、殺し合わないだけで、他者を思いやることは無い。あるのは、上下関係や主従関係。強い者の言いなりになって働くだけだ。
「えへへー! 僕はね、これを持ってきたんだよ!」
「おー! 栗っち、やるなあ!」
本場さぬきうどんだ。スキヤキのシメには、やっぱうどんだよな!
「親戚のおじさんが、いっぱい送ってくれたんだけど、食べきれないからお裾分けだって!」
香川県のうどんか! 本場のうどんをスキヤキに入れて、バチは当たらないのかー?
コンロに鍋を置き、火をつける。えっと、油、アブラ……
「わぁ! 何ですか、これ!」
岩木ちゃんは、興味津々といった感じだ。魔界にスキヤキは無いのか。
「いつもすみません、ご迷惑をおかけします」
手越さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「困った時はお互い様だからなー! そのかわりと言っては何だけど〝例の件〟はよろしく頼むぜー!」
「お安い御用です。むしろこちらからお願いしたい位だ」
あー、そのお願いっていうのは……
「野菜が来たよー! 食器も!」
おいおい、ユーリ! 百均とはいえ、ワレモノを頭に乗せて運ぶなよなー!
……すごいバランス感覚だな、しかし。
「タマゴも要るわよね。人数分で良いかしら?」
さすがに藤島さんは、スキヤキを知っているようだ。
チョイチョイこちらに来ていたらしいしな。
「ちょっと待ってね、すぐに茹でてくるから!」
「待った藤島さん! それは生でいいんだぜー?」
やはりちょっと間違っていたなー。魔界人だから仕方ないけど。
「ああっ! 先輩! お手伝いしまス!」
ふらっと立ち上がろうとする岩木ちゃん。
「良いのよ岩木隊員。今はゆっくり体を休めてね?」
「優しいっス! 先輩、一生ついていくっス!」
パッと見、岩木ちゃんの方が藤島さんよりもずっと大人なので、上下関係が真逆だ。見ていて面白いな。
……さて、油を引いて肉を焼く、と。
「美味そうだナ! 何だソレ!」
「これは牛肉……牛の肉だぜ。おっと、そっちの〝牛〟とは違うけどなー」
たっちゃんに聞いた魔界の〝牛〟は、2足歩行で棍棒を持っていたはずだ。神話に出て来そうだな。
「牛……ですか……?」
魔界人は、2足歩行の魔物は気味悪がって食べないと聞いた。
この〝牛ですか〟は、俺達で言う所の〝蛙ですか〟と同じ意味だなー。
「牛ハ、暴れるかラ、料理が面倒なんだよナ」
……悪魔は〝牛〟を食べるようだ。でも、魔界の人達には、ちょっとハードル高いよな。誤解を解くか。
俺は、自分の部屋からノートパソコンを取ってきて、こっちの世界の牛を動画で紹介した。
「これがアガルタの牛?」
「かわいいー! え? この子を食べるの?」
「ウガ! 何だこの気味の悪イ生き物ハ!」
「不思議な〝牛〟が居たものだな!」
様々な意見が飛び交ったが、スキヤキが出来上がり、器に入れた生タマゴをかき混ぜ終えた頃には、全員、食欲に抗える状態ではなくなっていた。
「よーし! いっただっきまーす!」
「ユーリ! 先ずはお客様からだろー!」
まあいいか。ちなみに俺も、晩飯は少なめにしといたからなー! ガッツリ行くぜ。
「うわわわ! とろける! お肉がすっごい美味しい!」
「タマゴを生で食べるって、魔界ではちょっと信じられないけど、これがまた絶妙ですね!」
「ゲゲゲ…… アガルタの人間ハ、こんな美味いものヲ食ってるのカ?!」
「ああ~ん! お肉ばっかりズルいよ、フツォメニ~!」
「幸せだー! 何ですか、この新鮮な野菜! スゴイ! 美味しすぎる!」
「……美味いな。人間達の食事も悪くない」
「このプニョプニョしたものは何ですか? シラタキって……え? 元は芋? 芋が何でこんな食感に……」
「こっちの白いのは……あ、砕けた。え? 豆? 豆が四角くて白いって?」
「えへへー。ご飯もいっぱいあるけど、最後にうどんを入れるからね」
「最高だ! なんて美味いんだ! 有難う、本当に有難う!」
どうやら喜んでもらえたようだなー!
「……あれ? 大ちゃん大ちゃん?」
んー? どうしたユーリ?
「……カエルは?」
「だからユーリ! またそういう……」
首を傾げて、不思議そうに俺を見ているユーリ。
……冗談だよな? 冗談だと言ってくれ!
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