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5年生 3学期 3月
落日と轟雷の塔
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天高くそびえ立つ塔。
誰が何のために建てたのかも、なぜ〝落日と轟雷の塔〟と呼ばれているのかも不明。
そして……
「登る方法も不明って、そんな〝塔〟あるのか?」
立派で重い、古びた扉を開くと、塔の外周に見合った広い部屋の真ん中に、下へと続く階段があるのみ。上りの階段は無かった。
『主よ。ここにあるのは、地下へと広がる大迷宮です。上に向かう通路もなければ、外壁には、小虫一匹入る隙間も御座いません』
『登らないのか! また地下かよパズズ。ちょっと多いぞ、地下へ潜る展開』
『私に申されましても……』
誰に対する苦情なのか、僕もイマイチわかんなくなってるけどさ。
……塔って聞いたら、登っていくと思うじゃんか。
『お探しの物は、この塔のどこかにあると伝えられております』
時間操作に関わる魔道具のひとつ〝砂抜きされた砂時計〟の効果は、使用者の寿命分、使用者以外の時間を止めるというものだ。
そして途中で解除は出来ない。つまり、自分の寿命の砂が落ち切るまで、止まった世界を孤独に過ごすのだ。
……何だろうな、この〝コレジャナイ感〟は。
「ここが〝落日と轟雷の塔〟か……!」
「半端ねぇし! こんなトコまで誰も来れないし!」
遠藤翔と辻村富美が、燥いでいるとも怯えているともとれるテンションで騒いでいる。
「皆さん、気をつけて下さい。恐らくここは、魔物の巣になっています」
織田さんは杖を構えたまま、階段の方を睨んでいる。なぜ探検初心者のハズのアンタが、そんな事知ってるんだよ?
『タツヤ、下階から何かが近付いてくる。数は4体』
マジかよ……よし、チャッチャと圧縮岩弾で……
「まって達也さん、手加減の練習をしてからの方が良いんじゃない?」
あ、そうか。
今はまだ、どれだけ力を絞ってもクレーターが出来てしまう。
〝使役:土〟って、地形を変えちゃうような威力の技ばかりだよな。
『タツヤ、それはキミが規格外な上に、力の制御が出来ていないからだよ。今はまだ最大出力は出せても、最小出力には出来ない。ジェット機で近所のコンビニに買い物に行くようなものだ』
それは随分と近所迷惑だな。
……うーん。という事は、やっぱ狭い場所では〝使役:土〟を使わない方が良いのか。
ゴーレムを作っても、その腕の一振りで、この塔ごと粉砕しかねないし。
「仕方がない。こっちでやるか」
例のごとく〝接触弱体〟を掛けて、杖を伸ばす。
この杖、ただの〝初心者用の杖〟なのに、鈍器として絶賛大活躍中だ。
「来ましたよ!」
織田さんも杖を構えた。彼の杖は、殴る為のものではなく、魔法の効果を上げるためのものだ。彩歌のロッドと同じように、先端には宝石が埋め込まれている。
『っていうか、あの人〝見た目〟だと、武器すら使わずに、拳でやっつけそうなんだけど』
しかも、内部からの破壊を極意としてるだろう。絶対。
『ふふ。悪いわよ、達也さん』
間もなく薄暗い階段の奥から何かが現れた。
「何だよ、あんなの見たこと無いぞ!?」
遠藤が叫ぶ。
……目だ。巨大な目が、宙に浮いている。
「〝見つめる者〟! こんな入口まで出てきたのか?」
……織田さん?
「達也さん。あれ〝伝説級〟の魔物よ。得意技は魔法……だったと思う」
ほほう? むかし遊んだゲームに、なんかそれっぽい敵キャラがいたな。
「気をつけて下さい! あれは手強いですよ」
織田さんが詠唱を始める。同時に、4体の魔物も何やらよく解らない呪文を唱え始めた。あいつら口もないのに、どこで喋ってるんだ?
……とか言ってる場合じゃないな。
「うおおおおおっ!」
僕は魔物の気を引くために、わざと大声で叫びながら突進した。
必然的に、4体の魔物が唱えた呪文の標的は僕になる。
2体は雷系、あとは、火の玉と、……緑の玉か。これは毒だな?
『つまりタツヤ、当然だがキミには効かない』
全てがほぼ同時に、僕に命中する。
ブルーの言う通り、雷と毒は僕には効かない。
けど、火の玉だけは、ちょっとチクっとしたぞ。さすがは伝説級だな。
「ボウズ、お前なんでピンピンしてるんだよ?」
「今のおかしくね? レジストして無くね?」
確かに、今のは4つとも、レジストじゃなくて〝ガチヒット〟だけど。
エーコがいなくなったので、最近、遠藤と辻村が僕の秘密に近付こうと必死だ。
ちょっとちょっと。僕の正体は城塞都市のトップシークレットだぞ?
……嘘だけど。
彩歌の放った大きく鋭い鉄針が、いちばん左の目玉を貫く。本数を減らして威力と精度を上げたんだな。
右の2体は、織田さんの風魔法をレジストし切れずに細切れになった。やっぱ織田さん強いな!
……よし、僕も!
「って、マジで?」
目の前の敵が、悲鳴を上げている。遠藤と辻村による、弱体系魔法が効いているようだ。
「二人がかりの重ね掛けだけどな!」
「効いた?! ラッキー! やっちゃえし!」
ラッキーなもんか! おまえらが腕を上げてるんだよ!
僕の杖が風を切る音と共に、目の前の〝見つめる者〟は粉々に砕け散った。
「ふぅ。まさかあんな大物が出てくるとは。もう始まっているのかもしれませんね……」
織田さんが、額の汗を拭う。
あーもー! 意味深過ぎる。わざとなのか?
「……織田っちさー、ここへ何しに来たんだ?」
「いい加減、教えてくれてもいいじゃん? チョー気になるし!」
遠藤と辻村の質問攻め。
……まあ確かに、この先も同行するんだ。秘密にする意味も無いだろう?
「聞かないほうが良いと思うんです。恐らく、聞くだけで私と同じ〝呪縛〟に捕らえられてしまいます」
「な、何だよ……脅かすなよ! だいたい、探検初心者がなんでそんなに強いんだよ!」
「しかも第五階級魔道士って! ワケわかんないし!」
そういえばそうだな。
『彩歌さん、魔道士の階級って、どうやって決まるの?』
『判定試験とか、功労によって認定されるの。ちなみに私の階級は功労によるものよ』
なるほどね。織田さんはどっちだろう。
「はは。ちょっとした功労賞ですよ。最近頂きました」
複雑な表情で笑う織田さん。
「魔道士の階級は〝魔法〟で名を上げれば貰えるけど、探検者や守備隊として〝戦闘〟に関わらずに第五階級魔道士に認定って、ちょっと考えられないわ」
彩歌が訝しげに言う。
〝戦って生き残る事〟が重要視される魔界では〝強さ〟こそが、一番の評価対象なのだろう。
……あと、織田さんの戦闘能力や体の傷跡から見ても〝戦闘〟に関わっていないとは、どう考えても思えないんだよなあ。
「あはは。良いじゃないですか! さあ、とにかく行きましょう!」
織田さんに質問すると、いつもこうやって誤魔化されてしまう。
まあ、僕や彩歌も似たような感じだけど。おかげで遠藤と辻村だけ、頭にハテナを乗っけっぱなしだ。
「こっちです! ここを降りて右に行けば、隠し通路が……」
織田さんが階段に向かって駆け出した。
……だから、なんでそれをアンタが知ってるんだよ?
怪しさを隠す気は全く無いんだよな、この人。
誰が何のために建てたのかも、なぜ〝落日と轟雷の塔〟と呼ばれているのかも不明。
そして……
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『主よ。ここにあるのは、地下へと広がる大迷宮です。上に向かう通路もなければ、外壁には、小虫一匹入る隙間も御座いません』
『登らないのか! また地下かよパズズ。ちょっと多いぞ、地下へ潜る展開』
『私に申されましても……』
誰に対する苦情なのか、僕もイマイチわかんなくなってるけどさ。
……塔って聞いたら、登っていくと思うじゃんか。
『お探しの物は、この塔のどこかにあると伝えられております』
時間操作に関わる魔道具のひとつ〝砂抜きされた砂時計〟の効果は、使用者の寿命分、使用者以外の時間を止めるというものだ。
そして途中で解除は出来ない。つまり、自分の寿命の砂が落ち切るまで、止まった世界を孤独に過ごすのだ。
……何だろうな、この〝コレジャナイ感〟は。
「ここが〝落日と轟雷の塔〟か……!」
「半端ねぇし! こんなトコまで誰も来れないし!」
遠藤翔と辻村富美が、燥いでいるとも怯えているともとれるテンションで騒いでいる。
「皆さん、気をつけて下さい。恐らくここは、魔物の巣になっています」
織田さんは杖を構えたまま、階段の方を睨んでいる。なぜ探検初心者のハズのアンタが、そんな事知ってるんだよ?
『タツヤ、下階から何かが近付いてくる。数は4体』
マジかよ……よし、チャッチャと圧縮岩弾で……
「まって達也さん、手加減の練習をしてからの方が良いんじゃない?」
あ、そうか。
今はまだ、どれだけ力を絞ってもクレーターが出来てしまう。
〝使役:土〟って、地形を変えちゃうような威力の技ばかりだよな。
『タツヤ、それはキミが規格外な上に、力の制御が出来ていないからだよ。今はまだ最大出力は出せても、最小出力には出来ない。ジェット機で近所のコンビニに買い物に行くようなものだ』
それは随分と近所迷惑だな。
……うーん。という事は、やっぱ狭い場所では〝使役:土〟を使わない方が良いのか。
ゴーレムを作っても、その腕の一振りで、この塔ごと粉砕しかねないし。
「仕方がない。こっちでやるか」
例のごとく〝接触弱体〟を掛けて、杖を伸ばす。
この杖、ただの〝初心者用の杖〟なのに、鈍器として絶賛大活躍中だ。
「来ましたよ!」
織田さんも杖を構えた。彼の杖は、殴る為のものではなく、魔法の効果を上げるためのものだ。彩歌のロッドと同じように、先端には宝石が埋め込まれている。
『っていうか、あの人〝見た目〟だと、武器すら使わずに、拳でやっつけそうなんだけど』
しかも、内部からの破壊を極意としてるだろう。絶対。
『ふふ。悪いわよ、達也さん』
間もなく薄暗い階段の奥から何かが現れた。
「何だよ、あんなの見たこと無いぞ!?」
遠藤が叫ぶ。
……目だ。巨大な目が、宙に浮いている。
「〝見つめる者〟! こんな入口まで出てきたのか?」
……織田さん?
「達也さん。あれ〝伝説級〟の魔物よ。得意技は魔法……だったと思う」
ほほう? むかし遊んだゲームに、なんかそれっぽい敵キャラがいたな。
「気をつけて下さい! あれは手強いですよ」
織田さんが詠唱を始める。同時に、4体の魔物も何やらよく解らない呪文を唱え始めた。あいつら口もないのに、どこで喋ってるんだ?
……とか言ってる場合じゃないな。
「うおおおおおっ!」
僕は魔物の気を引くために、わざと大声で叫びながら突進した。
必然的に、4体の魔物が唱えた呪文の標的は僕になる。
2体は雷系、あとは、火の玉と、……緑の玉か。これは毒だな?
『つまりタツヤ、当然だがキミには効かない』
全てがほぼ同時に、僕に命中する。
ブルーの言う通り、雷と毒は僕には効かない。
けど、火の玉だけは、ちょっとチクっとしたぞ。さすがは伝説級だな。
「ボウズ、お前なんでピンピンしてるんだよ?」
「今のおかしくね? レジストして無くね?」
確かに、今のは4つとも、レジストじゃなくて〝ガチヒット〟だけど。
エーコがいなくなったので、最近、遠藤と辻村が僕の秘密に近付こうと必死だ。
ちょっとちょっと。僕の正体は城塞都市のトップシークレットだぞ?
……嘘だけど。
彩歌の放った大きく鋭い鉄針が、いちばん左の目玉を貫く。本数を減らして威力と精度を上げたんだな。
右の2体は、織田さんの風魔法をレジストし切れずに細切れになった。やっぱ織田さん強いな!
……よし、僕も!
「って、マジで?」
目の前の敵が、悲鳴を上げている。遠藤と辻村による、弱体系魔法が効いているようだ。
「二人がかりの重ね掛けだけどな!」
「効いた?! ラッキー! やっちゃえし!」
ラッキーなもんか! おまえらが腕を上げてるんだよ!
僕の杖が風を切る音と共に、目の前の〝見つめる者〟は粉々に砕け散った。
「ふぅ。まさかあんな大物が出てくるとは。もう始まっているのかもしれませんね……」
織田さんが、額の汗を拭う。
あーもー! 意味深過ぎる。わざとなのか?
「……織田っちさー、ここへ何しに来たんだ?」
「いい加減、教えてくれてもいいじゃん? チョー気になるし!」
遠藤と辻村の質問攻め。
……まあ確かに、この先も同行するんだ。秘密にする意味も無いだろう?
「聞かないほうが良いと思うんです。恐らく、聞くだけで私と同じ〝呪縛〟に捕らえられてしまいます」
「な、何だよ……脅かすなよ! だいたい、探検初心者がなんでそんなに強いんだよ!」
「しかも第五階級魔道士って! ワケわかんないし!」
そういえばそうだな。
『彩歌さん、魔道士の階級って、どうやって決まるの?』
『判定試験とか、功労によって認定されるの。ちなみに私の階級は功労によるものよ』
なるほどね。織田さんはどっちだろう。
「はは。ちょっとした功労賞ですよ。最近頂きました」
複雑な表情で笑う織田さん。
「魔道士の階級は〝魔法〟で名を上げれば貰えるけど、探検者や守備隊として〝戦闘〟に関わらずに第五階級魔道士に認定って、ちょっと考えられないわ」
彩歌が訝しげに言う。
〝戦って生き残る事〟が重要視される魔界では〝強さ〟こそが、一番の評価対象なのだろう。
……あと、織田さんの戦闘能力や体の傷跡から見ても〝戦闘〟に関わっていないとは、どう考えても思えないんだよなあ。
「あはは。良いじゃないですか! さあ、とにかく行きましょう!」
織田さんに質問すると、いつもこうやって誤魔化されてしまう。
まあ、僕や彩歌も似たような感じだけど。おかげで遠藤と辻村だけ、頭にハテナを乗っけっぱなしだ。
「こっちです! ここを降りて右に行けば、隠し通路が……」
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