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5年生 3学期 3月
切り取られた世界
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「うあ、ああう……」
「ひぃぃぃ……!」
遠藤と辻村が、涙を流しながらガタガタと震えている。
……僕を見ながら。
「ま、魔王……だ……」
「信じ……られ……な……」
失礼だな。僕は魔王より強いぞ?
『タツヤ、そういう問題ではない』
冗談だよ。
それにしてもあの2人、天井に出来た穴を見てしまったか。
あれを見たら、さすがにそうなるよな……
「しかし、どうした物か……」
ここは約〝5天文単位〟もの距離を測れるブルーでさえ、見通せない程の広さを持った空間。
『つまり……キミがこの空間の〝端〟に辿り着く事は出来ないだろう』
……マジかよ。
こんな小さな砂時計一つで、そんなデカい空間を作ったのか?
魔界って本当に〝何でもあり〟だな……!
でもさ? 僕が本気で〝超〟頑張れば、なんとかなるんじゃない?
『タツヤ。単純に考えてみてほしい。この空間の〝端〟まで移動するには、まず〝宇宙船〟を用意しなくてはならない』
〝不可能さ〟を分かりやすく説明してくれてありがとう、ブルー。
つまり、誰も協力者が居ないこの空間で〝宇宙の旅〟をしなくてはならない、という事だ。
そりゃそうか。距離が距離だもんな。
『いや、宇宙船は期待できないが、キミの〝協力者〟は居るよタツヤ。そして彼らには心のケアが必要だと思うのだが』
……そうだな。
そこで震えてる2人に、状況を説明する所から始めるか。
>>>
「……ほ、本当に、人間なのか?」
失礼だな、僕は人間だ! ……いや、人間だってば!
「ウチらの事、食べねぇ?」
そういう方向に怪しまれると傷つくなあ。
「詳しくは話せないけど、僕は正真正銘、人間だし、バ……遠藤さんと辻村さんに、危害を加えたりしないよ」
……2人は僕の言葉で、なんとかとか落ち着いてくれたようだ。
「ん? ボウズ。〝バ〟って何だよ……?」
……さて、それにしても、かなりのピンチだぞ。
まずは、今の状況を説明しようか。
「さっきまでは、この空間の端まで行けば、どうにか出来ると思ってたんだけど……」
「いや、だから〝バ〟って何なんだよ!」
訝しげな表情で喚いている遠藤は放っておいて、続けるとするか。
「〝砂抜きされた砂時計〟は、想像以上に大きな〝コピー世界〟を作っていたんだ。広すぎて、端まで行けそうにない」
「うおぉぉぉい! 無視かよ!」
どうやら元気になったようだな、遠藤。
……ん? 辻村が、神妙な面持ちで唸っているな。
腹でも痛いのか?
「……ここってさー? 何のために有るのかな?」
辻村がボソリと呟く。
いやいや、それはさっき話してたじゃん。
「えっと、それは、現実世界のコピーに閉じ込めるための……」
「いやー、だからさ? 何のために閉じ込めるの?! 意味がわかんねぇし!」
何のためってそりゃあ……
……ん? 何のためだ?
「そうか…………そうだ! もしかして!」
えっと、まずは確認だ。
『ブルー、どうだ?』
『なるほど、そういう事かタツヤ。うん、いるね』
やっぱり! この場所とやり口。
何者かによる、明らかな〝悪意〟を感じるぞ。
『確かに、ここまで手の込んだ〝仕掛け〟を用意するからには、それ相応の意味があるだろう』
やっぱ、そうだよな。
この状況を作り出すことによって〝得をする奴〟が、絶対に居るはずだ。
……お手柄だ辻村。おかげで、この場所のカラクリに気付くことが出来た。
『どこか分かるか?』
『キミの左後ろ、天井と壁の境目に張り付いているよ。姿は見えないけどね』
意外と近くに居たな。射程範囲内だ。
有り難い事に、この場所はどれだけメチャクチャに壊しても、誰にも文句は言われないし、思いっきりやるか!
「ちょっとこれ持ってて。しゃがみ込んで、目を閉じて、絶対に顔を出さないで?」
そう言って、もう一度、折り畳み傘に〝接触弱体〟を掛けてから手渡した。
「わ、分かった!」
「頼まれても顔なんか出さねーし!」
2人は傘を差し、しゃがんで丸くなる。
……よーし、折角だから、ノームが使っていた魔法を、片っ端からお見舞いしてやろうかな。
>>>
という事で、僕たち3人は、無事に砂時計の呪縛から脱した。
「お、俺は何も見てない! 見てないから!」
「そうだし! 見るはず無いし!」
……見てたな?
「で、達也さん。何があったの?」
彩歌が、砂時計を覗き込んている。
「その砂時計は、得体の知れない〝何か〟の罠だったんだ」
結局、そいつの姿を確認することは出来なかった。
「砂時計の中に居た〝何か〟が長い時間を掛けて、閉じ込められた者のエネルギーを、美味しく吸い取り続ける仕組みだと思う」
例えば大ちゃんの話だと、悪魔は人間の〝負の感情〟を糧にするらしい。
それと同じようなものだろう。
しかも、その〝何か〟は、ただの悪魔や魔物じゃなかった。
僕の〝使役:土〟を食らっても、そこそこ持ちこたえたもんね。
『……それで意地になっちゃったのね?』
ブルーを介して、彩歌が呆れたように言った。
『バレたか!』
彩歌の言う通り、いくつかの技を弾かれた僕は、つい本気を出した。
……偽物の世界とはいえ、ちょっとやり過ぎたかなとは思っている。
『上の階層が、完全に消失したからね。タツヤ、キミの〝使役:土〟は本当にスゴいな』
僕の放った攻撃は、敵を塵にしたあと、僕の頭より上の物を、すべて消してしまった。
……〝塔〟も含めて。
『あきれた。ここに来るまで2日も潜り続けたのよ?』
ここが地下何メートルか知らないけど、結構な深さだ。
さすがに手加減を覚えないと、迷惑を掛けてしまうな。えっと、ご近所さんとかに?
「切り取った時間の中に閉じ込める……恐ろしいヤツが居たものですね」
織田さんは、砂時計を見ながら神妙な顔つきで言う。
モース・ギョネといい、魔界って、ちょっと物騒すぎるぞ。
「しかし困った。この砂時計の仕組みでは〝時神の休日〟を防げないな」
「そうね……残念だわ」
この調子だと、あとの2つ〝時の天秤〟と〝卵と雛と何かの像〟も、ハズレなんじゃないかと思えてしまう。
「ごめん、みんな。ちょっと待ってくれる?」
作戦会議だ。ウチの技術担当に相談してみよう。
「もちろん良いですよ」
織田さんがニッコリ微笑む。
……それじゃ。
『大ちゃん、大ちゃん、聞こえる?』
>>>
『あー、その〝砂時計〟と、残っていれば、モース・ギョネの体の一部、持って帰って来てくれないかなー』
え……何とかなるの?!
『いや、まだ分かんないけどさー。その2つは〝時間に関わる〟事が出来るってだけで〝超お宝素材〟なんだぜー?』
しまった。モース・ギョネに至っては、あの後どうなったのか、さっぱり覚えていない。急いで西の大砦に戻らなきゃ!
「ひぃぃぃ……!」
遠藤と辻村が、涙を流しながらガタガタと震えている。
……僕を見ながら。
「ま、魔王……だ……」
「信じ……られ……な……」
失礼だな。僕は魔王より強いぞ?
『タツヤ、そういう問題ではない』
冗談だよ。
それにしてもあの2人、天井に出来た穴を見てしまったか。
あれを見たら、さすがにそうなるよな……
「しかし、どうした物か……」
ここは約〝5天文単位〟もの距離を測れるブルーでさえ、見通せない程の広さを持った空間。
『つまり……キミがこの空間の〝端〟に辿り着く事は出来ないだろう』
……マジかよ。
こんな小さな砂時計一つで、そんなデカい空間を作ったのか?
魔界って本当に〝何でもあり〟だな……!
でもさ? 僕が本気で〝超〟頑張れば、なんとかなるんじゃない?
『タツヤ。単純に考えてみてほしい。この空間の〝端〟まで移動するには、まず〝宇宙船〟を用意しなくてはならない』
〝不可能さ〟を分かりやすく説明してくれてありがとう、ブルー。
つまり、誰も協力者が居ないこの空間で〝宇宙の旅〟をしなくてはならない、という事だ。
そりゃそうか。距離が距離だもんな。
『いや、宇宙船は期待できないが、キミの〝協力者〟は居るよタツヤ。そして彼らには心のケアが必要だと思うのだが』
……そうだな。
そこで震えてる2人に、状況を説明する所から始めるか。
>>>
「……ほ、本当に、人間なのか?」
失礼だな、僕は人間だ! ……いや、人間だってば!
「ウチらの事、食べねぇ?」
そういう方向に怪しまれると傷つくなあ。
「詳しくは話せないけど、僕は正真正銘、人間だし、バ……遠藤さんと辻村さんに、危害を加えたりしないよ」
……2人は僕の言葉で、なんとかとか落ち着いてくれたようだ。
「ん? ボウズ。〝バ〟って何だよ……?」
……さて、それにしても、かなりのピンチだぞ。
まずは、今の状況を説明しようか。
「さっきまでは、この空間の端まで行けば、どうにか出来ると思ってたんだけど……」
「いや、だから〝バ〟って何なんだよ!」
訝しげな表情で喚いている遠藤は放っておいて、続けるとするか。
「〝砂抜きされた砂時計〟は、想像以上に大きな〝コピー世界〟を作っていたんだ。広すぎて、端まで行けそうにない」
「うおぉぉぉい! 無視かよ!」
どうやら元気になったようだな、遠藤。
……ん? 辻村が、神妙な面持ちで唸っているな。
腹でも痛いのか?
「……ここってさー? 何のために有るのかな?」
辻村がボソリと呟く。
いやいや、それはさっき話してたじゃん。
「えっと、それは、現実世界のコピーに閉じ込めるための……」
「いやー、だからさ? 何のために閉じ込めるの?! 意味がわかんねぇし!」
何のためってそりゃあ……
……ん? 何のためだ?
「そうか…………そうだ! もしかして!」
えっと、まずは確認だ。
『ブルー、どうだ?』
『なるほど、そういう事かタツヤ。うん、いるね』
やっぱり! この場所とやり口。
何者かによる、明らかな〝悪意〟を感じるぞ。
『確かに、ここまで手の込んだ〝仕掛け〟を用意するからには、それ相応の意味があるだろう』
やっぱ、そうだよな。
この状況を作り出すことによって〝得をする奴〟が、絶対に居るはずだ。
……お手柄だ辻村。おかげで、この場所のカラクリに気付くことが出来た。
『どこか分かるか?』
『キミの左後ろ、天井と壁の境目に張り付いているよ。姿は見えないけどね』
意外と近くに居たな。射程範囲内だ。
有り難い事に、この場所はどれだけメチャクチャに壊しても、誰にも文句は言われないし、思いっきりやるか!
「ちょっとこれ持ってて。しゃがみ込んで、目を閉じて、絶対に顔を出さないで?」
そう言って、もう一度、折り畳み傘に〝接触弱体〟を掛けてから手渡した。
「わ、分かった!」
「頼まれても顔なんか出さねーし!」
2人は傘を差し、しゃがんで丸くなる。
……よーし、折角だから、ノームが使っていた魔法を、片っ端からお見舞いしてやろうかな。
>>>
という事で、僕たち3人は、無事に砂時計の呪縛から脱した。
「お、俺は何も見てない! 見てないから!」
「そうだし! 見るはず無いし!」
……見てたな?
「で、達也さん。何があったの?」
彩歌が、砂時計を覗き込んている。
「その砂時計は、得体の知れない〝何か〟の罠だったんだ」
結局、そいつの姿を確認することは出来なかった。
「砂時計の中に居た〝何か〟が長い時間を掛けて、閉じ込められた者のエネルギーを、美味しく吸い取り続ける仕組みだと思う」
例えば大ちゃんの話だと、悪魔は人間の〝負の感情〟を糧にするらしい。
それと同じようなものだろう。
しかも、その〝何か〟は、ただの悪魔や魔物じゃなかった。
僕の〝使役:土〟を食らっても、そこそこ持ちこたえたもんね。
『……それで意地になっちゃったのね?』
ブルーを介して、彩歌が呆れたように言った。
『バレたか!』
彩歌の言う通り、いくつかの技を弾かれた僕は、つい本気を出した。
……偽物の世界とはいえ、ちょっとやり過ぎたかなとは思っている。
『上の階層が、完全に消失したからね。タツヤ、キミの〝使役:土〟は本当にスゴいな』
僕の放った攻撃は、敵を塵にしたあと、僕の頭より上の物を、すべて消してしまった。
……〝塔〟も含めて。
『あきれた。ここに来るまで2日も潜り続けたのよ?』
ここが地下何メートルか知らないけど、結構な深さだ。
さすがに手加減を覚えないと、迷惑を掛けてしまうな。えっと、ご近所さんとかに?
「切り取った時間の中に閉じ込める……恐ろしいヤツが居たものですね」
織田さんは、砂時計を見ながら神妙な顔つきで言う。
モース・ギョネといい、魔界って、ちょっと物騒すぎるぞ。
「しかし困った。この砂時計の仕組みでは〝時神の休日〟を防げないな」
「そうね……残念だわ」
この調子だと、あとの2つ〝時の天秤〟と〝卵と雛と何かの像〟も、ハズレなんじゃないかと思えてしまう。
「ごめん、みんな。ちょっと待ってくれる?」
作戦会議だ。ウチの技術担当に相談してみよう。
「もちろん良いですよ」
織田さんがニッコリ微笑む。
……それじゃ。
『大ちゃん、大ちゃん、聞こえる?』
>>>
『あー、その〝砂時計〟と、残っていれば、モース・ギョネの体の一部、持って帰って来てくれないかなー』
え……何とかなるの?!
『いや、まだ分かんないけどさー。その2つは〝時間に関わる〟事が出来るってだけで〝超お宝素材〟なんだぜー?』
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