プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
175 / 264
5年生 3学期 3月

まゆねこ

しおりを挟む
 誰かに見られている気がして、周囲を見渡した。

「……誰も居ないなあ」

 私は内海うつみるり。小学5年生。
 さっきの、妙な視線は何だろう。
 いま現在、ウチの地下には〝悪魔〟が2匹と〝魔界人〟が5人も居る。
 ……厳密に言うと〝天才ヒーロー〟と〝宇宙人〟と〝救世主様〟も居るんだけど。
 もしかして、そっち関係かな?

「で、ちなみに、アニキと〝魔法使い〟は不在、と。ずいぶん長いあいだ留守にしてるけど、魔界とやらで、楽しくイチャイチャしてるんじゃないの?」

 そのアニキというのは〝星の化身〟だって。
 ……何なのよ、それ。イマイチ分かりづらいわ。

「それにしても……」

 やっぱり誰かが、私を見ている気がする。
 しかもかなりの威圧感だ。一体なにもの……

「……あ!」

 ネコだ。
 塀と塀の隙間すきまから、真っ白なネコがこっちを見ている。
 なるほど、そんな低い位置だったんだね。すぐに気付かないわけだわ。
 ……けど、何だろう。
 この子、まだ小さいくせに、妙に眼力めぢからが強いような?

「……っん!! ぶぁあああーっはっはっは! あんた何、そのマユゲ!」

 サインペンかな? 見事にまゆを書かれている。
 真っ白なせいでクッキリと。

「かなり絵心のあるヤツに書かれたみたいね? 見事に劇画チック!」

 巨悪に単身で立ち向かいそうなぐらいに凛々りりしい眉だ。
 でも、この眉の作者 (?)は、きっと飼い主じゃないな。
 だって、悪意が溢れてるもん。いや、分かんないけど。
 ……飼い主じゃないと信じたいわ。

「お前、どうしたの? なんで私を見てるの?」

 どうやら私は、普通の人とは違う〝能力〟を持っているらしい。
 ……とは言っても、魔法や超能力を使えたり、変身したりは出来ないんだけど。

「にゃー」

「眉が眉だけに、声が可愛いと違和感があるね」

 首をかしげるまゆネコ。
 可愛い仕草なんだけど、私の視線は眉に釘付けだ。
 その顔で首をひねられても、やり手のビジネスマンが難題を押し付けられたように見えてしまう。

「にゃあ?」

「ごめんねー。和也さんなら分かるのかも知れないけど、私じゃお役に立てないわ」

 私に与えられたのは〝救世主と同じ時を生きる〟という能力。動物の言ってる事なんか、分かろうはずもない。
 ……けど、なんだろう。

「この子、何か私に言おうとしてる?」

 真剣な眼差しを見ていると、なんとなくそんな気がする。いや、眉は関係なしに。

「にゃ」

 ついてきて! って言ってるな。
 ……まあ、ヒマだし、眉を書いたアーティストの事も気になるし、行ってみるか。





 >>>





「……思い出した。この子、乱丸らんまるだ」

 私が11歳に〝早送り〟される前までの同級生、二度岩にどいわハルちゃんの飼ってるネコだ。
 ……落書きひとつで、印象ってこんなに変わるんだなあ。

「もしくは、画力のすごさ?」

 なんてね。
 どっちかっていうと、私の能力のせいで、イマイチ記憶が曖昧なせいだな。
 ……私には、物心ついてから小学3年生までの、すごくボンヤリとした記憶と、それよりハッキリとした、小学5年生までの記憶がある。
 和也さんやブルーさんいわく〝どちらも現実〟なのだそうだ。
 へぇ、そうなの。としか言いようがないよね。

「ハルちゃんの家に向かってる……」

 私には、同級生としての記憶があるけど、ハルちゃんには無い。
 彼女にとって私は〝5年生のお姉ちゃん〟なのだ。ちょっと寂しい。

「にゃー」

 おや? ずいぶん手前で止まったな。え、どこ行くんだよ乱丸……

「裏口? ちょっとちょっと。私は知らないわけじゃないけど、向こうは私の事を知らないも同然なんだぞ?」

 完全に不審者じゃん、裏口からって。こら、乱丸! 私をどこに連れていく……ん?

「……いいか? わかったな?」

 裏口から男性の声。確か、ハルちゃんのお父さんは、海外に単身赴任中だった。親戚の人?

「……おとなしくしてろ。痛い思いはしたくないだろ?」

 あーあ。違う違う。そんな事を言う親戚はちょっと居ないな……アレだ。不審者とか犯罪者的なヤツだわ。

「乱丸、まさかこれを知らせに来たの?」

「にゃー」

 そうみたい。
 さてさて、どうしますかね。
 ……まあ、ここは普通に警察に行くかな。
 私って、あの5人と違って、こういう時に役に立つ能力は無いんだよな。

「にゃ」

 え? うしろ?
 振り向いた途端に、大きな手で押さえつけられた。しまった! もうひとり居た!





 >>>





 さるぐつわ。なるほど、これはしゃべれないや。
 となりには、後ろ手に縛られたハルちゃんと、そのお母さん。
 同じように、さるぐつわと……2人はご丁寧に、目隠しまでされている。

「この、変な眉のネコ、助けを呼びに行きやがったのか?」

「へへへ。変な眉って、それ書いたのアニキじゃねぇですか」

 なんだ、ここに居たのか画伯。

「さて、あと10分もすりゃ、車が来る。そうしたら開放してやるよ」

「にゃー」

 嘘だ。
 乱丸は、ちゃんと聞いていた。
 本当は私たちを皆殺しにして逃走。
 ……ここを焼くための灯油も用意してあり、準備も万端らしい。

「にゃ」

 なんで分かるんだろう。私もとうとう、何らかの新たな能力に目覚めちゃった?
 ……え? 違う? 逃走車が来るまで待て?
 なんか、乱丸の声がそう聞こえてるのかと思ってたけど、違うみたい。
 そっか、この声は……

「お? 来たみたいだな。おい、準備だ」

「へいアニキ」

 外から、大きめのエンジン音が聞こえる。なんで逃走用にあんな騒々しい車を選ぶんだ? バカなのか?

「さてと……ヘヘヘ、悪く思うなよ?」

 アニキとやらが刃物を取り出した。
 ハルちゃんの髪の毛をつかんで、喉元にその刃物を……
 その時、ズガンという大きな音が響いた。

「何だ? おい、何の音だ?」

「さあ、ちょっと見てきましょうか……あ、あれ? そのネコ、黒かったッスかね?」

 いや、白地しろじまゆだったと思うけど?

「2匹居たんじゃねぇか? それより、外を見てこいよ」

「あっ、はい!」

 ううん。ハルちゃんちのネコは乱丸だけ。黒いのは、ウチのネコだ。

『おまたせ! ごめんね。〝いちもうだじん〟にするって、カズヤがいうから』

「分かってる。あと、謝る必要は無いって和也さんに伝えておいて」

『りょうかい!』

 クロは目に見えない速さで私たち3人の拘束を解いて、さるぐつわを外した。
 目隠しを外さないのは、大ちゃんの指示かもね。
 そして次の瞬間には、犯人の刃物を弾き飛ばしたようだ。早すぎて見えないけど。

「な? 何だ?」

 何が起きたのか分からず、慌てふためく犯人。

「和也さんも言ったと思うけど、殺しちゃダメだよ?」

『ん、ちょっとちがうよ?』

 え、そう?
 ……和也さんなら〝犯人は殺すな〟って言うと思ったんだけど。

『カズヤはね、もしるりちゃんになにかあったら、すきにしてもいい。だって』

「!!」

『まっかになった?! るりちゃんだいじょうぶ? はんにん、ころすね!』

「あー! ちがうちがう! これは犯人のせいじゃないから!」

『ちぇー。そうなんだ。じゃあ、うごけなくするー!』





 >>>





 クロの軽い一撃で、犯人は玄関先まで吹っ飛び、泡を吹いている。

『たぶん、みっかは、めをさまさないよ』

「よかった。永遠に目を覚まさないかと思った」

『うーん。カズヤもルリも、なんで、わるいやつにやさしいの?』

 玄関を出ると、大破した車と、その中には犯人の仲間であろう運転手。そしてさっきの〝舎弟口調の男〟が、仲良く拘束された上、気を失っていた。

「さすがに仕事が速いなあ」

 ヒーローたちは、騒ぎになる前に立ち去ったようだ。
 きっと大ちゃんが通報済みだろうし、私も逃げよう。

「にゃー」

 駆け出そうとした私を、乱丸が呼び止めた。

「あ、そうだ。乱丸、ありがとう! 助かったよ!」

 今日の功労賞は、乱丸だよな。眉は綺麗に洗ってもらいな。
 ……って、え?!

「るりちゃん!」

 目隠しを外したハルちゃんが立っていた。フラつく足取りで、近付いてくる。

「ハルちゃん……?」

 ハルちゃんとは、私が11歳になってからは、会話もしていない。
 ……もちろん、覚えているはずがない。

「る……りちゃん……ありがと……」

 そう言ったあと、ハルちゃんは膝をつき、気を失った。
 まさか、思い出してくれたの?!
 ……涙が止まらない。

『ルリ、はやくしないと、ひとがくるよ』

「……うん。行こう」

 涙をぬぐい、私は急いでハルちゃんの家を離れた。

『ルリ、ないているの? やっぱり、はんにん……』

「殺さなくていいよ。これは〝嬉し涙〟だから」

『ふーん』

 あーあ、これじゃアニキに〝泣き虫〟なんて言えないな。

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...