プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
181 / 264
5年生 3学期 3月

赤い部屋

しおりを挟む
「でも織田さん、最下層までもぐるって、かなりの時間が掛かるんじゃ……」

「いえ、大丈夫なんですよ! ……えっと、その角を曲がってすぐです」

 城塞都市のほぼ中央にある食堂。
 今は緊急事態のため、閉店しているようだ。

「この店の地下に〝地下都市シェオール〟への出入り口があります」

 迷宮への正しい入り口は〝落日と轟雷ごうらいの塔〟で、1階の中央〝見つめる者ゲイザー〟が出現した、あの階段だ。
 しかしその入り口は、完全に破壊され、埋められ、封印されてしまっている。

「ここにあるのは、私の家系に伝えられている〝秘密の出入り口〟……言わば裏口ですね」

 迷宮を封印した当時の王は、こちらの入り口をふさがず残した。
 地下に眠る、財宝や資源が惜しかったのか。
 それとも、いつか現れるかもしれない、魔王を滅ぼせる者を送り込むためか……真意は定かではない。

「非常時ですので失礼します!」

 織田さんが体当たりすると、店の扉は大きな音をたてて、粉々に砕け散った。
 ……やっぱり織田さんには、魔法より〝肉弾戦〟のほうが似合ってる気がするんだけどなあ。

「どうされました? さあ、急ぎましょう!」

 店の奥、厨房の脇から、従業員用の通路を通り、奥の階段を下へ。
 ……地下倉庫か。

「ここから私が現れた時は、それはそれは、皆さん驚いておられました」

「それは、そうでしょうね……」

 誰も居ないはずの地下から、筋骨隆々の大男が現れるんだもん。
 僕なら悲鳴を上げるだろう。

「そう言う私も、かなり驚いたんですよ」

 ……地上には〝街〟があった。
 迷宮で生まれ、迷宮しか知らない織田さんは、伝承の通り、この場所は〝何もない荒野〟だと思っていたし、頭をちょっと出しただけで、見張りの兵隊に首をはねられると思っていたのだ。

「兄の凶行を、地上の誰かに伝える事が出来れば、それだけで良いと思っていました。ですが、城塞都市の管理局は、私の話を聞いてくれ、一緒に対策を検討してくれたのです」

 そして見つけたのが〝落日と轟雷の塔〟だ。
 生まれ育った〝地下都市シェオール〟と全く同じ構造の迷宮が存在する……!
 はるか西にあるその迷宮に、きっと下層へ降りるためのキーアイテム〝赤い水〟があるはずだ。

「出来るなら、私の手で兄を止めたい。その一念で、私は西を目指すことにしました……」

 地下都市は魔界の深層と同じクラスの魔物が闊歩する危険な場所だ。そこで生まれ育った織田さんの実力は凄まじかった。
 城塞都市の危機を知らせた功労もあり〝第五階級魔道士マジシャン〟の階級をもらった織田さんは、探検者講習を受け〝落日と轟雷の塔〟を目指したのだ。

「……さあ、この階段です」

 床に、綺麗に切り取られたような四角い穴。きっと織田さんが、得意の〝風魔法〟でスパッとやったのだろう。
 織田さんは見た目のゴツさとは裏腹に、繊細で緻密な魔法の使い方ができる人だ。

「地下は狭いですからね。窮屈きゅうくつな場所で魔法を使い慣れてしまっただけですよ」

 と、織田さんは微笑む。
 なるほど。僕の〝使役:土〟みたいな雑な使い方じゃ、迷宮ふるさとをブッ潰しちゃうもんね。
 ……延々と、階段を降り続ける。
 途中には、驚くほど沢山の扉があり、それぞれが魔法的な何かで封印されているようだ。
 織田さんはそれらの扉に何かを囁いて、開いてゆく。

「扉は108あります。この通路は〝後付け〟なんですよ」

 伝承では、迷宮が封印される前日に108人の魔道士によって、一晩で掘り抜かれたという秘密の地下通路。
 ……たしかに〝落日と轟雷の塔〟に、こんな通路は無かった。
 あれば、間違いなくこっちを使っただろう。

「最後の扉です。念のため、お静かにおねがいします」

 織田さんが、今までよりもはるかに長い言葉を囁く。
 鈍い音を立てて開いた扉の向こうには……

『パズズ、ここってもしかして……』

『はい、玉座の間の入り口です』

 スゴいな! こんな抜け道があったのか……!
 〝落日と轟雷の塔〟では2日もかけてたどり着いた場所に、たった1時間足らずで到着してしまった。

「驚かれましたか。この階層までは、土魔法で掘り抜けるのです。でも、この下へはこれ無しでは下りられません……」

 織田さんは、例の赤い液体が入った小瓶を、懐から取り出す。

「さあ、先に進みましょう」

 足早に、パズズが封印された扉の前を通り過ぎる織田さん。

『パズズ、ごめん……』

『主よ、お心遣い、感謝の至りで御座います。どうぞお気になさらず、お進み下さい』

『必ず、もう一度来るからな!』

 悪いけど、パズズの封印を解くのは全てが片付いた後だ。
 織田さんの後を追い、通路を進む。

「〝落日と轟雷の塔〟と構造は一緒なのですが、やはり知っている場所だと思うと楽ですね」

 慣れた様子で隠し扉を開け、現れた魔物を倒してゆく。確かに、織田さんの動きがスムーズだ。

「内海さん、アレです」

 織田さんが指を指した先には、行き止まりの壁。
 ……しかしよく見ると、山羊やぎの頭の形をした〝ノッカー〟がくっついている。
 これって、海外で大きなお屋敷の扉についているやつだよな。輪っかを持って、トントンってノックするヤツだ。
 僕の思った通り、織田さんは山羊の口に付いている輪っかを持って、何もない壁をノックした。

「マケソベ、グエナエテ、マケソベッサベ?」

 ……壁の向こうから、高く細い、子供のような声が聞こえる。何語なんだろう。

『主よ、これは古代語です。今のは……〝お母さん? お母さんなの?〟です』

「マケソベ、オプネ、フレアネ」

 織田さんも同じように、よく解らない言葉で返す。

『〝お母さんよ、開けてちょうだい〟』

「ネノ、マケソベ! ネノマケソベナスメレ! ジョメネ、ガロガロラ!」

 壁からの子どもの声が、若干の怒気をはらむ。

『〝お母さんじゃない! お母さんのがしないもの! おまえ、オオカミだろ!〟』

 織田さんは、赤い液体の入った小瓶を取り出して右手にベットリと塗り、それを壁に押し付けた。

「マケソネ、オプネ、フレアネ」

『〝お母さんよ、開けてちょうだい〟』

「ヤホ! ユ、マケソネ! マケソネスメレ!」

『〝わーい! お母さんだ! お母さんのにおいだ!〟』

 ガコン! という音と共に、大勢の子どもの悲鳴と、逃げ惑うバタバタという音が響き渡る。
 6回の断末魔だんまつまと共に、壁が扉のように開いた。

「さあ、参りましょう」

 織田さんは扉の中へと入っていく……なんだろう、このモヤモヤした気分は。
 扉をくぐると、そこは、壁も床も天井も、真っ赤に塗り尽くされた部屋。

「うわぁ……何だ、ここ?」

 左右に3つずつ、小さな首のない動物の像。そして、一番奥の壁には、とても大きな振り子時計があった。
 ……なんとなく、わかった気がする。

「織田さん、あの時計の中に、もうひとつ〝動物の像〟がありますよね」

「内海さん、すごいですね! なぜご存知なのですか?」

 織田さんは部屋の奥に進み、無造作に振り子部分のフタを開ける。

「ここに隠れているんですよ」

 振り子部分の箱のスミ、ちょうど死角になった所に、山羊の形をした小さい像があった。

「これを……こうします」

 頭の部分をグイッとひねって引っ張ると、先程の断末魔と同じ音が部屋中に響き、柱時計がキリキリと音を立てて左にスライドしてゆく。
 ……徹底しているなあ。

「参りましょう。ここから下の階は、魔物の質が変わります。一応、気をつけて下さいね」

 
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...