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5年生 3学期 3月
戦闘記録:東門
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城塞都市、東門。
いま、あの門の向こう側には、大量の魔物が押し寄せている。
……にも関わらず、ここはまだ、大した騒ぎにもなっていない。
「なあ、聞いたか? 門の外、1000か2000かって位の魔物が来てるってよ」
なぜ騒ぎにならないかって? この東門には実力者が多く配置されるんだ。少なくとも、その程度の数の魔物なんかじゃ、ビクともしない。
「……ふん」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何でもないさ。それより一応、非常時の配備だろ? 早く行けよ」
「お、おう。じゃあな!」
はぁ、やっと行きやがった。
……折角のチャンスだ。今日こそ、あの門を開け放って〝同胞〟を迎え入れてやる。
「おい兄ちゃん、これいくらだ?」
「180円だよ。あと、今日はこっちのが大特価サービスだ。焼き過ぎちまってさ」
俺は東門の前で、パンを焼いている……人間に化けた悪魔だ。
「んじゃ、そっちも貰おうか。しかし、あんたの焼いたパンは最高だぜ」
「へへッ! ありがとな!」
もちろん、俺はパンを焼く為にこんな所に住んでいるわけじゃないぞ。
この城塞都市には、決して少なくない数の〝悪魔〟が紛れ込んでいるんだ。驚いたか?
城塞都市内に潜んでいる悪魔の仕事は、情報収集や破壊工作……少数だが、人間狩りをしてる奴も居るな。
……俺は、この東門をターゲットに決めた。
多くの優秀な魔道士に守られた、強固な門。ここをこじ開ければ、大手柄だからな!
「えへ。こんにちは、お兄ちゃん!」
おっと、お客さんだ。
「いらっしゃい! って、こんな時間にどうしたんだ?」
「えっとね、学校がお休みになったの!」
ああ、そりゃそうか。この東門は大丈夫かもしれないが、他の3つの門が破られそうだってのに、のんきにお勉強もないよな。
「なるほど……で、今日は何にする? オススメは……こっちのパンだ」
山盛りに積んであるパンを指差すと、少女はクスクスと笑う。
「お兄ちゃん、また作り過ぎちゃったのね?」
この子は、毎日のようにウチにパンを買いに来てくれる。
……まあ、お得意さんだな。
両親は、既にこの世に居ないらしい。幼い弟がいて、学校が休みの日や放課後には、中央広場の噴水前で、彼女の手作りの護符を売っているのを見かける。
「じゃ、それください。それと、そっちのソーセージの乗ったパンも」
「いつもありがとな! ……あ、そうそう。これ、食べてみてくれないか。試作品なんだ」
このパンには、試しに果物を何種類か入れてみた。
我ながら、なかなかの出来じゃないかな。
「多めに包んどくから、弟くんにも食べさせてやんな」
「わぁ! ありがとう、お兄ちゃん」
ニッコリと笑って包みを受け取る少女。
「いやいや。また感想を聞かせてくれよ!」
と、俺も笑顔で返す。
……なんか言いたげな顔だな。
ちげぇよ! いいか? 諜報員ってのは、その土地に根深く入り込む為にだなぁ……
「おにいちゃん、いつもありがとう! これ、もし良かったら」
……ん、何だ?
少女が、護符を差し出している。
「くッ!」
受け取ると指先に激痛が走った。手袋をしていて良かったぜ。
この子が作った物だろう。俺ほどの悪魔にダメージを与えるとは大したもんだ。
「……いいのか? 売りもんじゃねぇか」
「うん! お兄ちゃんのために作ったんだよ」
ははは。悪魔の俺に悪魔除けか……。
なんだかなぁ……この子と居ると、調子が狂っちまうんだよな。
「ありがとな。大事にするよ」
そう言って、俺は護符を、前掛けに付いているポケットに入れた。
ふう、手が弾け飛ぶかと思ったぜ。この前掛けの厚みなら影響ないな。
「じゃあ、また来るね!」
満面の笑みで手を小さく振る少女。あ、ちょっと待て!
「おいおい、もしかして今日も仕事する気か?! 危ないから家に居たほうがいいぞ?」
「えー? お兄ちゃんだってお仕事じゃない」
「いや、俺はいいんだよ」
何度も言うが、俺の仕事はこの門の開放だ。むしろ、今日ここに立たないで、いつ立つんだって話だぜ?
外の魔物が、頑張って小さな穴でも開けてくれりゃ、ワンチャンあるかもしれないんだ。そうなりゃ、ドサクサに紛れて仲間を中に……
「そうしたら、お前ら、どうなっちまうのかな……」
「……え?」
俺は何を考えている? 〝人間の恐怖〟こそ悪魔の喜び。〝人間の死〟こそ俺たちの望み……だろ?
「と、とにかく、今日は弟くんの近くに居てやりな」
俺がそう言った直後だ。突然、目の前が真っ白になった。
そして、ドーン! という凄まじい音。
「きゃあああぁぁぁ!」
「何だ? 何が起こった?!」
門が……! 門が壊れて?
おいおい、ちょっと待て! いきなり全壊ってどういう事だよ?!
「お、お兄ちゃん……」
ガタガタと震える少女。っていうか、俺もブルっちまってる……
門の前では、魔道士達が無数の魔物に追われて、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
さすがにあの数じゃ、俺も危ないぞ。
「おいおいおい! 冗談じゃねえ!」
馬鹿な人間どもめ。櫓の火力をアテにし過ぎて、門の前がガラ空きじゃねぇか。
「結界も消えちまってるってか?! こいつはやベぇな!」
「ああ! そうだ、ケンジが……弟が!」
突然、駆け出す少女。おい、危ないぞ! そっちにはもう魔物の群れが!
「おい、待てって! 俺も一緒に……なにっ!」
しまった! さっきの護符の影響か? 俺の背中には悪魔特有の〝羽根〟が出てしまっていた。タイミングの悪いことに、目の前には人間が2人いて、こちらを見ている。
「なんてこった!」
慌てて羽根を仕舞うが、見られちまったよな……どうにも今日はツイてないぜ。
仕方がない。こいつらを始末して……
「驚いた……同胞か。よくこんな場所で堂々と商売など出来たものだ」
「グゲゲ。羽根を出しっぱなしデ、なにヲ急いでいル?」
おっと。こいつら悪魔か!
「ふぅ。脅かすなよ! お前らこそ、なんでそんなに悠長にしてんだ?」
全く慌てる素振りも見せない二人組。
よっぽどの上級悪魔でも、あの数の魔物を相手には手も足も出ないだろ?
「早く逃げるか隠れるかしろよ。魔物の大群が見えねぇのか?」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。お前はなぜ隠れない?」
いやいや、だからそれは……あれ? なんで俺、こんなに慌ててるんだ?
……ええい、自分でも分からん!
「お、俺はあの子を追いかけて……って、おいおいおい!」
少女が魔物に囲まれている。ホラ見ろ、言わんこっちゃない!
自作の護符を使って威嚇しているみたいだが、あんなの、いつまで保つか……
「ほウ? あの人間ヲ……?」
ニヤリと笑う同胞。
「いや、違うって。別に俺は……」
「助けるのなら急いだほうがいい。俺たちも加勢しよう」
は? 何だって?
「さっきかラ、嫌な気配がするゾ。これは多分……ゲゲゲ。やっぱりナ!」
のっそりと門をくぐって現れたのは、見たこともないサイズの……
「凶獣……だって?!」
終わった……魔物ならまだしも、凶獣には隠密魔法も通用しないだろう。
くっ! せめてあの子だけでも助けられないのか……なにか方法は……?
「おっと。これは勝負あったな。奴が来たか」
同胞の一人が、凶獣にチラリと目をやり、クスリと笑う。
「うるさい! 絶対に助けるんだ!」
諦められるかよ。あんな良い子を、死なせたりするものか!
「勘違いするな。俺が言ったのはあっちだ」
そう言って、同胞が指さした先には、少年が一人。
「……何だ? 子ども?」
「ゲゲッ。やつハ〝ヒーロー〟ダ」
少年は、妙なポーズをキメたあと〝変身〟と叫ぶ。
まばゆい光が収まると、いつの間にか彼は、シルバーを基調に赤いラインの入った、見たことのない甲冑に身を包んでいた。
「〝ヒーロー〟? 何なんだ、それ! あんな子どもが来たからって、もうどうにも……」
「レッド・ミサイル」
目を疑った……!
〝ヒーロー〟が放った魔法が、魔物を次々に焼き尽くしてゆく。
少女の周りにいた魔物も、瞬時に一掃された。
「な……何だよ! あんな魔法見たことないぞ?」
「あれは魔法ではない。〝アガルタの科学〟が生んだ兵器〝レッド・ミサイル〟だ」
「ひとつ放てバ、512の敵を同時に攻撃すル。しかも、魔力も詠唱も不要ダ……恐ろしいナ」
〝アガルタの科学〟……? 詠唱なしで〝戦略級魔法〟なみの威力だと?
「だ、だが、いくらあの〝ヒーロー〟が強くても、凶獣相手ではどうする事も……」
同胞ふたりが、顔を見合わせ、笑う。
「な、何がおかしいんだ!」
「よく見ているといい。一瞬で終わる」
何を言ってるんだ?
「一瞬で……?」
「そうダ。あれハ〝戦い〟では無イ。〝狩り〟とも言わんナ……」
「そう。今から行われるのは〝駆除〟だ。小虫を潰すようなものだろう」
駆除だと?
相手は凶獣だぞ……! 何をバカなことを言っているんだ。
「レッド・キャノン!」
〝ヒーロー〟が叫ぶと、頭上に奇妙な形の〝何か〟が現れた。
「あーあー。あれかヨ!」
「……ちょっとやり過ぎじゃないか?」
少し焦った様子の二人。あの妙な物が何だってんだ?
「うおおおおぉぉぉおお! ファイヤーーーーーー!」
妙な物から放たれた、妙な動きをする光が、凶獣の頭を消し飛ばした。
さらにその射線上にある、城塞都市の壁も、ごっそり削り取って行ってしまった。
な……なんて威力だ!
「やはり壊したナ」
「派手好きなのだよ、レッドは」
一瞬にして凶獣を倒したのが、さも当たり前の事のようなふたり。
何なんだよ、あのバケモノ!
「お兄ちゃん!」
少女が駆け寄ってくる。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「うん、平気だよ!」
「そうか、良かった……って、なに見てるんだよ?」
同胞ふたりが、俺をジッと見ている。
そして、こう言ったのだ
「……お前も、人間と共に生きる道を選べるかもしれんな」
「我々ハ、そうすると決めタ。案外、悪くないゾ?」
何だよ、人間と共に生きるって……そんな事、出来るわけないだろ?
「フフフ。人間と、ではなく、その子と共に生きればいい。それなら出来るだろう」
「弟くんモ、一緒にナ。ゲゲゲ。パンを多めに包むのと同じくらイ、簡単な事ダ」
「お前ら、全部見てたのかよ!」
でもまあ……確かに、悪くないかもしれない。
「お兄ちゃん?」
「あのな? もし良かったら、俺と……」
この日から、俺の仕事は〝東門の開放〟ではなくなった。
……まあ、なんだ。次の課題は〝人間観察〟って事にしておくかな。
いま、あの門の向こう側には、大量の魔物が押し寄せている。
……にも関わらず、ここはまだ、大した騒ぎにもなっていない。
「なあ、聞いたか? 門の外、1000か2000かって位の魔物が来てるってよ」
なぜ騒ぎにならないかって? この東門には実力者が多く配置されるんだ。少なくとも、その程度の数の魔物なんかじゃ、ビクともしない。
「……ふん」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、何でもないさ。それより一応、非常時の配備だろ? 早く行けよ」
「お、おう。じゃあな!」
はぁ、やっと行きやがった。
……折角のチャンスだ。今日こそ、あの門を開け放って〝同胞〟を迎え入れてやる。
「おい兄ちゃん、これいくらだ?」
「180円だよ。あと、今日はこっちのが大特価サービスだ。焼き過ぎちまってさ」
俺は東門の前で、パンを焼いている……人間に化けた悪魔だ。
「んじゃ、そっちも貰おうか。しかし、あんたの焼いたパンは最高だぜ」
「へへッ! ありがとな!」
もちろん、俺はパンを焼く為にこんな所に住んでいるわけじゃないぞ。
この城塞都市には、決して少なくない数の〝悪魔〟が紛れ込んでいるんだ。驚いたか?
城塞都市内に潜んでいる悪魔の仕事は、情報収集や破壊工作……少数だが、人間狩りをしてる奴も居るな。
……俺は、この東門をターゲットに決めた。
多くの優秀な魔道士に守られた、強固な門。ここをこじ開ければ、大手柄だからな!
「えへ。こんにちは、お兄ちゃん!」
おっと、お客さんだ。
「いらっしゃい! って、こんな時間にどうしたんだ?」
「えっとね、学校がお休みになったの!」
ああ、そりゃそうか。この東門は大丈夫かもしれないが、他の3つの門が破られそうだってのに、のんきにお勉強もないよな。
「なるほど……で、今日は何にする? オススメは……こっちのパンだ」
山盛りに積んであるパンを指差すと、少女はクスクスと笑う。
「お兄ちゃん、また作り過ぎちゃったのね?」
この子は、毎日のようにウチにパンを買いに来てくれる。
……まあ、お得意さんだな。
両親は、既にこの世に居ないらしい。幼い弟がいて、学校が休みの日や放課後には、中央広場の噴水前で、彼女の手作りの護符を売っているのを見かける。
「じゃ、それください。それと、そっちのソーセージの乗ったパンも」
「いつもありがとな! ……あ、そうそう。これ、食べてみてくれないか。試作品なんだ」
このパンには、試しに果物を何種類か入れてみた。
我ながら、なかなかの出来じゃないかな。
「多めに包んどくから、弟くんにも食べさせてやんな」
「わぁ! ありがとう、お兄ちゃん」
ニッコリと笑って包みを受け取る少女。
「いやいや。また感想を聞かせてくれよ!」
と、俺も笑顔で返す。
……なんか言いたげな顔だな。
ちげぇよ! いいか? 諜報員ってのは、その土地に根深く入り込む為にだなぁ……
「おにいちゃん、いつもありがとう! これ、もし良かったら」
……ん、何だ?
少女が、護符を差し出している。
「くッ!」
受け取ると指先に激痛が走った。手袋をしていて良かったぜ。
この子が作った物だろう。俺ほどの悪魔にダメージを与えるとは大したもんだ。
「……いいのか? 売りもんじゃねぇか」
「うん! お兄ちゃんのために作ったんだよ」
ははは。悪魔の俺に悪魔除けか……。
なんだかなぁ……この子と居ると、調子が狂っちまうんだよな。
「ありがとな。大事にするよ」
そう言って、俺は護符を、前掛けに付いているポケットに入れた。
ふう、手が弾け飛ぶかと思ったぜ。この前掛けの厚みなら影響ないな。
「じゃあ、また来るね!」
満面の笑みで手を小さく振る少女。あ、ちょっと待て!
「おいおい、もしかして今日も仕事する気か?! 危ないから家に居たほうがいいぞ?」
「えー? お兄ちゃんだってお仕事じゃない」
「いや、俺はいいんだよ」
何度も言うが、俺の仕事はこの門の開放だ。むしろ、今日ここに立たないで、いつ立つんだって話だぜ?
外の魔物が、頑張って小さな穴でも開けてくれりゃ、ワンチャンあるかもしれないんだ。そうなりゃ、ドサクサに紛れて仲間を中に……
「そうしたら、お前ら、どうなっちまうのかな……」
「……え?」
俺は何を考えている? 〝人間の恐怖〟こそ悪魔の喜び。〝人間の死〟こそ俺たちの望み……だろ?
「と、とにかく、今日は弟くんの近くに居てやりな」
俺がそう言った直後だ。突然、目の前が真っ白になった。
そして、ドーン! という凄まじい音。
「きゃあああぁぁぁ!」
「何だ? 何が起こった?!」
門が……! 門が壊れて?
おいおい、ちょっと待て! いきなり全壊ってどういう事だよ?!
「お、お兄ちゃん……」
ガタガタと震える少女。っていうか、俺もブルっちまってる……
門の前では、魔道士達が無数の魔物に追われて、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
さすがにあの数じゃ、俺も危ないぞ。
「おいおいおい! 冗談じゃねえ!」
馬鹿な人間どもめ。櫓の火力をアテにし過ぎて、門の前がガラ空きじゃねぇか。
「結界も消えちまってるってか?! こいつはやベぇな!」
「ああ! そうだ、ケンジが……弟が!」
突然、駆け出す少女。おい、危ないぞ! そっちにはもう魔物の群れが!
「おい、待てって! 俺も一緒に……なにっ!」
しまった! さっきの護符の影響か? 俺の背中には悪魔特有の〝羽根〟が出てしまっていた。タイミングの悪いことに、目の前には人間が2人いて、こちらを見ている。
「なんてこった!」
慌てて羽根を仕舞うが、見られちまったよな……どうにも今日はツイてないぜ。
仕方がない。こいつらを始末して……
「驚いた……同胞か。よくこんな場所で堂々と商売など出来たものだ」
「グゲゲ。羽根を出しっぱなしデ、なにヲ急いでいル?」
おっと。こいつら悪魔か!
「ふぅ。脅かすなよ! お前らこそ、なんでそんなに悠長にしてんだ?」
全く慌てる素振りも見せない二人組。
よっぽどの上級悪魔でも、あの数の魔物を相手には手も足も出ないだろ?
「早く逃げるか隠れるかしろよ。魔物の大群が見えねぇのか?」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。お前はなぜ隠れない?」
いやいや、だからそれは……あれ? なんで俺、こんなに慌ててるんだ?
……ええい、自分でも分からん!
「お、俺はあの子を追いかけて……って、おいおいおい!」
少女が魔物に囲まれている。ホラ見ろ、言わんこっちゃない!
自作の護符を使って威嚇しているみたいだが、あんなの、いつまで保つか……
「ほウ? あの人間ヲ……?」
ニヤリと笑う同胞。
「いや、違うって。別に俺は……」
「助けるのなら急いだほうがいい。俺たちも加勢しよう」
は? 何だって?
「さっきかラ、嫌な気配がするゾ。これは多分……ゲゲゲ。やっぱりナ!」
のっそりと門をくぐって現れたのは、見たこともないサイズの……
「凶獣……だって?!」
終わった……魔物ならまだしも、凶獣には隠密魔法も通用しないだろう。
くっ! せめてあの子だけでも助けられないのか……なにか方法は……?
「おっと。これは勝負あったな。奴が来たか」
同胞の一人が、凶獣にチラリと目をやり、クスリと笑う。
「うるさい! 絶対に助けるんだ!」
諦められるかよ。あんな良い子を、死なせたりするものか!
「勘違いするな。俺が言ったのはあっちだ」
そう言って、同胞が指さした先には、少年が一人。
「……何だ? 子ども?」
「ゲゲッ。やつハ〝ヒーロー〟ダ」
少年は、妙なポーズをキメたあと〝変身〟と叫ぶ。
まばゆい光が収まると、いつの間にか彼は、シルバーを基調に赤いラインの入った、見たことのない甲冑に身を包んでいた。
「〝ヒーロー〟? 何なんだ、それ! あんな子どもが来たからって、もうどうにも……」
「レッド・ミサイル」
目を疑った……!
〝ヒーロー〟が放った魔法が、魔物を次々に焼き尽くしてゆく。
少女の周りにいた魔物も、瞬時に一掃された。
「な……何だよ! あんな魔法見たことないぞ?」
「あれは魔法ではない。〝アガルタの科学〟が生んだ兵器〝レッド・ミサイル〟だ」
「ひとつ放てバ、512の敵を同時に攻撃すル。しかも、魔力も詠唱も不要ダ……恐ろしいナ」
〝アガルタの科学〟……? 詠唱なしで〝戦略級魔法〟なみの威力だと?
「だ、だが、いくらあの〝ヒーロー〟が強くても、凶獣相手ではどうする事も……」
同胞ふたりが、顔を見合わせ、笑う。
「な、何がおかしいんだ!」
「よく見ているといい。一瞬で終わる」
何を言ってるんだ?
「一瞬で……?」
「そうダ。あれハ〝戦い〟では無イ。〝狩り〟とも言わんナ……」
「そう。今から行われるのは〝駆除〟だ。小虫を潰すようなものだろう」
駆除だと?
相手は凶獣だぞ……! 何をバカなことを言っているんだ。
「レッド・キャノン!」
〝ヒーロー〟が叫ぶと、頭上に奇妙な形の〝何か〟が現れた。
「あーあー。あれかヨ!」
「……ちょっとやり過ぎじゃないか?」
少し焦った様子の二人。あの妙な物が何だってんだ?
「うおおおおぉぉぉおお! ファイヤーーーーーー!」
妙な物から放たれた、妙な動きをする光が、凶獣の頭を消し飛ばした。
さらにその射線上にある、城塞都市の壁も、ごっそり削り取って行ってしまった。
な……なんて威力だ!
「やはり壊したナ」
「派手好きなのだよ、レッドは」
一瞬にして凶獣を倒したのが、さも当たり前の事のようなふたり。
何なんだよ、あのバケモノ!
「お兄ちゃん!」
少女が駆け寄ってくる。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「うん、平気だよ!」
「そうか、良かった……って、なに見てるんだよ?」
同胞ふたりが、俺をジッと見ている。
そして、こう言ったのだ
「……お前も、人間と共に生きる道を選べるかもしれんな」
「我々ハ、そうすると決めタ。案外、悪くないゾ?」
何だよ、人間と共に生きるって……そんな事、出来るわけないだろ?
「フフフ。人間と、ではなく、その子と共に生きればいい。それなら出来るだろう」
「弟くんモ、一緒にナ。ゲゲゲ。パンを多めに包むのと同じくらイ、簡単な事ダ」
「お前ら、全部見てたのかよ!」
でもまあ……確かに、悪くないかもしれない。
「お兄ちゃん?」
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