プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

つるぎ持たぬ伏兵

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 どこかに転送されてしまった〝守護者〟の行き先を、ラゴウに調べさせたところ、それはあまりにも予想外の場所だった。

「……中央大陸ちゅうおうたいりく?」

「うむ。〝部屋〟は、そう言っている」

 どうやら〝守護者〟は、地球アガルタのどこかに送られたようだ。
 この〝部屋〟が言う〝中央大陸〟とは、どこを指しているのだろう。

「ちょっと分からないんだけど……」

「そうか……ならば」

 ラゴウは咳払いを一つしてから〝部屋〟に話しかける。

「〝中央大陸〟の位置を地図で見せろ…………いや違う。俺の頭だけではなく、床に映すのだ」

 ラゴウの指示で、足元のスクリーンに世界地図が表示された。
 真ん中の大陸の上に赤い丸印がついている。
 ふむふむ、なるほど、ここが中央大陸なんだな?

「……っていうか、これはどこの〝異世界〟の地図だよ?!」

 赤い丸が表示されている場所に行こうにも、そもそも見た事もない地図だ。行きようがない。

「内海さん、なにか問題があるのですか?」

 織田さんが不思議そうにしている。

「問題もなにも、これは地球アガルタの地図じゃないですよ」

 僕の知っている地図は、真ん中に太平洋がドーンと広がっているものだ。
 足元に表示された地図は、なんというか……陸地が多すぎる。
 いや、まあ〝守護者〟が異世界に飛ばされたのなら、ひと安心だけどさ。

『タツヤ、この地図は地球だ』

 ……へ?

『おいおい、何を言ってるんだよブルー? お前、自分の姿も分かってないのか? 全然違うだろ?』

『いや、これは間違いなく地球の地図だよ』

 ん? ……あ、そうか。僕は日本人向けの地図しか見たことないからな。確かアメリカとかヨーロッパの地図は、それぞれの大陸が中央に来るようになってるんだっけ。どれどれ、もう一度よく見てみよう。
 ふむふむ、アメリカ大陸がこれだとすると、こっちがユーラシア大陸で……いや、形が違うな。
 日本はこれかな? いや、そこが日本なら、ずっと南にオーストラリアがあるはずなのに無いぞ。

『どう見ても違うじゃんかブルー!』

『アハハ。これはね、もう少しだけ私が〝若かった〟頃の地図なんだよ。今とは陸地の位置が違うから、分かりづらいかもしれないけど、間違いなくキミが〝普段〟見ている地図だ』

 マジか?! 変わりすぎだろお前。太平洋に陸があるぞ?!

「少年よ〝守護者〟が送られた先……その赤印の場所は〝ムー〟と呼ばれる大陸の首都のようだ」

「ムー大陸だって?!」

 幻のムー大陸が、過去に実在していた!
 こりゃ世紀の大ニュースだな。
 ……あれ? という事はさっきの〝守護者〟は太平洋の真ん中に転送されたのか?

「ムーの大地に降り立った〝守護者〟は殺戮さつりくを始めているだろう……だそうだ」

「いや、降り立つも何も、そこは今、海なんだけど……」

 っていうか、その場合どうなるんだ?

「内海さん〝海〟とはいったい……」

「ケイタロウ。〝海〟は塩分を多く含んだ水で構成され、魔界にある、どの湖より深く広大だ。その広さは地球アガルタの表面積の7割を占めるという」

 ラゴウの説明を聞いても、織田さんは首を傾げて、いまいちピンと来ていないようだ。

「ちなみに地球アガルタの広さは魔界の10倍以上だ」

 へー? 魔界って、結構広いのな。

「……ということは、海というのは、魔界全土が7つ分、スッポリと収まるほどの湖という事ですか?!」

 織田さんは、相当驚いているようだ。

「な、なんだと! そんなに大きいのかッ?!」

 ラゴウが、自分で解説しておきながら、織田さんより驚いている。
 計算、苦手なんだな。
 いや、そんな事より……

「話を戻すけど、太平洋のド真ん中に送られた〝守護者〟は、どうなるんだ?」

「聞いてみよう…………答えろ。もし〝守護者〟が海に落ちた場合、どうなる?」

 ラゴウは〝部屋〟に問いかけている。
 ……暫くして、少しだけ表情を緩めて言った。

「喜ぶがいい。〝守護者〟は無敵だが、大量の水と塩分に対応できる仕様ではないようだ。〝海〟に落ちれば活動を停止し〝休眠〟状態に入るらしい。もうすぐ通知が……」

「作さく戦せん失しっ敗ぱい。全ての〝守DO護LL者〟は、活動を停止しました」

 部屋に響いたのは、ラゴウが立てた作戦が失敗に終わったことを告げるメッセージだった。
 ……なんだ、思ったよりあっけない幕切れだったなあ。

「……さあ、殺せ」

 突然、ラゴウが腕組みをしたまま座り込む。

「兄さん?!」

「少年よ。地球アガルタに、お前のような強く正しい心を持つものが居るならば、俺はシェオールの民の未来を託して往くとしよう」

 いや、往くとしようって言われても。

「そんな! 兄さんはシェオールの事を想って……!」

「フハハハ! やはりお前は甘いな……さあ、やってくれ、少年」

 やだよ! 無抵抗のヒトを手に掛けるって、さすがにハードル高いからね?!
 あー、でもこの人、色々やっちゃってるからなあ。死者もそこそこ出てるだろうし。

「……今回の一件、無かった事にしない?」

「……な?!」

 驚くラゴウと、織田さん。
 まあ、取り返しのつかないことをしてしまったのは事実なんだけどさ、根っからの悪人じゃないし……というより、郷土愛が暴走しちゃった結果だ。幸い、真相を知っているのは僕と織田さんだけだからね。

「生きてつぐなうというのも、アリだと思うよ?」

『なあ、ブルー?』

『そうだね。それにキミが決めたことなら異論を唱えられる者は居ないよ。キミは地球の全ての神より上の存在なんだ』

「……少年」

「地下都市の天井が開いたら、忙しくなりそうだし、人手は多いに越したことはないんじゃない?」

「内海さん……!」

 僕の手を握り、涙をこぼす織田さん。ラゴウは、ただ頭を下げている。

「じゃ、僕は帰るから」

 急がないと、卒業式や終業式に間に合わない。やっぱり各種行事だけは、土人形じゃなくキッチリ出席しときたいからね。

「織田さんはどうします?」

「私は城塞都市の管理局に、今回の件を報告に行かねばなりません」

 なるほど、そりゃそうだ……あ、ちょっと待った!

「織田さん正直者だから、お兄さんの事とか全部しゃべっちゃうんじゃないですか?」

 まさか……ね? そこまでバカ正直ってことはないだろう。

「はい! 全てを包み隠さず話した上で、許して頂けるまで謝罪を……」

 超ド級の正直さんだったー!!

「ダメですよ! 今回のは、さすがに謝罪とかで許される事じゃないですからね?!」

 身分証を持ってないだけで、一生地下牢に入れられるんだぞ? どんな目にあわされるか分かったもんじゃない。

「はぁ……ですが、既に管理局の方々には〝私の実の兄が地上を滅ぼす〟と伝えておりますので……」

 真面目かよ!

「いえいえいえいえ! ですから、今回の場合は〝見た事もない魔物が化けていた〟とか〝呪われたアイテムに操られていた〟とか言って、うまく誤魔化さないとダメですからね?」

 犯人は居ない、と言う事にしておかなきゃ、ヘタするとシェオールの人達をまとめて危険視されて、外に出してもらえなくなるぞ?

「なるほど! 内海さんは策士ですね」

 織田さん本当に大丈夫かな……この調子だと、説明のあとに〝……と、言えと言われました〟って付けそうな気がするぞ?

『あはは、タツヤ、それは面白いね』

『笑い事じゃないよブルー。その後、僕や彩歌の事まで全部説明しちゃったらどうするんだ?』

「すまぬ……このラゴウ、必ずや罪は償う」

「内海さん、本当にありがとうございました」

「いえいえ、どうか二人で力を合わせて、頑張って下さい。あのー、織田さん?」

「はい?」

 一応、念には念を入れておくかな。

「僕達の事は、絶対に誰にも言わないで下さいね。地球アガルタの存在を話すのも、城塞都市では禁忌らしいですので気をつけて」

「もちろんです! 今回の事は、絶対に誰にも言いませんよ!」

 ニコニコ顔の織田さん。やっぱ僕も一緒に行って、得意の口八丁くちはっちょうで……

「……そういうわけにはいかないぞ!」

 突然、背後から声がした。

「うわっ?!」

 僕の思考とタイミングバッチリだったので余計に驚いてしまった。

『タツヤ、人間の気配が急に現れたぞ』

 慌てて振り向くと、見知らぬ若い男がこちらを睨み付けている。

『何らかの方法で姿を隠していたのだろう。驚いた事に、私も全く感知できなかった』

 何らかの方法……魔道具か?! だとしたらこの男は!

「僕の記事で、お前たちの事は全て白日の元に晒してやるからな!」

 次の瞬間には、もう男は消えていた。

「転移したようですね……」

 複雑な表情の織田さん。

「はい。きっと僕たちと一緒にここまで来たのでしょう」

 待てよ待てよ? という事は、あの血まみれの小部屋からここに降りてくる時も、アイツは僕と織田さんの隣で、一緒に寝そべってたのか? 怖っ!

「何者なのだ?」

 アイツらは西の大砦にも居たらしいが、やはり全然気づかなかった。
 隠密アイテムで姿を隠して〝スクープ〟を狙う……間違いない。まさかこんな所まで入り込んで来るなんて!

「内海さん、今のはもしかして……」

「はい。雑誌記者だと思います」

 ……〝ふくろう〟だ。
 ペンは剣より強し、か。思わぬ強敵が現れたぞ。

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