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5年生 3学期 3月
終焉へのカウントダウン
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「この〝部屋〟は……〝守護者〟は、もう……俺の命令を聞かぬ」
傷が塞がったとはいえ、まだ完全に回復したわけではない。
魔力も、ほぼゼロだろう。
ラゴウは苦しそうな表情だ。
「……すまぬ」
傷の痛みや魔力の低下もあるが、後悔と申し訳なさから来る表情だったようだ。
ラゴウが、ぼそりと謝罪の言葉を漏らす。
「俺はシェオールのために……人間の未来のために、邪悪な者たちを滅ぼさねばと思ったのだ」
僕が〝使役:土〟で作ったドーム状のシェルターに、織田さん、ラゴウ、僕の3人がいる。
〝接触弱体〟で補強したけど、接触面積が狭かったから、どこまで保つかはわからないぞ。
「88・87・86……」
カウントダウンが続いていた。
このままでは〝守護者〟が転送されてしまう。行き先は、地下都市シェオール、城塞都市、そして地球。
「兄さん、なぜアイツらを止められないのですか?」
「……俺自身も〝終焉計画〟のターゲットになってしまったからだ」
ラゴウが立てた〝終焉計画〟は、シェオールに住む人間以外の知的生命体を全滅させるという物だった。
しかし〝部屋〟は今の人類を〝人間〟とは認めなかった。
……結果、全ての知的生命体が、ターゲットとなってしまったのだ。
「つまり、俺の命令は〝抹殺対象からの命乞い〟という扱いになる。聞き入れられるはずもない」
「そんな……!」
織田さんは、焦った表情でラゴウを見る。
「78・77・76……」
そろそろ残り1分だ。僕が全力で攻撃しても、転送までにアイツらを全滅させるのは難しいだろう。
知的生命体の全消去。除外したはずのシェオール人も、抹殺の対象となっているようだ。現に、守護者から攻撃を受けたラゴウは大きな怪我を負った。
「そもそも〝守護者〟って何なんだ? 機械仕掛けの人形じゃないのか?」
僕の質問に対して、ラゴウは首を横に振る。
「〝守護者〟は、この部屋と管理者を守るための兵士だ。神ではなく、人……旧人類によって作り出された、疑似生命体なのだ」
生命を作るだって?
「70・69・68……」
『タツヤ。〝守護者〟が現れる時、細いロープのような物がたくさん積み重なっていた。これは推測だが、あの細い線を複雑に組み合わせて〝自我〟を持つほどの神経回路を構成しているのではないだろうか』
なるほど。全身が脳みたいなものか? でもさ……
『自我を人為的に持たせる、なんて事が出来るのか……?』
『生物と人工物の区別をつけるのは、神様ではなくて、この世界のシステムそのものだからね。条件を満たせば、あらゆる物に魂は宿るよ? 何度も言うがアレは〝生命体〟だ』
「59・58・57……」
残り1分を切った。マズい!
「何か止める方法はないのか……?」
「計画に〝マイナスに作用〟する命令は聞かぬだろう……止めようがない」
ラゴウが、悔しそうに下唇を噛む。
「49・48・47……」
「兄さん、アイツらに弱点は無いのですか?」
「……無い。少なくとも、魔道士が〝守護者〟を倒す事は出来ぬ」
そう。アイツらに魔法は効かない。
いやそれどころか、呪文にも魔力にも頼る事のない〝使役:土〟ですら、かき消されてしまった。
「37・36・35……」
刻一刻と、転送の時間が迫る。もう……どうしようもないのか……?
マイナスに作用する命令は無効……まてよ!
「計画にプラスに作用すると判断されれば、命令を聞くかもしれないのか……?」
「内海さん、計画にプラスって……どういう事ですか?」
〝守護者〟は、物事を機械的に判断する、とても頭のいいバカだ。もしかしたらいけるかもしれない!
「〝守護者〟に〝知識〟や〝教養〟を与えることはできるのかな?」
「……可能なはずだ。だが〝守護者〟に知恵をつけてしまえば、さらに驚異が増すだけではないのか?」
そう。計画にはプラスであろう命令。これなら拒否されることはないだろう。
訝しげな表情の織田さんと、怪我と魔力低下も相まって虚ろな表情のラゴウ。
「内海さん、なぜそんな命令を?!」
「19・18・17……」
時間がない! 急がないと手遅れになるぞ?
「早く命令を! 大丈夫、きっとうまくいくから!」
「14・13・12……」
「……わかった。やろう」
「兄さん?!」
ラゴウは苦しそうな表情で、命令を告げた。
「〝終焉計画〟遂行のための追加命令だ。今すぐに俺の〝知識〟を、全ての〝守護者〟に複写しろ」
数秒の沈黙。
どうだ?!
「……了りょう解かい・しました・ますたー・の・脳のう内ない・情じょう報ほう・複コピー写・3・2・1・完かん了りょう・しました」
突然、ドームの外で大きな爆発音か響き、部屋が大きく揺れる。
よし! やったぞ!
「な、何が起きたんですか!?」
爆発音は増え続け、振動は激しさを増してゆく。僕たちのドームにも、何かがぶつかるような音が聞こえるが、なんとか持ち堪えているようだ。
「なるほど、同士討ちか……!」
ラゴウが苦しそうな表情のまま、ニッと笑う。
そう。見えないけど、このドームの外では、1000体の〝守護者〟達による、殺し合いが起きているはずだ。
「同士討ち?! なぜ急にそんな……〝守護者〟に、兄さんの知識を与えただけではないんですか?」
「そうだ。与えられた命令を機械的に実行するだけだった1000体の〝守護者〟は、俺の知識を得た。つまり〝知的生命体〟となったのだ」
「……知的生命体? そうか! 〝守護者〟たち自身も抹殺対象になったんですね!」
その通り。アイツらが生き物だというなら、ある程度の知恵をつけてやれば、条件はすぐに満たされる。
命令に忠実な奴等だ。目の前に群がるターゲットを放っておくことは出来ないだろう。
「異い常じょう事じ態たい・発はっ生せい・中ちゅう・転てん送そう・可か能のう・な・〝守DO護LL者〟・あと・48・29・13・9・8・3・1」
徐々に戦闘音が治まっていく。
やれやれ。これで最後の一体を倒せば一件落着だな。
……僕はドームを解除した。
部屋一面に転がる〝守護者〟の残骸……いや、死体かな。
「転てん送そう・完かん了りょう」
僕たちが目にしたのは、生き残った最後の一体が、不思議な光りに包まれて、どこかに転送されていく姿だった。
「うおおおい! ちょっと待て!!」
一体とはいえ、魔法効果を無効化し、怪我も瞬時に治してしまう、魔王を凌ぐほどの戦闘力を持ったバケモノが、外界へ解き放たれた。
ヤバい! 今のヤツ、どこへ飛んだんだ?!
傷が塞がったとはいえ、まだ完全に回復したわけではない。
魔力も、ほぼゼロだろう。
ラゴウは苦しそうな表情だ。
「……すまぬ」
傷の痛みや魔力の低下もあるが、後悔と申し訳なさから来る表情だったようだ。
ラゴウが、ぼそりと謝罪の言葉を漏らす。
「俺はシェオールのために……人間の未来のために、邪悪な者たちを滅ぼさねばと思ったのだ」
僕が〝使役:土〟で作ったドーム状のシェルターに、織田さん、ラゴウ、僕の3人がいる。
〝接触弱体〟で補強したけど、接触面積が狭かったから、どこまで保つかはわからないぞ。
「88・87・86……」
カウントダウンが続いていた。
このままでは〝守護者〟が転送されてしまう。行き先は、地下都市シェオール、城塞都市、そして地球。
「兄さん、なぜアイツらを止められないのですか?」
「……俺自身も〝終焉計画〟のターゲットになってしまったからだ」
ラゴウが立てた〝終焉計画〟は、シェオールに住む人間以外の知的生命体を全滅させるという物だった。
しかし〝部屋〟は今の人類を〝人間〟とは認めなかった。
……結果、全ての知的生命体が、ターゲットとなってしまったのだ。
「つまり、俺の命令は〝抹殺対象からの命乞い〟という扱いになる。聞き入れられるはずもない」
「そんな……!」
織田さんは、焦った表情でラゴウを見る。
「78・77・76……」
そろそろ残り1分だ。僕が全力で攻撃しても、転送までにアイツらを全滅させるのは難しいだろう。
知的生命体の全消去。除外したはずのシェオール人も、抹殺の対象となっているようだ。現に、守護者から攻撃を受けたラゴウは大きな怪我を負った。
「そもそも〝守護者〟って何なんだ? 機械仕掛けの人形じゃないのか?」
僕の質問に対して、ラゴウは首を横に振る。
「〝守護者〟は、この部屋と管理者を守るための兵士だ。神ではなく、人……旧人類によって作り出された、疑似生命体なのだ」
生命を作るだって?
「70・69・68……」
『タツヤ。〝守護者〟が現れる時、細いロープのような物がたくさん積み重なっていた。これは推測だが、あの細い線を複雑に組み合わせて〝自我〟を持つほどの神経回路を構成しているのではないだろうか』
なるほど。全身が脳みたいなものか? でもさ……
『自我を人為的に持たせる、なんて事が出来るのか……?』
『生物と人工物の区別をつけるのは、神様ではなくて、この世界のシステムそのものだからね。条件を満たせば、あらゆる物に魂は宿るよ? 何度も言うがアレは〝生命体〟だ』
「59・58・57……」
残り1分を切った。マズい!
「何か止める方法はないのか……?」
「計画に〝マイナスに作用〟する命令は聞かぬだろう……止めようがない」
ラゴウが、悔しそうに下唇を噛む。
「49・48・47……」
「兄さん、アイツらに弱点は無いのですか?」
「……無い。少なくとも、魔道士が〝守護者〟を倒す事は出来ぬ」
そう。アイツらに魔法は効かない。
いやそれどころか、呪文にも魔力にも頼る事のない〝使役:土〟ですら、かき消されてしまった。
「37・36・35……」
刻一刻と、転送の時間が迫る。もう……どうしようもないのか……?
マイナスに作用する命令は無効……まてよ!
「計画にプラスに作用すると判断されれば、命令を聞くかもしれないのか……?」
「内海さん、計画にプラスって……どういう事ですか?」
〝守護者〟は、物事を機械的に判断する、とても頭のいいバカだ。もしかしたらいけるかもしれない!
「〝守護者〟に〝知識〟や〝教養〟を与えることはできるのかな?」
「……可能なはずだ。だが〝守護者〟に知恵をつけてしまえば、さらに驚異が増すだけではないのか?」
そう。計画にはプラスであろう命令。これなら拒否されることはないだろう。
訝しげな表情の織田さんと、怪我と魔力低下も相まって虚ろな表情のラゴウ。
「内海さん、なぜそんな命令を?!」
「19・18・17……」
時間がない! 急がないと手遅れになるぞ?
「早く命令を! 大丈夫、きっとうまくいくから!」
「14・13・12……」
「……わかった。やろう」
「兄さん?!」
ラゴウは苦しそうな表情で、命令を告げた。
「〝終焉計画〟遂行のための追加命令だ。今すぐに俺の〝知識〟を、全ての〝守護者〟に複写しろ」
数秒の沈黙。
どうだ?!
「……了りょう解かい・しました・ますたー・の・脳のう内ない・情じょう報ほう・複コピー写・3・2・1・完かん了りょう・しました」
突然、ドームの外で大きな爆発音か響き、部屋が大きく揺れる。
よし! やったぞ!
「な、何が起きたんですか!?」
爆発音は増え続け、振動は激しさを増してゆく。僕たちのドームにも、何かがぶつかるような音が聞こえるが、なんとか持ち堪えているようだ。
「なるほど、同士討ちか……!」
ラゴウが苦しそうな表情のまま、ニッと笑う。
そう。見えないけど、このドームの外では、1000体の〝守護者〟達による、殺し合いが起きているはずだ。
「同士討ち?! なぜ急にそんな……〝守護者〟に、兄さんの知識を与えただけではないんですか?」
「そうだ。与えられた命令を機械的に実行するだけだった1000体の〝守護者〟は、俺の知識を得た。つまり〝知的生命体〟となったのだ」
「……知的生命体? そうか! 〝守護者〟たち自身も抹殺対象になったんですね!」
その通り。アイツらが生き物だというなら、ある程度の知恵をつけてやれば、条件はすぐに満たされる。
命令に忠実な奴等だ。目の前に群がるターゲットを放っておくことは出来ないだろう。
「異い常じょう事じ態たい・発はっ生せい・中ちゅう・転てん送そう・可か能のう・な・〝守DO護LL者〟・あと・48・29・13・9・8・3・1」
徐々に戦闘音が治まっていく。
やれやれ。これで最後の一体を倒せば一件落着だな。
……僕はドームを解除した。
部屋一面に転がる〝守護者〟の残骸……いや、死体かな。
「転てん送そう・完かん了りょう」
僕たちが目にしたのは、生き残った最後の一体が、不思議な光りに包まれて、どこかに転送されていく姿だった。
「うおおおい! ちょっと待て!!」
一体とはいえ、魔法効果を無効化し、怪我も瞬時に治してしまう、魔王を凌ぐほどの戦闘力を持ったバケモノが、外界へ解き放たれた。
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