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5年生 3学期 3月
鬼門の兵
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「お、お前、どうやって……!」
ラゴウが驚いている。
まるで遠くに捨てた犬が帰ってきた時のような感じだ。
『タツヤ、犬を飼うなら最期まで責任を持つべきだ』
いや、僕じゃないぞ?
泣きわめく幼い兄妹を無視して、妹が拾ってきた子犬を、県境の山まで捨てに行ったのは、父さんだ。
昔から動物が嫌いだったからな、あの人は。
……で、数日後に子犬は帰ってきた。
今のラゴウと同じ顔をしている父さんを見て、胸のすく思いだったよ。
「お帰りなさい、内海さん!」
織田さんが満面の笑みで迎えてくれた。幼かった僕と妹も、きっとこんな感じだったんだろうな。
……よし、再会の喜びを目いっぱい表現しよう。
「織田さん、ただいまだワン!」
「……ワン? とは?」
「あ、いえ。なんでもないです……」
伝わらなかったようだ。犬の感情を表現するのは難しい。
……まあいいや。
さて、あのバカアニキはどう出るかな?
あ、ちなみにウチのバカオヤジと子犬の場合は、その後〝捨てる〟〝帰って来る〟の攻防を繰り返し、とうとう3度めには、帰って来なくなってしまったんだ。
『そうだったのかタツヤ……! という事はキミの今の父親は……』
『いやいやブルー! 帰って来なかったのは父さんじゃなくて犬のほうだから!』
僕と妹は悲しみにくれた……だが数カ月後、なんと〝まりも屋〟で飼われている事を知り、安堵したのを覚えている。
「そういうわけで、転送のために必要だと思われる装置は壊させてもらったよ」
もうお気付きと思うけど、僕がここへ瞬時に戻ってこれたのは〝阿吽帰還〟のおかげだ。この魔法は再使用に24時間かかる。
子犬と違って僕の場合は、あの装置を壊しておかないと、捨てられたらもう帰ってこられなくなるからな。
「おのれ……バケモノが! やはりお前をどうにかせねば、俺の理想は実現できぬというのだな」
ラゴウは諦めていないようだ。
おいおい、まだやる気か?! そろそろ無駄だって気付けよ。
「俺の最大火力だ。受けてみろ!」
ラゴウが呪文を唱えると、頭上に見覚えのある赤い球が浮かぶ。
煉獄の魔法か。たしかに魔道士としては、かなり高レベルだ。
……けどね。
「それは、僕には効かないよ」
飛んできた赤い球を片手で叩き落とす。ピリっとした感覚が逆にもう心地よい。
「な……素手で?!」
驚きと焦りと怒りが入り混じった表情のラゴウ。歯ぎしりをしつつ、僕を睨む。
「ぬううっ! 一体何なのだお前は! これでもか! これでもか!」
煉獄の魔法を連続で放つラゴウ。でも、その程度の攻撃では僕にダメージを与えられないぞ。2000兆ほど同時に撃てないとね。僕は仁王立ちで全ての赤い玉を受けた。
「なぜ効かない! 何かの魔道具か? 魔法効果か?! ……ええい! それなら全ての属性を試すまでだ!」
おなじみの鉄針、織田さんが得意とする風の刃、初めて見るスゴい水圧の水鉄砲。それぞれが、かなりの量と威力で飛んでくる。が、もちろん僕はそれらを全て弾き返す。
……さすがは織田さんのお兄さんだな。今までに出会った魔道士の中でも1、2を争う実力だと思う。
だけど、所詮は人間。僕に勝てはしない。
『タツヤ。セリフが〝悪の帝王〟っぽくなってきているぞ?』
……ほんとだ。これじゃどっちが悪者か分かんないな。
さあ、愚かな人間よ。そろそろ引導を渡してやろう! なんちゃって。
「どうなっている?! お前はどうやって魔法を無効にしているのだ!」
「無効っていうか……僕はね、ちょっと頑丈なんだ」
肩で息をするラゴウ。そろそろ魔力切れかな?
「兄さん、あきらめて下さい! 内海さんには敵いません!」
ラゴウはチラリと織田さんを見て、視線を僕に戻す。
「……子どもよ。お前のような者がいるとは、世界は本当に広いのだな。だが……まだだ!」
まだなの?!
やれやれ……織田さんの説得に耳を傾ける気はないようだな。
「これが最期のカードだ! 〝守護者〟よ、出てこい!」
ラゴウの声と同時に、地鳴りのような低い音と、甲高い警告音が部屋中に響き渡る。
足元のスクリーンには、見たことのない赤い文字が次々と表示されては消えていく。
「恐怖と! 絶望を! 味わうがいい!」
ラゴウは両手を高々と掲げ、笑っている。いったい何が出てくるというんだ?
「兄さん? 何をしたんだ!」
「……ケイタロウ。今から現れるのは、すべての生物を……いや、魔王をも超えた存在。このラゴウの思い描く理想郷を創造するための、忠実な下僕だ!」
何だ? ラゴウの足元からザワザワと生え出た細いロープ状の物が、幾重にも折り重なって、徐々に形を成していく。くびれの無い雪ダルマのようだ。
「魔王を超えた存在?! そんな……やめて下さい! 兄さん!」
突然、得体の知れない塊が、青い炎に包まれた。
炎が収まると、そこには真っ白でのっぺりとしたデザインの、人の形の何かが立っていた。これがラゴウの切り札なのか?
「さあ、お前の力を見せてみろ」
「えね敵みぃ・補ほ足そく・削さく除じょ・開かい始し」
聞き取りづらい言葉を発し、異形の人影……〝守護者〟が襲い掛かってきた。速い!
「内海さん! 危ない!」
並の動きじゃない。咄嗟に出した僕の杖を、ヤツの爪が6つに切り裂いた。あーあ、もったいない!
「織田さん、離れて下さい!」
確かに強い。でも、コイツが魔王より上なのかどうかは疑問だな。よし、小手調べだ。
「アース・インパクト!」
〝守護者〟は、僕が繰り出した普通のパンチに削られてよろめく。
なんだ? 大したことない……ってマジか?!
削り取られた部分が、大きく無駄に盛り上がったかと思うと、ポヨンと一瞬にして元の形に戻ってしまった。
「ふははは! 〝守護者〟は不死身なのだ! そして、全ての魔法を無効にする!」
魔法を無効に……? じゃ〝使役:土〟ならどうだ!
僕は両手を差し出して圧縮岩弾を放つ。しかし〝守護者〟に触れるか触れないかの所で微かな煙を発して消えてしまった。
「お前、無詠唱まで使えるのか……?! だが、残念だな! 魔法は効かないのだ!」
いや、魔法だけじゃない。自然の力を借りた攻撃を、全て消してしまうのだろう。
「……そして不死身か。厄介だな」
凄まじい速さで僕を攻撃し続ける〝守護者〟。コイツ、もしかしたらユーリより速いかもしれないな。
「ははは! どうした? 手も足も出ぬのか?」
いや、ちょっと考え事をしていたんだ。
『ブルー、やっぱコイツもそうなのか?』
『うん。生命反応がある。〝生物〟だね』
『マジか。どう見てもメカっぽいんだけどな……』
ここに来るまでに襲ってきた、明らかに毛色の違う魔物たち。機械のような動きをする、作り物のような質感の敵。ブルー曰く、奴らもこの〝守護者〟も〝生き物〟としての反応があるらしい。
「全ぜん砲ほう門もん・開かい放ほう・一いっ斉せい射しゃ」
〝守護者〟から無数の光が放たれた。おかしな軌道を描き、僕に命中する。
「うっわ! 何だ何だ?!」
体のあちこちがチクチクする。痛くないけどちょっと不快だぞ。
っていうか、やっぱロボだろ、コイツ!
『いや、タツヤ。確かに生きている』
何なんだ? この部屋といい、明らかに魔界の世界観から外れてるぞ……むしろSFとか特撮系だよな?
「内海さん! 大丈夫ですか?!」
「あ、はい。全然大丈夫です」
ま、いいか。ちゃっちゃと片付けてしまおう。こいつを野放しにすれば、地上はおろか、地球にも被害が及ぶだろうし。
……死なない奴でも、死ぬまで殴り続ければ死ぬだろ、きっと。
「少年よ……やたらと頑丈だが、さすがにそろそろ限界であろう?」
あ、うん。そろそろ飽きてきたから死ぬまで殴ろうかと……
「俺の邪魔をしたこと、後悔しながら逝くがいい! 〝守護者〟よ、終焉計画を発動!」
「了りょう解かい・全すべて・を・消しょう去きょ・します・5・4・3・2……」
え? 何? 〝全て〟って……イヤな予感がするんだけど?!
僕は慌てて織田さんに駆け寄る。
「織田さん! しゃがんで下さい!」
案の定、怪光線が僕と織田さん目掛けて放たれた。
幸い、両方とも僕に命中して消える。ふう、危ない危ない。
「命めい中ちゅう・1・無む効こう・2・再さい充じゅう填てん開かい始し」
いや、もう一発、光は思わぬ方向に撃ち出されていた。
「な……なぜ……?」
ラゴウが、腹から血を流し、膝をつく。予想外だ。〝全て〟ってお前もかよ!
「回かい答とう・します・事じ前ぜん・に・予よ定てい・された・命めい令れい・消しょう去きょ対たい象しょう・全ぜん知ち的てき生せい命めい体たい・除じょ外がい要よう素そ・しぇ地下都市おーる・の・人にん間げん・を・実じっ行こう・しています」
聞き取りづらいな!
……要は〝シェオールに住む人間〟以外の〝知的生命体〟を全部消すって事か?
「ぐぅ! ふ、ふざけるな! お、俺とケイタロウはシェオールの……人間だぞ」
「回かい答とう・します・ますたー・は・人にん間げん・では・ありません」
「な……に……?」
唇に血を滲ませながら、驚いた表情のラゴウ。
「人にん間げん・は・既すで・に・絶ぜつ滅めつ・しています・ますたー・は・知ち的てき生せい命めい体たい・ANDかつ・しぇ地下都市おーる・が・出生地ほーむ・ですが・人にん間げん・とは・認みとNOTめられません・したがってTHEN・消しょう去きょ対たい象しょう・です」
「どういう事だ、ブルー?」
『タツヤ、キミたちが進化し、地球で繁栄するまでには、なん種類もの生命が文明を興し、消えて行ったんだ。いわば旧人類だね』
「まさか、コイツが言っている人間は、その旧人類の事なのか?!」
「終め焉い計れ画い・を・続ぞっ行こう・にNo.2ばん・かtoら・にひゃくNo.207ななばん・まで・の・起き動どう・に・成せい功こう」
に、200……?!
「にひゃくNo.208はちばん・起き動どう・失しっ敗ぱい・破は棄き・にひゃくNo.209くばん・かtoら・せんNo.1000ばん・まで・起き動どう・開かい始し」
足元から、次々に細いコードのような物が現れ、青い炎に包まれていく。おいおいおい! ちょっと待て!
「そ……そんな……こんな物は知らぬ! 知らぬぞ?!」
「回かい答とう・します・千せん体たい・の・〝守DO護LL者〟・を・用よう意い・済ずみ・起き動どう不ふ良りょう分ぶん・の・一No.208体・を・再生産中」
こんなのが千体も……? 僕以外、みんな死んじゃうぞ?!
「待て! やめろ! 計画は中止だ!」
「中しゅう止し・できません・権けん限げん・が・不ふ足そく・消しょう去きょ対たい象しょう・から・の・計けい画かく・破は棄き命めい令れい・を・棄き却きゃく」
苦悶と焦燥に顔をゆがめるラゴウ。
「心しん拍ぱく数すう・異い常じょう・ますたー・は・消しょう去きょ対たい象しょう・の・為ため・治ち療りょう・できません・心こころ・が・落おち着つく・音おん楽がく・は・いかがでしょう」
青い炎が照らす部屋に、聞いたこともない言葉で綴られた歌詞と、不気味で耳障りなメロディーラインの曲が流れはじめる。
「兄さん! しっかりして下さい!」
蓄魔石でラゴウを回復させる織田さん。さすが僕の〝治癒連鎖〟の魔法だ。みるみる傷口がふさがっていく。
「にひゃくNo.208はちばん・完ろーる成あっぷ・〝守DO護LL者〟・各かく地ち・への・転てん送そう・まで・99・98・97」
マズいな……何とかしないと人類が滅びるぞ!
ラゴウが驚いている。
まるで遠くに捨てた犬が帰ってきた時のような感じだ。
『タツヤ、犬を飼うなら最期まで責任を持つべきだ』
いや、僕じゃないぞ?
泣きわめく幼い兄妹を無視して、妹が拾ってきた子犬を、県境の山まで捨てに行ったのは、父さんだ。
昔から動物が嫌いだったからな、あの人は。
……で、数日後に子犬は帰ってきた。
今のラゴウと同じ顔をしている父さんを見て、胸のすく思いだったよ。
「お帰りなさい、内海さん!」
織田さんが満面の笑みで迎えてくれた。幼かった僕と妹も、きっとこんな感じだったんだろうな。
……よし、再会の喜びを目いっぱい表現しよう。
「織田さん、ただいまだワン!」
「……ワン? とは?」
「あ、いえ。なんでもないです……」
伝わらなかったようだ。犬の感情を表現するのは難しい。
……まあいいや。
さて、あのバカアニキはどう出るかな?
あ、ちなみにウチのバカオヤジと子犬の場合は、その後〝捨てる〟〝帰って来る〟の攻防を繰り返し、とうとう3度めには、帰って来なくなってしまったんだ。
『そうだったのかタツヤ……! という事はキミの今の父親は……』
『いやいやブルー! 帰って来なかったのは父さんじゃなくて犬のほうだから!』
僕と妹は悲しみにくれた……だが数カ月後、なんと〝まりも屋〟で飼われている事を知り、安堵したのを覚えている。
「そういうわけで、転送のために必要だと思われる装置は壊させてもらったよ」
もうお気付きと思うけど、僕がここへ瞬時に戻ってこれたのは〝阿吽帰還〟のおかげだ。この魔法は再使用に24時間かかる。
子犬と違って僕の場合は、あの装置を壊しておかないと、捨てられたらもう帰ってこられなくなるからな。
「おのれ……バケモノが! やはりお前をどうにかせねば、俺の理想は実現できぬというのだな」
ラゴウは諦めていないようだ。
おいおい、まだやる気か?! そろそろ無駄だって気付けよ。
「俺の最大火力だ。受けてみろ!」
ラゴウが呪文を唱えると、頭上に見覚えのある赤い球が浮かぶ。
煉獄の魔法か。たしかに魔道士としては、かなり高レベルだ。
……けどね。
「それは、僕には効かないよ」
飛んできた赤い球を片手で叩き落とす。ピリっとした感覚が逆にもう心地よい。
「な……素手で?!」
驚きと焦りと怒りが入り混じった表情のラゴウ。歯ぎしりをしつつ、僕を睨む。
「ぬううっ! 一体何なのだお前は! これでもか! これでもか!」
煉獄の魔法を連続で放つラゴウ。でも、その程度の攻撃では僕にダメージを与えられないぞ。2000兆ほど同時に撃てないとね。僕は仁王立ちで全ての赤い玉を受けた。
「なぜ効かない! 何かの魔道具か? 魔法効果か?! ……ええい! それなら全ての属性を試すまでだ!」
おなじみの鉄針、織田さんが得意とする風の刃、初めて見るスゴい水圧の水鉄砲。それぞれが、かなりの量と威力で飛んでくる。が、もちろん僕はそれらを全て弾き返す。
……さすがは織田さんのお兄さんだな。今までに出会った魔道士の中でも1、2を争う実力だと思う。
だけど、所詮は人間。僕に勝てはしない。
『タツヤ。セリフが〝悪の帝王〟っぽくなってきているぞ?』
……ほんとだ。これじゃどっちが悪者か分かんないな。
さあ、愚かな人間よ。そろそろ引導を渡してやろう! なんちゃって。
「どうなっている?! お前はどうやって魔法を無効にしているのだ!」
「無効っていうか……僕はね、ちょっと頑丈なんだ」
肩で息をするラゴウ。そろそろ魔力切れかな?
「兄さん、あきらめて下さい! 内海さんには敵いません!」
ラゴウはチラリと織田さんを見て、視線を僕に戻す。
「……子どもよ。お前のような者がいるとは、世界は本当に広いのだな。だが……まだだ!」
まだなの?!
やれやれ……織田さんの説得に耳を傾ける気はないようだな。
「これが最期のカードだ! 〝守護者〟よ、出てこい!」
ラゴウの声と同時に、地鳴りのような低い音と、甲高い警告音が部屋中に響き渡る。
足元のスクリーンには、見たことのない赤い文字が次々と表示されては消えていく。
「恐怖と! 絶望を! 味わうがいい!」
ラゴウは両手を高々と掲げ、笑っている。いったい何が出てくるというんだ?
「兄さん? 何をしたんだ!」
「……ケイタロウ。今から現れるのは、すべての生物を……いや、魔王をも超えた存在。このラゴウの思い描く理想郷を創造するための、忠実な下僕だ!」
何だ? ラゴウの足元からザワザワと生え出た細いロープ状の物が、幾重にも折り重なって、徐々に形を成していく。くびれの無い雪ダルマのようだ。
「魔王を超えた存在?! そんな……やめて下さい! 兄さん!」
突然、得体の知れない塊が、青い炎に包まれた。
炎が収まると、そこには真っ白でのっぺりとしたデザインの、人の形の何かが立っていた。これがラゴウの切り札なのか?
「さあ、お前の力を見せてみろ」
「えね敵みぃ・補ほ足そく・削さく除じょ・開かい始し」
聞き取りづらい言葉を発し、異形の人影……〝守護者〟が襲い掛かってきた。速い!
「内海さん! 危ない!」
並の動きじゃない。咄嗟に出した僕の杖を、ヤツの爪が6つに切り裂いた。あーあ、もったいない!
「織田さん、離れて下さい!」
確かに強い。でも、コイツが魔王より上なのかどうかは疑問だな。よし、小手調べだ。
「アース・インパクト!」
〝守護者〟は、僕が繰り出した普通のパンチに削られてよろめく。
なんだ? 大したことない……ってマジか?!
削り取られた部分が、大きく無駄に盛り上がったかと思うと、ポヨンと一瞬にして元の形に戻ってしまった。
「ふははは! 〝守護者〟は不死身なのだ! そして、全ての魔法を無効にする!」
魔法を無効に……? じゃ〝使役:土〟ならどうだ!
僕は両手を差し出して圧縮岩弾を放つ。しかし〝守護者〟に触れるか触れないかの所で微かな煙を発して消えてしまった。
「お前、無詠唱まで使えるのか……?! だが、残念だな! 魔法は効かないのだ!」
いや、魔法だけじゃない。自然の力を借りた攻撃を、全て消してしまうのだろう。
「……そして不死身か。厄介だな」
凄まじい速さで僕を攻撃し続ける〝守護者〟。コイツ、もしかしたらユーリより速いかもしれないな。
「ははは! どうした? 手も足も出ぬのか?」
いや、ちょっと考え事をしていたんだ。
『ブルー、やっぱコイツもそうなのか?』
『うん。生命反応がある。〝生物〟だね』
『マジか。どう見てもメカっぽいんだけどな……』
ここに来るまでに襲ってきた、明らかに毛色の違う魔物たち。機械のような動きをする、作り物のような質感の敵。ブルー曰く、奴らもこの〝守護者〟も〝生き物〟としての反応があるらしい。
「全ぜん砲ほう門もん・開かい放ほう・一いっ斉せい射しゃ」
〝守護者〟から無数の光が放たれた。おかしな軌道を描き、僕に命中する。
「うっわ! 何だ何だ?!」
体のあちこちがチクチクする。痛くないけどちょっと不快だぞ。
っていうか、やっぱロボだろ、コイツ!
『いや、タツヤ。確かに生きている』
何なんだ? この部屋といい、明らかに魔界の世界観から外れてるぞ……むしろSFとか特撮系だよな?
「内海さん! 大丈夫ですか?!」
「あ、はい。全然大丈夫です」
ま、いいか。ちゃっちゃと片付けてしまおう。こいつを野放しにすれば、地上はおろか、地球にも被害が及ぶだろうし。
……死なない奴でも、死ぬまで殴り続ければ死ぬだろ、きっと。
「少年よ……やたらと頑丈だが、さすがにそろそろ限界であろう?」
あ、うん。そろそろ飽きてきたから死ぬまで殴ろうかと……
「俺の邪魔をしたこと、後悔しながら逝くがいい! 〝守護者〟よ、終焉計画を発動!」
「了りょう解かい・全すべて・を・消しょう去きょ・します・5・4・3・2……」
え? 何? 〝全て〟って……イヤな予感がするんだけど?!
僕は慌てて織田さんに駆け寄る。
「織田さん! しゃがんで下さい!」
案の定、怪光線が僕と織田さん目掛けて放たれた。
幸い、両方とも僕に命中して消える。ふう、危ない危ない。
「命めい中ちゅう・1・無む効こう・2・再さい充じゅう填てん開かい始し」
いや、もう一発、光は思わぬ方向に撃ち出されていた。
「な……なぜ……?」
ラゴウが、腹から血を流し、膝をつく。予想外だ。〝全て〟ってお前もかよ!
「回かい答とう・します・事じ前ぜん・に・予よ定てい・された・命めい令れい・消しょう去きょ対たい象しょう・全ぜん知ち的てき生せい命めい体たい・除じょ外がい要よう素そ・しぇ地下都市おーる・の・人にん間げん・を・実じっ行こう・しています」
聞き取りづらいな!
……要は〝シェオールに住む人間〟以外の〝知的生命体〟を全部消すって事か?
「ぐぅ! ふ、ふざけるな! お、俺とケイタロウはシェオールの……人間だぞ」
「回かい答とう・します・ますたー・は・人にん間げん・では・ありません」
「な……に……?」
唇に血を滲ませながら、驚いた表情のラゴウ。
「人にん間げん・は・既すで・に・絶ぜつ滅めつ・しています・ますたー・は・知ち的てき生せい命めい体たい・ANDかつ・しぇ地下都市おーる・が・出生地ほーむ・ですが・人にん間げん・とは・認みとNOTめられません・したがってTHEN・消しょう去きょ対たい象しょう・です」
「どういう事だ、ブルー?」
『タツヤ、キミたちが進化し、地球で繁栄するまでには、なん種類もの生命が文明を興し、消えて行ったんだ。いわば旧人類だね』
「まさか、コイツが言っている人間は、その旧人類の事なのか?!」
「終め焉い計れ画い・を・続ぞっ行こう・にNo.2ばん・かtoら・にひゃくNo.207ななばん・まで・の・起き動どう・に・成せい功こう」
に、200……?!
「にひゃくNo.208はちばん・起き動どう・失しっ敗ぱい・破は棄き・にひゃくNo.209くばん・かtoら・せんNo.1000ばん・まで・起き動どう・開かい始し」
足元から、次々に細いコードのような物が現れ、青い炎に包まれていく。おいおいおい! ちょっと待て!
「そ……そんな……こんな物は知らぬ! 知らぬぞ?!」
「回かい答とう・します・千せん体たい・の・〝守DO護LL者〟・を・用よう意い・済ずみ・起き動どう不ふ良りょう分ぶん・の・一No.208体・を・再生産中」
こんなのが千体も……? 僕以外、みんな死んじゃうぞ?!
「待て! やめろ! 計画は中止だ!」
「中しゅう止し・できません・権けん限げん・が・不ふ足そく・消しょう去きょ対たい象しょう・から・の・計けい画かく・破は棄き命めい令れい・を・棄き却きゃく」
苦悶と焦燥に顔をゆがめるラゴウ。
「心しん拍ぱく数すう・異い常じょう・ますたー・は・消しょう去きょ対たい象しょう・の・為ため・治ち療りょう・できません・心こころ・が・落おち着つく・音おん楽がく・は・いかがでしょう」
青い炎が照らす部屋に、聞いたこともない言葉で綴られた歌詞と、不気味で耳障りなメロディーラインの曲が流れはじめる。
「兄さん! しっかりして下さい!」
蓄魔石でラゴウを回復させる織田さん。さすが僕の〝治癒連鎖〟の魔法だ。みるみる傷口がふさがっていく。
「にひゃくNo.208はちばん・完ろーる成あっぷ・〝守DO護LL者〟・各かく地ち・への・転てん送そう・まで・99・98・97」
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最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
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