プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

おまけ憑きオシャレ雑貨

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 もっと激しい戦いになるのかと思っていたけど、ユーリはノームに全く魔法を使わせないで勝利した。

「やー! 大ちゃんの怒りを思い知ったかー!」

「いや……俺そんなに怒ってなかったんだけどなー?」

 ノームは〝大ちゃんは自分より強いんだ!〟っていうユーリの言葉に若干青ざめながら、おとなしく宝玉に戻った。

「しかし、大ちゃんが精霊を認識出来ないのは不便だな……」

 逆に、精霊が見えるようになれば、エレメンタル・ネストすら作れるようになりそうだ。

「魔力がある程度備われば、精霊のような〝魔法生物〟を認識できるようになるわ。九条くんは、まだ魔力量が足りないだけなのよ」

「俺が見えないのは分かるけどさー? ……ユーリは何で見えてるんだ?」

「…………やー?」

 ユーリは首をかしげる。分からないのかよ。
 まあブルーの事も、いつの間にか完全に認識できちゃってるし、宇宙人的な何かだろ。

「よし、それじゃ続きを……ブルー、頼む」

『了解したタツヤ。聖剣は危険なので仕舞っておくよ』

 テーブルと椅子がせり上がる。
 僕はテーブルの上のバックパックから、ジャラジャラと小物類を取り出した。

「わあ! すごく綺麗だね!」

 栗っちが目を輝かせる。
 魔界には、地球では手に入らない物がたくさんあった。
 特に、城塞都市の外。探検の途中で手に入れた物は、面白そうなアイテムが目白押しだ。

「まあ、あんまり嵩張かさばるものは、持って帰って来れなかったんだけどね」

 〝落日と豪雷の塔〟内部とそこに至るまで道中で、倒した魔物が所持していたり、宝箱や隠し部屋の中などで見つけた戦利品だ。分かりやすいようにテーブルに並べてみた。

「金貨5枚、銀貨8枚、銅貨13枚。本が2冊と指輪、腕輪、ネックレスがそれぞれ複数個……あと、小瓶に入った液体が数本、宝石類もあったな……」

 とりあえず、栗っちに見てもらおう。
 え? なんで大ちゃんじゃなくて、栗っちかって? それは……

「待って! たっちゃん、それとそれ、そっちのも。あと……金貨も一枚、これって良くないよね」

 あ、やっぱり。彩歌の言ってた通りだ。
 栗っちが指差したのは、指輪やネックレス、そして金貨の内の一枚だ。

「ふふ。さすがね栗栖くん。鑑定もせずに見破っちゃうなんて」

「えへへ。この感じだと、すっごく〝悪くて怖い〟んじゃないかな」

 〝呪い〟だ。悪魔が死に際に残す物ももちろん厄介だが、物に宿った呪いも、それはそれは面倒なようで……

「物に掛けられた呪いに、解呪の魔法は余り役に立たないわ。呪いを解く専門家〝解呪師〟に頼む必要があるの」

 悪魔の残す呪いは揮発性きはつせいで、対象は悪魔を殺した本人のみの場合がほとんどだ。
 けど、物品に埋め込まれた呪いは、所持した者に何度でも発動してしまうらしい。

「呪われたアイテムが、次々と持ち主を不幸にするって、ほら、テレビとかでよく聞くアレって、もしかして〝魔界産〟なのか?」

 たとえば絵画とか、人形とか。
 持ち主が病気になったり死んじゃったりしていくパターンだ。

「えへへー。魔界じゃなくても〝思い〟が込められた〝物〟って、普通にあるよね。幸せを願えば幸運を、不幸を願えば呪いを与えるんだよ」

 なるほど。それなら別に魔界とかは関係ない。人形に釘を打つのも呪いだし、逆に安全を願って手渡せば、何でも御守おまもりになる。

「そうかー。そっち方向は、俺より栗っちの方が専門だよな。呪われた金貨を使って役に立つ物を作れとか言われても、さっぱりわかんねーよ」

 呪われていない、安全な方の金貨を手の上で転がしながら、大ちゃんが笑う。

「かと言って僕も、うまく出来るかは、わかんないんだけど」

 ニコニコ顔のまま、くだんの、呪われているであろう金貨を手に取る栗っち。

「えっとね、この子は、持ってるヒトのお財布が、空っぽになるよう願い続けてる……」

 散財の呪いか……!

「え、ちょっと! 僕、それずっと持ってたんだけど?!」

「うーん……〝お財布〟じゃなかったから大丈夫だったんだと思う。意外と条件に厳しいんだよ、こういう呪いって」

 確かに、バックパックの底に入れていたんだから〝お財布〟ではないな。危ないところだった。

「で、栗っちが触ったから、もう呪いは消えたのか?」

 大ちゃんが、自分の持っている金貨と、栗っちの手の上の金貨を見比べて言う。

「ううん。物に染み込むほどの想いって、びっくりするぐらい強いんだ。たぶん、それを抜き取るのは無理だよ」

 栗っちはちょっと悲しそうな顔をする。

「可哀想だよね。この金貨を呪った人は、きっとすごく悲しかったり、怒ったりしたんだよ。その想いは、簡単に無くなったりしないから……」

「んー? 魔界には、そういう呪いを解くための専門職があるんだろー? だとしたら、どうやって解いているんだ?」

 大ちゃんが不思議そうに言う。確かにそうだな。

「うーん。呪った本人と直接お話をして、思いを晴らすか、何か別の物……身代わりに押し付けるような感じだよね、きっと。でないと、想いの行き場がないから元に戻っちゃうよ」

「そうね。〝解呪師〟の事は詳しく知らないけど、鳥やウサギを生け贄に使うっていう噂は聞くわ」

 マジか……やっぱ魔界関連って色々と怖いな。

「こっちの指輪は……あ、すごく重くなる呪いみたい。これは、病気になっちゃう指輪。こっちのネックレスは、息ができなくなるよ。怖いよね」

「やー! たっちゃんなら、どれに呪われても大丈夫だよ!」

 いやいやユーリ! 重くなるのはイヤだからね?!

「でもさ、呪いが外せないなら、意味なくない? 壊したりしちゃだめなんだろう?」

「えへへ。壊せば、呪いが撒き散らされて大変なことになっちゃうよ?」

 うええ……それはマズイな。

「壊した本人だけじゃなくて、関わった人まで呪い始める事もあるわ。達也さんが死ななくても、呼吸の必要な知人は、みんな死ぬわね」

 なぜか笑顔で、彩歌が恐ろしい事を言う。
 ……呼吸のいらない知人は居ないぞ。残念だけど、家族も友達も全滅だ。

「あーあ。せっかく持って帰ってきたのに勿体ないなあ。捨てるしかないか」

 っていうか、すぐに捨てよう。県境の山の中がいいな。

「んー? …………もしかしてさ、呪われた品って、捨てても戻ってくるって言わないか?」

 大ちゃんが神妙な面持ちで言う。いやいや、犬じゃあるまいし、戻ってくるなんて……
 あれ? そういえば、そういう話よく聞くな……まさか、ね?

「うん。今、この子たちの持ち主はたっちゃんになってるから、捨てても捨てても、いつの間にか戻ってきちゃうよ」

「えええ? そうなの?!」

 さすがは呪いのアイテム。って感心してる場合じゃないぞ。どうするんだよ、これ!
 早くしないと、重くなって、病気になって、息ができなくなる! あ、やっぱ重くなるだけか。
 ……でもなんかヤダ!

「えへへー。この子たち、全部、僕がもらっていいかな?」

 ……どうするどうする?
 お祓いかな? 霊能者? とにかくなんとか……え?

「全部って……栗っちでも、物品の呪いは外せないんじゃないの?」

 まさか呪いとして誰かに使うとか……?

「えへへ。僕はそんな事しないよ?」

 あ、心を読まれた。〝精神感応〟の事を忘れてたよ。

「呪いは外せないけど、僕には効かないんだ。というか、逆にプラスの方向に働くんだよ」

「やー? どゆこと?」

 ユーリが、また首を傾げている。

「神様を呪うことは出来ない……だったよなー?」

 そういえばそんな事を言ってたな。さすが大ちゃん、よく覚えてる。
 でも、それってどういう仕組み?

「えっとね、たとえば……神様に向けて〝死ね〟っていう呪いを掛けたとしても、神様から見れば〝たまにはゆっくりお休み下さい〟っていう、愛情たっぷりのエネルギーにしか受け取れないんだ」

 なにそれ?! 究極のポジティブシンキング?

「じゃあ、散財の金貨は?」

「他者に財を分け与える事は、神としては何のマイナスにもならないよ? むしろ、求めなくても何倍にもなって帰ってくるからお得だよね!」

 そういえば栗っちは、お金に執着しないし、欲しいものは全部、自動的に手に入ってしまうからな。

「重くなる指輪は?」

「自分の重さを知ることによって、自分だけじゃなくて、色々な物の重さを操れるようになる気がする……きっと念動力もパワーアップするよ」

 スーパーアイテムじゃんか! 僕も欲しいぞ!

「病気になる指輪は?」

「病める者は幸いなり……なんちゃって。健康なままでは気付けないこともあるよね。この指輪のおかげで、僕は病気の人を治せるようになると思う」

 救世主っぽいのキターーー!
 〝ちょっと見せてみなさい〟とか言って、病気の人のツボを押すんだな?
 ……あれ? なんで荒廃した近未来の風景とトゲトゲ肩パッドのモヒカンが脳裏に浮かぶんだろう……?

「窒息するネックレスは?」

「あ、うん。その子は…………みんな、驚かないでね?」

 え? 何を……!
 ネックレスに手を伸ばし、自然な動作で首にかける栗っち。おいおいおい、大丈夫な……

「ええええ?!」

 ……突然、どす黒い煙がネックレスから吹き出し、辺りを包む。全然大丈夫じゃなさそうだ。

「やー?! なに? なに?」

 キョロキョロとユーリは周囲を見回している。
 大ちゃんは……まだ何も見えてないみたいだな。

「呪った本人がいてたみたいね?」

 ……そんな、駄菓子だがしのオマケみたいに。
 セリフとは裏腹に、彩歌は冷や汗を拭いながら煙の集まって行く先を見ている。

「この子は直接、首を絞めるタイプみたい。レア物だよね」

 そんな〝タイプ〟は願い下げだ……全然欲しく無いな。

『タツヤ、そういう物欲の無い状態で引けば当たるらしい。覚えておくと良い』

「いやいやブルー! 本当に要らないですけど?! だれが〝物欲センサー〟の話をしたよ?!」

 やがて黒い煙は徐々にその姿を現し始めた。呪いの主は栗っちの首に手を伸ばす。

「えへへ。ちょっと僕とお話をしようか? 〝神の名に於いて命ずる。答えよ〟」

 パン! という音が、練習場に鳴り響いた。

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