プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

入居者の言い分

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 土の大精霊ノームを宿す〝器〟となる武器。それは……

「ユーリの〝魔神の爪〟だぜー」

 ウォルナミス・ガジェットに標準装備されている武器〝魔神の剣〟を、大ちゃんが改造してユーリの戦闘スタイルに合わせたのが〝魔神の爪〟だ。
 その切れ味は凄まじく、ユーリの動きを妨げないので、剣の形の時よりも遥かに強力になった。

「大ちゃん、ノームを宿すには、神が作ったような武器が必要らしいけど、大丈夫?」

 まあ大ちゃんは〝名工神ヘパイストス〟だし、変身すれば〝機械仕掛けの神デウスエクスマキナ〟なんだから、大ちゃんの作った武器、イコール、神が作った物という事で間違いないんだけど。

「あー。このナイフに組み込まれてる、不思議で複雑な構造をイチから作るには、かなりの時間と精霊に関する知識が必要だろうなー」

 理解しようにも、俺、精霊が見えないし。と言って笑う大ちゃん。

「だから、重要であろう部分をそのまま補強して使えば、大丈夫だと思うんだ。俺の見立てが間違っていなければ、上手くいくと思うぜー?」

 なるほど。もともとある〝強度が心配な入れ物〟を〝頑丈な入れ物〟の中にギュッと入れてしまうわけか。

『星の化身よ……この少年が、わし住処すみかを造るというのか?』

「ああ、紹介するよ。ウチの頭脳ブレイン、大ちゃんだ」

「おー? もしかして精霊に紹介してくれてるのかー? でもさー、精霊は、きっとこう言うんじゃないかな」

 大ちゃんは、を作り、低い声で言う。

「〝こんな子どもに、自分のうつわを作ることはできないんじゃないか〟……ってな」

 同時にノームも言った。

『このような子どもに、大精霊の器を用意できるはずがない』

 さっすが大ちゃん! 大正解!
 セリフを言い当てられたのが気に食わなかったのか、ノームは、ちょっとしかめっ面。それがまた、さっきの大ちゃんの顔マネに似てて笑える。

「あとさー、その器の使い手がユーリっていうのも、きっと問題だろー?」

「やー? どうして? くせっ毛だから?」

 なんでだよ! 天然パーマテンパのヒト全員に土下座しろ!

「たしか、精霊は自分に勝った魔法剣士の武器に宿るんじゃなかったか? それなら、ユーリの力を見せなきゃダメだろー?」

 あ、そっか。グアレティンは例外だった。
 ……あの時は、彩歌がエーコに譲渡した感じになったけど、本当は戦って勝たなければ掟に反すると言っていたな。

『今の話、聞き捨てなりませんな。その〝魔神の爪〟とやらの使い手は、星の化身ではないのか?』

 若干、不機嫌になるノーム。

「あ、いや。僕じゃないんだ。ほら、そっちの……」

「やっほー! 私がユーリちゃんだよー?」

 ユーリがヒラヒラと手を振り、ノームは更に機嫌が悪くなる。

「……あの者、魔力が感じられませぬが?」

「魔力は、ほとんど無いからな、魔法も使えないし」

 ノームはやれやれという素振りで首を横に振る。

『星の化身よ。このノーム〝弱者〟の持つ〝出来損ないの器〟に宿るつもりは無い。どうしてもというならば、即座に消滅させて頂きたい』

 ノームのセリフの直後、練習場に〝キーン〟という耳障りな音が響く。
 ……いや、音じゃないな。これはユーリの殺気だ。

「にゃー。みんな、ちょっと下がってて」

 一度は隠していた耳が完全に出ている。口調も、ユーリが臨戦態勢になった事を表していた。

「……ノーム。望み通り、消滅する事になるかもな」

『誇りをもって死するなら望む所。ましてや星の化身の手に掛かるなら、尚の事』

 笑みすら浮かべているノーム。
 いや、お前を消すかもしれないのは僕じゃない。

「ブルー、テーブルと椅子を片付けてくれるか? 荷物ごと全部」

『了解した』

 ユーリとノームを残し、全員、壁際まで下がる。何が起こったのか理解できないノーム。

「武装」

 まばゆい光に包まれて、ユーリはイエローに変身した。

「にゃー。聞き違いだったら悪いから、念のため聞くんにゃけど? ……魔神の爪」

 左右の拳から、鋭い刃が飛び出す。

「これが魔神の爪。そしてこの姿が、大ちゃんの改造してくれたガジェット。これを見てどう思うんにゃ?」

 イエローの言葉は、いつもより少しトーンが低い。
 ノームは、イエローをつま先から頭までジッと眺めてから、こう答えた。

『稚拙な出来損ないのガラクタを見せられても、返答に困るのだが? ……それより、いつまで児戯じぎに付き合えばよいのか教えてくれ』

 次の瞬間、イエローが消えた。
 ギョッとした表情のノーム。その背後に、黄色い影が浮かぶ。

『なにっ?!』

 ノームが振り返る。しかし、そこにはもう何も無かった。

「2つ」

 不意に現れたイエローの爪が、ノームを腰の辺りで水平に両断する。

『ぐああ!』

 苦痛に歪んだ顔のまま、ノームの胴体が床に転がる。

『くっ、何だ? 何が起こった!』

 ノームの上半身が、フッと消え、立ったままだった下半身の上に現れた。

『ぬう……只の小娘では無かったようだが、所詮は魔法を使えぬ弱き……』

「3つ」

 セリフを言い終える前に、今度は腰と胸の辺りで水平に切断される。

『がふぅっ?! ……こ、こやつ?! 無駄だぞ! 物理的な攻撃を受けたところでわしの体は自動的に元に戻るのだ』

「4つ」

 先程と同じように、ノームの上半身が元に戻る。と同時に、脳天からの一撃、続けて腹を真横にと、十字に切り裂かれた。
 黄色い影が、浮かんでは消える。

『があああっ!! 調子に乗りおっ……』

「5つ」

『ぐびゃあ?! おのれぇぇ!』

「6つ」

『あひゅんっ!?』

「7つ」

『むがぎゅぶっ?!』

 イエローの宣言通りの数に、切り刻まれては戻るを繰り返すノーム。延々と切り刻まれ続ける。

「21」

『や、やめっ! やめぎゃああぁい!』

 ノームは、得意の魔法も使えず、結界も張れない。その前に、細切れにされるのだ。

「38」

『がぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!』

「39」

『もっ! もういやだばぷしっ?!』

「40」

『ひぃぃぃぃっ?! ひぬるゃっ!』

 あーあ……ちょっと可哀想になってきたな……





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「1139」

『ご、ごべっ』

 ……これが地獄の責め苦か。
 ノームは、目視できない程に切り刻まれては、元に戻るを繰り返していた。
 魔法なら殺して貰えたんだろうけど、物理的に細切れにされるもんだから、自動で元に戻ってしまい、痛い上に死ねない。

「1140」

『ごめんなぎっ』

「1141」

『ごべんなさぎゃっ』

「1142」

『ごめんなさぎゃうっ』

「1143」

『ごめんなさいっ!』

 イエローが、ピタリと動きを止める。

「……もう1回言うにゃ」

『へっ?!』

「……1144」

『あああっ! 待って下さいっ! ごめんなさい! 許して下さい!!』

「にゃー。私に謝ってもダメにゃよ」

『は、はい?!』

「大ちゃんに謝って。そしたら許してあげる!」

 ノームは、放心状態で、ポカンとイエローを見ている。
 そうだ。ユーリが怒ったのは、自らを〝弱者〟と言われたからではない。

「お前にゃあ? 大ちゃんの事をバカにしたよにゃ? 大ちゃんの作る物に〝出来損ない〟にゃんて、ひとつも無いんだよ? 謝って! すぐ! ……1144」

 ノームは慌てて大ちゃんの前にひざまずき、土下座した。
 大ちゃんには見えてないんだけどな。

『申し訳御座いません! どうぞお許し下さい!』

 イエローが、腰に手を当ててうなずく。

「分かればよろしい! 大ちゃんはね、スゴイんだ!」

 ノームの謝罪を見届け、変身を解いたユーリは、にっこり笑って満足げに言った。
 いやいやユーリ、お前もスゴイよ。

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