プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

2万4千光年

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 呪われたアイテムは、栗っちに全部まかせることになった。
 小物類と不気味な液体の入った小瓶、解読不能な文字で書かれた本などは、とりあえず大ちゃんに渡しておけば大丈夫だろう。
 要は、丸投げだ。頼りになる仲間がいてくれて、うれしい限りだなあ。
 ……と、思った矢先の出来事だった。
 ああ、そうか、フラグ立てちゃったのか?

「こんな所かな。えーっと……なんか忘れているような……?」

 そう、僕はすっかり忘れていた。
 テーブルの上の巻物スクロールの事を。

「やー。これなぁに?」

 それは、魔界の〝クスギシ魔法店〟に代々伝わる超絶レア魔法〝夢幻回廊〟だ。

『〝夢幻回廊〟は、術者の知識、潜在意識、前世、遺伝子情報、想像力、その他諸々の、本人すら想像もつかないような、途方もない量の情報を使って、広大な迷宮を作り出すんだ』

 ……以上、クスギシのマスター談。
 この魔法を使った者は、途方もない量の魔力を奪われた上に、足りない分は体力も奪われて、完成した広大な迷宮に放り込まれる。
 迷宮を踏破できれば〝大地の王〟に〝神をも超える力〟をもらえると言われているんだけど……

『タツヤ〝大地の王〟ですが何か?』

「〝ですが何か?〟って言いたかっただけだろブルー?」

 そうなのだ。なんと〝大地の王〟とは、ブルーの事だった。
 つまり、迷宮に挑まなくても、もうみんな会ってるんだよな。しかもブルーいわく、おいそれと〝神をも超える力〟は、与えられないらしい。
 それをもらえたのは唯一、僕だけだ。

『で、どうする? タツヤ』

「……うーん。とにかく落ち着いて、現状を把握しよう」

 気付いた時には、もう巻物スクロールは開封されてしまっていた。
 もちろん、開封したのはユーリだ。なんで学習しないんだろう……

「……彩歌さん、あの巻物スクロールは呪文を唱えなくても発動するの?」

「そんな魔法、聞いたことないわ? 普通、体内に格納された巻物スクロールは、サポート役になるだけで、術者の詠唱がなければ機能しないはずよ」

 巻物スクロールは、開封した者の体内に取り込まれ、魔法を発動するための儀式や祭壇、魔法陣等の代わりをするだけでなく、詠唱の手助けまでしてくれる。
 ユーリは、テーブルの上の巻物スクロールを勝手に開封してしまった。
 全員〝ああ、またやったか〟ぐらいの気持ちでそれを見ていたのだが……

「いやいや! あいつ、知らないはずの呪文をスラスラと唱えてだぞ?! どういうことなんだ?!」

 スクロールがフッと消えた直後、ユーリは何かに取り憑かれたかのように、虚ろな眼差しで、いきなり呪文を唱え始めた。
 ……完全な不意打ちだ。詠唱は決して短くはなかったが、誰もユーリを止められなかった。

巻物スクロールには、自動詠唱機能があるんだけど〝頭の中で操作する〟方法を知らなければ、詠唱はしないはず……だよね、彩歌さん?」

 いやむしろ、そうでなきゃ、火の玉や鉄の針が街中を飛び交うぞ?

「……もしかして」

 ハッとした表情で、彩歌が、何かに気付いたように呟く。

「異星人であるユーリさんの体は、私たちとは違うのかもしれない。そのせいで、巻物スクロールが誤作動したのかも……?」

「おいおいー! 絶対にそれだなー!」

 大ちゃんが叫んだ。
 うん。僕もそう思う。

『タツヤ、ユーリが消えた空間の痕跡を探ってみたのだが、驚くべき事が分かった』

 ブルーが、珍しく低いトーンで告げる。

「おいおい、どうしたんだよ、怖いぞブルー? 」

『彼女は〝私に会うための迷宮〟には、送られていない』

 ……はい?

「どういう事だブルー? 〝夢幻回廊〟は〝大地の王〟に会いに行く魔法だろ? それなら最終的には、お前の前に現れるんじゃないのか?」

 魔力は少ないが、ユーリの体力は底なしだ。迷宮にどんな怪物が居ても、どれだけ長い道のりでも、平気で突破して、ひょっこり帰って来たりするんじゃないか?

『タツヤ、思い出して欲しい。あの魔法は〝術者〟の知識、潜在意識、前世、〝遺伝子情報〟、想像力、その他諸々の情報を使って、迷宮を作るんだよ』

 それは知ってるよ。僕もさっき引用したし。マスター談だ。

「……な、なあブルー。〝術者〟の〝遺伝子情報〟……か?」

 大ちゃんは、そう言って震えている……顔面蒼白になって。
 ……そういえば、さっきブルーは、そこを強調していたな。〝術者〟の〝遺伝子情報〟?

「たっちゃん。〝術者〟である〝ユーリの遺伝子〟に刻まれている〝大地の王〟の情報は、ブルーだけじゃないぜー?」

 ……? 遺伝子…………宇宙人の遺伝子?! 
 まさか! ユーリが作り出した〝夢幻回廊〟の行き着く先は?!

「惑星ウォルナミス!」

『そうだタツヤ。まず間違いない』

 冗談じゃない! 確か〝惑星ウォルナミス〟までは、光の速さでも2万4千年ほどかかるって言っていたぞ?

「ダメだ……さすがに今回ばかりはお手上げだ!」

「ああ。ユーリは徒歩だぜ? 生きて辿り着けるわけないだろー!」

 肩を落とす大ちゃん。まさかこんな事になるなんて……

『タツヤ、ダイサク。聞いて欲しい。私が調べた空間の裂け目は、とてつもなく遠い場所に、ダイレクトに接続されていた』

「おいおいー! 本当かよブルー? それじゃユーリは……!」

 大ちゃんが僕の右手をつかんで、ブルーに顔を近づける。

『迷宮は、たぶん惑星ウォルナミスに直接つながっている。だから、ユーリが迷宮を踏破できれば、生きて惑星ウォルナミスに出ることが可能のはずだ』

「良かったぜー! ユーリ……ああ、ユーリ!」

 喜びと悲しみが同居したような、複雑な表情の大ちゃん。
 当然だ。ユーリが無事だとしても、もう2度と逢えないかもしれないんだから。

「大ちゃん……」

「九条くん……」

 栗っちと彩歌も、もちろん僕も、どう声を掛けていいのか分からない。
 重苦しい空気が地下室を支配する。

『そこで、キミたちに提案があるんだ。私の立場上、あまり方法なんだけど』

 沈黙を破ったのはブルーだ。

「何だ! 何か方法があるのか?!」

 必死にブルーを……というか、僕の手を揺さぶる大ちゃん。攻撃判定じゃないので、大いに揺さぶられる僕。

『……先程、ユーリが飛ばされ、空間の裂け目が閉じる前に、私は咄嗟に〝聖剣〟を差し込んでおいた……この剣は、異世界との境目を貫いても折れないからね』

 よく見ると、ユーリが座っていた椅子のとなりに、聖剣が突き刺さっている。
 すごい判断と行動力だなブルー! グッジョブだ!

『たぶんキミたちのうち、2人ぐらいなら、ユーリの迷宮に送ることができる』

 ひとりは、必然的に僕だ。なぜなら〝阿吽帰還あうんきかん〟が必要だから。あの魔法があれば、どこからでも帰ってこられる。
 ……ブルーが〝あまりお勧めしてはいけない理由〟は、僕を異星に送る事になるからだろう。守護者が不在になるのは、星としてはマズイよな。

『そしてもう一つ。次元の裂け目を通るなら、聖剣に触れなければならない』

 もうひとりは、栗っちに決まった。聖剣に触れて〝裁き〟を受けないのは、剣に選ばれた僕か、神様候補の栗っちだけだから。

「えへへー! それじゃ、急いで行こうよ!」

 栗っちもそれが分かっているようだ。
 僕は聖剣を掴んだ。これでいいのかな?

「達也さん、行ってらっしゃい。気をつけて」

 彩歌が微笑む。

「うん。ユーリを連れて、すぐに帰ってくるから」

 それじゃ、ユーリ救出作成開始……え? 大ちゃん、いったい何を……?

「変身!」

 まばゆい光に包まれて、大ちゃんはレッドの姿になった。そして無言で聖剣に近付く。
 ……そうか、機械仕掛けの神デウスエクスマキナなら〝神〟扱いだから聖剣に触っても平気なのか?

「ダメだよレッド! 聖剣が怒ってる!」

 あわてて叫ぶ栗っち。ええっ?! それってマズいんじゃない?
 ……栗っちの声が聞こえていないのか、神剣に手を伸ばすレッド。

「待ってレッド、危ないよ! レッドの神性しんせいは、聖剣には理解できないみたいだよ!」

「……知っている。私は機械仕掛けの神デウスエクスマキナだからな。全ての〝物〟の声が聞こえるのだ……先程から、聖剣は私に対して、強い警告を発している。〝死を覚悟しろ〟と」

 レッドは、落ち着いた口調でそう言うと、聖剣のつかを握った。火花が飛び、バチバチという音が鳴り響いて、コゲた金属の匂いが立ちこめる……いや、この匂いは金属だけじゃない。

「ダメだレッド! 手が!」

 以前、ユーリが神剣に触れた時のような、肉の焼ける匂いも混じっている。

「これぐらい、どうという事はない。さあ、早く送ってくれ……私はユーリを、救いに行かねばならないのだ」

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