プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 3学期 3月

征く者、去りし者

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 りんとした表情で、手を挙げている、ひとりの少年。

「他に誰かおらんか? 地球を離れ、同胞はらからを救おうという、勇気ある戦士は!」

 長老の声に、どよめきは一層大きくなる。

「……ひとりだけじゃな?」

 顔を見合わせたり、ヒソヒソと話し合ったりする人たち。うつ向いて、ジッとしている人もいる。
 ……少年以外に、手を挙げる者はいない。
 仕方のないことだ。ここで挙手すれば、地球を離れ、はるか彼方の惑星ウォルナミスに向かうことになる。
 帰ってこれる保証は、一切ない。

「よし、里人りひと。お前は今日から戦士じゃ」

「はい。精進します!」

 里人くん……か。
 小学生っぽいけど、ウォルナミス人の年齢は、見た目では分からない。例の薬を飲んでいないだけかもしれないし。

「り……里人!」

 おや? 女性がひとり、里人くんに近づいて行く。

「どうして? あなたは、まだ子どもよ?! なんで……なんで……?」

「お母さん。僕は強い戦士になりたい。宇宙一の男になるために、惑星ウォルナミスに行くんだ」

 やっぱり、見た目通りの年齢みたいだな。
 だけど、故郷を捨てて、二度と戻れないかもしれない星へ行くって、どんな気持ちなんだろう。
 そして、それを送り出す親の気持ちも、僕にはまだ分からない。

「僕は必ず、惑星ウォルナミスを守り抜いてみせる! だから心配しないで」

「ああ……里人……! そうね。あなたも誇り高いウォルナミスの戦士なのね……」

 里人くんのお母さんは、悲しみを振り払うように、姿勢を正し、こう言った。

「行ってらっしゃい、戦士里人せんしりひと。武運を祈っています」

 ……強いな。
 彼女もまた、気高きウォルナミスの末裔まつえいなのだ。

「やー! おまたせー!」

「ん? どうしたんだ? 一緒に行ってくれる戦士は見つかったかー?」

 ユーリと大ちゃんが戻ってきた。手には、小さな木箱。
 二人が持って来たのは、過去の戦いで力を失って、保管されていたガジェットだ。

「えっとね、一人、一緒に行ってくれる事になったよ。里人りひとくんだって。まだ子どもなのに偉いよね!」

 栗っちの言葉に、ユーリと大ちゃんが驚く。

「里人くんが? マジかー!」

「えー?! 里人? なんで?!」

 ……知り合いなのか? 確かに、年格好は僕たちと同じぐらいだし、案外、幼なじみだったりして?

「やー! ちょっと里人? どういう事なのさー?」

 ユーリと大ちゃんは人集ひとだかりをかき分け、里人くんに駆け寄る。

「……ユーリちゃん、僕は生まれ変わるんだ。惑星ウォルナミスを守る、戦士になるよ!」

 里人くんが、清々すがすがしい笑顔で答える。

「里人くん……本当にいいのかー?」

「九条君……」

 里人くんは、少し言葉を詰まらせた。
 だがすぐに、意を決したように続ける。

「……うん。ガジェットを手に入れて、戦場ボードに立たなきゃ、何も始まらないからね! ……くやしいけど、今の僕の力では、地球もユーリちゃんも守れない。だから僕は、出来る事をやると決めたんだ」

「でも……でもさー、里人……」

 悲しげな表情のユーリと、申し訳なさそうにうつむく大ちゃん。

「ふたりとも、そんな顔しないで! ……九条君、ユーリちゃんをよろしくお願いします」

 大ちゃんは、ハッと顔を上げた。目の前に、里人くんの右手が差し出されている。

「ああ! もちろんだぜー! そして、こちらこそよろしく。戦士里人せんしりひと! 一緒に惑星ウォルナミスを救おう!」

「やー! 里人……!」

 握手を交わす里人くんと大ちゃん。そして、そんな二人を見つめているユーリ。何があったのか知らないけど、3人とも、良い笑顔だ。





 >>>





 長老の案内で、大波神社の最奥さいおう、ガジェットのメンテナンスルームにやって来た。

「この部屋ですじゃ」

「おー! いかにも異星のテクノロジーって感じの物ばかりだなー!」

 地球の工場や研究室の雰囲気ながらも、明るいパステルカラーの壁と、それ自体が照明となっている、継ぎ目のない天井。
 見たこともない機械や工具が、所狭しと並んでいる。

「この部屋と機材は、好きに使って下され。あと、何か質問などがございましたら、エンジニアたちに。皆の者、頼んだぞ」

 部屋の中で作業をしている技術者たちに声を掛けると、長老は、深々とお辞儀をして部屋を出ていった。
 ……相変わらず、すべての仕草がかわいい。

「えへへー。たっちゃんが、長老さんに飛び掛からないかと、ヒヤヒヤしちゃった」

 栗っちが苦笑いしている。
 今日、初めて長老を見た時からずっと、僕の頭の中は、すぐにでも羽交い締めにして、でまくりたい衝動でいっぱいだったからな! 耐えきった! まさに忍耐の鬼だな。

『タツヤ、自慢げに言うことではない。長老が男性でなければ、私はキミのアレを〝アレだね〟ってアレする所だったのだ。気をつけて欲しい』

「それ、もう僕に〝アレだね〟ってアレしちゃってるのと同じだよねブルー?! だから僕はアレじゃないし、アレって何なんだよ?!」

 ハアハア……おかしいぞ? 段々、ヒドくなってないか? 

「とりあえず、この作業台を借りようぜー?」

 大ちゃんは、壊れたガジェットを、早くイジりたくて仕方ないみたいだ。
 ……僕とブルーの会話は、耳に入ってないな。

「やー。このガジェットはねー、長老の、お孫さんが使っていたんだよー」

「へえ、そうなんだ。あ、えっと、そのお孫さんは……もしかして亡くなってたり?」

 このガジェットが力を失っているのなら、そういう事もあり得る。

「やー。ううん、えっと、生きてる……と思うんだ」

 思う? ……どういう事だ?

「長老のお孫さん……里留さとるさんっていうんだけど、3年前の戦いで、ガジェットを暴走させた責任を感じて、どこかへ行ってしまったんだよー」

 当時、ガジェットは残り2つ。その戦いは、5対2の不利な戦いだった。
 新型のガジェットで武装した強敵に、戦況は終始、劣勢だったという。

「もう一人の戦士をかばって、5人がかりの攻撃を受けた里留さとるさんは、致命的な怪我を負い、ガジェットを暴走させてしまったんだって……」

 暴走したガジェットは、無双の力を発揮して、戦士を守ろうとする。
 ……装備したウォルナミス人の力と、ガジェット自身の力、両方を燃やし尽くして。

「なるほど。戦いには勝ったけど、ガジェットをひとつ、失ったんだなー……」

 大ちゃんは、低いトーンでそう言って、表情を暗くする。

「やー! でもね? ガジェットを暴走させるほどに、命を掛けて戦ったんだから、力を失った戦士は、英雄としてたたえられるんだよー! 歴代の戦士たちも、ほとんど全員が、暴走させたガジェットと一緒に、安らかに眠ってるんだから!」

 ユーリが、涙ながらに叫ぶ。
 確かに、その仕組みから考えても、戦士が死ぬ前に、ガジェットは暴走して力を失うはずだ。

「うーん……可哀想だよね。真面目すぎたんだね、里留さん」

 悲しい表情で、ポツリと呟く栗っち。
 続けて彩歌が、何かに気付いたように言う。

「ねえ、友里さん。もしかして、その里留さんと一緒に戦ってた戦士って……」

「……うん。ねーちゃんだよ」

 里留さとるは、愛里あいりと一緒に戦っていたのか!

「3年前の事なんだ。2人はね、結婚の約束までしてたんだけど……」

 戦いに敗れた里留さとるは、大きな怪我を負っていたにも関わらず、戦闘の翌日、行方不明になったそうだ。〝すまない〟とだけ書かれた紙を、愛里に残して。

「戦う力も、ガジェットも失った状態だぜー。お姉さんと一緒に戦えない、守れない自分が、許せなかったんだろうなー」

 時が止まった戦場ボードに立てるのは、ガジェットを装備している者だけ。戦いに関わる事はおろか、見ることすらできない。

「でも……お姉さんは、一緒に居て欲しかったと思うぜ」

「うん。ねーちゃん、泣いて泣いて、挙げ句は自分のせいだって……しばらくは、敵と戦うというより、自分の気持ちと戦ってる感じだったよー」

 里留さとるを責めることは出来ないけど、愛里の事を考えると、ちょっとやるせないな。

「やー! だからね、今まで辛い思いをいっぱいしながら、地球を守ってくれた、里留さんと、ねーちゃんのためにも、私が頑張らなきゃって思ったのさー!」

 ……ユーリ。お前も、色々な想いを胸に、戦ってたんだな。

「お前はもう、一人じゃないんだぜユーリ! これからは、5人で頑張るんだからなー!」

「えへへー! みんな一緒だよ。ぜんぜん怖くないよね!」

「友里さん、辛い事は5人で分け合いましょ! ずっとね!」

「地球は、僕たち5人で守る! 約束通り、惑星ウォルナミスも救う! 楽勝だ!」

「やあぁ……! みんな……ありがと!」

 涙を拭い、にっこり微笑むユーリ。

「さて……と。そのためにも、まずはガジェットをなんとかしなきゃだな! とにかく、分解してみるぜー?」

 さっきまでの会話には、まったく無反応だった技術者たちが〝分解してみる〟の声に、わらわらと集まってきた。こういう人たちって、自分の興味があることに関しては、耳ざといよなあ。

「おい、こっち来いよ! おまえ、九条さんのレプリカ・ガジェットの修理、見てなかっただろ?」

「あーん? 何だよ修理って」

「聞いてないのか? まあ見てろよ、ビックリするぜ」

 十人余りの技術者が注目する中、大ちゃんは、どこからともなく、マイナスドライバーを取り出した。
 ……5本もどうやって使うんだろう?

「こうやってフタを開けて……」

 ガジェットに、器用に5本すべてのドライバーを当て、作業を始めようとしたその時だった。

「ゴルァあぁぁぁ!! ちょっと待てガキども! 何してんだ?!」

 ものすごい形相の、ネコ耳の少女が現れた。すごい勢いで近付き、大ちゃんの手をひねり上げる。

「いてててて! いきなり何するんだー?!」

「何するんだじゃねえぞ! お前らバカなのか?! さっさとここから出ていきやがれ!」

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