プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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春休み

おしおき

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 おじいさんとおばあさんが怪我けがをしないように、攻撃をかわしながら、少しずつ路地の奥へと移動する。そうそう、もうちょっとこっちへおいでよ、お兄さんたち。
 あ、こんな状態でごめんね。僕だよ、栗栖和也くりすかずやだよ?

『こいつ、何なんだ、ちょこまかと!』

『おい、危ねえな! お前のサバイバルナイフ、デカ過ぎんだよ!』

 大勢で僕ひとりを狙っているから、うまく攻撃できていないのが分かる。ヘタすると同士討ちしちゃうもん。
 お兄さんたちは6人。みんな刃物をもっているよ。こわいよね。

「おい、あぶないぞ、キミ!」

「ああ! ぼく、早く逃げて!」

 おじいさんも、おばあさんも、優しいなあ。

「えへへ、ありがとう。でも大丈夫」

 べつに、刃物がこわいって事じゃないんだよ。そんな物で、僕を傷つけることはできないんだから。
 ……こわいのは、人を傷つけたり、殺したりできる武器を平気で振り回せる、お兄さんたちの心だよ。こわいし、悲しいし、残念だよね。

「この世のつみは、この世で反省したほうがいいから、ちょっとだけ、痛くするよ?」

 前にも言った〝死後のつぐない〟は、痛くも辛くもないんだけど、やめたほうがいい。
 なぜって? 生きている人には理解できない仕組みだから、説明はむずかしいよ……うーん。
 ……とにかく、生きている内にあらためる方が、いいよ! ぜったい。

『うりゃうりゃ! 死ねよ、ガキ!』

 このお兄さんは、左右にナイフを持ち替えつつ攻撃してくる。
 かっこいい飾りのついたナイフだね。ライオンかな? 目に緑色の宝石がふたつ。どちらかと言うと装飾品に近い感じだよ。

「ああ、ピアスの宝石と合わせてあるんだ。オシャレだなあ」

 〝念動力ねんどうりょく〟は、大っぴらに使わないほうがいいかもだから、素手で。あ、手加減はしなきゃね。
 ……僕は、この〝オシャレお兄さん〟が突き出した手を、右手ではたく。そして同時に、左足でお兄さんの足を払ってみた。

『ぐぎゃっ?!』

 お兄さん、勢いあまって転んじゃった。頭をすごい勢いでぶつけたけど、大丈夫かな……?

『あはは! おいおい、なにコケてんだよ!』

 いま笑ったお兄さんは、ちょっと小さめの刃物を、忍者みたいに逆手に持っている。

『ああ、痛ぇ。コブが出来ちまった……いや、なんでいま、俺、コケた? なんかおかしいぞ、こいつ……!』

 えへへ。僕の動き、見えないみたいだね。じゃあ、もうちょっとゆっくりの方がいいかな?

『おい! ガキにそんな人数いらねぇだろ! ジジイとババアを殺っちまえ!』

『おう、任せろ!』

 2本のナイフを持ったお兄さんと……もうひとりは、変形するナイフをカチャカチャ言わせているよ。たしかバタフライナイフって言うんだよね。
 二人は、おじいさんとおばあさんに近付いていく。
 ああもう、ダメだよ。仕方がないなあ。先にあの二人を何とかしなきゃ……僕は急いで、右手中指の指輪に意識を集中する。

「重力の恩恵おんけい!」

 二人のお兄さんは、急にヘタり込んで動けなくなった。

『ぬぐあっ! か、体が?!』

 これは、たっちゃんと彩歌あやかさんが、魔界からお土産に持って帰ってきてくれた〝呪いの指輪〟だよ。普通の人が身につけると、重くなって動けなくなっちゃうんだ。
 でも、僕に対する呪いは、全てプラス方向に働く。僕が重くなるんじゃなくて、僕以外の物の重さを、自由に操作できるんだ。
 まあでも、、これぐらいなら〝念動力〟で良いんだけどね。

『……まったく。お前は本当にデタラメだな。こちらとしては、呪い甲斐がいがなくて困るぞ』

 ネックレスから、呪いの主〝ソウスケさん〟の声が聞こえてきた。
 えへへー。それほどでも。

『な……何だ? くそっ、動けない……!』

『ぐああっ?! どうなってるんだ、コレ?』

 お兄さんたちは、とうとう、ペシャっと地面に転がってしまった。

『バカヤロー! なに遊んでんだ!』

『ち、ちがう! 助けてくれ、動けねぇんだよ、痛ぁああ!』

『いででで! 骨が折れる! 痛い! 痛い!』

 苦悶の表情を浮かべたまま〝2刀流おにいさん〟と〝バタフライお兄さん〟は、地面に押し付けられている。
 ちから加減はこんなもんでいいよね。あまりやり過ぎると、潰れちゃうから気をつけなきゃ。
 ……えっと、残りあと4人だよ。さすがのお兄さんたちも、ちょっと息があがってきたみたい。

『はぁ、はぁ……なんなんだコイツ!』

 肩で息をしている、小さいナイフをいっぱい腰に挿したお兄さんは、投げナイフも得意みたい。
 何本も投げてきてるけど、当たらないからイラッとした表情だよ。僕の特性〝確率操作〟の効果が出やすい〝投擲〟とか〝射撃〟では、絶対に命中しないのにね。

『動きがハンパねぇ! もしかしてコイツ、カラテカとか、ニンジャじゃないのか?』

 忍者みたいにナイフを逆手に持ったお兄さんが言った。

『お前は映画の見過ぎだバカ! 見てろよ……』

 すっごく大きなサバイバルナイフを持ったお兄さんが、斬り掛かってきた。僕はその刃を、人差し指と中指で、挟んで受け止める。えへへ。これ、やってみたかったんだよね!

『なっ?!』

 お兄さんが押しても引いても、僕の指からナイフを取り返せないよ。
 ……純粋に、筋力だけなんだけどなあ。僕もすっごく強くなったよね。

「えいっ!」

 指を軽くひねると、パキンという音と共に、サバイバルナイフはキレイに折れちゃった。

『ぎゃあ! 腕が! 腕があああ!』

 手首をおさえてのたうち回る〝サバイバルお兄さん〟。
 そりゃ痛いよ。僕と力を合わせて、サバイバルナイフを折った形になったんだから。人間わざじゃないよね、えへへ。

『ひぃ?! ちょ! どうなってるんだこのガキ!』

「さあ、次はどのお兄さんにしようかな……? よし!」

 僕は〝忍者お兄さん〟に近付いて、刃物を持った手をつかみ、にぎりしめる。

『ぐはぁああ! 痛ぇええ!!』

 よだれを垂らして、すごく痛そうな顔をするお兄さん。
 ……かわいそうだけど、仕方ないよね。悪い人じゃなければ、同じことを僕にされても〝何とも無い〟はずなんだから。

「あ、それ以前に僕は〝悪い人相手〟じゃなきゃ、こんな事しないよ?」

「危ない! うしろじゃ!」

 おじいさんが声を掛けてくれた。
 背後から襲い掛かってきていたのは、短い日本刀みたいな刃物を持ったお兄さん。これって〝ドス〟っていうんでしょ? テレビで見たことあるよ!

「ありがとう! おじいさんも気をつけてね!」

 僕は〝ドスお兄さん〟の攻撃を素早くかわす。
 ……勢い余ったお兄さんのドスは、僕ではなく〝忍者お兄さん〟の腕に突き刺さっちゃった。ああっ、ごめんね?

『いぎゃあああっ! てっ! てめぇ、何しやがる!』

『うわっ! すまん! ガキが急に避けやがるから!』

 うーん。ごめんとは思ったけど〝僕のせい〟って言われると、ちょっとイヤだよ。悪いのは、お兄さんたちだもん。
 でも、痛そうだし、早く抜いてあげなきゃね。僕は〝ドスお兄さん〟のおなかを軽く押した。

『ぐべぇっ?!』

 ドスは〝忍者お兄さん〟から抜けたけど〝ドスお兄さん〟は、おなかを押さえて、うずくまっちゃった。ちょっと強く押しすぎたかな?

『ひいぃぃ? コイツ、やっぱなんかおかしいぞ!』

『や、やめろ、近寄るなっ!!』

 お兄さんたちが、僕の強さに気付き始めたよ。

『あ、そうだ。そろそろ、お話も出来るんじゃないかな? ……お兄さんたち、僕の声、聞こえる?』

 どういう仕組みなのかは知らないけど、動物も、魔物も、外国の人も、ある程度〝精神感応〟で、心の声を聞き続ければ、僕の声を直接相手に届けられるようになるよ。

『な、何だこりゃ?! 頭の中に声が?!』

『この声……お前らも聞こえるのか? どうなってやがる!』

 よーし。これで、この国の人たちとは、会話できるね。

『えっと、投げナイフのお兄さんだけ、まだ痛い思いをしていないよ。不公平だから、先に一発、さばいとかなきゃ』

 僕は〝投げるお兄さん〟に近付いて、ホッペを引っぱたいた。

『あがぺえええッ?!』

 あーあ、ちょっと強すぎたかな? カンフー映画みたいに、くるくる回りながらすっ飛んで、気を失っちゃった。

『ば、ば、バケモンだ!』

『ひぃっ?! ちょ! 押すな、やめろバカ!』

 お兄さんたちは、ガクガクと震えているよ。あまりの怖さに、足がすくんで逃げられないみたい。

『んー、ごめんね。やり過ぎちゃった! 不公平の無いように、他のお兄さんも一人ずつ引っ叩くから、好きな方のホッペを出して?』

 お兄さんたちの悲鳴が、路地に響いたよ。オトナなのに情けないよね。

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