プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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春休み

第233話  番人(上)

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 あらら。七宮さん、気を失っちゃった。〝案内人〟なのにしょうがないなあ。
 ……じゃあ、先に悪魔さんに聞いてみよう。

「えへへ。悪魔さんは、どうするの?」

「ど、どうすルって……俺ヲ殺さないノか?」

 ガクガクと震えながら、悪魔さんはおびえた目で僕を見ている。かわいそうな事しちゃったかな。

「えっとね。悪魔さんが、二度と人間に悪いことしないって約束してくれるなら、何もしないよ?」

「や、約束スる! 絶対ニ、にんゲんに悪さはシなイ!」

 ひざまずき、手を合わせて拝むように僕に頭を下げる悪魔さん。

「それじゃ、約束だよ? えっと、僕との約束は、普通の人のとは、ぜんぜん違うから、気をつけてね?」

「分かッタ! 約束はマもる!」

 僕と〝約束〟したら、気をつけなきゃだよね。だって、バチが当たるんだもん。

「悪魔さん、僕がこの空間を壊すから、それまでどこかに隠れててくれる?」

「こ、壊すノ? ここヲ?! そレは、いくラなんデも無理ダとおもうゾ?」

 ううん。やろうと思えば、今すぐにでもこんな空間、消しちゃえるけど……

「僕はね、吸血鬼の用意したルール通りに、試練を突破してやるんだ。卑怯なやり方よりも、正しいやり方のほうが、強いって事を、教えてあげなきゃね!」

「……そうカ。分かっタ。俺も、モウ、こンなトコろハ嫌ダ。応援スるゾ!」

「えへへー。ありがとう、悪魔さん!」

 それじゃ、今のうちに〝5の箱〟を見ておこうっと。





 >>>





 ……許せない。
 命をかけて、正々堂々と戦った大ちゃんを、あんな卑劣なやり方で罠にかけるなんて。

「ククク。結局、お前ひとりしか、生き残れなかったな!」

 生き残れなかった……だと?
 まだ死んでなんかいない! 絶対に僕が助け出すんだ。
 七宮……! この下衆ゲスには〝試練〟のあとで、しかるべき報いを受けさせてやる。

「おーおー! にらまないでくれよ、おっかないなあ!」

 この男、わざとやっているな?
 七宮は〝案内者〟だ。コイツに危害を加えると、即、負けとなるらしい。たぶん、眷属に触れた時のように、すべてを〝禁止〟されるのだろう。ブルーの話では、僕の〝星の強度〟や〝不眠不休〟では、この〝禁止〟を防げないようだ。

「ついたぞ。ここが最終試練の部屋だ」

 今までの部屋と、同じデザインのドアが2つ。

「お前が右で、私が左だ。中で、お前の対戦相手〝番人〟が待っている。まあ、せいぜい頑張れ」

 そう言って、七宮は左の扉を開け、入っていった。

あるじよ。お待たせしております』

 ……パズズの声だ。
 実は言葉を〝禁止〟されたあと、パズズにはこの〝禁止〟状態の無効化ができないか、調べてもらっていたんだ。

『この〝禁止〟という状態は、複数の呪いを組み合わせ、条件通り動作するように組み立てた物のようです。解析を進めてはおりますが、まだ解除には時間がかかります』

 そうか。ありがとうパズズ、頼んどくよ!

『かしこまりました』

 僕が禁じられてるのは〝ゴーレムを使った会話〟だけなんだけど、吸血鬼に会ったときしゃべれないと、文句も言えないからな。

『タツヤ、この試練、十分に気を付けてほしい。罠が用意されているだろうからね』

 間違いないな。七宮の事だ。きっと卑怯な手で来るに決まっている。
 ……この扉を開けたとたんに、1000匹の〝眷属けんぞく〟が降ってくるとか、普通にありそうだからなあ。
 警戒しつつ、扉を開けて中に入る。無駄に長い廊下を抜けると、七宮の声が聞こえてきた。

「ククク。ようこそ、最終ステージへ!」

 さっきの競技場より、少し狭い広場。
 見上げると、数メートル高くなった観客席には、七宮が憎たらしい笑みを浮かべて座っている。

「がんばれよ、たーっちゃーん! ククク! アハハハハ!」

 アイツのクズ加減、驚くほどブレないな。
 ……まあいいや。あんなのは放っといて、今は目の前の敵に集中しよう。
 黒光りする甲冑に身を包んだ〝番人〟。コイツが僕の対戦相手か。

『タツヤ、あの〝番人〟から、生物の気配がしない 例の首輪を着けている人間のそれに似ている』

 ……という事は、眷属じゃないのか。心配して損した。

『そのようだね。だが、油断は禁物だよ』

 七宮の事だから、触ったら一発アウトの〝眷属〟を対戦相手にするとか、やりかねないと思ったんだけど。

「勝負は、何でもありの決闘だ。制限時間は無し。どちらかが戦えなくなるか、降参を宣言した時点で、勝敗が決まる」

 七宮はルールの説明を始める。

「お前はしゃべれないから、両手をあげてバンザイをすれば降参という事にしてやろう」

 はいはい、それはご親切に、有難うございます。

「あと〝なんでもあり〟とは言ったが、基本的なルールはそのままだ。外部から持ち込んだ道具などは、使った時点でアウトだぞ」

 ……あの番人は、剣を持ってるけど?

「なんだその顔は……不服そうだな? ああ、そうか。分かってると思うが〝番人〟の装備は闘技場の備品だ」

 分かってねぇよ。備品ならいいのかよ、大人って汚いなあ。

「ククク。お前たちが何の集まりなのかは知らんが、お前がリーダーだと聞いていたのでな。最終ステージに残してやったんだ。がんばって仲間を救ってやれよ?」

 ニヤニヤと締まりのない顔だな。言われなくてもそのつもりだ。

「準備はいいな? ……それでは、試合をはじめろ!」

 目の前の〝番人〟は、静かにこちらを見据えている。重厚で物々しい〝まっ黒な鎧〟が、不気味さに拍車を掛けていた。
 ん、何だ? 見た目に似合わない小さな声で、なにか言ってるぞ? 

「……Thel FiR iL」

 魔法か? という事は、中身は悪魔か魔界人だな。

『それにしても、おかしな声だね、タツヤ』

 本当だ。小さすぎて聞こえにくいけど、妙に高い声だな……ヘリウムガスを吸ったような、とても違和感のある声だ。

『タツヤ、火球が来るよ』

 番人の頭上に、火の玉が浮かぶ。
 彩歌の魔法と比べるのは可哀想だけど、見るからにショボいな。
 ……よーし。そっちが魔法で来るなら、こちらも飛び道具だ。〝使役:土〟!

「おいおい、魔法だって? どういう事だ? お前、しゃべれなかったんじゃないのか?!」

 僕の頭上に巨大な岩が現れ、ゴリゴリと圧縮されていく。
 残念ながら、これは魔法じゃないんでね。呪文は要らないんだ。

『タツヤ、その規模だと、建物が壊れてしまうかもしれないよ?』

 ……いや、何より先に、七宮を撃ち抜いてやりたいところなんだけど。

『それはいけない。彼は〝案内者〟だ』

 わかってるさ、冗談だよブルー。〝案内者〟に危害を加えたら、即、ゲームオーバーらしいからな。
 ……残念だけど、あとにしておいてやろう。





 >>>





「う、うう……」

 あ、七宮さんが目を覚ましたみたいだよ。
 ……この人が〝撃ち抜かれて〟ないという事は、あの後、たっちゃんは負けちゃうんだよね。続きがすっごく気になるよ。

「な、何だ? 私は……いったい?」

 ボーっとした顔で、辺りを見回す七宮さん。
 あまりの出来事に、記憶が飛んじゃってるのかな。

「ナナみヤ、気がツいたノか」

「ん……あ、ああ。悪魔か…って、おいおい! なんで競技場から外に出て来てるんだ? 吸血鬼に知られたら、ヤバいだろ?」

 ……やっぱり混乱してるよ。競技場なんか、もう跡形もないのにね。

「おマエ、大ジョウぶカ?」

「……ん? えーと? ……私は何をしていたんだ?」

 あーあ。これはちょっと重症だよね。
 〝箱〟の続きも気になるし、ほっといて、最後まで見ようっと。

「悪魔さん、一分ぐらいで終わるから、待っててね?」

「なンか知ラんが、分かったゾ」

 悪魔さんが七宮さんを見ててくれるから安心だよ!
 それじゃ、続きを……あれ? ちょっと巻き戻っちゃうんだ。えへへ。テレビ番組のCM明けみたいで、面白いなあ。





 >>>





『それはいけない。彼は〝案内者〟だ』

 冗談だよブルー、わかってるさ。〝案内者〟に危害を加えたら、即、ゲームオーバーらしいからな。
 ……残念だけど、あとにしておいてやろう。

「……オマエラ……イッタイナンナンダ?」

 つぶやくような、不自然に甲高かんだかい声が聞こえてくる。
 直後、番人の頭上にあった火球が、僕に向けて放たれた。当たっても平気だけど、相殺しとくかな。
 圧縮した岩を、飛んできた火球めがけて撃ち出す。
 見事に命中して、火球をかき消した岩は、その軌道のまま、番人の肩をかすめて、はるか向こうの壁に大きな穴を空けた。

「ナンダトオォォ?!」

 悲鳴のような声をあげる番人。
 危ない……! もうちょっと右だったら、アイツの頭、無くなっちゃってたよ。あの〝番人〟には、さすがにそこまでするつもりはない。七宮には……フフフ。この後のお楽しみだ。

「……ッ! 殺シテヤル……! ……殺シテ……ヤルゾ!」

 ボソボソと、怒りに満ちた声が聞こえてくる。
 怒った時ぐらい、もっと大きな声を出せばいいのにな。

「HuLex UmThel FiR iL」

 お、マジか? なかなかやるな!
 ……番人の頭上に、火球が同時に2つ浮かんでいる。あれは高度な技だって、彩歌が言ってたよな。

「ククク。さあどうする? 今度は防ぎ切れんぞ……な、なにぃぃぃ?!」

 周囲に、とりあえず10個の大岩を浮かべてみた。ちょっと作りすぎたかな。

「ど、どうなってるんだ、その数! それに、お前やっぱり、さっきから詠唱もしてないよな?」

 当たり前だろ。喋れないんだから。
 さてさて。それじゃそろそろ、決着をつけさせてもらおうかな。
 ゴリゴリと圧縮されていく岩を見て、後ずさる番人。心配しなくても当てないよ。
 小石サイズにまで圧縮された10個の岩を撃ち出した。
 番人の足元に着弾した岩が、大量の土埃つちぼこりをに巻き上げる。それに紛れて素早く接近する僕。
 ……ヤツが当てずっぽうで放った火球の一つが目の前に現れたので、頭突きで消し飛ばし、拳を振りかぶった。くらえ! アース・インパクト! ……超・手加減バージョン!

「ぐふぅ!」

 極限まで手加減した〝ただのパンチ〟は、ヤツの腹部に命中した。
 片膝をつき、肩で息をする番人。

「な、何だ? どうなったんだ」

 よし、七宮には見えなかったみたいだな。余計な小細工をさせないために、わざわざほこりで隠したんだ。
 番人の鎧には亀裂が入り、兜の隙間から、血がしたたる。
 ちょっとやり過ぎたけど、勝負あったな。さすがにその怪我では、動けないだろ。

「ククク……」

 ん……? 七宮の笑い声?

「ククク……ククク……」

 アイツ、何がおかしいんだ?
 ……っていうか、この笑い声、おかしくないか?

「ククク。どこを見ている?」

 客席の七宮は、ニヤニヤとこちらを見ている。
 けど、今のセリフも、どこか変だ。

「私はここだぞ?」

 そ、そんな……バカな! 口が……口が動いていない!
 この声……明らかに、別の方向から聞こえてくる。

「ククク。やってしまったなあ、たっちゃあぁぁん?」

 間違いない。この声は!  
 ユラリと立ち上がった声の主……番人が、兜をゆっくりと外す。

「そ、そんな……!」

 番人の兜の下から、気持ち悪いニヤけ顔が現れた。
 それはなんと、口もとを血で汚した、七宮だった。

「ずいぶんと驚いたような顔だが?」

 ……突然、今まで味わった事がないような倦怠感が襲ってきた。体中の力が、みるみる抜けていく。何だ? いったい何が起こったんだ? コイツが七宮なら、客席に居る、アレはいったい?

「あっちの七宮は私の代理だ。〝魔法が使えない〟のが難点だが、私の〝三分の一〟程度の仕事はこなしてくれるよ」

 ……しまった! 〝分身魔法〟か?!

「ククク……それにしても〝案内者〟に危害を加えるなんて、おまえは困った乱暴者だなぁ、ん? おっと、私を攻撃しても無駄だぞ?」

 僕は最後の力を振りしぼって、七宮を殴ろうとするが……おかしい。確かに手応えはあるのに、ヤツはダメージを受けない。

『……いや、タツヤ。ダメージは与えている。恐ろしい速度で回復しているんだ』

「ククク、やめてくれよ。痛いだろう?」

 何だよそれ。やっぱり、まともにやり合うつもりなんか無いんじゃないか!

「ククク。この部屋は、万が一、ここまでの〝試練〟を突破してきた者が2人以上いた場合のために〝番人〟のダメージを自動的に回復するようにできている。捨て身の攻撃でノックアウトされたら〝最終試練〟に、突破者が出てしまうからな」

 言い替えれば、万に一人も、突破させるつもりは無いって事だよな。
 なんて事だ……マズいぞ。どんどん力が抜けていく!

「ククク。色々と手を焼かされたが、これで終わりだなぁ?」

 七宮は、僕の髪の毛をつかんで、自分の顔を近づける。
 もう、ブルーのエネルギーが伝わらなくなっているのか……〝星の強度〟は効いていないみたいだ。

「私はもうすぐ、ここを出ていく……もう二度と会う事は無いだろう」

 ここを……出ていく?

「その頃には、お前らはもう〝眷属〟だろうからな! あーっはっはっは!」

 ちくしょう…………ちくしょう!
 ごめんよみんな。結局、助けられなかった……!

「タツヤ、すまない。私も、もうすぐ活動を止められてしまう」

 そう、か。やっぱりブルーも禁じられるのか。
 ダメだ、意識が遠のく。ああ、もう……だめ……

「……タツヤ。カズヤだ。この空間に、カズヤが入ってきた」

 栗っ……ち? そう……か!

「私の能力も、かなり低下している。少し困難なのだが、なんとか今の状況を伝えてみよう」

 ブルー、た、頼んだ……ぞ……
 栗っち……なら。栗っち……の、ちから、な……ら……

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