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春休み
第233話 番人(上)
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あらら。七宮さん、気を失っちゃった。〝案内人〟なのにしょうがないなあ。
……じゃあ、先に悪魔さんに聞いてみよう。
「えへへ。悪魔さんは、どうするの?」
「ど、どうすルって……俺ヲ殺さないノか?」
ガクガクと震えながら、悪魔さんは怯えた目で僕を見ている。かわいそうな事しちゃったかな。
「えっとね。悪魔さんが、二度と人間に悪いことしないって約束してくれるなら、何もしないよ?」
「や、約束スる! 絶対ニ、にんゲんに悪さはシなイ!」
ひざまずき、手を合わせて拝むように僕に頭を下げる悪魔さん。
「それじゃ、約束だよ? えっと、僕との約束は、普通の人のとは、ぜんぜん違うから、気をつけてね?」
「分かッタ! 約束はマもる!」
僕と〝約束〟したら、気をつけなきゃだよね。だって、バチが当たるんだもん。
「悪魔さん、僕がこの空間を壊すから、それまでどこかに隠れててくれる?」
「こ、壊すノ? ここヲ?! そレは、いくラなんデも無理ダとおもうゾ?」
ううん。やろうと思えば、今すぐにでもこんな空間、消しちゃえるけど……
「僕はね、吸血鬼の用意したルール通りに、試練を突破してやるんだ。卑怯なやり方よりも、正しいやり方のほうが、強いって事を、教えてあげなきゃね!」
「……そうカ。分かっタ。俺も、モウ、こンなトコろハ嫌ダ。応援スるゾ!」
「えへへー。ありがとう、悪魔さん!」
それじゃ、今のうちに〝5の箱〟を見ておこうっと。
>>>
……許せない。
命をかけて、正々堂々と戦った大ちゃんを、あんな卑劣なやり方で罠にかけるなんて。
「ククク。結局、お前ひとりしか、生き残れなかったな!」
生き残れなかった……だと?
まだ死んでなんかいない! 絶対に僕が助け出すんだ。
七宮……! この下衆には〝試練〟のあとで、しかるべき報いを受けさせてやる。
「おーおー! 睨まないでくれよ、おっかないなあ!」
この男、わざとやっているな?
七宮は〝案内者〟だ。コイツに危害を加えると、即、負けとなるらしい。たぶん、眷属に触れた時のように、すべてを〝禁止〟されるのだろう。ブルーの話では、僕の〝星の強度〟や〝不眠不休〟では、この〝禁止〟を防げないようだ。
「ついたぞ。ここが最終試練の部屋だ」
今までの部屋と、同じデザインのドアが2つ。
「お前が右で、私が左だ。中で、お前の対戦相手〝番人〟が待っている。まあ、せいぜい頑張れ」
そう言って、七宮は左の扉を開け、入っていった。
『主よ。お待たせしております』
……パズズの声だ。
実は言葉を〝禁止〟されたあと、パズズにはこの〝禁止〟状態の無効化ができないか、調べてもらっていたんだ。
『この〝禁止〟という状態は、複数の呪いを組み合わせ、条件通り動作するように組み立てた物のようです。解析を進めてはおりますが、まだ解除には時間がかかります』
そうか。ありがとうパズズ、頼んどくよ!
『かしこまりました』
僕が禁じられてるのは〝ゴーレムを使った会話〟だけなんだけど、吸血鬼に会ったとき喋れないと、文句も言えないからな。
『タツヤ、この試練、十分に気を付けてほしい。罠が用意されているだろうからね』
間違いないな。七宮の事だ。きっと卑怯な手で来るに決まっている。
……この扉を開けたとたんに、1000匹の〝眷属〟が降ってくるとか、普通にありそうだからなあ。
警戒しつつ、扉を開けて中に入る。無駄に長い廊下を抜けると、七宮の声が聞こえてきた。
「ククク。ようこそ、最終ステージへ!」
さっきの競技場より、少し狭い広場。
見上げると、数メートル高くなった観客席には、七宮が憎たらしい笑みを浮かべて座っている。
「がんばれよ、たーっちゃーん! ククク! アハハハハ!」
アイツのクズ加減、驚くほどブレないな。
……まあいいや。あんなのは放っといて、今は目の前の敵に集中しよう。
黒光りする甲冑に身を包んだ〝番人〟。コイツが僕の対戦相手か。
『タツヤ、あの〝番人〟から、生物の気配がしない 例の首輪を着けている人間のそれに似ている』
……という事は、眷属じゃないのか。心配して損した。
『そのようだね。だが、油断は禁物だよ』
七宮の事だから、触ったら一発アウトの〝眷属〟を対戦相手にするとか、やりかねないと思ったんだけど。
「勝負は、何でもありの決闘だ。制限時間は無し。どちらかが戦えなくなるか、降参を宣言した時点で、勝敗が決まる」
七宮はルールの説明を始める。
「お前は喋れないから、両手をあげてバンザイをすれば降参という事にしてやろう」
はいはい、それはご親切に、有難うございます。
「あと〝なんでもあり〟とは言ったが、基本的なルールはそのままだ。外部から持ち込んだ道具などは、使った時点でアウトだぞ」
……あの番人は、剣を持ってるけど?
「なんだその顔は……不服そうだな? ああ、そうか。分かってると思うが〝番人〟の装備は闘技場の備品だ」
分かってねぇよ。備品ならいいのかよ、大人って汚いなあ。
「ククク。お前たちが何の集まりなのかは知らんが、お前がリーダーだと聞いていたのでな。最終ステージに残してやったんだ。がんばって仲間を救ってやれよ?」
ニヤニヤと締まりのない顔だな。言われなくてもそのつもりだ。
「準備はいいな? ……それでは、試合をはじめろ!」
目の前の〝番人〟は、静かにこちらを見据えている。重厚で物々しい〝まっ黒な鎧〟が、不気味さに拍車を掛けていた。
ん、何だ? 見た目に似合わない小さな声で、なにか言ってるぞ?
「……Thel FiR iL」
魔法か? という事は、中身は悪魔か魔界人だな。
『それにしても、おかしな声だね、タツヤ』
本当だ。小さすぎて聞こえにくいけど、妙に高い声だな……ヘリウムガスを吸ったような、とても違和感のある声だ。
『タツヤ、火球が来るよ』
番人の頭上に、火の玉が浮かぶ。
彩歌の魔法と比べるのは可哀想だけど、見るからにショボいな。
……よーし。そっちが魔法で来るなら、こちらも飛び道具だ。〝使役:土〟!
「おいおい、魔法だって? どういう事だ? お前、喋れなかったんじゃないのか?!」
僕の頭上に巨大な岩が現れ、ゴリゴリと圧縮されていく。
残念ながら、これは魔法じゃないんでね。呪文は要らないんだ。
『タツヤ、その規模だと、建物が壊れてしまうかもしれないよ?』
……いや、何より先に、七宮を撃ち抜いてやりたいところなんだけど。
『それはいけない。彼は〝案内者〟だ』
わかってるさ、冗談だよブルー。〝案内者〟に危害を加えたら、即、ゲームオーバーらしいからな。
……残念だけど、あとにしておいてやろう。
>>>
「う、うう……」
あ、七宮さんが目を覚ましたみたいだよ。
……この人が〝撃ち抜かれて〟ないという事は、あの後、たっちゃんは負けちゃうんだよね。続きがすっごく気になるよ。
「な、何だ? 私は……いったい?」
ボーっとした顔で、辺りを見回す七宮さん。
あまりの出来事に、記憶が飛んじゃってるのかな。
「ナナみヤ、気がツいたノか」
「ん……あ、ああ。悪魔か…って、おいおい! なんで競技場から外に出て来てるんだ? 吸血鬼に知られたら、ヤバいだろ?」
……やっぱり混乱してるよ。競技場なんか、もう跡形もないのにね。
「おマエ、大ジョウぶカ?」
「……ん? えーと? ……私は何をしていたんだ?」
あーあ。これはちょっと重症だよね。
〝箱〟の続きも気になるし、ほっといて、最後まで見ようっと。
「悪魔さん、一分ぐらいで終わるから、待っててね?」
「なンか知ラんが、分かったゾ」
悪魔さんが七宮さんを見ててくれるから安心だよ!
それじゃ、続きを……あれ? ちょっと巻き戻っちゃうんだ。えへへ。テレビ番組のCM明けみたいで、面白いなあ。
>>>
『それはいけない。彼は〝案内者〟だ』
冗談だよブルー、わかってるさ。〝案内者〟に危害を加えたら、即、ゲームオーバーらしいからな。
……残念だけど、あとにしておいてやろう。
「……オマエラ……イッタイナンナンダ?」
呟くような、不自然に甲高い声が聞こえてくる。
直後、番人の頭上にあった火球が、僕に向けて放たれた。当たっても平気だけど、相殺しとくかな。
圧縮した岩を、飛んできた火球めがけて撃ち出す。
見事に命中して、火球をかき消した岩は、その軌道のまま、番人の肩をかすめて、はるか向こうの壁に大きな穴を空けた。
「ナンダトオォォ?!」
悲鳴のような声をあげる番人。
危ない……! もうちょっと右だったら、アイツの頭、無くなっちゃってたよ。あの〝番人〟には、さすがにそこまでするつもりはない。七宮には……フフフ。この後のお楽しみだ。
「……ッ! 殺シテヤル……! ……殺シテ……ヤルゾ!」
ボソボソと、怒りに満ちた声が聞こえてくる。
怒った時ぐらい、もっと大きな声を出せばいいのにな。
「HuLex UmThel FiR iL」
お、マジか? なかなかやるな!
……番人の頭上に、火球が同時に2つ浮かんでいる。あれは高度な技だって、彩歌が言ってたよな。
「ククク。さあどうする? 今度は防ぎ切れんぞ……な、なにぃぃぃ?!」
周囲に、とりあえず10個の大岩を浮かべてみた。ちょっと作りすぎたかな。
「ど、どうなってるんだ、その数! それに、お前やっぱり、さっきから詠唱もしてないよな?」
当たり前だろ。喋れないんだから。
さてさて。それじゃそろそろ、決着をつけさせてもらおうかな。
ゴリゴリと圧縮されていく岩を見て、後ずさる番人。心配しなくても当てないよ。
小石サイズにまで圧縮された10個の岩を撃ち出した。
番人の足元に着弾した岩が、大量の土埃をに巻き上げる。それに紛れて素早く接近する僕。
……ヤツが当てずっぽうで放った火球の一つが目の前に現れたので、頭突きで消し飛ばし、拳を振りかぶった。くらえ! アース・インパクト! ……超・手加減バージョン!
「ぐふぅ!」
極限まで手加減した〝ただのパンチ〟は、ヤツの腹部に命中した。
片膝をつき、肩で息をする番人。
「な、何だ? どうなったんだ」
よし、七宮には見えなかったみたいだな。余計な小細工をさせないために、わざわざ埃で隠したんだ。
番人の鎧には亀裂が入り、兜の隙間から、血がしたたる。
ちょっとやり過ぎたけど、勝負あったな。さすがにその怪我では、動けないだろ。
「ククク……」
ん……? 七宮の笑い声?
「ククク……ククク……」
アイツ、何がおかしいんだ?
……っていうか、この笑い声、おかしくないか?
「ククク。どこを見ている?」
客席の七宮は、ニヤニヤとこちらを見ている。
けど、今のセリフも、どこか変だ。
「私はここだぞ?」
そ、そんな……バカな! 口が……口が動いていない!
この声……明らかに、別の方向から聞こえてくる。
「ククク。やってしまったなあ、たっちゃあぁぁん?」
間違いない。この声は!
ユラリと立ち上がった声の主……番人が、兜をゆっくりと外す。
「そ、そんな……!」
番人の兜の下から、気持ち悪いニヤけ顔が現れた。
それはなんと、口もとを血で汚した、七宮だった。
「ずいぶんと驚いたような顔だが?」
……突然、今まで味わった事がないような倦怠感が襲ってきた。体中の力が、みるみる抜けていく。何だ? いったい何が起こったんだ? コイツが七宮なら、客席に居る、アレはいったい?
「あっちの七宮は私の代理だ。〝魔法が使えない〟のが難点だが、私の〝三分の一〟程度の仕事はこなしてくれるよ」
……しまった! 〝分身魔法〟か?!
「ククク……それにしても〝案内者〟に危害を加えるなんて、おまえは困った乱暴者だなぁ、ん? おっと、私を攻撃しても無駄だぞ?」
僕は最後の力を振りしぼって、七宮を殴ろうとするが……おかしい。確かに手応えはあるのに、ヤツはダメージを受けない。
『……いや、タツヤ。ダメージは与えている。恐ろしい速度で回復しているんだ』
「ククク、やめてくれよ。痛いだろう?」
何だよそれ。やっぱり、まともにやり合うつもりなんか無いんじゃないか!
「ククク。この部屋は、万が一、ここまでの〝試練〟を突破してきた者が2人以上いた場合のために〝番人〟のダメージを自動的に回復するようにできている。捨て身の攻撃でノックアウトされたら〝最終試練〟に、突破者が出てしまうからな」
言い替えれば、万に一人も、突破させるつもりは無いって事だよな。
なんて事だ……マズいぞ。どんどん力が抜けていく!
「ククク。色々と手を焼かされたが、これで終わりだなぁ?」
七宮は、僕の髪の毛を掴んで、自分の顔を近づける。
もう、ブルーのエネルギーが伝わらなくなっているのか……〝星の強度〟は効いていないみたいだ。
「私はもうすぐ、ここを出ていく……もう二度と会う事は無いだろう」
ここを……出ていく?
「その頃には、お前らはもう〝眷属〟だろうからな! あーっはっはっは!」
ちくしょう…………ちくしょう!
ごめんよみんな。結局、助けられなかった……!
「タツヤ、すまない。私も、もうすぐ活動を止められてしまう」
そう、か。やっぱりブルーも禁じられるのか。
ダメだ、意識が遠のく。ああ、もう……だめ……
「……タツヤ。カズヤだ。この空間に、カズヤが入ってきた」
栗っ……ち? そう……か!
「私の能力も、かなり低下している。少し困難なのだが、なんとか今の状況を伝えてみよう」
ブルー、た、頼んだ……ぞ……
栗っち……なら。栗っち……の、ちから、な……ら……
……じゃあ、先に悪魔さんに聞いてみよう。
「えへへ。悪魔さんは、どうするの?」
「ど、どうすルって……俺ヲ殺さないノか?」
ガクガクと震えながら、悪魔さんは怯えた目で僕を見ている。かわいそうな事しちゃったかな。
「えっとね。悪魔さんが、二度と人間に悪いことしないって約束してくれるなら、何もしないよ?」
「や、約束スる! 絶対ニ、にんゲんに悪さはシなイ!」
ひざまずき、手を合わせて拝むように僕に頭を下げる悪魔さん。
「それじゃ、約束だよ? えっと、僕との約束は、普通の人のとは、ぜんぜん違うから、気をつけてね?」
「分かッタ! 約束はマもる!」
僕と〝約束〟したら、気をつけなきゃだよね。だって、バチが当たるんだもん。
「悪魔さん、僕がこの空間を壊すから、それまでどこかに隠れててくれる?」
「こ、壊すノ? ここヲ?! そレは、いくラなんデも無理ダとおもうゾ?」
ううん。やろうと思えば、今すぐにでもこんな空間、消しちゃえるけど……
「僕はね、吸血鬼の用意したルール通りに、試練を突破してやるんだ。卑怯なやり方よりも、正しいやり方のほうが、強いって事を、教えてあげなきゃね!」
「……そうカ。分かっタ。俺も、モウ、こンなトコろハ嫌ダ。応援スるゾ!」
「えへへー。ありがとう、悪魔さん!」
それじゃ、今のうちに〝5の箱〟を見ておこうっと。
>>>
……許せない。
命をかけて、正々堂々と戦った大ちゃんを、あんな卑劣なやり方で罠にかけるなんて。
「ククク。結局、お前ひとりしか、生き残れなかったな!」
生き残れなかった……だと?
まだ死んでなんかいない! 絶対に僕が助け出すんだ。
七宮……! この下衆には〝試練〟のあとで、しかるべき報いを受けさせてやる。
「おーおー! 睨まないでくれよ、おっかないなあ!」
この男、わざとやっているな?
七宮は〝案内者〟だ。コイツに危害を加えると、即、負けとなるらしい。たぶん、眷属に触れた時のように、すべてを〝禁止〟されるのだろう。ブルーの話では、僕の〝星の強度〟や〝不眠不休〟では、この〝禁止〟を防げないようだ。
「ついたぞ。ここが最終試練の部屋だ」
今までの部屋と、同じデザインのドアが2つ。
「お前が右で、私が左だ。中で、お前の対戦相手〝番人〟が待っている。まあ、せいぜい頑張れ」
そう言って、七宮は左の扉を開け、入っていった。
『主よ。お待たせしております』
……パズズの声だ。
実は言葉を〝禁止〟されたあと、パズズにはこの〝禁止〟状態の無効化ができないか、調べてもらっていたんだ。
『この〝禁止〟という状態は、複数の呪いを組み合わせ、条件通り動作するように組み立てた物のようです。解析を進めてはおりますが、まだ解除には時間がかかります』
そうか。ありがとうパズズ、頼んどくよ!
『かしこまりました』
僕が禁じられてるのは〝ゴーレムを使った会話〟だけなんだけど、吸血鬼に会ったとき喋れないと、文句も言えないからな。
『タツヤ、この試練、十分に気を付けてほしい。罠が用意されているだろうからね』
間違いないな。七宮の事だ。きっと卑怯な手で来るに決まっている。
……この扉を開けたとたんに、1000匹の〝眷属〟が降ってくるとか、普通にありそうだからなあ。
警戒しつつ、扉を開けて中に入る。無駄に長い廊下を抜けると、七宮の声が聞こえてきた。
「ククク。ようこそ、最終ステージへ!」
さっきの競技場より、少し狭い広場。
見上げると、数メートル高くなった観客席には、七宮が憎たらしい笑みを浮かべて座っている。
「がんばれよ、たーっちゃーん! ククク! アハハハハ!」
アイツのクズ加減、驚くほどブレないな。
……まあいいや。あんなのは放っといて、今は目の前の敵に集中しよう。
黒光りする甲冑に身を包んだ〝番人〟。コイツが僕の対戦相手か。
『タツヤ、あの〝番人〟から、生物の気配がしない 例の首輪を着けている人間のそれに似ている』
……という事は、眷属じゃないのか。心配して損した。
『そのようだね。だが、油断は禁物だよ』
七宮の事だから、触ったら一発アウトの〝眷属〟を対戦相手にするとか、やりかねないと思ったんだけど。
「勝負は、何でもありの決闘だ。制限時間は無し。どちらかが戦えなくなるか、降参を宣言した時点で、勝敗が決まる」
七宮はルールの説明を始める。
「お前は喋れないから、両手をあげてバンザイをすれば降参という事にしてやろう」
はいはい、それはご親切に、有難うございます。
「あと〝なんでもあり〟とは言ったが、基本的なルールはそのままだ。外部から持ち込んだ道具などは、使った時点でアウトだぞ」
……あの番人は、剣を持ってるけど?
「なんだその顔は……不服そうだな? ああ、そうか。分かってると思うが〝番人〟の装備は闘技場の備品だ」
分かってねぇよ。備品ならいいのかよ、大人って汚いなあ。
「ククク。お前たちが何の集まりなのかは知らんが、お前がリーダーだと聞いていたのでな。最終ステージに残してやったんだ。がんばって仲間を救ってやれよ?」
ニヤニヤと締まりのない顔だな。言われなくてもそのつもりだ。
「準備はいいな? ……それでは、試合をはじめろ!」
目の前の〝番人〟は、静かにこちらを見据えている。重厚で物々しい〝まっ黒な鎧〟が、不気味さに拍車を掛けていた。
ん、何だ? 見た目に似合わない小さな声で、なにか言ってるぞ?
「……Thel FiR iL」
魔法か? という事は、中身は悪魔か魔界人だな。
『それにしても、おかしな声だね、タツヤ』
本当だ。小さすぎて聞こえにくいけど、妙に高い声だな……ヘリウムガスを吸ったような、とても違和感のある声だ。
『タツヤ、火球が来るよ』
番人の頭上に、火の玉が浮かぶ。
彩歌の魔法と比べるのは可哀想だけど、見るからにショボいな。
……よーし。そっちが魔法で来るなら、こちらも飛び道具だ。〝使役:土〟!
「おいおい、魔法だって? どういう事だ? お前、喋れなかったんじゃないのか?!」
僕の頭上に巨大な岩が現れ、ゴリゴリと圧縮されていく。
残念ながら、これは魔法じゃないんでね。呪文は要らないんだ。
『タツヤ、その規模だと、建物が壊れてしまうかもしれないよ?』
……いや、何より先に、七宮を撃ち抜いてやりたいところなんだけど。
『それはいけない。彼は〝案内者〟だ』
わかってるさ、冗談だよブルー。〝案内者〟に危害を加えたら、即、ゲームオーバーらしいからな。
……残念だけど、あとにしておいてやろう。
>>>
「う、うう……」
あ、七宮さんが目を覚ましたみたいだよ。
……この人が〝撃ち抜かれて〟ないという事は、あの後、たっちゃんは負けちゃうんだよね。続きがすっごく気になるよ。
「な、何だ? 私は……いったい?」
ボーっとした顔で、辺りを見回す七宮さん。
あまりの出来事に、記憶が飛んじゃってるのかな。
「ナナみヤ、気がツいたノか」
「ん……あ、ああ。悪魔か…って、おいおい! なんで競技場から外に出て来てるんだ? 吸血鬼に知られたら、ヤバいだろ?」
……やっぱり混乱してるよ。競技場なんか、もう跡形もないのにね。
「おマエ、大ジョウぶカ?」
「……ん? えーと? ……私は何をしていたんだ?」
あーあ。これはちょっと重症だよね。
〝箱〟の続きも気になるし、ほっといて、最後まで見ようっと。
「悪魔さん、一分ぐらいで終わるから、待っててね?」
「なンか知ラんが、分かったゾ」
悪魔さんが七宮さんを見ててくれるから安心だよ!
それじゃ、続きを……あれ? ちょっと巻き戻っちゃうんだ。えへへ。テレビ番組のCM明けみたいで、面白いなあ。
>>>
『それはいけない。彼は〝案内者〟だ』
冗談だよブルー、わかってるさ。〝案内者〟に危害を加えたら、即、ゲームオーバーらしいからな。
……残念だけど、あとにしておいてやろう。
「……オマエラ……イッタイナンナンダ?」
呟くような、不自然に甲高い声が聞こえてくる。
直後、番人の頭上にあった火球が、僕に向けて放たれた。当たっても平気だけど、相殺しとくかな。
圧縮した岩を、飛んできた火球めがけて撃ち出す。
見事に命中して、火球をかき消した岩は、その軌道のまま、番人の肩をかすめて、はるか向こうの壁に大きな穴を空けた。
「ナンダトオォォ?!」
悲鳴のような声をあげる番人。
危ない……! もうちょっと右だったら、アイツの頭、無くなっちゃってたよ。あの〝番人〟には、さすがにそこまでするつもりはない。七宮には……フフフ。この後のお楽しみだ。
「……ッ! 殺シテヤル……! ……殺シテ……ヤルゾ!」
ボソボソと、怒りに満ちた声が聞こえてくる。
怒った時ぐらい、もっと大きな声を出せばいいのにな。
「HuLex UmThel FiR iL」
お、マジか? なかなかやるな!
……番人の頭上に、火球が同時に2つ浮かんでいる。あれは高度な技だって、彩歌が言ってたよな。
「ククク。さあどうする? 今度は防ぎ切れんぞ……な、なにぃぃぃ?!」
周囲に、とりあえず10個の大岩を浮かべてみた。ちょっと作りすぎたかな。
「ど、どうなってるんだ、その数! それに、お前やっぱり、さっきから詠唱もしてないよな?」
当たり前だろ。喋れないんだから。
さてさて。それじゃそろそろ、決着をつけさせてもらおうかな。
ゴリゴリと圧縮されていく岩を見て、後ずさる番人。心配しなくても当てないよ。
小石サイズにまで圧縮された10個の岩を撃ち出した。
番人の足元に着弾した岩が、大量の土埃をに巻き上げる。それに紛れて素早く接近する僕。
……ヤツが当てずっぽうで放った火球の一つが目の前に現れたので、頭突きで消し飛ばし、拳を振りかぶった。くらえ! アース・インパクト! ……超・手加減バージョン!
「ぐふぅ!」
極限まで手加減した〝ただのパンチ〟は、ヤツの腹部に命中した。
片膝をつき、肩で息をする番人。
「な、何だ? どうなったんだ」
よし、七宮には見えなかったみたいだな。余計な小細工をさせないために、わざわざ埃で隠したんだ。
番人の鎧には亀裂が入り、兜の隙間から、血がしたたる。
ちょっとやり過ぎたけど、勝負あったな。さすがにその怪我では、動けないだろ。
「ククク……」
ん……? 七宮の笑い声?
「ククク……ククク……」
アイツ、何がおかしいんだ?
……っていうか、この笑い声、おかしくないか?
「ククク。どこを見ている?」
客席の七宮は、ニヤニヤとこちらを見ている。
けど、今のセリフも、どこか変だ。
「私はここだぞ?」
そ、そんな……バカな! 口が……口が動いていない!
この声……明らかに、別の方向から聞こえてくる。
「ククク。やってしまったなあ、たっちゃあぁぁん?」
間違いない。この声は!
ユラリと立ち上がった声の主……番人が、兜をゆっくりと外す。
「そ、そんな……!」
番人の兜の下から、気持ち悪いニヤけ顔が現れた。
それはなんと、口もとを血で汚した、七宮だった。
「ずいぶんと驚いたような顔だが?」
……突然、今まで味わった事がないような倦怠感が襲ってきた。体中の力が、みるみる抜けていく。何だ? いったい何が起こったんだ? コイツが七宮なら、客席に居る、アレはいったい?
「あっちの七宮は私の代理だ。〝魔法が使えない〟のが難点だが、私の〝三分の一〟程度の仕事はこなしてくれるよ」
……しまった! 〝分身魔法〟か?!
「ククク……それにしても〝案内者〟に危害を加えるなんて、おまえは困った乱暴者だなぁ、ん? おっと、私を攻撃しても無駄だぞ?」
僕は最後の力を振りしぼって、七宮を殴ろうとするが……おかしい。確かに手応えはあるのに、ヤツはダメージを受けない。
『……いや、タツヤ。ダメージは与えている。恐ろしい速度で回復しているんだ』
「ククク、やめてくれよ。痛いだろう?」
何だよそれ。やっぱり、まともにやり合うつもりなんか無いんじゃないか!
「ククク。この部屋は、万が一、ここまでの〝試練〟を突破してきた者が2人以上いた場合のために〝番人〟のダメージを自動的に回復するようにできている。捨て身の攻撃でノックアウトされたら〝最終試練〟に、突破者が出てしまうからな」
言い替えれば、万に一人も、突破させるつもりは無いって事だよな。
なんて事だ……マズいぞ。どんどん力が抜けていく!
「ククク。色々と手を焼かされたが、これで終わりだなぁ?」
七宮は、僕の髪の毛を掴んで、自分の顔を近づける。
もう、ブルーのエネルギーが伝わらなくなっているのか……〝星の強度〟は効いていないみたいだ。
「私はもうすぐ、ここを出ていく……もう二度と会う事は無いだろう」
ここを……出ていく?
「その頃には、お前らはもう〝眷属〟だろうからな! あーっはっはっは!」
ちくしょう…………ちくしょう!
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「タツヤ、すまない。私も、もうすぐ活動を止められてしまう」
そう、か。やっぱりブルーも禁じられるのか。
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しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
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ユーゴ・タカトー。
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彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
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戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
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