プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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春休み

鬼ごっこ(下)

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 謎解きの試練が終わり、眷属けんぞくじいさんは、目の前で消えてしまった。
 あんなの見たことないぞ?

「何だありゃ……!」

 それと、あのガキ、さっきから目をつぶって何やってんだ? まさか寝てねえだろうな。

「ううん。起きてるよ。えっと、おじいさんはね、僕の答えに満足して、逝っちゃった!」

「行ったって、どこへだよ? まったくしょうがない爺さんだな……!」

 まあ、もともと変わり者だ。あんな消え方も、あるかもしれないか。

「えへへ。七宮さんって、たっちゃんの言ってたとおり〝つかえない系〟だよね!」

「ん? なんだって?」

「ううん、なんでもないよ?」

 しかし、このガキ、まさか一人で、ここまで勝ち進むとはな。

「七宮さん、4の箱も見たし、僕は準備オッケーだよ。競技場に行くんだよね?」

「ん? ああ、行くぞ」

 ……何の箱が、どうしたって?





 >>>





 4つ目の〝試練〟は、鬼ごっこ。この競技場に案内された挑戦者は、あまりのデカさに、まず腰を抜かす。
 ……あれ、何だ? なんか引っかかるな。

「えへへ。みんなは気づいてると思うけど、ここへ来るまでに、僕が〝競技場〟って言っちゃってるのが、ツッコミどころだよ?」

 ……なんか、ボソボソ言ってるな、アイツ。
 ていうか、遠すぎて聞こえないんだよ! 早くイヤホンに音をくれ。

「ふーん? イヤホンなんか着けてたんだ」

「うわっ! ビックリした! このポンコツイヤホンめ。急に音を拾いやがって……ん? なんであのガキ、イヤホンの事……」

「そんな事より、ほら〝眷属〟さんたちが入ってきたよ?」

 おっと、もう来やがったか。まあ、さっき解散したばっかだから、集まるのも早いんだろうな。
 って、なんでお前、そんなに落ち着いてるんだ? 観客席が〝眷属〟でいっぱいになったら、まず驚くだろ?

「えへへ」

 ふん、おかしなヤツだ。
 ……お、悪魔が入ってきたぞ。

「ギギッ! オいオい、またしてもガキじゃネーかヨ!」

「えへへー。僕がおいしそうで集中できない?」

 悪魔に向けて、満面の笑みで語りかけるガキ。
 ……チッ! なんであんなに余裕があるんだ?

「……? 妙なガキだナ。そいじャ、いくゾ」

 悪魔は、どこからともなく取り出した水晶玉を、ガキに向けて……

「あ、ストップ! 〝チャールヴィの目〟を使うの、ちょっと待って!」

 うぉい! このタイミングで止めるって、どういう神経してんだ?
 ……まだ魔道具の説明、してなかったよな?
 なんであのガキ、魔道具の名前、知ってるんだ?

「その〝チャールヴィの目〟は、僕が〝生まれてから今まで〟に出会った、一番すばやい生き物に変身できるんだよね?」

「あァ、その通りダ。〝記憶〟ジゃないゾ? お前ノたマしいに刻まれている〝記録〟ダ。魔法デ忘れタりしてモ、ムダだかラな?」

 そういえば〝記憶操作〟の魔法で、自分の記憶を消したヤツもいたっけ……ククク。

「えへへ。良かった! じゃあ、やっぱり僕の思った通りだよ」

 何が良かったんだ? やっぱあのガキの考えてることは分からないな。

「七宮さん。僕を〝呪い〟で〝禁止〟することなんて、できないんだよ? だから本当は、こんな試練は受けても受けなくてもいいんだけど……でもね?」

 ん? 何を言ってるんだ、アイツ。

「僕、怒っちゃった。だから、この試練を〝ルール通り〟に〝ズル〟をせず勝ち抜いて、みんなをひどい目にあわせた〝全員に〟お仕置きするって決めたんだ」

 ……はあ? なんだあのクソガキ。何を言い出すかと思えば。

「そのために、僕、死ぬね?」

「ちょ? お前はさっきから何を……」

「しーっ! うるさいよ七宮さん。だまって見ててね? ……あ、そうだ。〝道具を使う〟のはルール違反でも〝道具に殺される〟のはいいよね?」

 あのガキ、急に雰囲気が変わりやがった……何なんだ、あの威圧感は?
 ……道具に、何だって?

「ソウスケさん、ソウスケさん、ちょっといい?」

「……本当に気安いな。ワタシを友人とでも思っているのか?」

 ん? あのガキ、誰と話して……うわっ?! アイツの前に、うっすら人影が見えるぞ。何だあれ!

「えっとね、僕の首を絞めて、殺してほしいんだ!」

「またしても珍妙な事を言いおって……そもそも、お前に呪いは効かぬだろう?」

 私は夢でも見ているのか?
 あのガキ、得体の知れない何かと、物騒な会話を始めやがった。

「えへへ。ソウスケさんが教えてくれた通り、心から望めば、この呪われた空間にだって入れたんだよ? だから、僕が首を絞めてほしいって本気で望めば、きっとソウスケさん、僕を殺せるよ!」

「その前に、急に自殺願望が湧いた理由を聞くべきところだが……お前の事だ。何かしら、想像を絶する理由があるのだろう」

「うん。鬼ごっこに勝つためには、絶対に必要なんだ。だから、お願い!」

 頭が変になりそうだ。何を相手に、何の話をしているんだ!

「死んでしまえば、鬼ごっこも何も無いだろうに。さらに言えば、お願いされて呪い殺すというのも、呪い主には、格好がつかん事なのだぞ?」

「えへへ。ごめんね?」

「……まあ良い。一瞬で楽にしてやる」

 ボキッという、イヤな音が鳴り響く。
 ん? ガキめ、ひざをついて……うつ伏せに倒れやがったぞ?
 ……って、まてまて! アイツの首、変な方向に曲がってないか?!

「ギギギッ?! こ、コいつ、いきナり死んだゾ?! 何デ? 何デ死んダの?!」

 何だよそれ! 首があんな風に……首? あ! もしかして、ネックレスか!

「あのネックレスに〝即死〟するほどの呪いが?!」

 アイツの指輪にも、とんでもない呪いが掛かっていた。
 でもそれが、なんでいま発動するんだよ!

「ふむ。なるほど、そういう事か。つくづく〝呪い甲斐がい〟のないヤツだな」

 倒れているガキの隣には、いまだにうっすらと謎の人影がたたずんでいる。

「あの影……天井を見上げている?」

 晴れわたる青空から、一条の光が差し、うつ伏せに倒れているガキを照らし始めた。
 やがて、風に舞う羽根のように、ガキの身体は、ふわりと宙に浮かぶ。
 ……いや、おかしいだろ。ここは屋内だぞ? どうやったら青空が見えるんだ?!

「フぁぁああ?! なンなんだヨ? 何ガ始まるんダ?」

 いつの間にか、金色の髪、背中に白い羽を生やした、光り輝く子どもが二人、アイツを支えるように寄り添い、一緒に浮かんでいる。

「天使……?」

 空からは、より一層強い光が降り注ぎ、暖かく、心地の良い風が吹く。

「いや、だから屋内だって!」

 ……そして、アイツはゆっくりと目を開いた。

「えへへ。生まれ変わるって、こんな感じなんだね!」

 あふれる光の中で、ガキは神々こうごうしく微笑ほほえむ。何のショーだよ、これ!

「悪魔さん、お待たせ! さあ〝鬼ごっこ〟始めようよ」

 ガキはふわりと地面に着地する。
 いつの間にか〝光〟は収まって〝空〟も〝天使〟も消えていた。

「お前いま、たしカに死んデた、ヨナ……?」

 夢か幻でも見ていたのか……?
 
「よ、ヨく分からンが……気をトりなおシて、いくゾ!」

「うん! 僕、がんばっちゃうからね!」

 悪魔は、魔道具〝チャールヴィの目〟を、ガキに向けてかざし、グニャグニャと変化していく。その姿は……

「そ、そんなバカな!」

 見覚えのある顔だと思ったら……アレはどう見ても私だ。どういう事だ?! 

「えっと。大ちゃんと同じで、僕が〝生まれてから今日までに〟出会った、一番すばやい生き物って、ユーリちゃんだったんだ」

 あの、くせっ毛だろ? アイツに化けた悪魔は、目で追えないくらいに速かったからな。
 ……なのに、なんであの悪魔、私の姿になってるんだよ!

「〝いまの僕〟が会ったことのある生き物が、悪魔さんと、七宮さんだけだからだよ?」

 何でだよ! あのくせっ毛は、お前の知り合いなんだろ。

「ユーリちゃんには勝てないから〝いちど死んで〟リセットしたんだよ」

 ……待て! 待ってくれ! 途中から話が分からなくなったぞ? 〝一度死ぬ〟って何だ?!

「えへへ。ナイショ!」

 ペロッと舌を出してニッコリ笑う。肝心な所だけ言わないのかよ!
 ……ええい! どんな汚い手を使ったのか知らないが、まだ奥の手がある。心配はいらない。

「汚い手って……えへへ、まあいいか! 悪魔さん、早く〝柱〟を出してよ! 僕、頑張って5本の柱に触って、ロウソクに火をつけるからね!」

 やっぱり、アイツ変だ! この競技場に現れる〝柱〟の事や〝ロウソクの数〟なんか、しゃべった覚えがない。

「ソれじゃ、ルールを説明するナ? おレが、追いカけて、おマエが逃ゲる。全部のロウそクに火をツけれバ、オまえの勝チ。ソのまえに、オれにさわらレたらおまえハ〝吸血鬼さマ〟の夕食だ」

「……あれれ? その説明が面倒くさいから、僕さっき〝柱〟の事と〝ロウソクの数〟を言ったんだけど」
  
 ほら見ろ! やっぱりあのガキ、ぜんぶ知ってて言ってやがる!
 ボン! ボン! ボン! という音が無数に響き、いつものように、柱が現れる。ロウソクの乗った燭台は5つ。それをあのガキが知っているはずがない。どうなってるんだ?

「ロウそクは、ゼンブデ5本。オマエが柱に触れるだけで火がつく。消えることはナイ」

「えー、それも言っちゃうの? 知ってるって言ってるんだけど……あ、そうか! もしかして七宮さんに変身したから、悪魔さんも〝つかえない系〟になっちゃったの? ごめんね、気づかなくて!」

 ……いまアイツ、ものすごく失礼な事を言わなかったか?

「えへへ。とにかく、ルールはバッチリだよ? 早く始めようよ!」 

「そうカ。では、スたートダ」

 次の瞬間、クソガキの姿が消えた。
 ウソだろ……? アイツも速い!

「何なんだよ、あのガキもスゲェな!」

 私の姿をした悪魔は……遅いな! 我ながら!
 ひとつ、またひとつと、ロウソクに灯りがともされていく。

「今日はいっタい、どウなってるんダ?!」

「えへへ。がんばれ悪魔さん! 最後だよ?」

 いつの間にラスト一本になった?! ……私はあわてて、懐のリモコンに手をのばす。
 さすがのアイツも1000体の〝眷属〟相手ではどうする事もできないだろう。

「えへへ、やっぱりそういう事をするんだ……よーく分かったよ」

 ……ええい、不気味なヤツめ! とっとと終わらせてやる!
 リモコンのボタンを押すと、観客席と競技場をへだてるフェンスが、外れて、落下……しない?!

「なんで? どうしたんだ? フェ、フェンスが外れない!」

 まさか故障か?! クソッ! このオンボロめ!

「ブッブー! はずれ! 故障じゃなくて〝念動力〟だよ?」

 なんだ、故障じゃなかったのか。良かった……って、ん? 〝粘土ねんど〟がどうしたって?
 いや、そんな事よりフェンスだ。このままだと最後のロウソクが!

「ギギギギッ! タいへンだゾ! 負ケたら、おしまイだよ」

 あの悪魔、実は〝使い捨て〟だ。第4の試練は、魔道具〝チャールヴィの目〟と、眷属を乱入させるシステムさえあれば、誰でも勝てるんだから。

「急げ悪魔! ガキごときに負けるんじゃない!」

 ……そしてある意味〝案内者〟の私だって、似たような立場だ。大きな失敗をすれば、吸血鬼に何をされるか分かったもんじゃない。

「はい、タッチ! えっへへー、僕の勝ち!」

 そしてとうとう、5本目のロウソクに火がともった。
 何てこった……クソ! フェンスさえちゃんと……

「外れていれば、勝てたの?」

 そうだ! なんでフェンスが外れないんだよ!
 ……って、このガキ、またしても私の心の声と会話を?!

「本当は僕、眷属さんたちが来ても、大丈夫だったんだよ?」

 ガキは、両手を正面にかざし、水平にクルッと一回転した。
 競技場内に、バリバリと大きな音が鳴り響く。

「さあ、おいで! みんな僕が救ってあげるよ!」

「こ、今度は何だよ?!」

 さっきはピクリとも動かなかったフェンスが、一斉に崩れ落ち始めた。

「……って、あのフェンス、なんかおかしいぞ? なんで浮いてるんだ?」

 空中で、グシャグシャに折れ曲がっていくフェンス。
 一瞬にして、あの頑丈な鋼鉄製のフェンスが、紙くずのように丸められてしまった。

「おいおい! どうなってるんだ?! あんなになったら、次から使い物にならないだろ」

「ううん。〝次〟は無いから大丈夫だよ?」

 おまえ、眷属が目の前まで来ているのに、なんだよその余裕は?

「えへへ。みんな。つらかったよね? 苦しかったよね? でも、もう大丈夫だよ!」

 その言葉が聞こえた途端、眷属どもは全員、ピタリと立ち止まった。

「いい子だね。安心して逝っていいんだよ」

「ギギギッ?! 何ガどうなっテいるの?」

 まぶしいほどの光があふれて……あのガキに近い眷属から、順番に、煙のように消えていく!

「そ、そんな……!」

 一瞬にして、この場にいたすべての眷属は、跡形もなく消えてしまった。

「眷属さんがいなくなったから、座席も要らないよね?」

 もう一度、手をかざすガキ。今度は、観覧席が、次々と空中に舞い上がっていく。

「あわわわわ?! まさか、お、お前が?」

「えへへ。すごいでしょ? でもね、こんな物じゃないよ?」

 空中に舞い上げられた座席は、原型が分からないほどにすり潰されて、場内にばら撒かれた。
 ニコッと笑って、今度は私の姿をした悪魔に向けて言い放つ。

「眷属さんと、客席が無くなったよ? あと、いらないものって、何だと思う?」

「……ひ、ヒィ?! わ、分からナい! た、助ケて!」

 ペタリと尻もちをついて、後ずさる悪魔。

「悪魔さんの持ってる魔道具も、もういらないよね? 今すぐ出して?」

 悪魔が差し出した〝チャールヴィの目〟は、パン! という音と共に砕け散った。
 変身が解けて、悪魔は元の姿に戻っていく。

「良かった。悪魔さんが、七宮さんの姿のままだったら、僕、勢いあまっちゃう所だったんだ」

 ひぃぃ? い、勢いあまるって何だよ?!

「次は……あ、そっか。この競技場、ぜーんぶ、いらないよね!」

 腹に響くような地響き。まさか、これもアイツが……?!

「う……ウソだろ?」

 このあと、私と悪魔は、競技場が塵と化していくのを、呆然と見守ることになる。

「えへへー! ふたりとも、危ないから動かないでね?」

 いま、柱という柱は、次々と引っこ抜かれて、ニコニコと笑うアイツの頭上を舞い始めたところだ。

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