プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

文字の大きさ
243 / 264
春休み

勇者代理の旅立ち

しおりを挟む
 誰かが呼んでいる。 
 私の部屋の、扉の向こうから。 

「ちょっと待ってよ。こんな日に限って……」

 枕元で薄緑うすみどりに光っている目覚まし時計によると、今は夜中の2時。 
 呼び声は、か細く、断続的に響いて来る。
 やれやれ。どうせアニキ関係の〝何か〟でしょ?
 ……つまりは〝地球の運命〟とかに、関係するかもしれないんだよなあ。

「無視して、地球がドッカーン! とか、シャレにならないし…………仕方ない。行くか」

 恐る恐る廊下に出ると、今度は、階段の方から声がする。

『だれ……か…………』

 ちょっとホラーだ。
 嫌いじゃないんだけど、あくまで創作系の話であって、マジホラーは勘弁して欲しいなあ。
 これは不本意ながら、アニキ……の身代わりの〝人形〟を頼るのがきちと見たね。
 私は、隣の部屋の扉を軽くノックした。

「アニキ? アニキ!」

 返事がない。
 おかしいなあ。アニキ〝眠らない体〟になったはずだから、普通なら絶対に気付くんだけど。

「開けるぞー?」

 扉に鍵は掛かっていない。
 っていうか、元々この扉に鍵はついていないんだよね。
 ノブをひねって押し開け……って、うっわ、アニキ?!

「返事が無いワケだわ。何かあったのかな」

 ベッドには、アニキではなく、大量の土。これは掃除が大変だぞ。
 ……という事は、さっきの声はアニキたちのピンチを知らせる声だったりする?

「あの5人のピンチを、私が何とか出来るわけ無いじゃんねえ?」

『たすけ……て……』

 廊下に出ると、再び、階段の方から声が聞こえた。
 いや、違うな。あの5人の声じゃない。
 あーもー! しゃーないなあ。とにかく〝助け〟を求めているっぽいから、行ってみよう。
 階段まで行くと、今度は下の階から呼ばれる。
 下に降りると……あーあ、やっぱり。
 この声、物置の中からだ。

「これ。ちょっとだよね? ヤバいなあ」

 だって、今日は〝ヒーローたち〟が全員お出かけ中なんだよ。
 ……この雰囲気は、たぶん和也さん関連? 私じゃ、どうしようもないパターンじゃん。 

『たす……けて……』

 物置から聞こえてくるのは、やっぱり〝たすけて〟か。

「もー! 〝SOS〟じゃなければ、放っとく所だぞ」

 ちなみに、私の兄は、地球を救う〝ボランティア活動〟をしている。
 この物置の床にある、普通の人間には見ることの出来ない扉の下には、地球を守るための地下室があるんだよね。
 秘密基地を〝ごっこ遊び〟ではなく本当に所有している小学生は、ウチのアニキぐらいでしょ。





 >>>





『たすけて……』

 謎の声を頼りに、地下室の奥へと進み、無駄に重い扉を開けた。

「誰か、居るの?」

 ここは〝練習場〟と呼ばれる、天井が高く、広い空間。

「……ウォルナミスの子?」

 血まみれの、小さい女の子が倒れている。
 あれ? これ、猫耳って言うより、犬耳って感じだな。
 頭から血を流しているけど、子犬のような耳の方に、目が行って仕方がない。

『あ、あなた……は?』

 少しうつろな眼差しで、女の子はポソリと囁いた。
 血を流し過ぎているのが、ひと目で分かる。
 ほら、やっぱり! こういう場合、アニキたちなら一瞬で助けちゃうんでしょ?
 でも……私は何も出来ないんだ。歯痒いったらありゃしない。

「私は〝るり〟っていう一般人よ。あなた、大丈夫?」

 大丈夫じゃないのは分かってる。でも、救急車を呼んだりしたら大騒ぎになるからなあ。

『るり、さん。は、じめまして。私は、ポチルと申しま、す……あう』

 ポチルと名乗る少女は、痛そうに頭を押えながら立ち上がり、丁寧にペコリとお辞儀をする。
 いやいや、やめて?! 出血多量で死んじゃう!

「立たないで! 座ってていいから!」

 フラつくポチルを支えて、そっと座らせた。
 この子、まるでファンタジーの世界から抜け出して来たような服装をしているなあ。
 という事は〝魔界〟関係者?

『す、みません……あの、急ぎの用なんです。聖剣の勇者様を、呼んで来て頂けませんでしょうか……』

 〝聖剣の勇者〟と来たか。
 私の記憶が確かなら、それはアニキの事だ。聖剣を引っこ抜いて、勇者になったって自慢してたから。
 ったく! マジで、アニキの話は現実なのか、マンガの話なのか、紛らわしくって仕方ない。

「その聖剣の勇者って、私に似てたりする?」

『……あ! はい、そっくりです』

 むー。聞いといて何だけど、あんなのと〝そっくり〟か?
 ……遺伝子って残酷だなあ。

「ごめんね。それ、たぶんウチのアニキの事だと思うんだけど……」

 昨日から、5人のヒーローはヨーロッパ方面に出張中。忙しい人たちだね。
 しかも、さっきチラッと覗いたら、アニキの〝土人形つちにんぎょう〟は、崩れて土になってしまっていた。
 ……アレは、アニキと人形との〝繋がり〟が、切れた時のヤツだ。
 という事は、今はこの部屋の事を、ブルーさんも見ていない。〝地球の意思〟は、アニキと一体になっているらしいから。

「いま、居ないんだよね。外国に行っちゃってるのよ」

『ええっ?! ……それでは、かなり、その、遠くに?』

「うん。とても遠い国へ行ってる。たぶん、連絡もつかないと思う」

 この子もピンチっぽいけど、きっと、あっちはあっちで〝大ピンチ〟なんだと思う。

『……そうですか。分かりました。ちょっと失礼します』

 ポチルは、両手を組んで目を閉じた。

『指輪よ、戻りなさい』

 練習場の床が、ボコボコと音を立てて盛り上がったかと思うと〝指輪〟が現れた。
 きっとブルーさんが地中に〝収納〟していた物だろう。
 指輪はフワフワと飛んで来て、ポチルの近くに転がる。

『ご主人様、聞こえますか?』

『ポチル! 無事か?!』

 とても心配そうな、男性の声が聞こえて来た。
 あの指輪、よく分からないけど、通信機的なヤツ?

『はい、無理な〝境界超え〟でしたので、少し怪我をしましたが、大丈夫です』

 少しって……かなりの大怪我じゃないの? それ。

『そちらは、どうですか?』

『もう、いつ〝じゅつ〟が仕上がってもおかしく無い状態だ。早く、勇者を連れて来てくれ』

 術? 勇者を連れて? どういう事だろう。
 アニキの話だと、異世界に行くのは、まだ少し先だったような……

『ご主人様、申し訳ございません。勇者様は、遠方に居られます。間に合いません』

『何だって?! そう……そうか。仕方がない。それでは〝回収〟を頼む。済まない……』

 とても申し訳無さそうに、ブツリと通信が切れた。
 間に合わない? あんなに悲しそうな声で〝済まない〟って、どういう意味?

『るり様。勇者様に〝伝言〟をお願いします。〝事情により聖剣は回収させて頂きます〟と』

 そう言って、再びポチルは、両手を組んだ。

『聖剣よ、姿を表したまえ……!』

 地響きと共に、指輪が出てきた辺りの床が、更にボコボコと盛り上がって行く。
 現れたのは、無駄にゴテゴテと飾りの付いた、ひと振りの剣……アレが〝聖剣〟なのか。

『それでは失礼します。お騒がせして、っ。も、申し訳、ございませんでした』

 ポチルは、床に血をしたたららせながら、フラフラと聖剣に近付いていく。
 そうか。この子、アレを回収に来たのか。
 ……ん? あれ? ちょっと待った!
 えっと、あの聖剣って、選ばれた勇者以外が触ったら、マズいんじゃなかった?!

「ポチルちゃん! 待って! それ触っちゃ……!」

『はい、私は〝裁き〟により、死にます』

 ですよねー! って、いやいやいやいや!

「ちょっ?! なら、触っちゃダメじゃん!」

『大丈夫です。私は絶命しますが、聖剣は、あちらの世界に送る事が出来ますので』

 何なのこの子? 死んじゃうのに大丈夫って何?!

「どういう事? なんで、そこまでして、聖剣を?」

『説明不足で、申し訳御座いません。実は、この世界に〝聖剣の勇者〟が居る事を〝邪竜の王〟に気付かれてしまったのです』

 邪竜の王か。はいはい、そいつが〝魔王〟的なヤツね。

『邪竜の王はいにしえの秘術を使って、私たちの世界に〝壁〟を作ろうとしています』

 つまり、盛大に〝引きこもる〟つもりか。
 ……ラスボスって、何でそろって、インドア派なんだろうな。

『一刻の猶予もありません。〝壁〟が完成してしまえば、時間的にも空間的にも、絶対に干渉できなくなってしまうのです』

 アニキも、異世界に行けなくなるわけか。

『ですので、せめて聖剣だけでも、あちらに送らねばなりません。勇者が居なくても、聖剣さえあれば、何とかなるかも知れないですから……』

 そう言うと、ポチルは聖剣に近付く。
 なるほどね。命懸けで剣を…………

「…………って、ちょっと待てえええい!」

 死んじゃうよ? この子、死んじゃう! どうしよう!

「ポチルちゃん! あと少しだけ待って! 1日……ううん! 半日もすれば、アニキが帰って来るから! ね?」

『間に合いません。恐らく、100ほど数える内に、術は完成するでしょう。るり様、お心遣い、感謝です! さようなら……』

 少し寂しそうに、にっこり微笑むと、ポチルはペコリと頭を下げて、聖剣に手を伸ばした。
 ええい、アニキめ! こんな時に現れないなんて、ヒーロー失格だぞ。
 ……あーもー! 放っとけるわけないじゃない!

「ダメえええっ!」

 気が付くと、私は聖剣を握り締めていた。

『るり……様! どうして?!』

「ふーっ! 危ない危ない」

 ギリギリセーフ。
 ポチルは、相当びっくりしたみたいで、口をパクパクさせている。

『ど、どういう事です?! なぜ〝裁き〟が起きないんですか?!』

 良かった。思った通り、私は聖剣に触れても死なない。
 覚えてる? 私も〝神様候補〟なんだよ。

「仕方が無いなあ。ポチルちゃん、アニキの代わりに私が行くよ!」

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...