プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー

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5年生 冬休み

随行者

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「たっちゃんと大ちゃんは、もう電車の中かな」

 えへへ。栗栖和也くりすかずやだよ。
 今僕は、たっちゃんの家の前にいるんだ。
 
「今日は、るりちゃんと遊ぶんだ。楽しみだよね!」

 チャイムのボタンに手を伸ばそうとした、その時……

「いい? お父さんもお母さんも、絶対に2階に上がってこないでね?」

 ドアの向こうから、るりちゃんの大きな声が聞こえてきたよ。

「特にお父さん。もし階段に一歩でも足をかけたら……」

「……あ、足をかけたら?」

「アンタの娘には、一生会えないと思った方がいい」

「本人の言うセリフじゃないよね?!」

 クスクス。やっぱり、るりちゃんは面白いなあ。
 僕はチャイムのボタンを押した。

「ピンポーン」

「バアアァァーン!」

 わわっ! ビックリしたよ!
 チャイムの音が鳴ると同時に、玄関の扉が大きな音を立てて開く。
 立っていたのは、けっこう奥の部屋に居たはずの、るりちゃん本人だ。
 ……相変わらず、早いなあ!

「か、か、和也さん、いらっしゃいませ! どどどどどどうぞ上がってください!」 

「うん。それじゃあ、お邪魔します!」 

 靴を脱いで、ふと、奥の扉をチラリと見ると、お義父さんとお義母さん……じゃなかった。お父さんとお母さんが、こちらをのぞいていた。

「ちょ! お母さん、なに見てるのよ、もー!」

 るりちゃんの困ったような声に、お母さんは、はいはい。と言いながらニコニコしている。

「お父さん? 今日の〝はんせい文〟は、げんこう用紙20枚ね?」

 るりちゃんの怒ったような声に、お父さんは、ええええ?! と言いながら泣いている。

「ごめんなさい、和也さん……変な家族で」

「ううん。みんな楽しいし、いい人たちだよね!」

 るりちゃんの家族は、みんないい人だよ。だって、今まで一度も〝悪い言葉〟を聞いたことがないもん。
 僕は、みんなの〝心の声〟が聞こえてしまう。だから悪い事を考えている人は、すぐ分かっちゃうんだ。〝精神感応せいしんかんのう〟って言うんだって。

「か、和也さん、どうぞ……!」

 るりちゃんの部屋は、たっちゃんの部屋の隣。
 入るのは久し振りだよ。ちょっとドキドキしちゃうよね。 

「お邪魔します」

 るりちゃんに続いて、中に入る。
 造りは一緒だけど、たっちゃんの部屋と違って、ぬいぐるみとか、小物とか、かわいらしい物でいっぱいだよ。

「わぁ! やっぱり、かわいいねえ!」

 るりちゃんは、僕の目を見たまま、固まってしまった。
 ……と思っていたら、見る見る顔が赤くなっていく。

「ひゃあ?! そそそっ! そんな! かわいいだなんて、私っ!」

 るりちゃんは、耳まで真っ赤になっているよ。

『私のこと、かわいいって言ってくれた! 私のこと、かわいいって! きゃあああああっ!』

 今のは、るりちゃんの〝心の声〟だよ。
 うーん、そういう意味で言ったんじゃないんだけど。でも、ぬいぐるみや小物なんかより、るりちゃんの方が絶対にかわいいから、別にいいよね!
 ……えへへ。ちょっと照れちゃうけど。
 さて、るりちゃんは、今日は何をして遊びたいのかな。

「えっと……るりちゃん、何がしたい?」

「え?! あ、えっと……その……ボソボソ……」

 あれ? 最後の方、聞こえなかったよ。
 ごめんね。よく分からないけど、そんなに複雑な遊びじゃないなら……

「よーし、それじゃ、それをやろうか!」

 るりちゃんとなら、何でも楽しいからね。

「ひゃうッ?! か、和也さん、意外と大胆……」 

 どういう事かな……?

『わ、私、とうとう和也さんと……! うれしい! うれしいよおおお!』

 う~ん……? 考えている事はよく分からないけど、すごく嬉しそうで良かったよね。

「でも、僕、あまり詳しくないから、教えてくれる?」

「ひ、ひぃぃ?! わ、私もそんな……くわしくないのよ?! は、はじめてなのよ?!」

 初めてかぁ。どんな遊びなんだろうね。

「それじゃ、二人とも初めてだね! どうすればいいかな?」

「か、か、和也さんが、の、のぞむなら……私、何をされてもいいの……」 

 るりちゃんは、両手を目に当てて、ベットにゴロンと寝転がる。 
 ……これはどんな遊びなんだろう?

「和也さん……はやく……」

 ごめんね、るりちゃん。僕、ちょっと分からないよ。

「えっと、るりちゃ……」

「いいのよ? 好きにしてくれて……」
 
 え? え? 何なのこれ?! るりちゃん、顔も手も、つま先まで真っ赤だよ!
 もしかして真っ赤になるほど怒っているの? 僕も〝反省文〟なの?!
 ……あ、そうだ、心の声を聞いてみよう。

『は、はやくして和也さん! ああ、でも実はまだ心の準備が……ううん、大丈夫。和也さんとなら私……でもちょっと怖い。ああ、和也さん、はやく……』

 ああっ、ダメだよ! 何のヒントもない!
 
「えっと……」

 よーく考えてみよう。
 るりちゃんは目に手を当てているよね。目を隠しているって事は……
 あ! もしかして〝かくれんぼ〟かな?
 ……うん、間違いないよ! でも、この部屋で隠れられる所って、そんなにないかも。念のため、聞いてみよう。

「るりちゃん、どこでもいいの?」

「どどどどどっ?! どこでもっ?! ひゃあああっ?!」

 るりちゃんの赤さが、さらに増してゆく。光まで放ち始めたよ……?
 そんなに怒らなくてもいいのに……

「ど、ど、ど、どこでもいいのよ……? か、和也さんが思ったところで……でも、や、やさしくしてね?」

 優しく、かぁ。
 ……そうだよね。さすがに僕が本気で隠れたら、小学3年生のるりちゃんには見つけられないもん。

「うん。安心して! そんなに無茶はしないから……」

「むちゃ……?! か、和也さん……い、いいの! いいのよ! 私はどうなってもいいから!」

 えー?

「本当にいいの?」

「ひぅっ?! い、いいから! さ、さあ、早く!」

「それじゃ、いくよ?」

「うん! 和也さん、私をむちゃくちゃにしてっ!」





 >>>





「もーーーー! 和也さんのいじわる! なんで押入れに入っちゃうの?!」

 ……むちゃくちゃに怒られたよ?
 何で? 僕、ちゃんと隠れてたのに。

「わ、私、その……すっごく……こ、こわかったんだか……ら……」

 るりちゃんの瞳から、ポロポロと涙があふれる。
 泣き出しちゃったよ……!
 押入れって、ちょっと高度だったのかなあ?

「ご、ごめんなさい! 僕、るりちゃんが分かりやすい所に隠れたつもりだったんだけど……」

「うぇぇぇん! なんでぇぇ? なんでかくれるのぉぉぉ?!」

 〝かくれんぼ〟って、〝隠れる〟以外の遊び方があったの?!

『もしかして……私、和也さんに嫌われてるのかな?』

「そ、そんな事ないよ! ぼ、ぼ、僕、ずっと前から、るりちゃんの事が大好きだよ!」

 ……あ、あれ? 今のって?

「……っ?! か、か、か、和也さん?!」

 しまった……! 〝心の声〟に返事しちゃった! どうしよう! 恥ずかしいよ!

「それ、本当?」

「うん。僕、るりちゃんの事が好きだよ!」

「……和也さんが、私のことを……好き……」

「そうだよ。僕、るりちゃんと、ずっと一緒に居たい」

 ……でも、だからこそ、僕はるりちゃんに、言わなきゃいけない事があるんだ。

「るりちゃん、よく聞いて? 僕、ちょっと〝普通〟じゃないんだ。僕と一緒に居ると、きっと辛い事や苦しい事がいっぱいあると思う」

 るりちゃんは、キョトンとして、僕を見つめている。
 ……僕は〝救世主〟で〝神様候補〟だよ。僕とずっと一緒に居るという事は、るりちゃんが〝神様の奥さんになる〟という事なんだ。それはきっと……

「とっても大変な事なんだ……大好きなるりちゃんを、そんなひどい目に合わせるなんて、僕には出来ないよ」

「私、和也さんと一緒なら……」

 ……え?

「和也さんと一緒なら、どんなに辛くても大丈夫だから!」

「るりちゃん……?!」

「だから、私を……和也さんのお嫁さんにして下さい!」

「るりちゃん……」

 真剣な眼差しで、るりちゃんは僕を見つめている。
 僕は……

「……僕も、るりちゃんと一緒に居たい」

 この人と、一緒に生きていこう。

「るりちゃんは、僕が守るから! だから、僕のお嫁さんになって下さい!」

 ハッとした表情のるりちゃん。
 ……そして、静かにうなずく。

『しかと聞き届けました』

「え?! か、和也さん! これって……?」

「僕にも分からない。けど、もしかして……」

『ようこそ、神の世界へ。〝内海るり〟の神化を認めましょう』

 辺りに光が満ち溢れ〝何か〟が、優しい声で語り掛けて来た。

『本当にいいですか? 貴女あなたは〝神々たちのことわり螺旋らせん〟に組み込まれます。もう〝人〟には戻れませんよ?』

 そう。るりちゃんは、僕と一緒に、神様になるんだ。

「るりちゃん、いいの?」

「はい。和也さんと一緒なら!」

『良いでしょう。それでは儀式を始めます』

 手が……僕の右手が光りはじめた。とても暖かい光だよ!

「和也さん……! 私も!」

 るりちゃんの左手も、綺麗な光を放っている。

『さあ、手を。貴方たちが繋いだその手は、何者にも断ち切れぬ絆となります』

 僕は右手を、るりちゃんは左手を。
 繋ぎ合わせた手から放たれる光が、糸のように絡み合って一つになってゆく……!



「るりちゃん!」

「和也さん!」

 僕たちは見つめ合う。
 ずっとこうしていたい。

『良いですか? この儀式によって、貴方たちには様々な変化……〝奇跡〟が起きるでしょう。ですが、この儀式の事や、変化する以前の事を覚えているのは〝右手〟である和也だけです』

「ええっ?! そんな……! どうして?」

『急激な〝歴史の改変〟に、貴女の幼い身体は耐え切れないのです。大丈夫。時が来れば思い出すでしょう』

「……私、ちょっと怖い」

『分かります。それまでは和也。貴方がしっかり、エスコートしてあげるのですよ?』

「もちろんだよ! るりちゃんは僕が守るんだ!」

「和也さん……!」

 光が弱くなっていく……いつの間にか、るりちゃんは眠ってしまっていた。

『おめでとう、和也、るり。貴方たちの未来が素晴らしいものでありますように。もちろん、貴方たちの頑張り次第ですよ?』

 うん、頑張るよ! るりちゃんも地球も、僕が守るんだ!




このお話は、『螺旋のきざはし』でお馴染みの、hake先生に頂いたイラストをもとに、書かせて頂きました!
本当に有難うございます!
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